中小企業政策審議会組織小委員会
最終とりまとめ

平成11年9月21日

1.これまでの中小企業組織化政策の考え方

中小企業の組織化政策は、これまで主として「中小企業団体の組織に関する法律(団体法)」及び「中小企業等協同組合法(組合法)」に基づく中小企業組合制度を活用して行われてきた。

中小企業組合は、中小企業者が、自らの企業のみでは有さない経営資源を獲得すること、また、他者の有する経営資源と併せてスケールメリットを発揮することなどの経営資源を補完する機能を発揮することにより、中小企業の低生産性、ぜい弱な資金調達力、劣悪な取引条件といった不利を是正し、また、中小企業が経営を合理化するための極めて有効なツールとして機能してきた。

そのため、政府は、これらの中小企業組合を各種支援法の施策対象とするとともに、補助金、税制の軽減措置、融資制度等の支援措置を講ずることにより、組合の設立を推進してきた。

また、経済・産業構造の変化に伴い、「異分野中小企業者の知識の融合による新分野の開拓の促進に関する臨時措置法(中小企業融合化法)」(昭和63年制定)やそれを継承した「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(中小企業創造活動促進法)」(平成7年制定)等にみられるように、近年、役割が増大してきている異業種の連携等による研究開発の推進や創業・新事業創出を図るための組合に対する支援も充実を図ってきたところである。

さらに、平成9年には組合が組合員の新事業分野への進出の支援を図ることができるように団体法・組合法の改正を行った。

2.中小企業組織化政策を取り巻く環境の変化

(1) 中小企業政策の変化

近年の中小企業組織化政策を取り巻く状況は、経済のグローバル化、産業構造の変化、情報化の進展、価値観・ライフスタイルの変化等、企業間関係の変化を含め、50年前の組合法制定時とは大きく様変わりしている。中小企業政策の理念も、従来の「格差の是正」から「多様で活力ある中小企業の育成・発展」へと転換してきており、中小企業組合制度についても、中小企業を弱者としてとらえ、その不利を補正するという役割から、本来中小企業が有する機動性、柔軟性や、創造性などを生かして、創業や経営革新を図るための組織という役割へと、その意義が移り変わってきている。

(2) 組合設立動向の変化

最近の組合の設立動向を見ると、毎年約900件の組合が新たに設立されているが、従来から多く見られたハード面でのスケールメリットの追求を目的とする組合から、異業種の事業者が連携して新たな事業分野への進出や事業の拡大を図ったり、技術開発、共同受注・販売等ソフト面での共同化を図る組合の比率が上昇してきている。

また、人的交流目的、産学官交流を含めた研究開発目的、又は市場化を目的とした緩やかな連携組織から発展して、情報化、環境リサイクル、福祉介護、物流効率化等に対応するための共同経済事業や事業化に向けた研究開発を行う新たな形態の組合設立が増加している。さらに、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)事業者による組合設立、サラリーマン、主婦や高齢者が自ら働く場を作るための企業組合の設立、地域振興に直結した事業を行う組合設立の動きも見られるようになっている。

これらの新しい動きは、企業性を強く備え、所有と経営が分離した株式会社制度ではなく、構成員が主体性を維持しつつ共同経済事業により経営や事業の効率化を図るという協同組合の特質を活用しようとするものと考えられる。

(3) 緩やかな連携の増加

さらに、変化の早い経済に柔軟かつ機動的に対応するために、これまでの強固な企業間の連携という形態をとるのではなく、個々の企業は自分の得意とする分野に特化し、技術や情報などの不足する経営資源を他の企業との緩やかな連携によって補完するケースが増大している。これらの連携は、情報・ノウハウの交換、研究開発、市場化等を目的とする異業種交流グループや企業間ネットワークなど、その連携形態は多様であり、柔軟な構成員相互間の緩やかな連携自体が望まれる場合や共同事業や事業化のために組合や会社等へ組織化を図っていく場合など、そのニーズも多様である。

