大会決議

 わが国経済は、個人消費や住宅投資の落込み、設備投資の鈍化等による最終需要の減少を背景に、企業の生産・販売活動が縮小し、失業率もかつてない高水準で推移していることに加え、ロシアの金融不安等に端を発した欧米経済の先行き懸念などから、景気は一層厳しさを増している。特に、中小企業の景況は、受注・売上が減少している上に、競争激化による受注・販売価格の低下傾向に歯止めがかからず、収益の悪化が続いている。加えて、金融システム不安、民間金融機関の貸し渋り等による資金繰り難等により、極めて深刻である。
 また、中小企業は、下請分業構造を始めとする企業間関係の流動化、東アジア地域との国際分業の一層の進展、熟練技能工の減少によるものづくり機能の低下、製・配・販の垂直的統合等による流通経路の再編、規制緩和による企業間競争の一層の激化などの構造的な難題に直面し、厳しい試練を受けている。
 このような状況の中で、中小企業はわが国経済発展の使命を担うため、技術力の向上、新製品開発、製品の高付加価値化、新分野・新市場の開拓、情報化等に積極的に取り組み、経営革新を行い、自らの発展基盤の形成・強化に懸命の努力を続けている。
 規制緩和が進行し、大企業との生産性の格差が拡大する中で、激化する競争に打ち勝ち、将来に向かって強固な発展基盤を築いていくためには、技術、情報、資金などの経営資源に制約があるわれわれ中小企業は、相互が連携し、組織に結集し、協力し合うことにより、自らの企業の経営資源等の強化を図っていくしか道はない。
 われわれは、中小企業が将来とも変わることなく、その重要性を保持していくことを疑わない。産業の各分野における中小企業の活躍なくしては、わが国経済社会の再生も安定的な発展もあり得ない。自らの繁栄は、困難を乗り越え、努力して勝ち取らなければならない。現在の未曾有の試練を克服した時、中小企業の新しい飛躍への道が開けるものと確信する。
 政府は、全国643万中小企業が明るい将来展望を持ち、持ち前の企業家精神を大いに発揮し、経営の革新と活力の増進を図ることができるよう、本大会が決議した事項を早急に実現すべきである。
 また、中央省庁等改革基本法に基づき、国の行政機能の再検討が行われているが、経済産業大臣を中小企業担当として明確に位置づけ、中小企業政策を国の最重点課題の一つとして強力に推進すべきである。

決議

1.強力で実効性のある景気対策の早期・着実な実施

未曾有の深刻な状況にある中小企業の景気の実態にかんがみ、一日も早くわが国の閉塞状況を打開し、中小企業が力強く明るい将来を切り開いていくことができるよう、真水で10兆円を超える内需拡大策を柱とした思い切った第3次補正予算の編成と7兆円を大きく上回る個人所得課税・法人所得課税の減税の可及的速やかな実施を含め、次のような対策を始めとする、強力で実効性のある景気対策を早期・着実に実施すること。

  1. 個人所得課税の恒久的減税の実施、大幅な公共投資の追加など、思い切った内需拡大策の推進
  2. 政府系中小企業金融機関の貸付制度及び信用補完制度の充実等による万全な金融対策の実施
  3. 法人所得課税減税、事業承継税制の抜本的拡充など、税制改正における中小企業に対する思い切った大幅減税の実施
  4. 中小企業雇用対策の実施

2.中小企業対策予算の大幅な増額等

平成11年度の予算編成に当たっては、長期にわたる不況の克服に苦闘しながら、経営革新や新たな発展基盤の形成に努力する中小企業を強力に支援するため、中小企業対策予算の大幅な増額を図るとともに、地方財政の逼迫化にも配慮した補助要件の弾力化を図ること。

3.組織化対策の充実強化

  1. 中小企業が経営革新を行っていく上で不可欠な、組合を始めとする中小企業連携・ネットワークと、商工組合等の業種別組織の活用による環境・安全問題等を始めとする社会的要請への対応等を促進するため、組織化対策の一層の充実強化を図ること。
  2. 中小企業近代化促進法等に代わる「中小企業経営革新支援法(仮称)」の創設に当たっては、支援施策の抜本的拡充を図るとともに、商工組合等の業種別組織の活用を通じた中小企業の取組みについてもその対象とするよう、同法に規定する新たな中小企業支援策の中に明確に位置づけること。
  3. 都道府県中小企業団体中央会の人件費が一般財源化されたが、組織化政策の推進の核となっている中小企業団体中央会が、その指導機能を十分に果たせるよう、国は所要の交付税面での手当て、事業費の確保等について万全の措置を講ずるとともに、都道府県においても、指導体制の整備・充実、事業の円滑な実施等について特段の配慮を行うこと。

