| 地域再生と中小企業の果たす役割 |
| 変貌する産業集積 我が国の産業構造は全国一律に分布しているわけではなく、全国に広く分布する製造業も、集中立地して生産活動を行っている。サービス産業が多い都市部に比べて、地域においては、製造業の果たす役割が大きいが、全体として出荷額・事業所数の減少、開業率の低下などの現象が続いており、経済産業省「工場立地動向調査」においても、2003年は新規工場立地(移転含む)が前年比で増加したものの、全体としては調査開始以来3番目の低い水準にある。こうした製造業の衰退は、製造業者が集中して立地する地域において特に影響が大きく、地域経済の疲弊及び活力低下の一因となっている。地域の産業の衰退が当該産業のバラエティ豊かな生産能力を低下させると同時に、当該産業の雇用維持力も衰え、地域の雇用が減少し、労働力が他の地域へ移っていく。優秀な労働力が減少し、あるいは優秀な労働力を生み出せなくなった地域においては、更なる産業の衰退を招き、地域経済が疲弊していくという悪循環に陥ってしまう。このように、地域経済活性化に果たす役割が期待されている産業集積の多くは、集積が集積を呼ぶ(正のロックインの)メカニズムを機能させておらず、逆に、衰退し始めた集積が崩壊し始めるという融解(メルトダウン)のメカニズムが働くようになってきている可能性が考えられる。 1.産業集積の形成と衰退のメカニズム (1)集積形成・維持の要件 これまでにも、産業集積は疲弊する地域経済を再活性化し、地域における生産性を向上させる手段として注目されてきた。地域再生の取組として、「地域産業集積活性化法」に基づく施策や、「新事業創出促進法」に基づく高度技術産業集積活性化計画等は、その効果に着目した典型的な例である。 それでは、特定の産業が集中して立地するのは何故であろうか。企業にとっては、同業種・関連業種の企業が集まって立地することで何らかの効用が働き、事業活動に有利な影響を及ぼす。企業にとって魅力ある地域には、更に企業が集中して立地すると考えられるが、産業集積が継続していくためには、需要搬入企業の存在と集積の柔軟性が重要であり、柔軟性の基礎的要件として @技術蓄積の深さ A分業間調整費用の低さ B創業の容易さ が必要であると指摘されている。 (2)集積によるメリットの変化 企業にとっては、上述したような地理的優位性が生み出される地域、すなわち高い技術力をもった外注先を含む同業他社が多い土地に立地することが経営上、望ましいであろう。 企業が関連企業との近接性を重要視する度合いは、交通・通信環境といったインフラが整備され、人の行き交いや情報の交換が行いやすくなる中においては薄まりつつあると考えられよう。実際、経済産業省「工場立地動向調査」でも、大企業が工場の立地を選定する理由として、「関連企業への近接性」を重視する割合は低下している。一方、経営資源の不足を、地域内企業間の分業体制や事業提携等で補っている中小企業について見ると、「関連企業への近接性」を重要視する度合いは決して低下しておらず、時間や手間などの目に見えないコストを削減するという産業集積の役割は依然として重要であり、集積が集積をもたらす基本的な構図は失われていないことが分かる(第1図)。
(3)集積の強みを強化する取組 各地域においては、技術・研究開発に対する支援を充実させ、地域産業の強みに発展させているところも多い。地場産業振興センターや公設試験研究機関等はその代表的な例である。しかしながら、企業にとっては、そのニーズが十分に満たされ、必要な役割を担っているとは言えない状況にある。例えば、市場により近い存在である企業にとっては、技術の陳腐化の早さや需要の急速な変化により、地域の技術力を強みと感じていないところも多い。産業支援側の認識と企業側の認識のギャップは第2図(三菱総研「産業集積実態調査」)にも表れており、7割以上の自治体が、集積地の特定業種は技術的な強みを有していると考えているが、集積地に技術的な強みがあると感じている企業は5割に満たない。今後は、企業のニーズ、市場のニーズにより則した技術・研究開発の支援が一層重要になってくるであろう。 