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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 2005年版中小企業白書の概要

『日本社会の活力と中小企業』―中小企業と人材を巡る諸課題

 人口動態の変化等により、日本の労働市場に構造的な変化が生じている。最も大きな変化は労働力の高齢化である。特に2007年から団塊の世代の退職が始まることによって労働力の高齢化は一層進んでいく。また、男女共同参画社会の進展によって女性の就業も増えてきており、少子化対策の観点からは女性の就業と出産・育児を両立させていく環境整備が求められている。また、若年者の就業状況は悪化しており、ミスマッチの解消が望まれる。こうした労働市場の変化が、終身雇用や年功序列賃金制の見直しなどの企業の雇用慣行の変化とともに進む中で、中小企業の人材確保の上での課題は大きい。

若年の就業状況悪化と労働力の高齢化

1.若年者の就業状況の悪化

(1)若年就業悪化の背景
 日本の失業率は、1990年代に上昇し、2002年に5.4%に達した後改善しているが、15~24歳の若年者の失業率はその後2003年の10.1%まで上昇し、現在も高い水準にある(第15図)
 1990年代には、特に後半に大企業を中心として雇用調整が進み、それにとどまらず、不良債権処理の遅れ等による金融危機等をも背景として、金融機関を含め破綻する大企業が増加した。新規学卒者の求人は低下し、大企業においても中途採用が一般化し、パートタイム労働者や、派遣労働者の活用が進む中で、新規学卒の正社員が労働市場への新規流入の中で占める割合は低下した。大企業の賃金決定において年功の要素を低下させる見直しが進み、年功賃金カーブはやや平坦化が見られるようになった。
 この背景としては、高度成長を経てバブル経済に至るまで大企業が新規学卒者の大量採用を続けた一方、バブル経済崩壊を経て中長期的な経済成長力の低下が確認されることで、大企業内部にかなりの余剰労働力の存在が認識されるに至り、採用方法や賃金構造等を見直したこと等によると考えられる。
 若年労働者の新卒採用は減少し、採用された場合にも、当初の希望と実際の職務とのミスマッチの増加等により離職者が増加している。また、大企業を中心として人件費を圧縮し、正社員比率を低下させ、派遣社員、契約社員、パート・アルバイト等の非正社員の比率を高める動きが進んでいる。

第15図
年齢階層別失業率の推移
~特に悪化してきた若年失業率~

第15図 年齢階層別失業率の推移

(2)若年者の就業意識の変化
 フリーターの意識を内閣府「若年層の意識実態調査(2003年)」から見ると、正社員としての就業を希望する比率が高い(第16図)。しかしながら、現実には、大企業の新卒による正社員採用が減少したため、若年者の中に、希望に反してフリーターとしてパート、アルバイトに留まる者が増えていると考えられる。
 フリーターは、親と同居し経済的に余裕のある若者を中心に出現し始め、当初「フリーター」という用語には、組織に縛られないで自由に働き生活することを積極的に評価する意味があったが、最近では、このような労働市場の変化を反映し、否定的な意味で用いられることが多くなってきている。
 同様な背景による更に深刻な存在として、「ニート(NEET)」という若者の増加が指摘されている。2004年版労働経済白書では、ニートに該当する者は2003年時点で52万人、フリーターは217万人いるとされている。
 若年者の立場からは、日本ではこれまで、高校や大学を卒業後に一斉に就職活動をし、新卒として一括採用されることが多かったため、このタイミングを逃すと正社員として企業に就職することが困難との認識が強かったと考えられる。しかし、現実には、中小企業では、中途採用が過去も現在も多く、大企業でもこうした傾向が出てきたものである。また、若年者においては就職先として依然として大手指向が強いが、近年は大企業の新卒採用は減少し、他方、中小企業は現在も若年層について強い採用意欲がある。
 これらのことから、現在生じている若年者の失業あるいは「意に反したフリーターとしての就労」の多くは、このような現在の労働市場の実態と、若年者の過去の労働市場を基礎とした認識のギャップによるところが大きいと考えられる。

第16図
フリーターが希望する雇用形態(2003年)
~フリーターも本当は正社員として働きたいと思っている~

第16図 フリーターが希望する雇用形態(2003年)

