第2部「不況脱出のための企業経営の取り組みとは」

雇用情勢の変化は、高齢層と若年層で際立つ。
京谷 それでは第2部に移りたいと思います。
 取り組むべき課題としては、21世紀の長野県の産業の育成がありますが、それは同時に県民にとって雇用の確保、雇用の創出ということでもあります。
 そこで、まず雇用情勢を簡単に紹介いたします。ちょうどこの会議が始まる前、10月の労働力調査結果を教えていただきました。残念ながらさらに情勢は悪くなり、失業率5.5%、失業者約362万人、前年同月に比べ10万人の増加です。
 雇用情勢が特に厳しい世代を見ますと、まずは高齢者です。60歳代の失業率が50歳代後半に比べて一気に倍増し、10.3%になっています。60歳代の人が職を非常に求めにくい。こういう高齢者の能力をどのように活用していったらいいのだろうかということが、雇用面では1つの課題です。
 さらにもう1つの大きな課題は、実は、この数年の間に、急速に若年の失業率が高まっているということです。15~24歳という若年者の失業率、男は10.4%、女は8.7%。これはこの5~6年で急速に高まりました。すなわち、20歳前後の若者の10人に1人は失業者という、10年前までは考えられなかったような日本の社会になってしまいました。
 それと同時に、いわゆるフリーターが急増しました。同じ15~24歳の年齢層で見ますと、雇用者のうち男のフリーターは2割です。女は3割です。これはたいへんな数字です。20歳前後の若者の10人に1人は失業者で、働いていても男性の5人に1人はフリーター、女性の3人に1人はフリーター。昨年の推計ですと、フリーターは全国で206万人です。
 いろんな事情や理由があってのことでしょうが、高卒あるいは大卒でフリーターになり、そのフリーターからなかなか抜けられないで割の悪い職業生活を送ってしまっている。そういう若者が今増えている。
 こういう問題に関して、長野県の経済をこれからどう組み立てていき、そこにどう人々が働く場を作り、特に高齢者の能力を活用し、さらにはこれから社会を作り上げていく若い人達に夢と希望が持てるように、仕事をどうやって作っていけるかという課題があります。

年功序列から成果主義へとシフトする中で企業の非正規雇用が拡大。
京谷 そういう雇用情勢と関係することでは、ここ10年余の雇用情勢の傾向として、正規雇用が減少し、非正規雇用(アルバイト、パート、派遣、請負等)が増大していることが挙げられます。これは一貫して進んでおります。2001年8月の労働力調査特別調査で見ますと、雇用者五、358万人のうち、正規雇用者は3/4、残る1/4は非正規雇用者です。
 いま紹介したように非正規雇用が拡大し、若年者のフリーターが増えるという状況は、この10年余りの間日本の企業が取ってきた経営行動と無縁ではありません。日本の企業は終身雇用、長期雇用から脱却する経営戦略を取ってきました。その結果、非正規雇用が拡大しているわけです。そして新卒採用も抑制し、その結果フリーターが増えているわけです。一方で日本の企業はこの10年の間に能力主義、業績主義、成果主義を強化してまいりました。この能力主義、業績主義、成果主義というのは、もっとわかりやすく言いますと、柱は2つです。1つは年俸制です。プロ野球選手のような年俸制。これは特に管理職に対して導入する。もう1つの柱は目標管理制度です。社員を評価するために、単に人事考課あるいは主観的な評価ではなくて上司と相談の上目標を決め、その達成度を評価するという制度です。これはもう急速に普及しました。
 そしてこうした人事管理戦略で追求しているのは、従来の賃金パターンからの脱却です。従来の年功的な、勤続年数を積めば誰でも上がるという賃金ではなく、大胆に差をつける賃金体系に変えているのです。私なりに表現すれば、今までの年功賃金というのは、工事現場に置いてあるようなコーン型です。それに対して現在追求されている賃金体系はトランペット型です。下がる人もいれば上がる人もいる。そういう賃金体系に今大きく変わっております。
 さて、この後半の前置きの最後に、前半でまとめたような動向、今整理したような雇用情勢と経営動向の中で、長野県の企業が取り組むべき課題とはどのように認識されているのだろうか。長野県商工部の2001年11月の経営動向調査を見ますと、各社が緊急に解決すべき課題としては、受注の確保、コストのダウン、新製品の開発、高付加価値化、資金の調達等、また、個々の企業だけではなく、長野県の製造業が全体として取り組む必要のある課題としては、技術の高度化、創業、新産業の創出、人材育成と確保、環境への配慮等が挙げられております。
 要するに、競争力を確保するためにコストダウンを続行し、新製品の開発や高付加価値化を実現するために技術力を高めていこうという経営課題、あるいはそれを目指した経営戦略が意識されているということです。こうした、企業が抱えている課題に対して、どういう新しい長野県のモノづくりを展望できるのか、また製造業以外の新しい産業をどのように展開できるのか、そして、自治体やあるいは企業を取り巻く組織は、企業をどのように支援できるのか。そして最後に、そうした地域社会全体が抱えている課題に対して、地域に存在する大学がどういう役割を果たし、企業、自治体、大学等はどのような連携が取れるのかという課題を、一応3つ立てた上で、後半、今後取り組むべき課題という問題について、それぞれの立場からご意見なりご提案をいただければと思います。