全体として、企業が集積地から享受するメリットが薄れる中で、集積が本来有する意義・効用がうまく作用し、今もなお技術的な強みを有し、時代のニーズに応じて産業構造の転換を図りながら独自の発展経路を辿っている地域もある。また、地域産業の自立的発展を支援していくために、これまでの物理的な地域を問題にするのではなく、地域コミュニティを構成する個々の企業や大学等をいかに結びつけていくかに着目したクラスター計画も各地で進められている。これにより、地域における人的ネットワーク形成が促進され、イノベーションを創出する環境を整備するという地域経済活性化の成果が期待されている。
2.地域経済と産業の集積 (1)地域特化の経済性 地域にとって、同業種・関連業種の企業が集中して立地することにより、地域経済の活性化にどのような影響をもたらすかを見てみよう。 特定の産業が集積することによるメリット、機能として、規模の経済性または範囲の経済性が指摘される。規模の経済性とは、一般的には、企業の規模が大きくなるに従い、生産要素に比して生産量が増加する「収穫逓増」と、生産一単位当たりの費用(平均費用)が生産量の拡大とともに低下していく「費用逓減」の両方の経済性を兼ね備えるものであり、企業のケースと区別するために、地域という空間においては、地域特化の経済と呼ばれる。こうした経済の外部効果が地域経済全体にどのように影響しているのであろうか。経済産業省「工業統計表(工業地区編)」により、工業地区を地域単位として、その工業出荷額の伸び率(1995年から2000年)と出荷額第1位業種の出荷額ウェイトの関係を見ると、特定産業(出荷額第1位の業種)が総工業出荷額に占める割合の高い地域ほど、出荷額の伸び率が高くなっており、特化の経済性が地域経済に好影響を及ぼしている可能性が指摘できる(第3図)。しかしながら、特化の経済性は地域の一人当たり付加価値生産性を伸ばすには有意に働いておらず、地域における主要業種(出荷額第1位の業種)は上記の期間においても約3分の1の地域で変更があり、地域経済の牽引役も時代ごとに変化している。主要業種の変更は、それまで地域を牽引してきた産業の相対的な地位の低下を意味するものである。そのため、当該地域全体の活力の低下に繋がる可能性も考えられるが、例えば、先の工業地区を主要業種の変更があった地区となかった地区に分類し、その地区の出荷額伸び率を見ても、有意な差は見受けられない。それよりも、主要業種の変更があった地域の方が、付加価値生産性の伸び率については高くなっており、必ずしも既存の産業に固執する必要はないことを表している(第4図)。地域においては、変化する市場のニーズに対応して、時代の要請に応じた高付加価値商品・サービスを生み出していくことが、今後の地域経済活性化にも不可欠であろう。
(2)地域・企業レベルの業種転換 上述したような地域としての業種転換は、個々の企業が業種転換した結果でもある。業種転換の程度を集積地(「企業集積の実態調査」において抽出された製造業の産業集積が存在する市区)とその他の地域とで比較したものが、第5図であり、これを見ると、集積地における業種転換率の方が高く、集積地に立地する企業が、市場ニーズを敏感に読み取りながら、時代の要請に応じた事業への転換を行っている状況が分かる。 しかしながら、地域にとって産業が集積することのメリットはあるものの、集積の経済が持つロックイン効果の負の作用も指摘されている。本来であれば、構造的な業種・業態転換が必要となっているにもかかわらず、特定の業種や業態に特化して成功を収めていたケースでは企業行動や組織の固定化が見られ、なかなか新しい産業への転換が果たせないのである。そのような集積における対処療法に正解は存在しないが、事例1に見たように、既存の技術を活用しながら、時代のニーズに応じた新たな製品開発をし、主力の産業の転換をうまく図っている地域も見られる。