4.中小企業組合制度の抜本的見直し

中小企業組合が、新たな時代の要請に応じ、経済環境の変化と経営革新に積極的に対応しようとする中小企業を十分に支援することができるよう、組合機能の充実強化を図る観点から、「中小企業等協同組合法」及び「中小企業団体の組織に関する法律」について抜本的な見直しを行うこと。

5.貸し渋り対策等中小企業金融対策の一層の拡充

  1. 民間金融機関の貸し渋り等に対する是正指導を引き続き強力に行うこと。
  2. 政府系中小企業金融機関の貸付制度について、貸付資金量を十分確保するとともに、貸付枠の拡大、金利の引下げ、返済期間の延長、一部無担保貸付制度の拡大など、制度の一層の拡充を図ること。
  3. 信用補完制度について、民間金融機関の中小企業等への信用収縮に対応すべく、10月1日から実施された「中小企業金融安定化特別保証(貸し渋り対応特別保証)制度」については、新制度実施の裏付けとなる信用保証協会及び中小企業信用保険公庫に対する財政措置を早急に講ずるなど、新制度の円滑な実施に配慮すること。また、引き続き、中小企業信用保険公庫及び信用保証協会の資本基盤を強化し、信用保証機能の充実を図るとともに、今後の金融情勢の推移等を踏まえつつ、機動的に制度の拡充等を図ること。
  4. 中小企業事業団の高度化事業について、貸付手続きの簡素化・迅速化、金利の引下げ、無利子制度の拡充など、融資条件の改善を図ること。

6.法人所得課税等の大幅な減税の実現

現下の深刻な景気の実態にかんがみ、7兆円を大きく上回る個人所得課税と法人所得課税の恒久的減税を可及的速やかに実施することを始め、苦境に喘ぐ中小企業の経営基盤の強化と活力の増進を図るため、次の措置を講ずることにより、一段の税負担の軽減を実現すること。

  1. 法人所得課税について、実効税率の40%程度への引下げを、減税先行により実施すること。
  2. 法人事業税への外形標準課税の導入は絶対に行わないこと。
  3. 中小法人に対する法人税の軽減税率、中小企業組合の法人税率を引き下げるとともに、軽減税率の適用所得限度額を引き上げること。
  4. 中小同族会社の留保金に係る重課税制度を廃止すること。
  5. 中小企業関係租税特別措置を維持すること。
  6. 固定資産税の負担税額を軽減すること。
  7. 青色申告特別控除制度について、個人事業者の勤労所得性に配慮し、給与所得控除(最低控除額65万円)に準じた制度を確立すること。

7.事業承継税制の抜本的な拡充

廃業が開業を上回る憂慮すべき現下の状況の中で、中小企業後継者の円滑な事業承継を支援するため、次の措置を講ずること。

  1. 生前相続特例制度(贈与税の納税猶予制度)を創設すること。
  2. 中小企業の小規模宅地等の相続に係る非課税措置を創設すること。
  3. 相続税の税率の引下げと税率構造の緩和を行うとともに、事業承継に配慮した基礎控除額の引上げ措置を創設すること。
  4. 中小会社の株式評価に際して、類似業種比準方式と純資産価額方式の選択適用を認めるとともに、類似業種比準方式における減額率を50%以上に引上げること。また、収益還元価額を加味した評価方法の導入を早急に検討すること。

8.中心市街地活性化等街づくり対策の充実強化、中小商業・サービス業の振興

  1. 中心市街地活性化法に基づく総合的な施策の一層の充実を図り、魅力ある街づくりの観点からの中小小売商業対策を講ずるとともに、中小小売商業の競争力を向上させるため、情報化対策等の支援措置を一層強化すること。また、平成11年度から一部償還期限を迎える中小商業活性化基金制度については、所要の措置を講ずるとともに、基金の大幅な拡充を図ること。
  2. 流通構造の急激な変化に的確に対応する卸売業の機能強化を図るため、中小卸売業対策を拡充強化するとともに、共同化による物流効率化事業に積極的かつ円滑に取り組めるよう、中小企業物流効率化推進事業等支援施策の充実に努めること。
  3. 中小サービス業に対する支援措置を拡充強化するとともに、今後成長が見込まれる中小ニューサービス産業の育成に努め、情報化への対応、事業の高度化等を促すための総合的な支援策を講ずること。

9.大規模小売店舗立地法等の適正な運用、不当廉売等に対する公正取引の確保等

  1. 大規模小売店舗立地法第4条に定める「指針」や本法に関連する政省令の作成に当たっては、国会における審議経過及び附帯決議を十分尊重し、地域における街づくり計画との整合性、高齢者等の身近な購買機会の確保など幅広い視点を考慮すること。また、改正された都市計画法の趣旨を踏まえ、市町村に対して、商業機能の適正配置等広範な目的で特別用途地区を機動的に定めたり、街づくり条例等の仕組みを十分に活用するための指導及び支援措置を講ずること。
  2. 大規模小売業が行う不当廉売、不当表示、誇大広告等による顧客誘引などの不公正な取引方法及び納入業者との取引における優越的地位を濫用した取引行為に対し、公正取引委員会は厳重かつ積極的な監視を行うとともに、実効性ある被害者救済制度を早期に創設すること。

