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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

新春特集座談会 企業サバイバル時代を生き抜くために
~「元気印企業」にみる中小企業の生き残りの秘訣~

座談会

雇用の多様化における中小企業の人材活用

●大矢 労務コストの圧縮という経営命題がある中で、パート、派遣、構内下請けなど、雇用の多様化が進んでいます。派遣法改正によって、派遣労働が製造業に門戸が開放され、営業職派遣も1年から3年に延長されるなど、緩和の動きもあります。
 それぞれ業態が異なりますし、取り組みや考え方も違う面もあるかと思いますが、人材と雇用の多様化の中で実際に取り組んでおられる実例をうかがいたいと思います。また、人材は企業の成長にとって欠くことのできないキーワードだと思います。必要とされる人材像についてもうかがえればと思います。

国内でのモノづくりには、どんな「機能」を提供できるかが重要

●花村 当社は、モノづくりは国内で、にこだわったのと、業務の特質もあって海外に進出する考えは持ちませんでした。そのため、毎日が親会社の海外工場との競争です。国内に仕事を残すためには何をすればよいかを必死に考えました。とりわけここ数年は、状況がめまぐるしく変わるため、一時たりとも気を抜けないなかで、当社に、どのような能力をつけさせるのか、どういう仕事をさせるのかという考え方をしています。これを「ポジショニング」と名付けているんですが。
 この間まで、コアコンピタンスを磨いて、しっかり頑張れば大丈夫と言われていましたが、今はもうそれだけではだめだと思います。技術力に優れ、他社と差別化できる中核技術を高めていけば国内でも生き残れるというのは、極論すればきのうまでの話。いったんサンプルを出荷すれば、程なくして、同じモノがとんでもなく安い価格で出てきます。国内でモノづくりをするためには、製品にかかるあらゆる要求を満たしたうえで、どのような「機能」を付加できるかが重要になると考えています。
 その一つが「マザーファクトリー機能」。当社の取引先は製造部門を国内にお持ちでないので(加工組立部門で)、海外支援・開発支援の母体になればと思います。つぎに、自分で勝手に名付けているのですが「テクニカルネットワーク機能」。多様な製造技術やノウハウ、そして現場ならではの情報を提供する機能です。
 そして、「ソリューション機能」。コンビニエンス機能のようなもので、24時間稼働し、要請があったら消防車のように対応します。しかも質量兼ね備えた対応力とスピードが求められます。このような機能を果たしていくために求められるのは、変化に対応できてかつある程度高いレベルの労働力、それを活用する柔軟な組織とノウハウです。
 多くの中小企業では、若年のしかも現場の労働力が不足しています。人材派遣、研修生といった、いろいろな制度やルートを利用しながら、固定費化しないで、しかもある程度熟練した労働力の確保もこれからの課題だと思います。
●大矢 ありがとうございました。一方では、小川社長さんの東洋精機では熟練を必要とする部分が多くどちらかというと、パート化になじみにくいのではないかと思いますが。

外注、派遣社員の活用など、人件費の変動費化を図る

●小川 採用にあたっては必ず、その人材が入社後、ちゃんと会社の役に立つかどうかをいかに見分けるかを考えます。ところが実際は、思いがけない人が良かったり、一様ではありません。出身校がどこでもできる人はできるし、大学を出てきたからといって必ずしもできるとは限らない。これで本当に工学部を出てきたのか、と思うような者もいます(笑)。
 コスト要求の厳しさから、台湾で作ったらどうかと現地の企業に作らせたこともあります。最初、半年ほどかけて教えに行きましたが、なかなかうまくいかない。最後はやめましたが、当社のような量産ではない会社が外で作らせるのはだめだなと痛感しました。
 もっとも今、上海などの工場に行くと、熟練が必要な「きさげ」という作業を現地の女の子がやっています。それを見て少しビックリし、このままの考えではだめかと思い直しています。
 では、国内ではどうやってコストを下げるか、好不況の波を消すかと考えると、やはり外注を多くしていくことかなと思います。配線、配管といった専門分野の人たちを、人件費が多少高くても連れてきてやった方がいい。変動費化ということですが。
 一方、量産部門では派遣社員が多く、ブラジルなどの労働者も使わざるを得ない状況です。契約社員も使っています。これから徐々に、そういうかたちになっていくと思います。
●小林 信栄工作のアセンブリ工程では生産性を上げるために、またいつでも縮少することができるように、派遣社員と外国人労働者(日系ブラジル人など)を使っています。人件費の高い正社員はマネジメントだけをやらせています。
 一方、シンエイ・ハイテックでは、開発という仕事は現場を知らなければ良いものができないので、まず現場を経験させます。基本的には男性社員ですが、開発部門によって男性技術者と女性技術者を分けています。
 現場では、技能と技術を分けて考えます。技能については高齢者のスキルを大切にしています。もっとも、その人がいなくなると技能が生かされなくなるので、マニュアルにできるものできないものがありますが、マニュアル化をめざしています。システムの人間をつかって、三次元CADを使ってシミュレーションデータをもとにマニュアル化に取り組んでいます。