気になる日本人の仕事に対するモラルの低下。
牛山 耳寄りな情報ではなくて申し訳ないのですが、TPM(トータル・プロダクティブ・メンテナンス)という活動があります。これは全体的な会社の効率アップを考えるもので、またこれに全員が参加をしていくことによって社員の資質をレベルアップさせていこうという活動です。
 私どももこれに取り組んでいます。国内だけでなく中国も巻き込んでいるものですから、非常に大変でありますが、基本的には全員参加によってレベルアップを図り、最終的には能力主義・成果主義的な評価に結びつけていこうとしています。
 日本人には申し訳ないのですが、仕事に対する取り組みというのは中国人の方が立派です。ただ自分のこととなると頑なに権利を主張する傾向もあります。その辺、文化や生活習慣もわきまえながら指導していかなくてはならないわけですが、こうして見ていると日本人の仕事に対するモラルといいますか、就業観というものを考え直さなくてはならないのではないか、と感じています。
 能力主義・成果主義、それもいいのですが、仕事に対する意識、働く意識があまりにも希薄になっていることが心配なのです。
星沢 まことに抽象的な意見になってしまうのですが、それはやはり急速な少子高齢化社会が大きな根底にあるのだろうと思います。
 とにかく先程のフリーターの問題1つにしても、私たちの社会は、若者に自分は何になりたいかという夢を育む努力をしてこなかった。ここへきて、例えば諏訪清陵高校ではスーパーサイエンススクール事業として企業や大学と連携し、実験を通して興味、関心を引き出すような教育をしている。とにかく自分が将来やりたいと思っていることを学べるような環境整備をやりはじめているわけですが、今までの受動的な教育から能動的な教育に変換していくということは非常に大切なことではなかろうかと思います。
 そしてやはりバックにある日本の豊かさ。将来像は見えないけれども、とりあえず食うに困らないという状況からは、なかなか新しい活力というものは生まれて来ないのではないかと思うのです。
 といってグチばかり言ってもしようがありませんから、私は今、企業経営の原点に戻るべきだと考えています。
 この原点というのは、日本的経営の良い面ということです。日本的経営の良い面もあれば悪い面もある。それを何とかしようというのが、京谷先生のお話にもあった人事改革戦略の要因だと思うのですが、「人中心の経営」は良いのではないかと思うのです。