(4) 連携組織に対する新たなニーズ

このような新しい連携・組織化の動きとともに、異業種の融合化による研究開発の成果を事業化する例に見られるように、組合事業が発展していくうちに、相互扶助原則に馴染まなくなるため、新たな事業展開が制限されるという問題が生じており、固定的・永続的な組合を前提としている法制度を改め、組合や企業の「成長」に柔軟に対応しうるよう組織形態の変更を可能とすることが求められている。

また、国際的にも産業再編の動きが加速し、我が国においても経済の構造転換期において産業活力の再生が求められる今日、経済の供給面での体質強化を図る上で、合併、分社化、分割等組織再編や経営革新による事業再構築が喫緊の課題となっている。

中小企業の分野においても、組合制度や会社制度のそれぞれの特性を踏まえ、「創業」「経営革新」「成長」を視野に入れた柔軟な組織形態の変更を認めることが求められている。

3.新たな中小企業の連携組織支援の在り方

(1)経営資源の相互補完を図る組織の充実

①中小企業組合制度の新たな役割:「創業」「経営革新」「成長」に重点

中小企業組合制度を、本来中小企業が有する機動性、柔軟性や、創造性などを生かして、自立化を目指す同質・異質な企業が「経営資源の相互補完を図るための組織」と位置づけるとともに、企業や組合の柔軟な活動を可能とするべく、「経営革新」や「成長」の視点をより一層重視していく必要がある。

また、施策の対象を、経営資源の補完を図る緩やかな連携へと、より一層拡大していくこと等により、組合や緩やかな連携が、新たな創業や経営革新に取り組むことを促進し、またその苗床としての性格を発揮するよう措置することが必要である。

②中小企業組合から会社への組織変更

中小企業者が、その連携を通じて、新事業創出、経営革新等を円滑に進めていくためには、事業の発展段階に応じて、多様な連携組織形態(①任意グループ、企業間ネットワーク等の「緩やかな連携」、②事業協同組合、企業組合、協業組合等の組合、③株式会社等)を選択し、柔軟な組織の再編が可能となるような措置を講ずるべきである。

具体的には、例えば、中小企業者が事業協同組合等を活用して研究開発や新商品開発を行う場合に、その事業化に当たって、組合を解散して新たに新会社を設立するのではなく、組合に蓄積された資源を活用できるよう、組合から会社への柔軟な組織変更を認めるなど、その時々で最も適切な組織形態を選択する道を開くべきであり、組合法制において、会社法制との整合性を踏まえた組織変更規定を導入する必要がある。

また、その際には、組織変更が円滑に行われるよう、手続規定の簡素化等に十分に配慮すべきである。

③新たなニーズに対応した組合制度の弾力化

近年、異業種による新事業分野への展開を図る事業や、技術開発、情報ネットワーク化、共同受注・販売などのソフト面での共同経済事業、さらに、環境リサイクル、福祉介護、物流効率化等の事業、地域コミュニティ活動や地域振興に直結した事業などの多種多様な組合事業が生じている。

また、ベンチャー事業を育成するための組合や、サラリーマンの転職者、主婦などが働く場を作るための企業組合の設立も見られる。

このような新しいニーズに対応し、中小企業組合の一層の活用を図るため、制度の周知、普及を始め、予算面や中小企業団体中央会による事業者のニーズに即した柔軟な組織化支援等を通じて、組合を用いた創業支援、事業発展段階に応じた新事業展開、経営革新が円滑に図られるよう、創業概念の明確化、事業転換の円滑化等、現行組合制度の運用の弾力化を積極的に行っていく必要がある。