2.労働力の高齢化

 日本の高齢化の進行は、現在世界で最も急な速度で進行している。特に、今後2015年頃までの約10年間を考えると、昭和22年から24年(1947年から1949年)にかけて生まれたいわゆる「団塊世代」が間もなく60歳の定年退職の時期を迎え、次いで65歳以上の高齢者の範疇に入ることは、労働市場等に大きな影響を与えるものと予想されている。
 団塊世代は、産業別に見ると、就業時に成長期を迎えていた建設業、素材型を中心とする製造業、運輸・通信業、卸・小売業に多く就業し、現在でも多く在職している(第17図)。また、職業別に見ると、ブルーカラーでは技能工、採掘・製造・建設作業者等の比率が、ホワイトカラーでは管理的職業従事者等の比率が高い。これらのことから、団塊世代の退職により、大量の技能職の退職が生じ製造現場における技能継承が課題となり得ることが指摘されている。また、団塊世代は、高度成長期に三大都市圏に外部から流入した割合が高く、今後、三大都市圏、特に首都圏の60歳以上人口、次いで高齢化人口の割合を他地域以上に急速に上昇させる要因となることが指摘されている。
 中小企業はこれまでも高齢者の雇用の場として機能してきていることから、大企業で技能を蓄積してきた団塊世代労働者の受入れや活用に大きな役割を果たすことが期待される。高齢化が進行する中では、中小企業が、高齢者の能力活用を図っていくことが、従来以上に重要となると考えられる。
 したがって、中小企業政策を含む経済政策の中では、働く意欲と能力のある高齢者の就業機会を拡大し、労働力人口の減少を下支えするとともに、高齢者がこれまで蓄積してきた能力・経験ができるだけ活用される環境整備を図ることが重要である。

第17図
製造業で多い団塊世代の就業者
~今後製造業の職場の技能維持等が課題に~

第17図 製造業で多い団塊世代の就業者


中小企業の就業者

1.女性の就業

(1)正社員としての就業
 中小企業において女性の就業割合が高くなっているのはどういう理由からだろうか。
 女性の就業に出産・育児が大きな影響を与えていることに異論はないだろう。女性の年齢階級別の労働力率が30歳~40歳で落ち込むM字型に似た曲線になっていることはその現れである(第18図)。仕事を継続しながら出産や育児をするか、それとも仕事をやめて出産や育児に専念し一段落してから再び就業するか、個人が望むライフスタイルを実現するには企業側が出産や育児の際の継続就業や育児後の再就業の機会を与える用意をしておく必要があるだろう。
女性の継続就業
 1991年に育児休業制度が制定され、厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(2003年度)によると、在職中に出産した女性に占める育児休業取得者の割合は73.1%となっている。
 国立社会保障・人口問題研究所「第2回全国家庭動向調査」(2000年3月)によると第1子出産前に仕事に就いていた者のうち、仕事を続けた者は27.3%で、やめた者が72.8%となっている。さらに、出産後も仕事を継続した者の割合を企業規模別に見ると、1~9人で39.4%、10~29人で27.5%、30~99人で24.7%、100~299人で24.6%、300~999人で20.0%、1,000人以上で13.7%となっており、規模が小さい企業ほど継続して働く割合が高くなっている(第19図)

第18図
年齢階級別労働力率
~30代で女性の労働力率は落ち込む~

第18図 年齢階級別労働力率


第19図
女性の継続就業割合
~中小企業で働く女性の方が継続して就業する割合が高い~

第19図 女性の継続就業割合

育児後の再就業
 次に、一旦退職した場合の再就業の状況を見てみよう。再就業時の雇用形態から見てみると、男性の場合は正規の職員・従業員が94.5%となっておりほとんどの者が正規の職員・従業員として就業しているが、女性の場合は正規の職員・従業員が27.6%でパートが54.0%となっておりパートとして就業する者の方が多いようである(第20図)
 また、正社員として再就業した場合の企業規模の違いを見ると、男性の場合と比較して女性の場合は規模が小さい企業で就業している割合が高くなっている(第21図)。継続就業の場合と同様に再就業時も規模が小さい企業で働くことが多いようである。
 以上のように、大企業の方が仕事と家庭を両立させる制度が整っているのだが、実際には結婚や出産を機に退職してしまう女性が多く、また、規模が小さい企業ほど女性が出産後も継続して働く割合が高い上、育児後の再就業先も大企業よりも中小企業の方が多くなっている。

