Q-25 役員の残任義務に関する質疑
  Q-25-①  辞任した役員の残任義務について

  Q.組合の定款では、理事の定数を「6人以上8人以内」と定めており、当
   初総会で6人を選出していたが、今回1人の辞任者がでた。
    組合では、この辞任者については残任義務があるとの解釈をしていたが
   たまたまある弁護士に相談したところ、従来の見解と異にするため、その
   根拠についてご説明いただきたい。
   (弁護士見解)
    商法第258条第1項欠員の場合の処置(残任義務)、同法第498条
   第1項18号では補充義務が規定されており、これらの規定は、法律又は
   定款所定の取締役の員数の最低限を割った場合のみ適用され、法律又は定
   款所定の最低員数の取締役が存在している場合は、株主総会において実際
   上選任されている員数を欠いても適用されない。
     しかし、一方においては中小企業協同組合法第35条第6項では、一定
   の範囲内(下限の1/3を超えない範囲)において補充義務を免除してい
   る。
    本来、補充義務と残任義務とは表裏一体の関係にあり、一方を免除し一
   方のみを課すのは妥当とはいえない。また、補充義務だけを免除し、残任
   義務を課す合理的な理由も考えられない。
    以上の理由から今回のケースについては、組合に補充義務もなければ、
   辞任者について残任義務はないものと判断される。

 A.組合における理事の定数は、組合の規模、事業内容等に応じ組合の業務
  執行上必要な人数を定款で定めたものであり、常に定数を充たしておくべ
  きものである。
     理事の実員数が定款上の定数に不足することは、そのこと自体定款違反
  の状態であり、この場合当該組合の理事は法に定められた定数の遵守義務
  規定(中協法第42条で商法第254条の2を準用)の上からも速やかに
  理事の欠員分を補充する手続きをとらなければならない。
     また、中協法が第35条第6項において、商法第498条第1項第18
  号と異なる補充義務規定を置いているゆえんは、同条第4項において、理
  事の定数のうち3分の1までは、員外理事とすることが認められたことに
  かんがみ、員内理事者が3分の1を超えて欠けた場合、員外理事者が員内
  理事者を上回る場合がでて不都合となることを配慮し、特に3ヶ月以内と
  いう期間を限って欠員補充を義務づけた点にあるものと考えられ、同項は
  決して定数の3分の1を超えた欠員が出るまでの補充義務を免除したもの
  ではない。
     したがって、設例の場合は定款で定める理事定数(6人)を1人でも欠
  いた場合は、直ちに該当理事者に残任義務が発生するものというべきで、
  罰則を伴った補充義務規定がないことを理由にこれを否定すべきものでは
  ないと考える。
     なお、定款において理事の定数に幅をもたせている場合において、下限
  の人員を選出すると、今回のような事態も生じやすく、「6人以上8人以
  内」として理事に2人の余裕をもたせた意味がなくなるので今後は定数の
  上限を選出するようにされたい。                        (108-124)

  Q-25-②  代表理事の資格と残任義務について

  Q.甲事業協同組合の代表理事が任期途中で理事を辞任してしまいました。
   そこで、次の2点についてお尋ねします。
    (1) この場合、その代表理事は、理事としての退任によって代表理事の
     地位をも失うことになるのでしょうか。
    (2) もしそうだとすると、その代表理事の残任義務はどのようになるの
     でしょうか。