3.新しい形の産業集積 近年、情報通信技術が発達する中、IT関連産業を中心とする非製造業の集積形成が発生していることが数多く指摘されている。こうした比較的新しい産業が、製造業と同様に集積することによって、どのようなメリットがあるのであろうか。 (1)アナログコミュニケーションの重要性 製造業集積地に存在する企業の例を見てきたように、多くの企業にとっては、集積することから得られるメリットが低下し、多くの地域において、企業数の減少などの衰退傾向が見られる。しかしながら、企業にとっての同業他社との近接性は、交通網が整備され、通信環境が発達する中においても重要であることは既に述べたとおりであり、"face to face"のコミュニケーションを通じた知識及び情報交流に代わる代替手段は存在しないことも指摘されている。これは、新しい形態の集積地に立地する企業にも同様のことが言え、例えば「企業集積の実態調査」によって情報通信業の産業集積が存在する市区について見ても、「取引先とのコミュニケーション」等のため取引相手(販売先、仕入先、外注先のいずれか)との近接性を重視する割合が高まってきているとする企業は、57.3%と過半数を超えている。これは、製造業の集積地に立地する企業(55.8%)と同じ傾向であり、業種にかかわらず対面式コミュニケーションが経営上重要であることを表している。 情報通信産業は、2000年のネットバブル崩壊を経た後も、他の産業と比べれば依然として成長産業であり、地域内の同業・関連業種の企業が増加傾向にあると答えている企業の割合も高い。取引先との近接性重要度が高まる中、地域内の同業・関連業種の企業も増加し、企業にとっては地域の魅力がますます高まる上、地域にとっても域内の企業が活性化するという好循環が働いているといえる。これは、製造業の集積地における企業が、企業にとっての集積の重要性が高まっているにもかかわらず、地域内の同業他社が減少しているため、地域外部に展開して行かざるをえないのと対照的であり、地域の盛衰の違いを表していると考えられよう。 企業にとって、他の企業との直接的な接触の重要性が高まっているのは事実であるが、情報通信業のような新しい産業の集積地においては、十分なコミュニケーションが図られていない側面も見てとれる。先述の調査において、同一市区町村内の同業他社の増減については、「分からない(不明)」と答えている企業も多数存在しており、周辺地域のリアルな情報収集が十分であるとは言い難い。また、同一市区町村内の同業他社の動向等の企業情報についても、6割以上が実際に不足を感じている。これは、形成時期が新しい産業集積であること、都市を中心に数多くが密集しているため把握が困難であること等が理由として考えられるが、企業間ネットワークが未成熟であることは確かであろう。 そうした状況も反映して、企業にとって不足する情報を入手する手段としては、製造業では主に組合や業界団体の役割が大きいのに対し、新しい集積地に立地する情報通信業の企業の場合は、取引先からの紹介を重要視している割合が高い(第6図)。創業間もない企業や経営資源に乏しい小規模事業者にとっては、顔の見えるネットワークによるビジネスチャンスの開拓が有効な手段であり、今後、集積地内の企業間を結ぶコミュニティが形成されていけば、事業提携等がさらに活発になり、地域経済活性化にも役立つものと考えられる。地域にとっては、そうした潜在的なビジネスチャンスを掘り起こし、苗床となる集積地ネットワークの形成支援策を充実させていくことが必要であり、こうした方向性は製造業集積地の再活性化にとっても不可欠であると考えられよう。
(2)情報通信業の企業活動 続いて、情報通信業の企業の事業活動の状況について見てみよう。上述したように、比較的新しい情報通信業では、ネットワークの形成が不十分であり、企業間のコミュニケーションが不足している状況にある。「企業集積の実態調査」によっても、最近5年ほどの間に、他企業と何らかの事業提携活動を行ったことのある企業の割合は3分の1程となっている。しかしながら、この割合は、製造業と比較すると高くなっており、情報不足のために提携相手の模索に苦労する中においても、新しい経営上の取組には意欲的であると考えることができる(第7図)。 