松本家具

松本家具の歴史

今から50余年前、まだ畳と座卓の生活が当たり前だったころに欧米の家庭で使われていた家具のデザインを踏襲し、当時衰退しつつあった全国でも有数の家具生産の伝統ある松本の地で、その高度な和家具の技術を持つ松本の職人に作らせた洋家具は、美しく完成されたデザイン、確かな作り、年を経るごとに味わいを増す無垢の素材、そして現在の人々が愛してやまない日本人のための和風洋家具、それが松本家具です。
松本の家具の歴史は古く300年以上の歴史を有しており、大正末期には日本一の和家具の生産高を誇ったほどです。しかし太平洋戦争後その衰退は著しく、当時松本の地を訪れた柳宗悦先生がその状態を直接見聞され大変それを借しまれました。そして新作民芸運動の一翼として松本の伝統ある手工芸の回復を切望され、昭和23年にその先生のご希望にお応えするつもりで微力ながら採算のことは度外にして、運動のつもりで家具製作に取り掛かったのが松本家具の始まりです。
松本家具は必ずしも機械化、経済効率のみの近代化を良しとせず、人間生活ともっとも密着している家具の性格そのものに着目し、けして人間不在のものにならぬよう必要な部分は可能な限り手仕事にて製作しています。またデザインについても闇雲に斬新なものを作り出すのではなく、長い歴史の中で多くの人々に研ぎ澄まされ、また愛されつづけてきた東西の伝統的なデザインを尊重し、その習作をかさねながら現代生活に即した形でデザインしています。そしてまた濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチなど数々の先達の大変な助力があったこともまた特異な点といえましょう。
そして現在、そのバリエーションはレギュラー製品だけで800種、それに関連した準レギュラーまであわせると2000種を数えます。そのほとんどが今でも新しい感覚のものとして生活に使われるものばかりです。

松本民芸家具の特徴

素材はミズメ(ミズメザクラ)を主要材として、欅、栃、楢などそのすべてが日本国内産の落葉高木によって生産されています。
昭和49年に、当時の通産省指定の「伝統的工芸品」に、家具の分野では全国に先駆けて「松本家具」として指定をうけました。「松本家具」とは、歴史ある松本地方の伝統的和家具の数々であり、それはさまざまな複雑な木組の技術によって作られます。現在も松本家具の一バリエーションとして製作されており、またこの技術が和洋問わずすべての松本家具の製品に生かされています。
塗装は、漆、ラッカー塗装などであり、すべて手塗りにて仕上げられます。通常のラッカー仕上げで8回、漆仕上げになりますと13回以上時間を掛けて丁寧に塗り重ねられます。
日本の和家具と洋家具との本格的な結合、けして使い捨ての耐久消費財としてだけでなく、使う人それぞれが使い込むほどに昧わい深く、愛着をもって使うことができる今では数少ない本物の家具、そして時代を超えて新しく、しかしどこか懐かしい感覚を抱かせる、それが松本家具です。

制作行程

素材
ミズメザクラを主用材に、欅、楢、栓、栃、楓など、すべて国産の落葉高木を使用しています。
乾燥
製材によって挽き分けられた材料を、厚みにあわせて野外にて天然乾燥します。最低1年、長いものでは5年、10年野積してあるものもめずらしくありません。そうして自然乾燥された材料にさらに人工乾燥を施し、しっかりくせの抜かれた材料は家具として使用する状態に近づけるよう1ヶ月ほどシーズニングをします。 
設計
 膨大な資料を基に、すべて手書きによって一枚一枚書かれる松本家具の図面は、一見するとまるでスケッチのようですが、大切なことがすべて書き込まれています。製作上の約束ごとは職人の頭の中にあるのです。
製造
まず、木取職人が適材を吟味し材料を用意、その後組立職人が様々な技術、道具によって一つひとつを手のひらで確認しながら部材に仕上げ、また様々な伝統工法によって一人の職人が責任をもって一つの家具に組み立ててゆきます。家具の裏に刻まれる銘は、その職人の「長く使ってほしい」という想いと、「仕事に責任を持つ」という誓いの証です。
道具
 家具を作る上でなくてはならない道具。新しい仕事が出るたびに道具を自分で作ります。道具が作れてようやく半人前です。鉋だけでも百種類近くあり、年期は道具立ての道具の数ですぐにわかってしまいます。
塗装
出来上がった生地の家具は、そこから塗装職人の手に委ねられ、最後の仕上げが施されます。塗装は拭漆とラッカー塗装の二種類があり、どちらも長年の使用でさらに美しくなるよう、手塗りで最低8回以上丹念に塗り重ねられてゆきます。
完成
塗り上げられた家具は、時にガラス、金具などを施され、一旦完了をむかえますが、家具職人は、それよりさらに何十年と使い込まれ、よりその輝きが増したときこそ、やっとその家具の完成の時と考えています。

作品

サンプル画像

2017/05/02