10.労働時間に係る特例措置の維持・存続等

法定労働時間の見直しに当たっては、現下の危機的状況にある中小企業の経営実態を十分配慮するとともに、雇用に与える影響、中小企業の活力発揮等に留意し、次の措置を講ずること。

  1. 特例措置については、手待時間の発生等、特例対象業種の特性等を踏まえ、現行措置を維持・存続すること。
  2. 特例措置対象事業所等の小規模事業者が自主的に行う労働時間短縮への取組みに対し、それを支援する施策を創設すること。
  3. 労働時間短縮が自主的にできるよう取引慣行の是正、消費者に対する啓発等環境整備を強力に推進すること。

11.中小企業雇用対策等の強化

雇用失業情勢が戦後最悪の状況となっている中で、中小企業が雇用の維持と多様な就業ニーズを吸収できるよう、次の措置を講ずること。

  1. 雇用調整助成金制度については、雇用調整を余儀なくされている中小企業が円滑に利用できるよう、助成率の引上げ並びに業種指定の指定基準等の見直しを早急に行うこと。
  2. パートタイム労働者に対する所得税等の非課税限度額を大幅に引き上げるとともに、高齢者に対する在職老齢厚生年金の減額措置を見直すこと。
  3. 中小企業団体中央会が組合組織を活用し、雇用の創出と中小企業の人材確保に貢献できるよう、「求人情報提供事業」並びに「中小企業求人合同企業説明会開催事業」を創設すること。
  4. 産業別最低賃金を廃止すること。

12.環境・安全問題に対する支援策の拡充

地球環境保護や安全対策に係る社会的規制が急速に強化される中で、中小企業が環境・安全問題に円滑かつ的確に対応できるよう、次の措置を講ずること。

  1. 中小企業に対するきめ細かな情報提供体制の整備・強化と官民一体となった技術開発等の促進を図るとともに、環境・安全対策を実施する中小企業の負担軽減等の観点から、思い切った予算・金融・税制措置を講ずること。
  2. 事業者の自己責任原則強化に向けた製品安全に係る基準認証制度の見直しに当たっては、中小企業の円滑な対応と負担の軽減に配慮すること。
  3. 商工組合等の中小企業の業種別組織を活用した環境・安全支援対策を強化すること。
  4. 地方公共団体等による産業廃棄物の最終処分場の確保 ・設置を強力に支援するとともに、中小企業が共同で取り組む廃棄物の減量化・リサイクル施設の設置に対する支援を強化すること。

13.下請対策の強化

  1. 親企業の下請中小企業に対する選別・集約化の強化等により、下請分業構造が急激に変化する中で、技術力の強化、新製品開発、新分野進出などに生き残りをかけて経営革新に取り組む下請中小企業に対する支援対策を抜本的に強化すること。
  2. 景気の長期後退局面にあって、下請中小企業が、親企業から優越的地位の濫用等による不当なしわ寄せを受けることがないよう、下請取引の適正化を一層強力に推進すること。

14.中小企業向け官公需の増大

官公需の中小企業向け発注を大幅に増額するとともに、官公需適格組合の積極的活用に努めること。
また、官公需施策を充実し、併せて発注機関に対し官公需施策の一層の徹底を図ること。

15.信用組合の充実強化

  1. 中小企業金融の円滑化と地域社会の振興・発展に重要な役割を果たしている信用組合が、本番を迎えた「金融システム改革」により、金融分野の競争が一層厳しさを増す中で、今後とも、中小企業者と地域社会の負託に応えられるよう、その経営体質の強化及び信用基盤の確立について全面的な支援を行うこと。
  2. 信用組合が中小企業の多様な金融ニーズに積極的に応えられるよう、地方公共団体の低利預託金の大幅な増額等を図るとともに、政府系金融機関等の代理業務及び国庫歳入金の収納業務の取扱いについて拡大措置を講ずること。

16.中小企業者の範囲の見直し

  1. 中小企業政策の対象となる中小企業者の範囲が、中小企業の実態に即したものとなるよう、中小企業基本法の資本金基準を引き上げる方向で見直すこと。
  2. 中小企業基本法の改正がなされるまでの間に必要が生じた場合には、個別施策ごとに、対象となる中小企業者の範囲を定めるなど、状況に即し弾力的に対応すること。

17.地域中小企業振興対策の充実強化

ものづくりを支える地域中小企業の自立的発展を支援するため、地域産業集積活性化法に基づく施策の一層の充実を始め、自然・伝統文化等の資源を生かした産業の振興など、地域中小企業振興対策を充実強化すること。
また、地域改善対策特定事業については、引き続き一般対策への円滑な移行に努めること。


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