特集 2005年版中小企業白書の概要
『日本社会の活力と中小企業』―中小企業と人材を巡る諸課題
人口動態の変化等により、日本の労働市場に構造的な変化が生じている。最も大きな変化は労働力の高齢化である。特に2007年から団塊の世代の退職が始まることによって労働力の高齢化は一層進んでいく。また、男女共同参画社会の進展によって女性の就業も増えてきており、少子化対策の観点からは女性の就業と出産・育児を両立させていく環境整備が求められている。また、若年者の就業状況は悪化しており、ミスマッチの解消が望まれる。こうした労働市場の変化が、終身雇用や年功序列賃金制の見直しなどの企業の雇用慣行の変化とともに進む中で、中小企業の人材確保の上での課題は大きい。 若年の就業状況悪化と労働力の高齢化 1.若年者の就業状況の悪化 (1)若年就業悪化の背景 日本の失業率は、1990年代に上昇し、2002年に5.4%に達した後改善しているが、15~24歳の若年者の失業率はその後2003年の10.1%まで上昇し、現在も高い水準にある(第15図)。 1990年代には、特に後半に大企業を中心として雇用調整が進み、それにとどまらず、不良債権処理の遅れ等による金融危機等をも背景として、金融機関を含め破綻する大企業が増加した。新規学卒者の求人は低下し、大企業においても中途採用が一般化し、パートタイム労働者や、派遣労働者の活用が進む中で、新規学卒の正社員が労働市場への新規流入の中で占める割合は低下した。大企業の賃金決定において年功の要素を低下させる見直しが進み、年功賃金カーブはやや平坦化が見られるようになった。 この背景としては、高度成長を経てバブル経済に至るまで大企業が新規学卒者の大量採用を続けた一方、バブル経済崩壊を経て中長期的な経済成長力の低下が確認されることで、大企業内部にかなりの余剰労働力の存在が認識されるに至り、採用方法や賃金構造等を見直したこと等によると考えられる。 若年労働者の新卒採用は減少し、採用された場合にも、当初の希望と実際の職務とのミスマッチの増加等により離職者が増加している。また、大企業を中心として人件費を圧縮し、正社員比率を低下させ、派遣社員、契約社員、パート・アルバイト等の非正社員の比率を高める動きが進んでいる。
第15図 年齢階層別失業率の推移 ~特に悪化してきた若年失業率~
(2)若年者の就業意識の変化 フリーターの意識を内閣府「若年層の意識実態調査(2003年)」から見ると、正社員としての就業を希望する比率が高い(第16図)。しかしながら、現実には、大企業の新卒による正社員採用が減少したため、若年者の中に、希望に反してフリーターとしてパート、アルバイトに留まる者が増えていると考えられる。 フリーターは、親と同居し経済的に余裕のある若者を中心に出現し始め、当初「フリーター」という用語には、組織に縛られないで自由に働き生活することを積極的に評価する意味があったが、最近では、このような労働市場の変化を反映し、否定的な意味で用いられることが多くなってきている。 同様な背景による更に深刻な存在として、「ニート(NEET)」という若者の増加が指摘されている。2004年版労働経済白書では、ニートに該当する者は2003年時点で52万人、フリーターは217万人いるとされている。 若年者の立場からは、日本ではこれまで、高校や大学を卒業後に一斉に就職活動をし、新卒として一括採用されることが多かったため、このタイミングを逃すと正社員として企業に就職することが困難との認識が強かったと考えられる。しかし、現実には、中小企業では、中途採用が過去も現在も多く、大企業でもこうした傾向が出てきたものである。また、若年者においては就職先として依然として大手指向が強いが、近年は大企業の新卒採用は減少し、他方、中小企業は現在も若年層について強い採用意欲がある。 これらのことから、現在生じている若年者の失業あるいは「意に反したフリーターとしての就労」の多くは、このような現在の労働市場の実態と、若年者の過去の労働市場を基礎とした認識のギャップによるところが大きいと考えられる。