昔の人の一生懸命さと、日本人としての誇りを持って。

 1、2カ月に一度は仕事の関係で東南アジアに行きますが、働く若者たちを見ると、昔の私の親の頃の一生懸命さを肌で感じ、怖いほどです。日本の若者はそんな教育環境にはないので、当社では社員教育は精神教育に力を入れています。
 例えば、自分の息子は工学部の機械工学科を出たんだから、設計部門に配属してくれと、親が言ってくるケースがあります。
 当社では6年ほど前から、学歴ではなく学力だということで、ある試験をしています。ところが長方形の面積を出す計算はできるが、台形になるとできない(笑)。いやこれは本当の話です。いくらCADなどの機械を使っても、角度が寸法に置き換えられなければだめなんですが、これすら分からない。当社では、お母さんやお父さんに必ずお便りを差し上げるんですが、それでもだめで、会社が悪いということになるんですね(笑)。
 私はまず、その社員の一生懸命さと挨拶ができることを基本に、三角関数はできなくても挨拶ができるという社員教育を優先します。そこで開発技術に行くのか、マネジメントでゼネラリストをめざすのか、現場に入って専門職をめざすのかを選択させます。中途採用社員も新卒社員も入社1年後にその試験を行い、それで区分けしています。
 あとは、お客様と話ができること。我々の技術や営業の情報は、お客様のちょっとしたささやきの中にあるんですね。それをつかみ取れない、つまり人と会話ができない社員はいらない、ということです。
 学力だって中学卒業程度があれば十分、我々の仕事はできるんです。実際、大手電機メーカー、パソコンメーカー、海外のメーカーとも話ができるんです。英会話だって、中学卒業程度の英語で十分なんですよ。
 だから私は、難しいことはいらないから最後は一生懸命さでいこう、挨拶ができるようにしようと言っているんです。経営者も勉強するから、みんなも勉強してくれということで。
 また、ライオンは我が子を谷に突き落とすといいますが、当社でも入社2年目から外歩きをさせます。クレームが出たら実践教育ということで、品質保証の社員も先輩社員についていかせます。これは意外に効果が上がっていると思います。
 社員にはとにかく、昔の人が持っていた一生懸命さと日本人としての誇りと、長野から発信していくんだという気持ちを持つことの大切さを教育しています。
●大矢 夏目さんの会社では「提案営業」を推進していらっしゃいますが、お客様と直接接する仕事だけに、御社が求める人材について、若い人の現実も含めてお話しいただければと思います。