第20図
最就職時の雇用形態
~女性はパートとして再就業する割合が高い~

第20図 最就職時の雇用形態


第21図
再就職先の従業者規模
~最就業時、女性は男性よりも規模が小さい企業で働く割合が高い~

第21図 再就職先の従業者規模

(2)パートとしての就業
パートを雇用する理由
 第20図で見たように女性は結婚や育児後の再就業の際にパートとして就業することが多い。「就業構造基本調査」によると女性有業者に占めるパートの割合は26.7%と正規の職員・従業員の37.6%に次いで高く、パートに占める女性の割合を見ると92.0%となっている。
 中小企業ではパートをどのように活用しているのだろうか。厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(2001年)では事業所がパートを雇用する理由を調査している。パートを雇用する理由は「人件費が割安だから」とする事業所が65.3%と最も多く、次いで、「1日の忙しい時間帯に対処するため」が39.2%、「簡単な仕事内容だから」が31.4%、「一時的な繁忙に対処するため」が27・3%となっている。こうした傾向は、事業所規模別に見ても特に大きな違いは見られない。
中小企業におけるパートの役割
 このようなパートと正社員の役割分担には規模の大きさによる違いが見られる。例えば、パートを雇用している事業所のうち職務・責任が正社員と同じパートが3割以上いる事業所の割合は第22図のように企業規模が小さい事業所ほど高くなっている。また、三井情報開発(株)「能力開発基本調査」(2005年)によるとパート・アルバイトを主戦力として認識している割合は30人未満の企業で47.4%、30~49人で35.5%、50~99人で29.7%、100~299人で26.6%、300人以上で20.7%となっており規模が小さい企業ほど高くなっている。
 中小企業ではパートが正社員と遜色のない仕事をしていると言っても、そのパートの処遇に不合理な格差があれば問題である。そこで、正社員との処遇の違いについて「就業意識調査」を見てみると、規模が小さい企業で働いている者ほど「パート・アルバイト・契約社員の処遇が低い」とする割合は低く、「違いはないか、あっても適切な違いである」とする割合が高くなっている(第23図)

第22図
職務・責任が正社員と同じパートが3割以上いる事業所の割合
~企業規模が小さい事業所ではパートに正社員と同等の仕事をさせている割合が高い~

第22図 職務・責任が正社員と同じパートが3割以上いる事業所の割合


第23図
正社員との処遇の違いについて
~規模が小さい企業では処遇の違いがない割合が高い~

第23図 正社員との処遇の違いについて

2.高齢者の就業

(1)高齢者の就業に関する環境
 中小企業では女性以外にも高齢者が就業している割合が高い。その理由は定年制の違いにあると考えられる。厚生労働省「雇用管理調査」(2005年)によると、91.5%の企業が定年制を定めているが、100人以上の規模の企業は100%に近い割合で定めているのに対して、30~99人の規模の企業では88.8%となっている。また、定年の年齢についても規模が小さい企業ほど60歳ではなく、61歳以上に定めている割合が高くなっている。
 さらに定年に達した後の勤続についての制度を見ると、一律定年制を定めている企業のうち再雇用制度及び勤務延長制度のどちらか又は両方の制度がある企業の割合はすべての規模の企業で70%を超えている。ただ、再雇用制度がある割合は規模が小さい企業は低く、勤務延長制度がある割合は逆に高くなっている。
 では、こうした定年後の勤務に関する制度を利用した時に何歳まで働くことができるだろうか。企業の規模別に見ていくと、最高雇用年齢を定めていない企業の割合は30~99人の企業が55.1%と最も割合が高く、規模が大きくなるにしたがって割合は低くなっている(第24図)