『夢』『ゆとり』『勇気』という3Yこそが大切。
星沢 新しい事業、新しい製品、そういうものを生みだすのは人。人の描く『夢』が力になるのですから。
 今「スローフード」というような言葉が流行っていますね。とかく味の均一化、冷凍化、簡便化が図られてきたファーストフードに対して、手間暇掛けて本当の味を引き出そうというものです。
 経営も、スローフードでいいのではないか。世の中があまりにも急ぎすぎていますから、あえて一旦立ち止まって、じっくり考え直す。自社の強みというものを見つめ直す。その『ゆとり』が必要ではなかろうかと思っています。
 もう1つ、この間ある講演で聞いたのですが、経営には『勇気』というのが必要だと。
 そういう観点から、『夢』と『ゆとり』と『勇気』という3Yが大切なのかなと、今そんな感じ方をしています。
京谷 夢、ゆとり、勇気ですか。その3Yを新しいキーワードにして、発想を変えたらどうなるのかということから、新しい産業の分野なり、新しい展開方向、あるいは今まで見えなかったニッチというものが出てくる可能性がありますね。
星沢 ええ、あると思います。やはり企業は、安定成長が一番大事なことだと思います。デフレですからどうしても縮小均衡を考えがちですが、既存のものを大切にしながら新規事業を見出していくことが、一番大切です。では誰がそれを教えてくれるのかということになれば、これはお客様です。「顧客ニーズに応える」などという言葉は、古くて新しい問題ですが、こういう変革も、やはりお客様を先生にしてやっていかなくてはならないと思います。
 それから、私どもは出版社なものですから、営業においてお客様のニーズを引き出し、提案できるような、そういう人材を育成することをやっていかなくてはいけないだろうと思います。当社の場合、教育費が従前は非常に少なかったのです。最近は、教育・研修費、ないしは開発費といいますか、先行投資の部分を比較的多くするような形に変化してきております。

現状を嘆くより、新しい状況に適応した事業化を。
牛山 私も賛成ですね。私どものプリント配線板というのは始めて42年ほどになるわけですが、基本技術は42年前と変わっておりません。ただその環境だとか、あるいは精度、形状というものが変わっていく。ですから、決して日本の技術はダメなんだ、というものではなくて、やはりもう1回、星沢社長の言うように見直しをして、それから展開をしていくことも大事だという気がします。
星沢 実は私どもも、情報という視点からみればツールが変わっただけと捉えています。先程は活字離れの話をしましたが、ペーパーから離れているだけでの話で、情報というニーズはある。むしろ高まっているのかもしれない。それで出版社の間でもCD・ROMだとか情報伝達媒体の変化は見られるわけですが、私どもの得意先でも、最近はデジタル化をしてくれという要請が非常にありまして、システムで販売するというような、ソフトにおけるシステム販売ですね、それに対応するよう変化をしているのが現況です。
京谷 自分達の足場をきちんと見据えた上で、新しい時代の動き、それにつれて変わってくるお客の新しい要望、嗜好、ニーズにどう応えられるかですね。売れないと嘆いたり他人を非難しても始まらない。新しい状況の中で、どう新しいニーズを察知して、それに適応した事業化をしていくかということなのですね。
牛山 結局、時代の変化に対応するためには、直接お客様のところへに行くことです。その情報を正しく分析をして、会社でしっかり吟味して、方針を出して進めていくことが大切ですね。

市場ニーズと企業の技術シーズを結びつける。
小山 先程の話にもありましたが、個々の技術はたいへんに優れたものがあるのです。それを組み合わせれば、それだけでも、市場ニーズに合うものを作れるはずです。それから、全然別のアイディアを持ってきて、従来技術で製品にまとめるというのもできます。
 最近私どもで支援した企業で、コーヒーを冷却してアイスコーヒーにするという機械を開発したケースがあります。普通アイスコーヒーは、ボトルか何かに入れておくと時間がたつと味が落ち、氷を入れると味が薄くなるなどの問題がありました。それをコーヒーを入れたそばから冷却しアイスコーヒーにして出すという機械なのです。別に、どこにも先端技術など入っていません。でも、ファミリーレストランなどの一番欲しがっているものだったわけです。
 ですから、そういう面での、クリエイターというかコーディネーターのような人がいて、市場ニーズと企業の技術シーズを結びつけるといいと思うのです。
 下請けというのは親の顔ばかり見て仕事をしてきていますから、そういう企業は営業は苦手です。提案営業をやれと言っても急には無理です。ですから、そういう面をサポートしていけば、長野県の製造業ももっと頑張っていけるのではないかと感じます。
 ちなみに私どもは創業支援のようなことも一生懸命やっておりますが、大学を出てすぐ創業しますなどと言う人はまずいない。圧倒的に多いのは40代50代の世代で、はっきり言いますと、多くはリストラでの「仕方なし創業」です。リストラにあった人には気の毒ですが、昔から、リストラされた人が会社を作って、地域の中堅の企業になっている例は沢山あります。ですから、今は、そういう人達を積極的に支援することが新しい事業分野が生まれてくるチャンスでもあると、前向きに捉えたいと思います。
京谷 そうですね。そういう点では、自治体なりあるいは企業を束ねるような組織が、どういう支援ができるのかということが重要です。今お話に出た技術やアイデアのコーディネート、あるいは創業支援、開業資金の融資斡旋ですとか、そういうお金にまつわることもあるでしょう。


