木曽漆器

木曽漆器の歴史

木曽漆器の本場となっている旧楢川村(塩尻市)は木曽谷を貫く中山道(現・国道19号線)の北の入口に位置し、海抜およそ900メートルの高地にあります。このため夏は涼しく冬は厳しく寒いという独特な気候は漆を塗る作業環境に良く、自然豊かな大森林は良材を育み、交通の面でも主要道路が通っているという風土と要路の二つの好環境に恵まれて400有余年という時間を費やして私たち先人が試行錯誤を経て輝かしい成果を残しそれを継承して今日に至っております。
木曽漆器が全国に名を馳せたのは、明治初期に地元から発見された「錆土(さびつち)」にあります。この錆土は鉄分を多く含み堅牢な漆器を作ることができたからです。それを常に良材があったことと職人の技も成熟期を向かえて丈夫で使い勝手のよい製品が作られたからです。現在は、先人達が開発した木曽春慶(きそしゅんけい)と木曽堆朱(きそついしゅ)、塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)の三技法が経済産業省伝統工芸品に指定され多くの職人に受け継がれています。さらにこれらの技法に留まらず様々な技法への挑戦がなされています。若い職人達を中心に様々な分野と現代生活様式に適合した新しい木曽漆器も生産されています。

技法紹介

うるしについて

うるしの木は、ウルシ科に属する落葉樹の高木(10m~20m位)で樹木自体は比較的弱い植物です。秋になると葉は真っ赤になります。うるしの木の幹に傷をつけると樹液が分泌します。この液が、いわゆる「うるし」です。うるしは主に6月~11月頃にかけて採取されます。また1本の木から年間60g~250g程度しか採取できませんので、大変な貴重品とされるゆえんです。漆は日本で採取されていますが、その採取量はほんのわずかです。現在はアジア産(特に中国産)が主に使われています。
うるしには2つの機能があり、昔から人間の生活に役立てられてきました。そのひとつが接着剤、もうひとつが塗料としての働きです。うるしはいったん乾固すると酸やアルカリには強く、防水・耐水性にも優れています。
木曽堆朱(きそついしゅ)
木曽漆器の代表的な技法です。たっぷりと漆を含ませたタンポを使って「型置(模様づけ)」し、型置され凸凹のできた面に彩漆を何度も(通常12回~18回)塗り重ねるため、漆をたっぷりと使います。表面が平らになったら、水ペーパーと砥石で塗面を研磨することで木の年輪に似た独特の模様が表れます。現在では色彩も色々あります。
代表的なもの:座卓・お盆・茶托・菓子鉢・茶檀・箸立て・花器など
塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)
 砥石による錆研ぎを行い木曽地域では「ジヌリ・ナカヌリ」と呼ぶ独特の中塗りを施した後、多種の精製彩漆を用いて塗りわけ作業を行った後、コキ研ぎをして、上塗りをして乾燥後やわらかな木炭の粉末で磨き、さらに鹿の角の粉末に菜種油と砥の粉を混ぜて丹念に艶出しをして仕上げます。鏡面のように研ぎ澄まされた漆地に漆工の至芸を見ることができます。
代表的なもの:座卓・呂淵・重箱・菓子鉢・飾り棚など
木曽春慶(きそしゅんけい)
自然乾燥された原木(針葉樹)をへギ包丁などを使って柾目に裂いたヘギ板で木地をつくり、薄紅色の彩漆で色づけした後、生漆を何度も摺り込みます。最後に透明度の高い春慶漆を塗って仕上げるため、木地のもつ柾目の美しさが際立ちます。
代表的なもの:メンパ・そばセイロ・湯筒・コップ・盆・重箱・平皿など
摺漆(すりうるし)
 ケヤキや朴・栃・桜などの木地を十分磨き上げたあと目止めをし、木肌が透けて見える程度に数回生漆を塗っては拭きまたは塗っては拭きを繰り返して仕上げます。下地塗りが省かれるため、木目の持つ素朴で温かな味わいが伝わってくる技法です。
代表的なもの:家具・文机・お盆・広蓋・コタツ板・小引出しなど
沈金(ちんきん)
 艶やかな漆器に刻み込まれた金銀の模様で、室町時代に中国より伝わり発展した技法です。漆塗りされた表面に沈金刀で絵や模様を浅くミゾ彫りし、生漆をつけて乾ききらないうちに金箔、金粉などを押し込んだ後、余分な部分を拭きとって仕上げます。沈金刀の緻密な動きから始まった技法によって立体的に浮かび上がった文様は、沈金の最大の魅力といえます。
代表的なもの:座卓・衝立・屏風・パネル・重箱・硯箱・文庫など
蒔絵(まきえ)
日本の漆工が世界を代表する芸術として高く評価されるまでになった理由のひとつは、蒔絵の描き出す優美で繊細な黄金の輝きにあると言われています。漆で絵や模様を描き、その上に金粉や銀粉、顔料などを蒔いて仕上げる、最高級の技術が要求される技法です。蒔絵には平蒔絵(ひらまきえ)・研出蒔絵(ときだしまきえ)・宍合研出蒔絵(ししあいときだしまきえ)・高蒔絵(たかまきえ)など数々の手法があります。
代表的なもの:座卓・衝立・屏風・飾り棚・重箱・硯箱・文庫など
溜塗(ためぬり)
 下地工程が施された木地に中途の段階で朱漆や黄漆などの彩漆が塗られ、最後に透明な溜漆を塗りっぱなしした状態で仕上げます。下の彩漆によって紅溜、黄溜などと呼ばれることもあり、下地に深く重ねられた彩色を鮮やかに浮かび上がらせる透明な漆です。
代表的なもの:お盆・花台・重箱・文庫・お椀・飯切りなど
曲物(まげもの)
木曽ヒノキの柾目板を適当な厚さにミカン割りし、加工しやすくするため熱湯で煮て木地をやわらかくしてから円形や楕円形に曲げ、山桜(カンバ)の樹皮で縫い合わせます。最後に底板をはめこんでから漆を塗って仕上げます。
代表的なもの:そばセイロ・メンパ・ひしゃく・寿司桶など
その他
縄文漆器・根来塗り・墨春慶塗り・ヘギ目技法・彫刻・ねずこ・タタキ彫り・龍宝・螺鈿(らでん)

作品

tsuishu-001

木曽漆器工業協同組合URL:http://kiso.shikkikumiai.com/main.html
 

2017/05/02