Q-10-① 事業協同組合への加入の自由と加入拒否の「正当な理由」
Q.事業協同組合が、加入申込者に対して、正当な理由がある場合には加入
拒否ができると聞きましたが、どのような場合に「正当な理由」として加
入を拒否することができるのですか。
A.事業協同組合(以下「組合」という。)への加入の自由は、協同組合法
の基本原則の1つです。組合員は任意に加入し、また脱退できることが組
合の重要な要件であり、組合員たる資格を有する者が組合に加入しようと
するときは、組合は正当な理由がないのに、その加入を拒み、またはその
加入につき現在の組合員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付して
はならないこととされています(中小企業等協同組合法第14条)。
法は、組合が、相互扶助の精神を基調とする人的結合体であることから、
加入の自由の原則をとっていますが、また、相互扶助の精神に基づき協同
して事業を行う事業体であることから、組合の運営を考えて「正当な理由」
のある限り加入を拒否することを許しています。この「正当な理由」とは、
組合への加入資格がある者に対して一般的に保証されている加入の自由が、
具体的な特定人に対して保障されないことになっても、組合法の趣旨から、
あるいは社会通念上からも、不当ではないと認められる理由をいうもので
すから、組合が「正当な理由」に該当するかどうかを判断する際には、こ
の点に十分留意することが必要です。
組合が加入を拒否できる「正当な理由」は、その原因が「加入の申込み
をする側にある場合」と、「受け入れる組合の側にある場合」とがありま
す。
前者については、例えば、
① 加入申込者の規模が大きく、これを加入させれば組合の民主的運営が
阻害され、あるいは独占禁止法の適用を受けることとなる恐れがあるよ
うな場合、
② 除名された者が、除名直後、またはその除名理由となった原因事実が
解消していないのに、加入の申込みをした場合、
③ 加入申込前に員外者として組合の活動を妨害していたような者である
場合、
④ その者の日頃の行動からして、加入をすれば組合の内部秩序がかき乱
され、組合の事業活動に支障をきたす恐れが十分に予想される場合、
⑤ 加入により、組合の信用が著しく低下する恐れがある場合、
⑥ 組合員の情報、技術等のソフトな経営資源を活用する事業を行う際に、
その経営資源や事業の成果等に係る機密の保持が必要とされる場合にお
いて、例えば、契約・誓約の締結、提出などの方法により機密の保持を
加入条件とし、これに従わないものの加入を拒む場合(ただし、条件は
すべての組合員に公平に適用されることが必要)、
⑦ 組合の定款に定められている出資の引受け、経費、加入金の負担等が
履行できないことが明らかな者である場合、
等が考えられます。
また、後者については、例えば、
① 組合の共同施設の稼働能力が現在の組合員数における利用量に比して
不足がちである等、新規組合員の増加により組合事業の円滑な運営が不
可能となるよような場合、
② 総会の会日の相当の期間前から総会の終了するまでの間加入を拒む場
合、等が考えられます。
以上が、「正当な理由」と認められる場合の例示ですが、前者の②④⑥
および後者の②は、平成3年の中小企業庁における組合制度の見直しによ
り、農業協同組合等他の協同組合制度の解釈を参考に、新たに「正当な理
由」に該当するものとして認められたものです。 (92-7)
Q-10-② 加入拒否の「正当な理由」の解釈について
Q.中協法第14条は、組合員資格を有するものであっても、組合は、正当
な理由があれば加入を拒否できると解されるが、その正当な理由とは、ど
のような理由をいうのか?