また、主要取引地域の傾向を見てみると主要販売(受注)先の立地及び主要販売(受注)地域はともに4分の3程度が、同一都道府県内または同一市区町村内であり、外注先を見ても、80%以上の企業の取引関係が同一都道府県内で完結しているなど、比較的狭い範囲に取引が集中している。さらに、取引地域の拡大・縮小の傾向を見ても、製造業の企業の多くは、同一市区町村内の取引が減少しているのに対し、情報通信業の企業には、同様の傾向は見られず、同一市区町村内への販売(受注)額が増加していると回答している企業の方が、減少していると回答している企業よりも多くなっている(第8図)。これは、情報通信業が製造業全般の業況に比べて、好調であったことが大きな理由であると思われるが、そうした追い風も含めて、情報通信業では地域内の関連企業が増加するとともに、企業が集積することのメリットが強く働き、企業活動にも好影響を及ぼすという、集積形成のメカニズムが働いていると考えられよう。 以上のように、企業間の様々なネットワークを生み出すインキュベータとしての産業集積の役割は、地域によっては依然として重要な存在であり続けるが、集積の役割が高まっている地域、衰えている地域がそれぞれ存在するのも事実である。地域経済にとっては、企業が立地したくなる魅力を付加する策を打ち出すとともに、時代のニーズにマッチした産業の集積を支援していくことも必要であろう。製造業においては、固定化した産業組織・企業行動を変化させるための産業支援策や新しいネットワークづくりによる事業提携の活性化等が有効であると考えられ、また、情報通信業においては、事業所の賃料の妥当性や交通・通信等のインフラ環境、ソーシャルアメニティの充実度を比較的重要視する傾向にあることも、これまで指摘されており、各々の産業に適した産業支援策を打ち出していくことが望まれる。
中心市街地と商業の活性化 近年の流通業の構造変化は大きい。これまで人口の増大や都市化の進展とあいまって発展・成長してきた我が国の流通業は転換期を迎えており、消費支出が伸び悩む中で、小売業全体の生産性向上も頭打ち傾向がみられる。 こうした厳しい競争環境下において、中小小売商業の太宗を占める商店街をはじめ、既存商業集積は衰退してきており、市町村の中心としての役割を果たしてきた中心市街地の商業集積も全体としては厳しい状況にある。中心市街地は商業機能だけでなく、業務、居住等の都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、伝統を育み、各種の機能を培ってきた「街の顔」とも言うべき地域であり、その活性化は地域再生に向けた重要課題となっている。 そこで、中心市街地と商業集積の関係及び両者の活性化に向けた総合的な取組のあり方などについて、進行する人口減少等の観点も含めて分析を行う。 1.総合的なまちづくりと商店街の活性化 そもそも商店街は、消費者のライフスタイルの変化に伴い、その立地場所や店舗の形態が変化をする外部性が高い産業である。中心市街地などの商業集積の多くが城下町や鉄道の駅周辺に形成されてきたことから分かるように、何らかの原因で都市が形成され、人が住み、日常的に様々な活動が行われるようになると、その必要に応じて、商業機能が集積していくのであり、その逆ではない。 このように形作られてきた中心市街地は、単に商業機能が集中しているのみならず、人々の生活や文化的活動の中心であり、これまでの長い歴史の中で、文化、伝統を育んできた「街の顔」というべき存在となってきたが、近年、モータリゼーションの進展に伴い、郊外の居住者の増加、病院や学校、役所などの公共施設の郊外への移転など人々の活動の場が郊外へ拡散し、中心市街地の空洞化が進んでいる。 実際のところ、中心市街地に人が住み、日常的に様々な活動が行われることは、その商業集積の発展に必要な条件の一つである。 全国商店街振興組合連合会が実施した「平成15年度商店街実態調査」(2003年11月)によれば、「繁栄している」と回答した商店街は全体の2.3%のみであるが、このうち、62.6%で「来街者数が増加している」と回答しており、「不変」は34.7%、「減少している」とした商店街はわずか2.7%であった。