第24図
最高雇用年齢
~規模が小さい企業の方が年齢に関係なく就業が可能~

第24図 最高雇用年齢

(2)高齢者の就業意欲と能力の活用
 企業側の採用実績は少ないようだが、高齢者の就業意欲はどうなっているのだろうか。総務省「就業構造基本調査」(2002年)を見ると、現在、無業ではあるが就業を希望している者は60~64歳では16.6%、65~69歳では15.4%、70~74歳でも9.3%もいる(第25図)。現在就業している者を含めると70~74歳の年齢でも38.2%の者が就業を希望しており、高齢者の就業意欲は旺盛である。
 また、高齢者の就業したい理由について見てみると、60~64歳では「失業している」、「収入を得る必要が生じた」が合わせて38.9%となっているが、年齢が高くなるにつれその割合は減少し、変わって「健康を維持したい」の割合が高くなっている。さらに高齢者は体力面の不安から短時間勤務で雇用することが適切な場合もあり、実際にフルタイムでの就業よりも短時間での就業を希望している高齢者も多い。
 このように高齢者の働きたい理由や希望する雇用形態、そしてこれまでの就業経験に基づいた豊富な知識を持っていることを考慮すると、高齢者を活用することで企業は大きな負担をかけずに優秀な労働力を利用することが可能になる。経営資源が不足しがちな中小企業にとって、高齢者を活用することは非常に有益なものであるといえる。
 また、今後、団塊世代の退職により、高度な技能を持った労働者が労働市場に出てくると考えられる。他社で就業していた者(いわゆる企業等OB人材)を活用することで今まで自社になかったノウハウを得る可能性が生じる。このような大企業を退職する団塊世代を積極的に活用することで自社の技術力の向上を期待することができるだろう。
 こうした状況を踏まえ、中小企業庁では各地の商工会議所に「企業等OB人材マッチング地域協議会」を設置し、OB人材の発掘やOB人材の活用を希望する中小企業の情報を収集し、企業と高齢者とのマッチングを支援している。2005年2月末現在、41の地域協議会で登録されているOB人材は2、825名で、これまでのマッチング件数は1、072件となっている。(事例5、6参照)

第25図
高年齢者の就業希望
~高齢者の就業意欲は高い~

第25図 高年齢者の就業希望


事例5 技術をもった高齢者を積極的に活用している企業

1996年創業のG社(大阪府、従業員6名)は産業排水の処理を中心とした環境ビジネスに関する①コンサルティング事業、②受託調査・研究開発事業、③プラント事業を行う企業である。重金属を含んだ廃水からの有価金属の回収・リサイクルシステムや廃水中の窒素成分除去問題に対するトータルソルーションなどを提供している。
G社では、定年退職者で豊富な知識と経験を持った技術者の集まりであるNPO法人Hから技術相談員を受け入れて研究開発を行っている。最初の利用のきっかけは業務が多忙になった時に代表者が会員であったNPO法人Hに相談したからであったが、以前に若年技術者を採用しようとして失敗した経験があるG社は、高度な技術を持った人材を容易に利用できるため、以後、積極的にNPO法人Hから技術相談員を受け入れるようになった。
技術相談員を受け入れるようになってから確実に研究開発のスピードが早くなり、それまであまり実験に取り組もうとしなかった従業員も実験をするようになるなどの思わぬ成果もあがっている。しかし、逆に高齢者に依存しすぎていることが課題となってきていることから、今後は高齢者を活用しながらも技術を承継するべき若年者を雇用して育成していくことが必要と感じている。