バックアップ体制はかなり充実してきている。
小山 県では来年度から、知的所有権等を担保にしてお金を貸す制度も立ち上げを考えているようですし、国でも、少人数私募債の発行とか、グリーンシートとか、そういう直接金融での資金調達手法を開いていますから、決して充分とは言いませんが、バックアップ体制はかなり充実してきているのではないかと思います。
牛山 その、技術の種ですよね。これもちょっと脱線するかもしれませんが、諏訪東京理科大学の開学記念フォーラムを東京理科大学、茅野市、茅野商工会議所とで共催しました。大学でどういう研究開発をしているか、企業自身が知る必要があるというわけです。大学などへも積極的に行ってシーズを探ってくることも大事だろうと思います。
小山 私どものコーディネーターの話ですと、大学とやっていくと四年五年付き合わなくてはならないから、中小企業ではちょっとジリジリしてしまう、というようなことがあるようですね。それで結局、企業同士のケースが圧倒的に多いのです。でも大学もかなり地域に協力する体勢ができましたから、これからはいいのではないでしょうか。
京谷 私は、研究の関係で坂城町とのお付き合いが深いのですが、あそこは90%超が従業員30人未満の企業です。そうしますと、営業の社員というのはいないのです。じゃ何をしているかというと、社長が品物を納めに行った時に顧客と話をして聞いてくるだけ。それが小企業の営業機能なのです。
 発想力を活かせ、良いアイデアを出せ、と言っても、家族で頑張っている50代の経営者にそれを求めても無理ということにもなってしまいます。ですから、例えばそういう新しい仕事分野の展開を、自治体とか経済団体、あるいは商工会などが支援する、そんなサービスはもっとできるのではないでしょうか。
牛山 茅野市の商工会議所では、ある大手メーカーの技術屋さんが地域を回ったり、あるいは来てもらってアドバイスをするといったことをしているケースはあります。
小山 坂城町でも、財団法人の技術形成テクノセンターがあり、テクノハート坂城という協同組合もできて共同受注などさまざまな活動をしています。でも、自分から意欲的に行っていただかないと。そこのところはむしろ小なりと言えども、積極的に顧客と接触をする努力だけはして欲しいですね。
 坂城町はNC機械やMC(マシニングセンター)の導入が早くて、ひと頃は世界的にたいへん褒められたのですが、残念ながらその後の技術革新があまり進んでいないようです。それなら中国でも同じ物ができてしまうわけですから、違う形にやっていかなくては、今のままではなかなか難しいと思います。

不況が長期化する中でもう淘汰は起きている。
京谷 確かにある意味で、坂城は今日的な困難の典型にあるといえます。1991年に375あった事業所数が、2000年には309です。10年間でなんと2割減です。しかも減ったのはいわゆる零細です。従業員10人未満で家族だけでやっているようなところ。私はたまたま現在の坂城町の長期総合計画の策定にかかわりまして、その時に全事業所のアンケート調査をやりました。そうしましたら、廃業のパターンがくっきりと現れました。つまり後継者がいない。年配の夫婦が、昔からの機械を動かして部品加工をやっている。やっていても収益は上がらないわけです。では収益を上げるように新しいMCを入れるかというと、そんなものを入れても後継者がいないから借金を払えない。それで廃業していくわけですね。
小山 日本はどちらかというと製造業の規模が小さいのです。商店もそうですが、後継者は本当にいない。ですからある程度廃業が増えていくのはしようがない部分もあります。ある程度営業もできて、後継者も若手社員もいるというところが、吸収したりして残っていくということだろうと思います。この不況が長期化する中でもう淘汰は進んでいます。
 ただ坂城町のためにフォローしておきますと、意欲ある企業が集まって新しい取り組みを次々に行っていますし、行政側もそれを積極的に支援しています。

