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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 2004年版中小企業白書の概要

技術革新を生み出す中小企業

 中小企業の技術的革新という側面に着目し、そこで中小企業がもたらす経済的効果にふれていくこととします。
 経済成長の源泉となるのは、資本、労働力など経済資源の投入増加によるものだけでなく、技術進歩や各種の効率性向上の効果を意味する全要素生産性の増加である。日本においても、第1図でも分かるとおり、全要素生産性が経済成長率へ与える影響は大きい。
 さらに、現在の日本の製造業における全要素生産性成長率を規模別に見ると、平均値においては中小企業のほうが大企業よりも大きいことが分かる。このことから、技術進歩などの面での技術革新において中小企業が活躍していることが想像できる(第2図)。
 製造業の技術革新については、アメリカではその半分が中小企業発であるといった報告が存在するが、日本においては、初期技術の少なからぬ部分が海外からの導入であるといった事情から同種の事例の報告は見られない。そこで、北米などにおいて、売上げランキング上位のタイトルのほとんどは日本企業のものであるなど、海外市場でも革新性を評価され国際競争力ある産業といえる日本の家庭用テレビゲームソフト分野を選び、そのイノベーション数について見ていくと、業界においてエポックメイキングと評価されたタイトル(ゲームソフト)のうち、33%が中小企業のものであると推定されている(第3図)。
 当業界は研究開発集約的な要素が強い市場であり、技術革新の面でのスピードが極めて速い。年間約1000タイトルが発売され、1983年に出来た市場は2002年現在で4747億円まで拡大している。このような市場においても技術革新の面で中小企業が革新を促す役割を担っていることが分かる。

第1図
日本における実質経済成長率への全要素生産性の寄与度
~技術進歩は経済発展の原動力となる~


第1図 日本における実質経済成長率への全要素生産性の寄与度

第2図
中小企業と大企業の全要素生産性成長率の比較
~イノベーティブな活動では中小企業も活躍~
第2図 中小企業と大企業の全要素生産性成長率の比較
第3図
革新的と判断されたタイトルの規模別内訳
(2003年に発売されたタイトル)
第3図 革新的と判断されたタイトルの規模別内訳(2003年に発売されたタイトル)

1.新製品開発・改良活動を積極的に行う企業の特徴と成功要因


(1)中小企業の技術革新の特徴

 中小企業は大企業に比べて、多くの技術革新を生みだす存在といえる。では、中小企業の技術革新はどのような特性を持ち、どのように生みだされるのであろうか。このことを見る前に、企業の規模別に見るとどのように企業が技術革新を行うのか、その取組内容を見てみる。すると、第4図より、新製品・サービスなどの開発や改良活動の具体的内容によっては、規模が大きいほど取組割合が高いことが分かる。

第4図
規模別の新製品開発・改良活動の状況
~規模が大きいほど取組割合は高くなる~
第4図 規模別の新製品開発・改良活動の状況

(2)中小企業の技術革新の方向性と情報の用い方

 このように技術革新につながる製品開発・改良活動のなかで、中小企業はどのようなことを重視し、成功に結びつけているのであろうか。
 新製品・改良活動の方向の決定においては需要者側の情報、過去の売れ筋情報、社会的な嗜好の流れ等様々な情報が統合される。中小企業はそれらの情報をどのように用いて、製品開発に活かすのか、また、情報をどのように組み込むことが新製品・改良活動の成否につながるのか、この点について次に見てみよう。
 製品開発等の具体的成果を正確に測定するのは困難が伴うが、ここでは製品開発・改良後の成果に対する自社自身による評価と売上高成長率を指標とし、それを達成する企業がどういった情報を重視しているのかについて見ていく。
 なお、情報の用い方はどのような市場に企業が対峙しているかによって異なると考えられることから、生産する財が事業所向けか個人向けか(事業所向けの場合は生産財か最終消費財か)に分類して分析を行う。
 分析を行う前に企業が需要者側の情報、過去の売れ筋情報、社会的な嗜好の流れ等様々な情報をどのように製品開発・改良活動に利用しているかを見ていこう。第5図は新しい製品やサービスの開発や改良のコンセプトにどのような情報をどの程度採り入れるかを得点として聞いた結果である。
 第6図では、製品開発前の段階での見込み客の確保の状況と製品開発の成果の関係をみているが、このように顧客を事前に確保することが、製品開発での成果をあげるためには重要なことである。つまり、作れるものを売るのではなく、顧客(消費者)との関係のなかで顧客が必要となるものを作る必要があるということであり、また、ニーズ特定が困難な場合においても、どのような顧客に対して商品・サービスを提供していくのか、具体性を持って検討する必要があるということであろう。
 その点、中小企業はフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを大切にし、小回り性、意思決定の早さが売りと考えられ、こうした顧客との関係の強さが中小企業の技術革新を生みだす源泉であるといえよう。
 なお、前述第4図にある新製品・サービスなどの開発や改良活動の具体的内容について、売上高成長率にプラスの相関があったのは、事業所・企業向け(最終消費財)において「生産工程の改良」が、一般消費者向けにおいて「デザインの改良」であり、取組方法としてはこのような視点も有効であると考えられる。
 また、「中小企業連携活動実態調査」(2002年11月)によれば、新製品開発や改良などを行うときに、他の企業と連携を行いながら実施する割合は全体の約4割であり、第7図よりその連携先を見ると、以前多かった「同業他社」から「異業種企業」との連携へと変化しており、特徴ある中小企業同士の様々な連携により製品・サービスの高付加価値化を実現する中小企業群が存在することが分かる。

第5図
新しい製品・サービスの開発・改良コンセプト
~規模が大きいほど各コンセプトの取込程度が高くなる~
第5図 新しい製品・サービスの開発・改良コンセプト

第6図
販売先の事前確保と新製品開発・改良の成果
~事前に販路確保をしている中小企業は開発成果が高くなる~

第6図 販売先の事前確保と新製品開発・改良の成果

第7図
ネットワークを活用して開発に取り組む
中小企業の連携先(1984年と2002年の対比)

~中小企業のネットワークのあり方は異業種型に変化~
第7図 ネットワークを活用して開発に取り組む中小企業の連携先(1984年と2002年の対比)

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