欲しいのは、信じたら愚直にやる人。

●夏目 今の小林さんのお話、私も同調する部分がたくさんあります。私も学歴や学力ではないと思っており、当社の採用にあたっては成績オンリーではありません。我が社の身の丈にあった社員で良いと考えています。
 以前も、一流大学を出て、成績も優秀な学生が応募してきたことがありましたが、私は我が社にはあわないと採用はしませんでした。入社しても、そこまで我が社のレベルが到達していないので、社内の和が乱れるからやめた方がいいと思ったんです。成績などはそこそこで良いが、人柄が良く、向上心を持っていることが大事。来年の採用試験においてもそういう方向になりました。
 中国で日本語ができるマネジャー級の社員を採用するというので、面接に行きました。当社の若い優秀な役員と、現地でお願いをした優秀な39歳の総経理にも同席してもらいました。向こうははっきりしていますから、自分の能力はこうだから、いくら給料をくれとはっきり言います。だから同じ年代で数倍の開きがあるのですが。
 そこで、当社の役員が「これは使える」と言ったのは、英語も日本語もできるし、トレーディングの実務経験もあるという人。一方、私が注目したのは、工場をつくる場所の出身で、子供が生まれそうだというので一生懸命な人。日本語もそこそこで、性格や考え方が日本人的なんですね。私はこの人と思ったのですが、中国人の総経理も「その男がいい」と。向上心を持ち、つねに努力をしていこうという人間でなければ立ち上げは難しいと言うのです。結局、この人を採用しました。
 上海ではいろいろな人がいて、きわめて中国人的な日本人もたくさんいます。私たちが採用したその中国人は、約束の30分前に来て準備しているなど、きわめて日本人的で、向こうの人にもそんな評価がありましたね。そういうタイプの人が採用できました。
 日本も外国も一緒で、一生懸命やる、愚直にやるという人がだんだん少なくなってきたように思います。
 最大手の大企業などでは勉強もできるし、格好もいい人を採用するのでしょう。でも、そういう人は頭が良すぎて、結果が出ないうちに自分で結果を出しちゃうんですね(笑)。私共の仕事はそれでは困るんで、無理と思われるようなところをかいくぐって売り込み、企画を提案していかなければいけないし、問題点を排除するまでとことんやらないと困るんです。欲しいのは信じたら愚直にやる人ですね。
 さっき小林さんもおっしゃってましたが、実は、これは特に長野県が問題だという話があります。他県から長野県に進出してきた企業が、長野県人は使い物にならんと(笑)、競争心や向上心がないと言うんですね。競争するくらいならやらない方がいいとか、そこまでやらずに給料が上がらないならそれでいいとか。これは弱った人たちですよ、と(笑)。
 これは長野県独特の教育制度の問題じゃないか、と言う人までいます。他県で成功したニュービジネスが長野県ではうまくいかないというんですね。新しいビジネスは最初、死にもの狂いで働かなければいけないが、それについてこれないというんです。その点では私も、今の若い人たちの間で大問題が起きているのではないかという気がします。いずれにしても、なるべく良い人材を採用しなければと思っている次第です。