こうしたことからも商店街の繁栄には来街者の増加が必要であり、さらに、地域全体のまちづくりの一環として中心市街地の活力の維持向上を図ることは、当該地域における小売業の振興の大前提であると考えられる。このような観点から中心市街地の活性化に向けて、近年、取組がなされてきたところであるが、中心市街地とその商業機能の衰退傾向には歯止めがかからない状況となっている。 (1)中心市街地と商業集積に対する消費者意識 このように、中心市街地とその商業集積の現状は厳しい環境下にある。しかし、中心市街地に対する、消費者意識をアンケート結果から探って見ると、消費者・生活者の中心市街地に対する期待は依然大きいことが分かる。 @中心市街地に対する消費者のニーズ まず、消費者から見た中心市街地への必要性については、「まちなかや中心市街地のにぎわいのために大切」47%、「買い物をするために大切」37%、「何となく大切」21%など、中心市街地に買物場所だけではない意義を認める意見が多く、「大切ではない」を選んだ人はわずか5%となっている(第9図)。 次に、中心市街地の魅力として最も上位に挙げられた項目は「多数の商業施設の集中」であり、特に若年層ほどその傾向が強い。一方、「公共施設の充実」の他、「交流によって事業や文化を生み出す場」「まちの顔としての価値」なども幅広い年齢層で選択されている(第10図)。 また、中心市街地に行く理由として、買物、飲食を主な目的とする回答が高い率で選択されている(第11図)。 こうした結果から、消費者は中心市街地を必要と思っている割合が高く、大切さの認識もなされており、中でも中心市街地は買い物をする場であることが来街動機や魅力となっている。
(2)総合的なまちづくりと商店街を含む中心市街地の活性化の方途について 今後、各地域においては、住民の選択に基づき、そのニーズに応じて、総合的なまちづくりに取り組んでいく必要がある。その際に、各種の都市機能を地理的にどのように配置していくかについては、多様な選択があり得るところであるが、前述のように、多くの消費者は中心市街地の魅力は商業をはじめとする各種の機能が引き続き集積していることであると考えていることから、地域が中心市街地の活性化に取り組む場合には、各種の機能の中心市街地への集積を目指したまちづくりを行うことが望ましいと考えられる。中心市街地の商業をはじめとする各種の機能の集積は、住宅やオフィスを中心市街地やその周辺に立地させ、また、自家用車や公共交通機関による中心市街地へのアクセスを容易にすることによって、街に住む人、訪れる人を増やしていくことが維持発展の前提である。このような観点から、最近、コンパクトなまちづくりを進めている地域が出現しているため、これを紹介する。 中心市街地の活性化に向けては、住宅の郊外立地や公共施設の分散的な配置ではなく、人々が集まり、にぎわいが生まれるようなコンパクトな都市づくりが有効と見られる(事例2、3)。
我が国では、高度成長期以降、車社会の進展により、外延部への市街化が急速に進行し、中心市街地の空洞化、環境問題などの都市問題が生じてきた。このような事態を早くから経験してきた欧米諸国では、1970年代頃から、エネルギー効率等のサスティナビリティの観点(EU諸国)やダウンタウンのスラム化の防止と都市の活力向上の観点(米国)等から、コンパクトな都市のあり方が主張され、都市計画の運用等に反映されてきたところである。 我が国においても、現在までに、都市再生特別措置法に基づく都市再生基本方針において、「高度成長期を通じて生じていた都市の外延化を抑制し、求心力のあるコンパクトな都市構造に転換を図る。」ものとされ、また、住宅宅地審議会においても新たな宅地政策の基本的方向としてコンパクトなまちづくりが打ち出されるなど、今後の基本的な都市のあり方として定着してきたところである。このような国内での取組に対し、国際的にも、OECDの対日都市政策勧告(2000年11月6日)の中で、「人口減少予測を考慮すれば、都市の拡張は非効率的である。