坂城町にみる中小企業の新しい動き。
京谷 確かに坂城町の中にはたいへん興味深い動き、新しい分野への転換も見られます。
 これは大きなニュースにもなりましたが、冬季オリンピックと同時開催されたパラリンピックの時、障害者や選手が車椅子に乗ったまま雪上を移動できる雪上車を作ったのです。作ったのは、テクノセンターの中で組織された福祉機器研究会です。その後は、寝たきりの人のためのベッドなども開発しました。
 もう1つは、テクノセンターの中に、インターネットを使った企業情報の発信と受注情報を集めるシステムを作りました。坂城ポータルサイトシステムですが、これは200社近い企業が参加し、テクノセンターの中のコンピュータを使って動かしています。
 参加している企業の、どういう業種で、どんな分野が得意で、どういう機械設備を持っていて、という情報が、ざっと出てきます。またシステムに発注を入れてきた企業の情報を見ることができるようになっています。ですから、苦しい中でもそういう新しい分野への転換に取り組んでいるという点で、坂城町は先駆的な事例でもあります。
小山 これからはもっとお互いの持つ経営資源を出し合って、積極的にやるような形が必要だと思いますね。

若者の職業意識や職業能力をどう養成していくか。
京谷 ここまでのお話でいくつか貴重な情報が寄せられました。そこで私からは、もう1つの話題として、若者の職業意識や職業能力をどう養成していくかということについて、インターンシップのことを紹介したいと思います。
 ご存知のように、今、政府、文部科学省の方でも、経済産業省でもインターンシップを積極的に進めております。長野県経営者協会や中小企業支援センターでも県内企業のインターンシップを積極的に進めるために支援を行っております。
 私ども長野大学でも、県内企業と自治体でのインターンシップを始めております。昨年は製造業、サービス業、あるいは情報サービスといった分野でしたが、実際に学生がインターンシップを体験しました。また自治体では、上田市の協力を得て、3つのプログラムによるインターンシップを行いました。1つは「ふるさと創世事業プログラム」として上田市の代表的な祭りであります上田わっしょいの企画運営を行うという研修です。企画の立ち上げから学生が参加して、資金集めからイベントの運営、参加してもらう人達との交渉まで全て学生が行いました。もう1つは、「商店街活性化プログラム」です。研修期間の間に、上田市街の商店主の間を回ってアンケートを取ったり、話を聞いたりして、商店街活性化のためにどういう課題があるのかということをまとめております。3つめは「環境景観保全プログラム」です。ゴミ問題、不燃ゴミの処理等々、上田市の生活環境課の職員の方、クリーンセンターの職員の方々と一緒に実作業に加わったりし、夏の暑い中、林道の草の伐採をやって真っ黒になって帰ってきました。
 それを行うに当たっては、事前に政策研究や企業研究を行い、研修後は報告書をまとめており、学生達が報告をすることになっております。
 ちょっと長くなりましたが、やはりこういう教育が、若者の職業意識、職業観を形成していくことになり、また職業能力の素地を形成していくのだろうと思います。本学だけではなく、長野県の大学、短大等ではこうした取り組みを積極的に進めておりますが、地域の企業や自治体、さまざまな組織団体にも協力していただいて、このインターンシップ教育を活発に行っていきたいと思っております。
小山 私どもも昨年からインターンシップの取り組みを始めたのです。ベンチャー企業を体験してもらおうということで、やったのですが、どうも学生が来ないのです。要するに、知名度がないような会社に行きたがらないのですね。それでもなんとか五社実施しました。ベンチャーは、やっていることは面白いことをやっているのですが、その辺がなかなかうまくいかないところです。
 学生のレポートなどを見ますと、県内の企業はこんなことをやっていて勉強になったとか書いてあるのですが、それで終わりなのです。就職には結びつかないようです。
京谷 実際の就職に結びつくのは難しいし、それを前提にしないで、これは教育なのだと割り切った方がお互いに良いと思います。若者の職業教育なのだと。
小山 ベンチャー企業の場合は、人材確保も頭にあって、無理して実施している面もあるのでその辺の理解も必要と思います。
星沢 めいっぱいでやっているから教育する暇なんか実際ない?
京谷 確かに、学生を送り出す立場としては非常に心苦しいものがあります。企業にとっては、実際の職場に学生にいられるというのは大変負担です。そういう大変心苦しい立場に私はおりますが、やはりこういう機会を通して、学生が職業意識を持ち、職業に対する準備をするということは必要でしょう。学生達本人も、社会の側でもです。
牛山 そうだと思います。
小山 フリーターでいるような人にも、色々な職場を体験させるプログラムとか、そういうことをやったらいいですね。そうすれば、こういう仕事をやってみたいとかそういうことになるのではないでしょうか。
牛山 でも、フリーターでも就職希望があるのですが、だめらしい。結局マニュアルで働けるような仕事に就いてしまうようですね。
京谷 フリーターというのは、何年やっても職業能力が向上しないのです。単純な業務のくり返しですから、向上のしようがない。人付き合いとか人間関係で学ぶものはあったとしても仕事に対する能力や知識というのは変わらないのです。だから定職に就くのが困難だし、定職に就いても比較的単純な仕事に就くしかない。
 それは当然企業の方も、職業能力を見ますから、求職で来ても、あなたは採用しません、ということになってしまうのです。ちょっとフリーターを否定的な見方で見ることになりますが、そういう状況になるべく若者をやらないために、しっかりした職業教育をする、学校の中でも職業教育は必要だと思います。
牛山 企業もやらなくてはいけないのです。事業を継続していくためには、将来を担う世代に対して、具体的なビジョンというものを出していかなければならないでしょう。それが出てくれば、そういう遊んでいる人もかなり吸収できるようになるでしょう。