中小企業ならではの、独自の評価制度を創出。

●大矢 大変興味深いお話、どうもありがとうございました。
 さて大手企業では昨今、成果主義や能力主義の賃金制度が導入されていますが、それについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。モチベーションをいかに高めるかということも含めて、お聞かせいただければと思います。
●小林 当社がマレーシアに工場をつくった時、ある民間金融機関に「あんな所に出すならカネは貸さない」と言われました。ところが、ある政府系金融機関は貸してくれました。その後、民間の銀行の方が「あの件どうなりましたか」というので、こういうところから借りたというと、今度は「なんでうちから借りないんだ」と叱られたり。なんだか訳が分からない(笑)。何で貸さないかというと、みんな中国に行っているのに、マレーシアに出すこと自体おかしいと言うんですね。
 中国も大事な市場です。しかし我々のような企業規模での中国進出の可否の分析が大切であり、決して流行を追ってはいけない。中国はもう日本の大手電機メーカーが欲しいのではなく、その下の部品メーカーだけがいればいいんだそうですね。自分たちで製品ができるところまで来てしまっているんだと。そこが韓国、台湾、ベトナムなどとは違うところだそうです。
 事なかれ主義の発想ではだめで、一本芯を入れようというのが当社の考え方。お客様も、携帯電話メーカーだけでなく、ビデオ、電機など総合的に客先をたくさんつくろうと。それが安全だ、というのがひとつです。
 もうひとつは、我々の評価についても、バブルがはじける前は製造業は若い人にとって3K、4Kだという話がありました。ところが、それはあくまで誰かが決めつけた定義づけ。今は答えがない時代だから、どの経営者が正しいのか少し時間が経過しないと分かりません。
 そうであるならば(それがいいかどうかは分かりませんが)、私は若い人たちには体育会的な取り組み方をしています。それについて来れない人もいますが、ちょっと誉めて手をさしのべてやれば、喜んでついてきます。だからかどうか、うちの社員はよく仕事をしてくれます。夜遅くなって、親御さんが電話で「うちの息子をすぐ帰せ」といってくる場合もありますが(笑)、そうじゃない親御さんもいっぱいいるんです。先日も、ある上司が怒ったら若い社員が途中で帰ってしまった。ところが翌朝、親に怒られてちゃんと来たということがありました。
 良いところがあったらかたちに換えてあげる、うまくいったらみんなの前で表彰してあげるなど、評価についても気を遣っています。今まで誉められたことがない人もいるし、一生懸命さと元気の良さで評価される人もいるので、細部まで渡った報奨金制度にしました。
 社員全員をまんべんなく評価する。職場で事業目標を立て、それが達成できなくても、個人が評価されれば給料を上げる。3カ月に一度全員の前で表彰するんですが、そこで一番多く表彰された人が、みんなとは違う駐車場が使える。若い人たちが「今度、あそこに誰がとめるのか」と関心とあこがれを持つような制度も検討しています。
 このように大手の評価制度とは違った、中小企業ならではのものがあると思います。これは中国やマレーシアでは一切通用しませんが、当社では7割ほどはうまくいっています。これは良い意味で成果主義かなと思います。
 何かあった時、私は社員に直接怒りますし、管理職にも社員を怒れない人は降格します。私は「まず、怒れ。お客様にも思い切ってぶつかれ。1対1で勝負しろ」と言っているのですが。みんなにイイ子になるのはどうかなと思っています。このやり方は5年後はどうか分かりませんが、今はうまくいっています。
●夏目 今、雇用システムや評価制度がいろいろと変わり、それがあたかも最先端のようになっていますが、各社とも混乱が生じているのではないかと感じています。
 今までの日本は、役人がサポートしてきた「官製社会主義」。役人が経済社会を社会主義システムのようにしてしまったんですね。ところが今の経済環境の中で、今度はいきなり資本主義に行けということになった。
 それならば労働政策も含めて、今まで役人が作ったシステムをすべて外さないといけないのに、過去の社会主義システムに残っていた労働政策や雇用などの制限を残したままです。だから派遣社員でこなそうとか、付け焼き刃の方法になってしまう。これはとんでもない話です。役人が今までのシステムを反省したら、取っ払うものはすべて取っ払ってもらい、自由主義経済の一員と同じシステムの中でスクラッチで競争できるようにしてもらわないと。経営者にはそれを強いているのに、環境はそうじゃないんですね。
 中国は共産党という大資本家が資本を出している社会。企業の社員は、同じ年で同じ入社でも、能力によってみんな給料が違う。これは露骨に違います。当社の中国の会社では、中国人のトップと一番安い人とは50倍違います。これはみんな働きますよ。日本では社長と社員でこんなに違いませんよね。このようにいろいろな足かせがある中で、世界で戦えといわれても戦えない。雇用に関しても同じだと思います。

