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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 2005年版 中小企業白書の概要

第2章 多様な資金調達手法のあり方

中小企業を取り巻く金融環境と中小企業金融の特性

 金融機関の業態別に中小企業向け貸出残高の推移を見てみると、民間金融機関では国内銀行で中小企業向け貸出残高が大きく減少する中、2003年からは信用金庫、信用組合の減少幅が小さくなっており、一部の金融機関では持ち直しの動きが見られるものの、民間金融機関全体の中小企業向け貸出残高の減少が続いている。その一方で、政府系中小企業金融機関の貸出残高は減少幅が小さい(第16図)
 (社)中小企業研究所「中小企業向け貸出における実態調査」により、中小企業向けの貸出しの審査項目として3年前と比較して重要度が増した項目について見てみると、「物的担保の提供」や「代表者の保証」の割合は低く、他方「計算書類等の信頼性」、「技術力」、「代表者の資質」の割合が高くなっている(第17図)。つまり、金融機関の融資審査においても、保全面だけではなく、企業の計算書類の信頼性への取組、企業の属性や代表者の資質といった定性面も審査項目として、これまで以上に重視するように変化してきており、いわゆるリレーションシップバンキング機能の強化が図られている。
 以上から金融機関にとって①中小企業向け融資が重要である、②その金融機関の中小企業向け融資姿勢に変化の兆しがあるということが分かる。

第16図
中小企業向け貸出残高の推移(業態別)
~堅調に推移している信金・信組及び政府系中小企業金融機関の貸出残高~

第16図 中小企業向け貸出残高の推移(業態別)

第17図
中小企業向け貸出しの審査項目として3年前より特に重視するようになった点
~財務面だけでなく、計算書類等の信頼性や技術力、
代表者の資質といった定性面を重視するようになってきている~