環境保全や高齢者の生活の質の向上の両方の見地からも、都市成長のマネジメントにより、コンパクトで機能的なまちづくりを行うのが望ましい。」とされているところである。 このような国土交通省の方針の下で、各地域でのまちづくりにおいてコンパクトさを具体化する検討等がなされており、例えば、H市等においては上記のように、まちなかのにぎわいの増進等の成果を挙げ始めているところである。 今後も、このような取組が各地域でなされていくことは、地域経済の活力の維持・増進や、地域コミュニティの再生等の観点から重要であり、地域の中小企業においても検討等に積極的に参加していくことが望まれる。このような取組は、中心市街地の商業集積の活性化の観点からも極めて重要である。 このようなコンパクトなまちづくりは、今後、人口減少が進行する中で、都市の行政コストを抑えていく観点からも有効と考えられるので、以下、この点について分析する。 はじめに、上記のH市では、1970年から2000年までの30年間に13,000人が郊外へ流出してきたことから、このための開発にかけられた行政コストを約350億円と試算し、この経費は、仮に市街地の拡大がなければ不必要な経費であったと認識している。これは、いわゆるスプロール化によって過去に発生した追加的な行政コストと考えられる。 同様な意味での郊外開発による追加的な行政コストが他の市町村で発生したかどうかは、各地方自治体の事情によって異なるものと考えられる。 この点について、全市町村のDID(人口集中地区)以外の地区での人口の変化(1995年と2000年)と行政コスト(普通建設事業費)の相関分析を行ったが、いずれも有意な相関は確認されず、「この期間にDID以外の地区で人口増加傾向が見られる都市ほど、市民一人当たりのインフラ整備コストが高い」という仮説は検証されなかった。ただし、この分析においては、DIDとそれ以外の地区に分けた普通建設事業費の額が得られないという限界があるので、DIDでの普通建設事業費が相対的に大きいことが影響を与えている可能性がある。このようなコストを知り得る個別自治体による試算が行われれば異なる結果となる可能性があること、一般的には今後人口が減少する中での新規の郊外開発は結果的にH市と同様の追加的な行政コスト増に結びつく蓋然性が高まると考えられることに留意する必要がある。 次に、”まちのコンパクトさ“と行政コストの関係を分析する。まず、仮に ”まちのコンパクトさ“は人口密度で表わされると考えて、全市町村(東京都、大阪府、神奈川・千葉・埼玉県を除く)の人口密度と行政コストとの関係を見ると、市町村の人口密度(2000年国勢調査)と人口一人当たりの維持補修費(2002年度地方財政状況調査)の間には、人口10万人以下の人口別階層において、人口密度が高くなると、一人当たりの維持補修費が低くなるとの有意な負の相関が得られた(第12図)。 同様に、DIDの人口密度と人口一人当たりの維持補修費との関係についても、人口10万人以下において、人口密度が高くなると、一人当たりの維持補修費が低くなるとの有意な負の相関が得られた(第13図)。 ただし、地方行政のあり方は、都市の規模や近隣都市との関係、その他の都市の置かれた状況によって大きく異なってくることが考えられること等から、”まちのコンパクトさ“については、地方自治体全域の人口密度というよりは、むしろ、DIDへの集積度(DIDの相対的な小ささ、DIDの人口密度の高さ等)をはじめとする、都市の内部構造に着目すべきであるとの指摘がなされている。 この点に関して、人口30万人規模のJ市について、同市役所内で公募された職員による研究会が行った調査によれば、同市では過去30年間でDID面積が約2倍に拡大し、人口密度が約7割に低下したため、既存都市施設の有効活用を考慮し、住民負担を抑制しつつ、都市施設の維持に係るサービス水準を維持しようとすれば、市街地の拡散による人口密度の低下は避けるべきであり、都市の核となる地区への人口回帰を図り、生活の諸機能や都市機能が集合した「コンパクトなまちづくり」を目指すことが重要としている。