中小企業は強い仲間意識がないと力が発揮できない。

●花村 それに関連してですが、これからの企業経営には、従業員満足度がとても大切になると思います。当社では、目標値を定めて、4半期ごとに達成度のチェックをしています。しかし、達成率は評価に使いません。受注生産であるのと、生産変動の振幅が非常に大きいため、本人の努力ではどうしようもない部分と、頑張った部分との境目がわかりにくい。それならば、お互いのチェックをちゃんとしながら、年間の業績は全社員が等しく頑張った成果だという考え方です。大企業のリストラと対角線にある、終身雇用は本当に悪なのでしょうか。今どきの雇用に対する考え方からしてみると、ずいぶんあべこべに動いている会社ですね(笑)。
 取引先から「ちくま精機は良い技術者を揃えている」といわれました。誰のことかとそっと聞いてみたら、数年前に高校の進路指導の先生に頼まれて採用した社員でした。予想した社員と違っていました。只、愚直なほど一途なんです。忠実に作業をこなします。自分はそれほど能力があると思っていないので、基本に忠実に一生懸命やる。取引先の優秀な技術者は、切れ味も鋭いし、こうすればああなると、論理的に考える力はとても優れています。しかし、それを実証評価するすなわち手を汚してつくって確かめることは苦手なんですね。足りないところを補い合って成果につなげる。うれしかったですね。
 どちらの話も、チームワークというか相互に信頼し合う仲間意識が前提です。隣のライバルをいつ出し抜いてやろうか、というのはなじまない。一般的にいわれている成果主義については、企業風土にもよりますが、私は否定的な立場です。
●大矢 中小企業の良さというものにも通じてくるお話だったと思います。効率を追求しながらも、それだけではだめだということですね。
●小川 大企業では「成果主義導入」と活字は踊るんですが、実際は同じ学年の社員では5%しか違わないんですね。それが10%になったら成果配分に変えた、と発表している。
 実際は中小企業の方が、正式な賃金体系とはまた別に「お手盛り」といえば語弊がありますが、実質的に成果を盛り込めるという利点があるような気がする。最近、私は中央会で勉強させていただいている「力量マップ」を作ったりしていますが、現実には、中小企業の分際で先行して導入してもうまくいかないと思う。うちだけでやっても大きなギャップが出てしまうんです。

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積極的に進められる企業間の連携とネットワーク化

企業間の連携、提携に見いだす中小企業の活路。

●大矢 中央会では協同組合、企業組合など、中小企業の組織化に取り組んできました。その中で近年、ゆるやかな連携、産学官のネットワーク化など、産学官や異業種間の連携を積極的に進める方針が示されています。連携、ネットワークの活用、中央会への期待等々について、お考えやお気づきの点がありましたらご発言いただければと思います。
 特に、夏目さんは卸団地組合の理事長、花村さんも明科の工業団地の理事長として、中央会でもいろいろとお世話になっています。また小川さんは、御社の会長が諏訪の給食センターの理事長、小林さんもグループ会社の三鷹工芸で組織化に関連されています。そのへんも含めまして、お話しいただければと思います。
●花村 私共の明科工場団地協同組合は、異業種7社の小さな組合です。設立18年になろうとしていますが、当初から共同受注は大きな課題でした。
 共同購買や福利厚生事業はすぐ軌道に乗りましたが、共同受注・共同開発は、最終的に、リスクの負担をどうするかというところが超えられなくて、組合員間の受発注に止まっています。いまは各社各様に海外を指向しながら、企業それぞれが取引先と、あるいは共同で、「ゆるやかなネットワーク」で経営課題に取り組んでいる。モノづくりを定型的に切り分けることが難しくなった、というふうに捉えるんですが。
 商工部の提唱する※「3×3」モデルは、私共の組合にはヒントにはなるが具体的にとなると難しい。意欲のある組合員は産学官連携をどんどん進めている。
●大矢 企業間の連携、提携はこれからも進むとお感じですか。
●花村 足りないところを補い合うという関係で。できれば1+1を3にしていきたいですね。