消費者も企業も目先の情報に左右されている。
星沢 それはマインドの問題ですね。例えば、どうして消費が拡大しないかといえば、将来不安が消費マインドを冷え込ませているからです。将来像が見えないのに物を買えと言われても、手は出ません。将来安心なんだという社会認識が形成されれば、ニーズは生まれてくるんですよ。
牛山 確かに、液晶テレビとかDVDとかそういうものはかなり動いていますから。やはり皆さん、お金は大事に持っていらっしゃるのでしょう。
小山 使ってくれればいいのに(笑い)。そういう、お金を上手に循環させていけるような仕組みというものが、日本には元々ないのですね。だから貯めるだけ。
牛山 ますます少子高齢化は進んでいますからね。将来が不安だからまあここは使わずに貯金だと。
京谷 その辺は、どれだけ潜在ニーズをキャッチできるかということでしょう。そういう形で、今の状況を捉え返して、社会の中にある色々な新しいニーズや嗜好をつかんで、それをふるい分けていく、そこに将来像が出てくるのです。
 厳しい厳しいと言っていると暗くなるばかりですので、今の社会の中にある色々な動きをもっと敏感に感じて、そこに新しい方向を見出していく、ということです。
星沢 消費者も、われわれ企業も目先の情報に左右されているのだと思います。もっとじっくり足を大地につけて第3者的に見るというような、そういうことが必要な時代ではないかと思います。
 短期的に効率のアップばかりを考えていると、ますます外に出て国内は空洞化、そして人々の消費意欲は冷え切って、不況は続くということになります。

地域社会に根ざした産学官連携の強化を。
京谷 近頃は大学に対しても、どれだけ経済効率の向上や技術革新に役立ったか、積極的に手を貸したかが問われたりするのですが、私はちょっとそれだけでは短絡的だと思います。
 何も大学は経済の刺激や経済政策のためにあるわけではなく、基本は教育機関であり研究機関です。ここまでのお話で皆さんからご意見がでましたように、もっと包括的な課題として、地域社会全体の人や物や情報のネットワークを結びつけていく、そういう方向でこそ、大学は力を発揮するのです。産学官連携についても、もっと足を地に降ろして大学は取り組むべきだと思っています。
星沢 暗いニュースが多い中で、最近、明るいニュースというのは、ノーベル賞のダブル受賞ですよね。その中に、信大の遠藤教授がノミネートされていた。ああいう地域の人材というのは、我々は知らないのです。ですからそれを発掘できるようなシステムも必要なのでしょうし、こういうところにこういう人材がいるという情報を公開することも必要ではないかと思います。
京谷 そうですね。ただ大学は、別に閉ざしているわけではないのです。誰がどんな研究をやっているかというのは積極的に発信していますし、インターネットでも調べてもらえれば分かります。
星沢 もっと気楽に行けばいいのですね、我々も。