 A.(1) について
    代表理事については、中小企業等協同組合法(以下「組合法」という。)
   は、商法規定を準用しており、理事会において理事の中から選任する建
   前をとっています(商法第261条←組合法第42条)。したがって、
   代表理事は理事であることを前提としますから、理事の任期満了、辞任、
   解任などにより理事を退任した場合には、代表理事をも当然に退任する
   ことになります。
   (2) について
    理事の残任義務についても、組合法では商法規定が準用されており、
   理事の退任によって理事に欠員(定数割れ)を生じた場合には、任期満
   了又は辞任による退任者は、後任者が就任するまで引き続き理事として
   の権利義務を有することになっていますが、代表理事についてもこの規
   定が準用されています(商法第258条Ⅰ←商法第261条Ⅲ←組合法
   第42条)。
    ご質問の場合に代表理事としての残任義務があるかどうかについては、
   次の3つのパターンに区分してみる必要があります。
    すなわち、①その退任によって、理事・代表理事ともに欠員を生じた
   場合には、退任者は理事としての残任義務を負うと同時に、代表理事と
   しての残任義務をも負うことになります。②また、その退任によって、
   理事の定数を欠いても、理事会の選任により代表理事には欠員を生じな
   い場合には、退任者は単に理事としての残任義務を負うにとどまり、代
   表理事としての残任義務はありません。③では、その退任によって、代
   表理事の定数を欠いても、理事には欠員を生じない場合はどうでしょう
   か。一見、代表理事に欠員を生じているので、退任者は代表理事として
   の残任義務を負うかのようですが、この場合には、退任者は理事として
   の権利義務者ではないのですから、代表理事の地位が理事の資格を前提
   とする法の趣旨からして、代表理事としての残任義務はないとされてい
   ます。                                              (88-7-1)

  Q-25-③ 役員の残任義務及び役員報酬の支給について                

  Q.副理事長を1名から2名に増員し、専務理事1名を減員した定款変更を
   総会で決議した場合、役員の残任義務及び役員報酬の支給は次の例ではど
   う扱うべきか?
   (例示)
    (1) 定款変更決議の総会開催日         平成3年5月18日
        同上総会では任期満了(3年4月30日)に伴う理事の選挙を行い
     専務理事であった者が落選した。
    (2) 理事長、副理事長(増員1名を含む)2名の選出の理事会開催日
                                                 平成3年5月22日
    (3) 定款変更認可申請日                        平成3年7月22日
    (4) 定款変更認可日                           平成3年7月30日
    以上の場合
     1 従来専務理事であった者の残任期間は何月何日か?また、専務理事
     への役員報酬は何月分まで支給すべきか?
     2 増員1名の副理事長の役員報酬は何月分より支給すべきか?

 A.専務理事の残任期間は、新たな役員が選任された5月18日までとなる。
   また、役員報酬は、本来総会で選任された役員についての報酬であるべ
  きであるが、税法上役員報酬は、相談役、顧問等実質的に経営に従事して
  いるものを含むとされていることから、残任義務期間の役員は、法律上の
  役員ではないが、役員と同等な権利義務を有し、実質的にも組合の経営に
  従事しているので役員報酬の支給対象となる。
     したがって、設問の専務理事の役員報酬は、4月1日(事業年度が4月
  1日に開始の場合)から5月18日までの期間の間で役員報酬規程等に照
  らし、新事業年度の役員報酬の予算の枠内で支給して差支えない。
     次に増員された副理事長の役員報酬は、定款変更が効力を発生する認可
  日である7月30日から支給することになるが、選任日である5月22日
  以後認可日まで副理事長の職務と実質的に同内容の職務を行い、経営に従
  事しているのであれば、役員報酬枠を総会で決議する場合、予めその旨の
  承認を受けることにより、役員報酬規程等に照らし、副理事長としての報
  酬額を支給することは可能であり、当該支給額についても税法上役員報酬
  として認められる。                                    (110-125)

  Q-25-④  役員報酬の請求権について

  Q.役員としての報酬を受けていた某組合の専務理事が在職中にもかかわら
   ず、理事会と意見の対立が原因で、その支払を停止されたが、この理事は
   不払部分について組合に請求できるか?
     請求できるとして、組合がその支払いを拒んだ場合はどうしたら良いか
   ?

 A.組合と理事とは委任関係にあるから、委任者である組合(執行機関たる
  代表者に該当)と受任者である当該理事との間に報酬支払の特約があれば、
  その契約が解除されていない限り、中協法第42条において準用する商法
  第254条第3項で準用する民法第648条の規定により、当該理事は組
  合に対し報酬支払の請求権をもつ。
     また、組合がこれに対して支払を拒む場合は、民事訴訟手続により90
  万円を超えない請求であれば簡易裁判所、これを超える場合は地方裁判所
  に、それぞれ「役員報酬請求の訴え」を提起することとなる。 (124-137)