第17図 中小企業向け貸出しの審査項目として3年前より特に重視するようになった点

リレーションシップの構築による円滑な資金調達

 近年リレーションシップバンキングの推進は中小企業金融の多様化・円滑化のためにも重要であると認識されるようになってきた。
 また、同様に政府系中小企業金融機関においても、さらなる中小企業金融の多様化・円滑化を図るため、地域金融機関との連携強化等を図りながら、①創業支援や中小企業の新事業進出・再生支援、②目利きを活かした、担保や保証人に過度に依存しない融資、③地域金融機関に対する情報提供や協調融資等を、さらに推進しようとする取り組みが見られるようになってきている。
 そうした流れの中、金融検査マニュアルについても、リレーションシップバンキングの重要性がさらに反映されるようになっており、2004年2月に改訂された金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕では、貸手による借り手側への働きかけ、つまりリレーションの構築により得た定性情報等を、債務者区分の判断においても十分勘案することとされている。
 その企業の定性情報のうち、中小企業にとって特に重要なものの1つである代表者の資質と金融機関からの借入との関係について検証することとする。
 代表者の資質と一言にいっても、その要素は多い。主なところでは経営意欲、経営知識、経営立案能力、人脈など多数考えられるが、「経営意欲」、「実行力」、「判断力」といった要素が融資審査において重要視されているようである。しかしながら、これらの代表者の資質は貸手側に伝わってこそ資金調達に影響があるものであるが、定性情報という特性上、定量情報のように簡単には伝えることが難しいものである。
 財務諸表のような定量情報については決算書等の資料を使えば金融機関に伝えることはできる。しかしながら、大企業に比べ中小企業では、信頼性の高い客観的な計算書類等を定期的に作成し、金融機関等に提供すること自体が未だに定着しているとは言えない。このような正確な資料作成と提供の慣行を定着させることは、企業自身の実態把握や経営方針の検討等に有益であるのみならず、資金調達環境の改善にも効果があるとも考えられる。金融機関の審査においても、前述のように計算書類の信頼性の重要度が高まっており、このような資料の作成を前提とした融資制度を設けている金融機関が増えていることから中小企業においては積極的な対応が望まれる。
 代表者の資質のような定性情報はどのようにすれば伝わるのだろうか。金融機関が代表者の資質を評価する際にどのような情報から判断しているかというと93・7%とほとんどの金融機関が「日々の代表者との面談」と回答しており、代表者が金融機関の担当者や支店長などと直接に会い、自身の経営意欲や経営知識を示すことが有効であることを表している。しかしながら、すべての中小企業において代表者自らが銀行との折衝を行わなければならないわけではない。中小企業といっても業種や規模など多様であり、個々の企業によって事情は違ってくる。例えば、代表者が営業や経理担当、製造等、すべてを行うことは非常に困難であり、権限委譲や財務・経理担当者の配置が合理的になってくるケースもある。では、代表者が直接金融機関の担当者と接触することが困難な場合はどのようにすればいいのであろうか。(社)中小企業総合研究所「中小企業向け貸出における実態調査」(2005年1月)のアンケートによると「日々の代表者との面談」の次に「経営方針や経営理念」「事業計画書の進捗状況」から代表者の資質を判断していると回答している割合が高いことが分かる。つまり、このことは代表者が直接金融機関の担当者と会わなくとも、企業理念、経営方針をしっかりと折り込んだ事業計画書を作成することが有効であることを示している。
 また、1回のみの借入れだけではなく、リレーションの構築を前提とした継続的な取引をするのであれば、自社の強みなどの企業の良い面のみを伝えるのではなく、自社の弱みなどについても銀行に伝えることも重要なことである。たとえ自社の弱みであっても、それを正しく認識していること自体は金融機関側から見て、むしろプラスに評価できる部分であり、それよりもそのような状態をふまえて自社ではどう対処しようと考えているかが、重要と考えられる(事例5)
 中小企業の存続に特に影響力を及ぼす代表者自身の経営能力を磨くことがまず重要であるが、それを支える経営陣や将来的な後継者を育てることも、企業の業績だけではなく、メインバンクから円滑な借入れを行うために大事であることが分かる。
 代表者以外の中小企業の重要な定性情報として企業の技術力等がある。金融機関側も中小企業の技術力等に対する目利き能力等を強化するため、「専門部署の配置」、「外部研修への参加」、「政府系金融機関との協調融資」等といった様々な取組を行っていることが分かる。また、最近の動きとして、異分野の中小企業等が技術力を含めたそれぞれの強みを出し合うことで、新しい分野を開拓する動きがあることが注目される。これに対応して政府系中小企業金融機関において、2005年度より先進的に「新連携融資制度」が開始予定である。これは、事業の連携体の生み出すキャッシュフローにも着目して融資を行うものであり、今後の利用が期待される。
 以上見てきたことをまとめると、①銀行が中小企業を審査する際の定性情報の重要度が高まってきている。②代表者の資質を銀行に伝え評価してもらうためには、日々の面談も有効であるだけではなく、経営方針などを折り込んだ事業計画書の作成と、その事業計画書の遂行も大事である。③代表者だけではなく、右腕と呼べるような有能な経営陣や後継者の存在も銀行からの借入には正の関係がある。
 財務内容や企業体質というものは簡単に改善できるものではないが、代表者の資質等は、経営者の啓発、日々の金融機関との交渉や事業計画書作成のように、やる気と能力のある代表者の努力次第では比較的容易に改善していけるものである。

事例5 自社の強みも弱みもすべて開示

 A社(高知県、従業員数90名)は1982年設立の電子部品製造業者で主事業は磁気センサーなど主に接触型センサーの設計製造販売を行っている。自社の強みも弱みもすべて開示することにより円滑な借入れを行っている。

【A社の情報開示】
 決算時には税務申告の資料を提出する以外でも試算表は遅滞なく開示、事業計画については求められる前に提出しており、その際はたとえA社の不利になるようなことも隠さず伝えている。銀行からは、その積極的かつ自発的な情報開示が評価され、A社は円滑な資金調達を行っている。
 また、A社は「中小企業の中には資料は銀行から求められてから提出するもの、提出するとしても自社に都合の悪いものは出さないと考えている企業が多いようであるが、銀行から求められる前に提出することもさることながら、自社の不利になるようなことでも、隠さずに開示することが重要である。自社の強みだけではなく弱みもすべて含めて銀行に判断してもらうことが銀行との関係では重要であり、そのことが信頼関係の積み上げや円滑な借入れに繋がるコツである」とも語っている。

【多様な資金調達の一環としてのCLO活用】
 A社は通常の銀行借入れ以外にも、CLOの利用により、2003年に無担保で50百万円の調達を行った企業でもある。

【CLOを使ったきっかけ等】
 A社はCLOについて以前から知っていたのではなく、取引銀行であるB行からの提案を受け始めて知った。これに対してA社は金融技術の発展とともに様々な金融商品が登場してきているが、中小企業だけの力では、それらの情報についてすべて把握することはできない。銀行からの情報提供も重要な銀行の役割であると考えている。
 また、B行からCLOについて十分な説明があったことも使った理由の1つである。「このように銀行から有効な情報提供を受けたのも、それに値する以上に日頃情報開示をしているためである。」とも言っている。
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