中小企業の一番の良さは決断のスピード。
京谷 最後になりましたが、地域とのつながりという中で、中小企業だからこそ今、この経済状況のなかで取り組むべきこと、あるいは志向すべき方向など、ご意見やご提言がありましたら、お聞かせください。
牛山 1つだけ。先ほど星沢社長さんから、日本的な経営の良さというお話がありましたが、効率化・合理化徹底追求という趨勢のなかで、あえてそうおっしゃる星沢社長さんの視点に非常に共感しています。
 中小企業は、依然として徹底的な合理化・効率化を必要としている、しかし一方ではたいへん情緒的なと言いますか人間的な要素が不可欠です。これは大手にはない中小企業の固有の問題ではなかろうかと思っております。
小山 私が思いますに、中小企業の一番の良さは決断のスピードです。社長が意志決定すればすぐ変われるわけですから。
 マーケットニーズが変わっている以上、それに合わせて企業もどんどん変わるべきです。牛山さんのところでもプリント基板の試作という仕事が入っているわけですよね。
牛山 電子機器というのはプリント基板の配線によって機能を組み上げるのです。ですから、新製品開発のためには真っ先にプリント基板が欲しいわけです。それでいかに短納期で納めるかということに特化した部門があります。これはもう短納期専門なので、全ての工程を熟知した社員たちが、24時間いつでも対応しています。
星沢 それは出版の流れにも言えますね。多品種小ロット、短納期は当たり前。さらにそれをカスタマイズして、というような。
 これはもうデジタルのお陰です。データベース化さえしておけば、オンデマンドで必要な箇所だけ必要な部数ができてしまうのです。

自分の優れた技術を生かす場所を探す努力も必要だ。
小山 中小企業のもう1つの方向は、既存技術を異分野で活かすというものですね。例えば今まで電気部品でやってきた技術を、自動車部品に活かすというようなケースですね。先日、公社が名古屋で本県企業の商談会を行ったんですが、その時、トヨタの関係者がごそっとやって来たというのです。長野県の加工技術で、大幅にコストを下げるような技術があるか調べにきたとのことで、もうちょっと視野を広げて、自分の優れた技術を活かす場所を探す努力も必要だと思います。
京谷 そうですね。中小企業の利点というのは、やはり小回りがきく点です。優良な中小企業というものはやはり独自の技術を持ち、その技術の裏付けとなる熟練の技術者を持っている。問題は、それを継承する技術者を育てているかということと、市場のニーズを敏感に察知して、方針をだせる経営判断があるかということ。
 その決断をするのは、やはり経営者です。中小企業の経営者というのは別に管理会計とかをやっているのではなくて、率先垂範です。活気のある中小企業の経営者の方は率先垂範型です。経営者であると同時に、技術開発者であり製品開発者であるのです。
星沢 ただ、そういう社長のもとではなかなか従業員が育たないこともあります。ボトムアップの仕組みを日頃からしっかり構築しておかないと、人任せの集団になりかねないですから。
 まあ新年ですから「元気の出る平成15年にしよう」くらいのことは言っておきましょう。
小山 捜してみると結構元気のいい会社はあります。そのような企業を、いろんな形で支援すれば、新しい産業が育ってくると思っております。本年は何にでもチャレンジしましょう。
京谷 長野県内の中小企業の底力というのは、日本だけでなく世界にも知られています。それだけの利点は持っているのだということは知っておいていただきたいと思います。
 小回りが利く。良い技術を持っている。技術を支える技術者がいる。ですから、理想的に言えば、製造業の中小企業というのはモノづくりの職人共同体でありたい。経営者は自らもその一員としてボトムアップを図りながら、新しい方向を考え、職人共同体としての中小企業を、荒波の中で舵取りをしていく。周りにいる自治体や公共的な団体、大学がそれを支援し、情報や経験を共有しあって、お互いの発展に尽くしていくことがこれからのテーマでしょう。
 最後に皆さんから非常に活気のあるお言葉をいただいて、大変意義のある談義であったと思います。皆さん本当にお忙しい中、ご協力いただきましてありがとうございました。


第1部「2002年長野県経済を振り返る」
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