この分析の中では、道路、街区公園、下水道等の都市施設について実際の整備状況を調査し、人口密度と住民一人当たりのこれら施設に係る行政コスト(維持更新費用)との間に、加速的な負の相関関係があることを示している。そして、この関係から求められる住民一人当たりの受益と、市の事業費から試算した住民一人当たりの負担額が一致するのはある人口密度の場合であることから、市街地の拡散による人口密度の低下は避けるべきであるとしている。 この考え方と試算結果に基づき、今後人口が減少する市町村を対象に、今後の人口減少の下での都市内部のコンパクトさと行政コストの関係について推計した(第14図)。 まず、J市以外の4都市(人口50万人〜3万人規模)に協力を得て、J市において行われたのと同様の方法で、面積あたりの都市施設の維持更新費用と人口密度との関係をみると、J市と同様に人口密度が高くなると人口1人あたりの維持更新費用は低下する傾向が認められた。なお、各都市における費用構造の違いに留意する必要がある。 次に、2000年から2020年までに人口が減少する全国の市町村において、今後の2020年までに予想される人口減少により都市内部の都市施設に係る一人当たり行政コスト(維持更新費用)にどの程度の違いが生じるかを試算した。その結果、DIDの相対的な大きさに変化がないまま都市内部で一様に人口減少が進むと仮定した場合には、人口20万人以上(1都3県、大阪府以外の2020年までに人口が減少する市町村。以下同じ)の市町村では、DIDで平均1、590円/人、DID以外で平均38,810円/人、都市合計で7,770円/人、人口10〜20万人以上の市町村では、DIDで平均3、600円/人、DID以外で平均55、450円/人、都市合計で22,310円/人、人口10万人未満の市町村では、DIDで平均3,970円/人、DID以外で平均128,730円/人、都市合計で70,950円/人と、それぞれ一人当たり行政コストが上昇するとの結果を得た。これを放置すると、ア.DIDにおける既存インフラの利用率低下等により行政投資効率が低下すること、イ.DIDと郊外における行政投資による受益と負担の乖離が大きくなること、ウ.都市施設の維持に係るサービス水準を維持しようとすれば住民一人当たりの負担が増大する可能性があることから、今後人口が減少する地方自治体においては、何らかの対応を取ることになる可能性があると考えられる。 対応の方策は、様々なものが考えられるが、仮にJ市における検討で示されたような、ア.市街地の拡散と人口密度の低下を避け、イ.既存投資の有効活用を図る、ウ.住民一人当たりの負担増やDIDと郊外での負担と受益の乖離をできるだけ避ける、ことを重視する対応を取るとすれば、具体的には、ア.郊外開発を抑制しDIDへの人口の回帰を誘導する、イ.行政投資はDID向けを重視し郊外向けは最小限に抑える、との都市運営が想定される。 そのような運営を現在から2020年までに全市町村が行った場合の行政コスト等を試算すると、DIDでの都市施設に係るサービス水準を現在程度に維持し、郊外部での維持更新投資を削減することを前提として、行政コストを全体で約7〜11%削減し、郊外からDIDへ人口を一都市当たり約6〜8%(2020年の1都市当たり人口比)回帰させる場合に、総人口一人当たり及びDID人口一人当たりの行政コストを現状程度に抑制することができるとの試算結果を得た。 これらの試算は、多くの留保条件付きのものであり、今後、多くの地方自治体で検討が深められることが望まれるが、以上の分析により、今後、人口減少が進行する中で、郊外開発を抑制しつつ中心市街地に公共投資をはじめ住宅、福祉、教育、文化、交流、商業・サービス業等の各種都市機能を誘導・集積し、人口の中心部への回帰を目指すコンパクトなまちづくりは、行政コストの面から、多くの自治体にとって望ましい対応の方向となり得ると考えられる。
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