事例6 地元高専でのインターンシップを人材獲得に結び付けている中小企業の例

長野県のI社(従業員12名)は、地元のJ工業高等専門学校(高専)OBである現社長が1983年に創業した電気制御盤・マイクロコントローラの設計・製作を行う中小企業である。社長は、J高専を1975年に卒業後、2年間の機械メーカー勤務を経て同僚3人とともに退職し、空調機のメンテナンスを行う会社を設立した。社長は、1982年にこの会社を退社し、翌年にI社を設立したものである。
高専の課程は、中学卒業者が入学し5年間教育を受ける本科と、本科卒業者が2年間学ぶ専攻科がある。高専本科を卒業すると、大学3年に編入できる。また、専攻科卒業者は大卒と同じ学士の学位を取得できる。J高専本科卒業生の2003年度の進路は、進学(専攻科進学を含む。)56%、県外就職23%、県内就職21%である。
J高専のインターンシップ制度には、本科4年生を対象に約10年前から実施している夏季休業中の2週間(実質10日)のもの(6~7割の学生が受講。)と、高専として全国で初めて2003年度から実施している、専攻科1学年生を対象とする15週間のもの(10月~2月に実施。必修。)がある。
J高専の教育方針は、ものづくりの現場に直接携わる職人的リーダーを育成することであるが、企業実習の体験がないと現場のリーダーは勤まらないため、2003年度に専攻科を設置し長期インターンシップをスタートさせた。夏季休業中のインターンシップは企業に出向くことが重要で社会勉強と割り切る指導をしている一方、長期インターンシップは専門性を活かし将来就くであろう職業に関わることに着手し、15週間で成果を出してくるよう内容を重視した指導をしている。若者にはものを作ることやエンジニアとして働くことに誇りを持って欲しい。インターンシップを通じて、ノウハウの塊りである生産技術を肌で感じてきて欲しいと考えている。
I社は、社長がOBであるJ高専から要請を受けたため、1997年度から毎年インターンシップを受け入れており、2004年度までの累計で夏季27名、長期3名に上る。社員12名のうち6名がJ高専出身者、うち3名が本科卒業者、3名が中退者である。このうち、夏季インターンシップでI社に出向いていた者が各々に1名ずつ含まれる。
卒業者3名のうち、ナンバーワン社員との位置付けのK氏(現在26才)は、I社でのインターンシップ受講経験を持ち、4年前に中途採用された。K氏は当初、長野県内にある大手自動車会社系の上場ブレーキ部品メーカーに就職したが、社長はインターンシップ時にK氏が優秀であることを見出し、「まず大企業に入社して嫌になったら当社に来てくれ」とアドバイスしていた。I社はまだ小さい会社なので、新卒で直接入社してもらうにはご両親に申し訳ないとの考えから、このようにアドバイスしたものである。
中退者3名のうち、I社でのインターンシップ経験を持つL氏(同24才)は、インターンシップ時には人柄は良いが技能は今一つだった。社長はL氏が中退したことを聞きI社に誘った。入社半年後からI社が多忙となり、プログラム要員として現場を担当させて以降能力を発揮し、今やナンバーツーの社員として活躍している。人柄が良いので、客先からの評判はナンバーワンである。
K氏とL氏については、インターンシップを通じて人柄や技能を把握できていた。それ以外のJ高専出身者の入社については、高専の主催するインターンシップ交流会での社長の魅力的なプレゼンを含めインターンシップに関するI社の活動や学生の口コミを通じて、社名及び社長の名前が高専の教職員・学生に知れ渡ったことが大きい。社長は、問題点の多い現代の教育システムに適応できなかったために高専や高校を中退した者の中にも能力のある良い人材はいるし、技能を活用せずに職に就かないのはもったいないと考えており、教職員に中退者の受け入れも働きかけている。ただし職とのミスマッチというリスクもありうる。
インターンシップ受け入れによる中小企業側のメリットとしては、教職員・学生に対する企業の宣伝効果が大きい。これは、学生の口コミを通じてさらに大きくなる。これらの効果はリクルートにも活かせる。また、欲しい人材に「唾をつけておく」こともできる。社長は、インターンシップでの2週間でその学生が使えるかどうかわかるケースが多いという。
さらに、インターンシップは、社員教育の「実験台」となる。やる気のない学生を含め色々なタイプが来るため、かえって新人教育を短期間で行うノウハウを蓄積でき、新人教育はやれば効果があることがわかった。会社の若手が、学生を指導することによって成長するメリットもある。
また、社長は、インターンシップはニート(NEET)対策になる可能性があると考えている。社長は、高校は「宝の山」と考えており、高専・高校の中退者も雇用している。また、中学校から3名のインターンシップを受け入れた実績もある。
中小企業の多くは、インターンシップ受け入れは面倒であり、入社する学生なら見返りはあるが、短期間で帰ってしまう受講者に時間と費用を割くメリットはないと考えている。
しかし、I社の社長は、学生にとって勉強になるインターンシップなら、企業側にとってもメリットがあると考えている。I社のように小さな企業では本気で働いてもらうことになり、仕事が大変なほど学生にとって良い経験となる。小さな企業で学生を受け入れると、企業と学生の間にお互い愛着が出てくるし、企業は学生に親身になる。小さな企業では職人気質が育ちやすいこともあり、インターンシップは受け入れ先が中小企業、とりわけI社のような小さい企業である場合に機能すると考えている。これに対し、大きな会社は案外受け入れ対応が良くなく、研修も画一的な「愛のない」ものになってしまうのではないかと考えている。
J高専にとっても、インターンシップは地元企業とのコミュニケーションの一つの手段である。地元の会員企業と本音の話ができるので、例えば中退者の事情を話して受け入れを相談することもできる。電機・精密機械工業などを中心に力のある中小企業が集積している長野県の地域性を活かして、J高専の技術振興会(地域企業が会員となって高専との連携による技術研究会・技術交流会、インターンシップ支援、教官研究助成などの事業を実施。)の会員企業は120社近くに及んでおり、J高専はこれらの企業との十分なコミュニケーションを通じて企業ニーズを把握し、地元企業に情報と人材を提供している。