協同組合づくりによって、海外進出のリスクを低減

●夏目 流通業界は、今のままで生き残れる企業は少ないと思います。ここ数年でかなり加速度的に変わるだろうと。先ほどお話ししたように、国が資本主義の理論でいくと当然、寡占化、弱肉強食という方向に行くわけで。流通卸業は個々の特色は少ないので、縮小するか、合併・統合を模索しなければならない段階にすでに入っていると思います。
 ただ、いきなり合併・統合は難しいので、その時に協同組合等を足がかりとした展開をするのは必要だと思います。同業間はもとより、お客さんの層が同じなら異業種でも提携できる。むしろそこで効率を見いだそうとすれば、私は同業、異業種の協同組合を経た上での企業統合や提携、合併はかなり現実味を帯びてくると思います。中央会はそういう動きに対して、いろいろなメニューを用意してあげたり、メリット・デメリットを指導していく必要性があるのではないかと思います。
 ただ、卸売業がこれをやるにあたっての弊害というか、行き詰まる問題点は家業が多いこと。企業になっていないところが多いのです。企業として経営の透明性を高めておかないと次のステップにいけないので、家業ではどこかで必ず暗礁に乗り上げる。中央会にも音頭を取っていただいて、卸売業の企業化を進めていく必要があります。その指導が一番大事だと思います。
 当社が海外に進出したのは、異業種の力を相当お借りできたおかげです。ローカルから弱小企業が出て行くのに、中国政府相手に土地を借りたり、手続きするのを自力でしていたのではリスクが大きすぎる。リスクだけを背負い込まされる可能性がかなり高いんですね。
 だから、現地に出て成功している日系企業のかなり大きなスペースに間借りをして、そこに工場を展開しようと考えたのです。さらにずうずうしいことに、優秀な総経理を置かないとコントロールできないので社長も貸せ、単純作業だから社員も貸せと(笑)。目的はきちんとした製品をきちんと日本に運び込むということで、私が社長をやることではないんですから。そうすることによって、極めてローリスクで会社が立ち上がりました。しかもコントロールは熟知した人間がやっているので、その点もうまくいっています。
 これからローカルから出て行こうというには、一社じゃとても危ない。これから出て行く皆さんにアドバイスをするならば、同じエリアの方々で海外進出の協同組合をつくり、向こうでのパートナーを見つけて、共同で優秀な総経理を雇うことです。各社でそれぞれ雇うのは人事管理が難しいと考えるならば、そういうこともできるのではないかと私共の経験から思います。
 こういうことも中央会でもっとご研究いただければ、よりメニューが広がるのではないでしょうか。
●大矢 合併や統合の足がかりとして協同組合を考えるというのは、組合自体が目的化している中で、今までなかった新しい考え方だと思います。そうしますと、当会も仕事も増えるし、やることも増えてよろしいということになると思います(笑)。

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新年に寄せて、中小企業の経営課題と抱負

ポジショニングを見極め、進路を早く決めることが大事。

●大矢 少子高齢化による人口構造の大きな変化、経済のグローバル化、また長野県にとっては産業の空洞化という現実にも直面し、それに変わる新しい産業の創出についても問題提起されています。
 大きく時代環境が変化し、先が読みにくい経済状況にありますが、その中での経営課題は何か。それをふまえ、いかに企業経営に取り組んでいこうとお考えになっていらっしゃるのでしょうか。新年の抱負もまじえて、お話しいただければと思います。
●夏目 卸売業は今後数年で自分のポジショニング、つまり今どういう状況にあるのか、強みと弱みは何か、業界の中ではどうかというのを冷静に見極め、自分の進路を早く決めることが大事だと思います。
 何も拡大ばかりが道ではありません。流通業はかなり小規模でも生き残れる産業でもあるからです。むしろ効率化を追い求めていくと二極分化になるので、まず自らのポジショニングを見極め、どちらに自分の位置をもっていくかを決めることが大事です。しかも、時代の速度は速まっているので、できる限り早く。
 不景気だから大変だからといって、外部と接触しない、人と付き合わない、本業にさえいれば良いというのではだめです。こういう厳しい時ほど、経営者はいろんな人と接触し、世の中に出て情報や状況を見て、自社のポジショニングを見ることが大事。経営者が元気を出して、人と人とのネットワークを大いに生かしていくことが必要だと思います。
 新年の抱負ということですが、当社はいままで本業以外一切手を出してこなかったので、そろそろ打って出ようと思っています。私には自分なりに温めてきた新しい分野のテーマがいくつかあるのですが、それに気づき、興味を持ち始めた社員が出てきたので。社員にいくらやれやれといっても、やる気がなければ動かない。社員からやろうという気持ちが出てきた時に始めるのがいいかなと思っていたのです。
 外に出て情報をつかみ、自分のポジショニングを見て、本業に対する位置づけをはっきりさせること。そして今、体力のない企業がたくさんあるならば、彼らは追随できないだろうから、多角化のシーズはここでやってしまおうと。打って出るなら、今がチャンスだと考えています。