(2)緩やかな連携等への支援の拡充

①緩やかな連携等に対する支援の考え方

中小企業間の連携は、組合以外の形態でも活発に行われており、例えば、共同出資会社等の独立の主体を設けて事業を実施する場合もあれば、法人格を有する主体ではなく、任意グループや企業間ネットワーク等の「緩やかな連携」を活用するケースもある。従来は、緩やかな連携に対して組合設立指導を行い、組織化していくことが政策の主たる目的であったが、今後は、異なる経営資源を有する事業者のネットワーク化・マッチングに対する支援等を含め、連携組織のニーズと目的により一層応じた支援と、組合や共同出資会社への組織化・再編等の将来の成長をも視野に入れた施策を講ずるべきである。

②共同出資会社に対する支援策

共同出資会社は、それ自体は独立の企業体であるが、資本・出資構成及び事業内容の面から見ると、実質上、複数の中小企業が事業を共同で行うためのものである場合があり、中小企業組織としては、協業組合と類似した存在であるとも考えられる。

そのため、共同出資会社は、昭和38年から中小企業総合事業団の高度化融資の対象に、また、昭和60年から商工中金の組合金融の対象に加えられるなど、広く中小企業組織化支援策が受けられるよう措置されている。

③緩やかな連携に対する支援策

法人格を有さない「緩やかな連携」は、人的交流、研究開発、市場化等の多様な目的のために設立されているが、そのニーズに応じて、従来から、異業種交流や研究開発等の事業を対象とした予算措置が講じられてきた。

本年3月に制定された経営革新支援法においては、経営革新計画が承認された場合には、法人格のないグループであっても、低利融資制度などの各種支援策が受けられるよう措置されたところであるが、これらの緩やかな連携については、今後、支援策の対象として積極的に位置づけ、高度化融資、組合金融を含め、予算や金融面の措置をより一層拡充していく必要がある。

なお、法人格のないグループを対象とする金融支援については、当面、グループの各メンバー企業に融資するか、メンバー企業の連帯保証による代表者への融資が考えられるが、融資に当たっての事業全体の評価や債権管理については、具体的なケースに即して、技術力、市場性、経営者の能力、将来のキャッシュフロー等を勘案して総合的に判断する必要があり、その効果的な審査・債権管理体制の在り方を検討していく必要がある。

(3)商工組合制度の在り方

①カルテル事業の見直し

商工組合の不況カルテル、合理化カルテルを含む独占禁止法適用除外カルテル制度については、平成7年3月に策定された規制緩和推進計画において、市場原理尊重の観点から、原則として廃止するべきであるとの方向性が示された。この考え方を受け、団体法の一部改正が行われ、商工組合のカルテル制度については、一部の規定を残して廃止されたところである。

その後、中小企業政策の重点は、経営革新支援法の制定に見られるように、中小企業の競争力を強化し、自律的成長を促す方向に大きくシフトしてきており、経営環境の変化等により業況が急速に悪化している業種についても、商工組合のカルテル事業のような大企業を含めた業界全体の市場機能を一時的に停止させる施策を講ずるのではなく、当該業界に属する中小企業の経営革新を促進することによって対応するべきであり、商工組合のカルテル事業は廃止することが適当である。

②商工組合の新たな位置づけ

商工組合制度は、地域ごとの業種別団体としての特性を有していることから、情報収集・提供、指導教育、調査研究等の業種全体の改善発展を図る事業とともに、特に近年重要性を増してきている環境・エネルギー問題への対応、リサイクルの推進、化学物質の安全管理、地球温暖化対策などの、個々の事業者が積極的に取り組むことは難しいが、社会的に対応が要請される問題や、中小企業が経営革新に取り組む際の支援など、業種別の組織で一律に対応することが効果的かつ効率的な場合に活用できる組織として新たに位置づけることが適当である。

(4)中小企業団体中央会の在り方

①中央会の新たな役割:緩やかな連携から会社制度まで

緩やかな連携の動きや、組織化に対するニーズの変化を踏まえると、中小企業団体中央会に新たに求められている役割は、「創業」「経営革新」「成長」を視野に入れ、経営資源の相互補完を図るための多様な形態の連携を実地において支援することである。