若年者の雇用

1.フリーターの採用

 若年者の失業率は依然高く、また、正社員ではないアルバイトやパートタイマーなどの非正社員、いわゆるフリーターの数も増加している。新卒者の採用が困難な中小企業にとって、こうしたフリーターの増加は若年者を採用する機会が増えているということでもある。
 実際に以前はフリーターであったが現在は正社員である者は、中小企業で就業している割合が高く、日本労働研究機構「大都市の若者の就業行動と意識」(2001年10月)によると、フリーターを経て正社員となった者の現在の就業先の規模は、従業員数が29人以下の企業が44.2%、30~99人が20.0%、100~299人が15.8%、300~999人が3.3%、1,000人以上の企業が10.8%となっている(第26図)。フリーターの採用は中小企業が若年者を確保する際の一つの手段となるだろう。

第26図
フリーターを経て正社員になった者の勤務先規模
~中小企業はフリーターが正社員として就業する際の雇用の受け皿となっている~

第26図 フリーターを経て正社員になった者の勤務先規模

(1)フリーターを採用する際の課題
 フリーターを採用することについて不安に思う経営者も多い。「雇用管理調査」によると、フリーターを正社員として採用するにあたって、30.3%の企業はフリーターであったことをマイナスに評価すると答えている。その理由は「根気がなくいつ辞めるかわからない」が70.7%と最も多く、次いで、「責任感がない」が51.1%、「職業に対する意識などの教育が必要」が42.6%、「年齢相応の技能、知識がない」が38.1%となっている(第27図)。最も多い「根気がなくいつ辞めるかわからない」という理由について企業規模別に見ると5、000人以上の規模では33.6%、1,000~4,999人で50.3%、300~999人で58.3%、100~299人で67.3%、30~99人で74.2%と規模が小さい企業ほどいつ辞めるかわからないと考えている割合が高くなっている。「責任感がない」という理由も同様に規模が小さい企業ほどそう考えている割合が高くなっている。

