第2部 円滑な経済構造変化に不可欠な中小企業の挑戦


1  中小企業が抱える経営課題とその対応

短期的、長期的に見て「需要の停滞」が最大の経営課題。
長期的には、「人材の確保・育成」、「資金調達難」も深刻な経営課題。


中小企業の経営上の問題点


(長期的課題)



ある中小企業の悩み~O社(印刷業、従業員11人)
1. 需要の停滞
不況が長期化する中で、90年代以降の業界全体のデジタル化に乗り遅れた同社の業績は改善しない。
2. 過剰な有利子負債
デジタル化に対応しない形での90年代前半の積極的な設備投資は、結局借金の山を残すだけになってしまった。
3. 人材不足・後継者難
デジタル化に対応しようとしても、社内にIT専門家がいない。経営者も高齢になっており、現在コンピュータ会社に勤務する息子は自身のキャリアを活かした新規事業の立ち上げを条件に事業承継を検討中。



1. 需要の停滞
中小企業の売上DIは水面下で推移。
親企業による下請企業の選別、消費構造の変化など、中小企業は顧客との関係において構造的変化に直面 している。


売上額DI


下請中小企業比率の推移


消費構造の変化-選択的消費支出が消費全体を上回り増加


(取組事例)
<商品化の前に顧客ニーズを把握>
業務用焼物器メーカーA社は、大手居酒屋チェーンで設計段階から使用してもらい、1年かけて新商品を開発。
<顧客の生の声を聞いて用途拡大>
災害対策用品メーカーB社は、防災訓練等に参加して顧客の生の声を吸い上げ、商品の用途を拡大。



2. 資金調達
中小企業の多くは、有利子負債の必要返済期間が長期化(約20年、この10年で2倍)。


キャッシュフローでみた有利子責務の必要返済期間


(取組事例)
<キャッシュフロー計算書による無担保借入>
飲食店C社は、キャッシュフロー計算書を金融機関に提出し、資金返済能力が十分あることを示して無担保で増店用資金を調達。
食肉プラント製造業者D社は、事業に関連する損害賠償訴訟中に資金繰りが苦しくなったが、財務関連資料で黒字経営を証明できたため、つなぎ融資確保に成功。
<地道なデータ分析で仕入れ・在庫にかかる負担を削減>
中華料理店E社は、個別データから自社の原価構造を把握した上でメニューを見直し、無駄 な仕入れの圧縮に成功。




○特別信用保証制度の効果

平成10年10月に制度創設。平成13年3月23日までに、のべ約166万件、約28兆円が利用されている。(本制度は3月末の期限到来をもって終了)
多くの企業が「資金繰り改善」等に利用したが約2割の企業は「既存事業拡大投資」「新規事業投資」に活用。

特別信用保証制度により調達した資金の使途



制度が存在しなかった場合、約85%の企業が「事業の縮小」「人員の削減」など経営上の支障を生じていたと回答。

特別信用保証制度が存在しなかった場合、どのような支障が生じていた可能性があったか


○資金調達の円滑化に向けて
1. 一般保証における無担保保証の限度額の引き上げ(5,000万 円→8,000万円)や、大型店の撤退・災害等のためのセーフティーネットに係る対策の充実
2. 中小企業の信用リスクに関する定量的評価を行うための「中小企業信用リスク情報データベース(CRD)」の構築(13年 4月から試行的運用実施)
3. 売掛債権の流動化による資金調達の円滑化



3. 人材の確保

技術職・専門職に対する過不足感DIの推移(全産業・従業者規模別)


(取組事例)
<若手社員を期間限定取締役に抜擢>
浄水場向けろ過砂メーカーF社は、「改善プラン」が採用された若手を期間限定取締役に就任させ、業務改革を推進。
<独自の技能士資格制度を創設>
電子部品関連メーカーG社は、独自の技能士資格制度を創設し、古参から若手への技能伝承を円滑化。



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