ニッチ分野での積極的な事業展開と異業種交流。

●小林 私は原点に戻り、物事の原理原則を見極めるという年にしたい。そして、隣の会社あるいは長野県内がどうこうではなく、日本以外の人たちといかに共存していくか、その中でいかに勝ち残っていくかを考えていかないとだめになってしまうなと切実に感じます。
 私共の業界では今、大手が大きな投資をせず、若干消極的な発想になっています。しかし私は量的に増やすのではなく、お客さんがやらないニッチな分野で積極的に事業展開して生き残っていこうと思っています。大手ではできない、またやろうともしないものを我々がやるんだと。
 もうひとつは、異業種交流によるモノづくり。これは私共だけではなく、中央会さんが中心になってやってもらうことが逆にいいのかなと期待しています。
 私は負けない会社を作っていきたい。経営者が自ら率先して旗を振り、旗色をはっきりさせて外に向かっていく年にしなければいけないと思っています。

キーワードは「ジャポニズム」日本人の感性を大切に。

●花村 製造業の需給ギャップはまだ埋まっていません。これからは自動車関連産業が空洞化を含め大きな影響を受けると思われます。これからの日本でのものづくりは「安くて良い」の呪縛から逃れなければ存在できないと思います。それが構造改革の到達点だと考えます。今の事業を、もっと高いレベルに引き揚げるための発想の大転換が必要です。
 ある方が「今トップに求められるのは夢とゆとりと勇気」と書いていましたが、全く同感です。当社も、延命第一でガチガチの安全運転をしていくならば、今まで通りでいけるのかなと思うんです。が、一歩踏み出そうと思います。
当社の開発は、取引先のための開発に絞っていましたが、本業と直接つながらない分野で、独自の開発をどんどん進めたい。「そんなムダ事に金を使うなら、もっとコストダウンしろ」という声が聞こえてきそうですが(笑)。夢と勇気を持って進めたい。
 そのキーワードは「ジャポニズム」。力士のまわしの色にみられるように日本には数え切れないほどたくさんの微妙な色があります。心情を、音や風情までも五七五に凝縮してしまう俳句は、デジタルカメラで撮った風景よりも能弁です。この色彩感覚や日本人ならではの感性が、これから生きてくる。この繊細な感覚が日本のコアコンピタンスです。
 しかし、当社のような経歴の会社は、開発とか商品化・市場調査には全く疎いのが現実です。また、心意気だけでは何ともなりません。異業種との提携や大学の研究室そして試験場のお知恵をいただきながら、本業の更なる高度化と、新規開発に挑戦していきたい。

日本でなければできない難しい開発テーマに挑戦。

司会(大矢)
●司会(大矢)
●小川 先ほど夏目さんが言われたように、経営者が外とのつき合いを怠ってはいけないということは私自身はよく感じていることです。私も中央会のおかげで、いろいろな会社を見学させていただきましたが、そういう刺激がないと、つねに会社の中ばかりにいたのでは何の発想も生まれません。
 当社では昨年、デスクトップファクトリーといわれる分野で異業種交流と似たようなものをやり、諏訪圏メッセにも出展しました。これが成功するかどうかは簡単にはいきませんが、こういう開発も刺激を受ける分野です。
 当社は、中国に出て行くことは今のところ考えていないので、日本でなければできない難しい開発テーマに挑戦していきたいと考えています。
 なかには当社にとって難しすぎるようなテーマもありますが、できるかどうか分からないものにも積極的に取り組んでいかないとだめだと思っています。今さら、他ができることをやってもしょうがないのですから。
 バブル崩壊以降、当社では自然減で、人員は子会社も含めて百人ほども減っています。今後もさらに進めていくつもりです。会社本体をスリムにして、どこでやってもできるものは外注化し、当社にしかできない難しいものをやっていこうと考えています。
●大矢 ありがとうございました。
 長野県中小企業の中でも「元気のいい会社」として積極的な経営をされている皆さまから、たくさんの貴重なご意見、ご提言のほか、中小企業ならではの強み、底力といったものまでうかがうことができ、大変有意義な座談会だったと思います。皆さまお忙しい中、長時間にわたりご協力いただきましてありがとうございました。
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