第27図
フリーターを評価しない理由
~フリーターを評価しない理由には様々なものがある~

第27図 フリーターを評価しない理由

(2)採用の際の課題の解決のために
 「根気がなくいつ辞めるかわからない」といっても、もちろんすべてのフリーターがすぐに辞めてしまうわけではない。
 継続就業に不安があるのは、就業意識が相対的に低いフリーターの場合である。フリーターをマイナスに評価する理由の「責任感がない」、「職業に対する意識などの教育が必要」はまさにフリーターの就業意識の低さが問題になっている理由といえる。若年者の就業意識が低いのは様々な要因によるものであるが、実際にフリーターの採用を検討する企業にとって重要なことは企業側が求める若年者の就業意識と実際の若年者の就業意識のミスマッチをどう解消すればいいかである。
 政府は2003年6月に「若者自立・挑戦プラン」を策定し、そのプランの一環として「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)」を整備している。ジョブカフェでは適職診断・適性判断・カウンセリングなどを通じて若年者の就業意識を高める活動を行っていることから、ジョブカフェを利用した若年者を積極的に採用していくことで就業意識のミスマッチを解消していくことが可能になるだろう。
 また、企業自身が雇用したフリーターの就業意識を高める努力をしていくことも大切である。以前であれば若者の大部分は学校卒業後に就職し、企業の教育や就業経験を通して就業意識を醸成してきた。
 このように就業意識を高めていくことで継続就業を可能にしたとしても、フリーターを雇用する際の問題は他にもある。先ほど見たように「年齢相応の技能、知識がない」こともフリーターがマイナスに評価される理由である。その原因は正社員としての就業経験が乏しいためスキルを身に付ける機会を得られなかったことによるためであるが、意欲があればフリーターなどの非正社員であっても能力向上・キャリア形成が図られることが求められるだろう。

事例7 優秀な人材を確保するためにジョブカフェを利用

千葉県で不動産の売買・賃貸・管理及び仲介を行っているM社(従業員5名)は、2003年6月に代表者が16年間の斯業経験を活かして創業した企業である。勤務時代に知り合った異業種の人々のサポートもあり、事業は順調に軌道に乗ってはいるが、人材の確保については非常に苦労しており創業時の事業計画の中で唯一目標を達成できていない課題となっている。
M社は当初、人材確保について、①インターネットの活用(ホームページでの求人案内、千葉県内の転職・就職サイトへの掲載)、②求人誌への求人案内掲載、③ハローワークへの求人票提出の3つの方法をとっていた。しかし、それぞれの求人の効果については、①は求人を充足する確度が高いものの求職者の目に触れにくい、②は効果があまり期待できないうえに掲載料金が高い、③にいたっては全く反応がないといった状況で必ずしも満足しているわけではなかった。
そんな時にジョブカフェの存在を知り利用することになったのだが、その結果、良質の若い人材を確保できるようになった。ジョブカフェに登録してからは、今まで問い合わせすらなかった新卒者からもアクセスがあり、ジョブカフェから紹介を受けた若者は働く意識が高く、入社時の第一段階の心構えが既にできている。インターネットからの応募者よりも就職の意義などを理解し熱意が感じられる。また、副次的な効果として求人費用の節減もできている。ジョブカフェからの応募者は信頼性が高く、現在、M社ではジョブカフェからの採用ルートを相対的に重視することにしている。


事例8 雇用管理により従業者の就業意識を高める

栃木県にあるN社は従業員506名(うち派遣社員320名)、資本金1億円の電子部品の開発・製造業者である。N社は生産の振れ幅(最大時は最小時の3~4倍)が大きく、労働力の調達も迅速さと柔軟さが求められるため、平成9年よりフリーターの有効活用も兼ねてウィークリーワーカー、マンスリーワーカー制度を導入した。この制度は一種のインターンシップ制度で、N社に就職する従業員は全員、まず1週間ごとに雇用契約を更新するウィークリーワーカーとして働く。その後3か月以内にその人の働きに応じ、マンスリーワーカー(ウィークリーより10%以上時給が上がるとともに社会保険に加入)、さらに正社員へと登用していくシステムとなっている。
ウィークリーワーカー制度の1週間で給料をもらって辞められるというメリットは大きい。例えば、いいかな?と思って始めた仕事でもイメージと違うことがあるが、月給制だと1か月間我慢して働き続けなければならない。それが1週間で判断でき給料をもらってすぐに辞められるため、自然と意欲がある者だけが残っていくことになる。また、1週間皆勤した人に2,500円の皆勤手当を支給することで、もう少し無遅刻無欠勤で頑張ろうという気持ちが生まれやすくなる。その他にもウィークリーワーカーには入社後3週間目より技能の習熟に応じ、隔週ごとに時給を10円ずつ上げていくシステムも採用している。
ウィークリーワーカーと比較されることによって正社員にも緊張感が生まれ、出勤率や仕事に対する意欲も向上しているが、このような会社と従業員が納得のいく雇用関係を築きながら正社員へとレベルアップできるシステムのため、就業意識が高まり、業績や社内の雰囲気向上に寄与している。
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