これまでと同様、今後も中小企業の連携組織に対する支援は、組合の設立が主な手段であるが、中小企業の連携ニーズの多様化を踏まえると、その手段を組合のみに限定する必要はなく、様々な組織形態を選択し、また、組織の成長と環境変化に対応して、組織を柔軟に変更できることが求められている。

そのため、従来は、緩やかな連携について、組合の設立指導を行い、組織化していくことが中央会の主たる目的であったが、今後は、他の支援機関(都道府県における中小企業施策や新事業創出の中核的支援機関等)との連携を図りつつ、人的交流、産学官連携、技術開発等のための緩やかな連携をコーディネートしたり、その相互交流のための支援もより一層充実していく必要がある。

また、緩やかな連携が、事業の共同化、協業化のニーズを有している場合には、それぞれの特性に応じて、事業協同組合、企業組合、協業組合や、共同出資会社の設立を支援するとともに、変化の早い経済環境に機動的に対応できるよう、「成長」の視点を勘案しつつ、会社制度への発展を含めた支援を行うべきである。

すなわち、中央会は、組合制度のみならず多様な連携組織をより一層活用するとともに、組合制度の特質や会社制度の特質を踏まえ、組合から会社への柔軟な組織変更など、事業の発展段階に応じた組織の再編の支援も行いうるような支援機関として位置づけられるべきである。

②中央会の支援体制の見直し

中央会の支援体制については、組合制度のみならず、会社制度や緩やかな連携を含めた組織形態の知識など、高度な専門性を持った人材の育成が必要であり、そのために研修内容の見直し等を行うべきである。

また、中央会の指導員は、連携組織への支援・指導について専門性を発揮するべきであり、例えば、技術・特許、情報化、金融・税制、マーケティング等については、外部の専門家やアドバイザーと連携することにより、他の支援機関等も含めた相互補完的ネットワーク化を図り、総合的な支援体制を構築することが重要である。そのため、人事交流の促進、指導員の評価システムの導入、外部からの人材登用も進めていくことが必要である。

③他の支援機関との連携強化と役割分担

ア.支援機関の統合・ネットワーク化の必要性

中小企業政策の実施体制の見直しが求められている中で、特に、ソフトな経営資源の充実強化等を図るための施策の実施機関については、地方自治体の各種支援機関、中小企業総合事業団、商工会・商工会議所等が縦割りに組織されており、多岐にわたる施策が必ずしも中小企業者にとって分かりやすいものになっていない面があるとの指摘がある。

各地方自治体レベルにおいては、新事業創出促進法(平成10年制定)により、中核的支援機関を中心に既存の支援機関を統合・ネットワーク化し、ワンストップサービスを可能とするための新事業創出の地域プラットフォームの整備を図るとともに、中小企業施策についても、施策の大括り化、手続き簡素化、利便性向上の観点から、このようなプラットフォームや中小企業支援機関のネットワーク化、統合が図られる方向にある。

そのため、中央会についても、その組織の在り方の見直しを含め、他の支援機関との連携・相互補完の方策を早急に検討する必要がある。

イ.連携強化と専門分野の明確化

中小企業の支援機関が施策を実施していくに当たっては、実地で連携組織を支援し、傘下の連携組織を通じた中小企業のネットワークを有している中央会との連携(とくに「つなぎ役」としての機能)は必要不可欠であるため、中央会は、地域プラットフォーム等他の支援機関の施策との役割分担を視野に入れつつ、これらの機関との連携強化を図るとともに、「中小企業連携組織支援機関」としての専門性を明確にしていく必要がある。

予算については、他の支援機関との連携や役割分担を踏まえ、団体別の予算配分から、機能別の予算編成へと移行することにより、地方自治体レベルで効率的な予算配分が行われるよう措置することが適当であり、また、今後は、中央会の事業を含め、連携組織に対する諸施策については、中小企業者の自助努力を促し、提供するサービスの質の向上を図る観点からも、受益者負担の導入について検討する必要がある。

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