A.「正当な理由」とは、組合員資格を有する者に対して一般的に保障され
ている加入の自由が具体的な特定人に対して保障されないこととなっても、
中協法の趣旨から、あるいは社会通念上からも不当ではないと認められる
理由をいう。
「正当な理由」として認められるものとしては、次のような場合が考え
られる。
(1) 加入申込者自体にある理由
① 加入申込者の規模が大きく、これを加入させると組合の民主的運営
が阻害され、あるいは独占禁止法の適用を受けることとなるおそれが
あるような場合
② 除名された旧組合員がただちに加入申込みをしてきた場合
③ 加入申込み前に員外者として組合の活動を妨害していたような者で
ある場合
④ その者の加入により組合の信用が著しく低下するおそれがある場合
⑤ 組合の定款に定められている出資の引受け、経費又は加入金の負担
等が履行できないことが明らかである者である場合
(2) 組合側にある理由
組合の共同施設の稼働能力が現在の組合員数における利用量に比して
不足がちであるが等、新規組合員の増加により組合事業の円滑な運営が
不可能となる場合
なお、「正当な理由」に該当するか否かについては、その事実をよく
調査し、その実情に応じて判断するのが適当と考える。 (56-58)
Q-10-③ 組合員と利害関係のある同業者の組合員の加入の是非について
Q.私は仕出し屋を営む者で、同業者で構成している事業協同組合にも加入
しております。今月の組合報を見ていましたら、私の店の近所に昨年出店
したばかりのA商事が、組合への加入を承諾された旨を知りました。私の
ところはA商事とはいわば商売敵で、最新の調理機器を備えたA商事のた
めに、昨年の売上はかなり減っております。また今後、A商事の加入のた
めにこれまでの組合の共同受注の割当ても減ることになるのではないかと
危惧しております。組合がこのような利害関係にある私に何の相談もなく
A商事の加入を承諾したことは甚だ遺憾であり、組合の今回の決定の白紙
撤回を求めたいのですが、可能でしょうか。
A.お話によりますと所属されている組合では組合員の加入については理事
会で意志決定されておるように推察されます。中小企業等協同組合法では
第54条において総会について商法第252条(決議の不存在確認・無効
確認の訴え)を準用しており、総会決議の効力を争うことができることと
されていますが、理事会についての同様の準用規定がありません。しかし
組合員の加入のように、組合の意志決定が常に総会の議決によらなければ
ならないというものでなく、その権限が理事会に委ねられている場合には、
商法第252条を類推適用し、理事会の決議の無効確認を求めることは可
能であると思われます。
さて組合法第14条では、組合は正当な理由がないのに組合員たる資格
を有する者からする加入申込みを拒んではならない旨を規定しています。
つまり資格を有する者に対してはその者が希望をすれば組合に加入して組
合の事業の恩恵を受けることができるということです。ここでの加入申込
みを拒否しうる正当な理由とは、
① 加入申込者の規模が大きく、これを加入させれば組合の民主的運営が
阻害され、あるいは私的独占禁止の適用を受けるおそれがある場合、
② 除名された組合員がただちに加入申込みをしてきた場合、
③ 加入申込み前に員外者として組合の活動を妨害していた場合、
④ その加入により組合の信用が著しく低下するおそれがある場合、
⑤ 共同施設の稼働能力が現在の組合員のみでも不足がちである等、組合
員の増加により組合事業の円滑な運営が不可能となる場合等
に限られると解されています。
したがって、本事例の場合、単に受注配分が減るというだけでは、加入
申込みを拒否し得る正当な理由とは言い難いと考えます。 (89-3-1)
Q-10-④ 法定脱退した組合員の持分譲受加入の是非
Q.組合員Aは平成○年12月2日組合員資格喪失により法定脱退したが、
その未払持分を譲受けることによりBの加入を、翌年の3月15日の理事
会で承諾した。このような資格喪失者の未払持分で譲受加入ができるか?
A.脱退した組合員の持分は、脱退と同時に持分のもつ身分権的なものが喪
失しており、持分払戻請求権という債権として残っているだけである。
したがって、既に法定脱退した者の組合員としての権利義務を承継する
こととなる譲受加入ということはあり得ず、当該譲受人の加入は新規加入
の手続によらなければならない。 (58-60)
Q-10-⑤ 脱退組合員の再加入について
Q.事業年度末(3月31日)に自由脱退した組合員が翌4月1日に新規加
入を申し出た場合に、理事会でこれを拒否することができるか?
A.加入も脱退の場合と同様、自由であることは協同組合の基本的原則であ
って、設例の場合も正当な理由がないかぎり、これを拒否することはでき
ない。 (58-61)
Q-10-⑥ 個人組合員の会社移行の場合の取扱いについて
Q.組合員であるA商店(個人企業)では、現在、A商店を株式会社組織に
変更する手続きを進めているところですが、手続きが完了した時、組合は
A商店から、定款の規定に基づき、「名称」の変更届を出してもらうとと
もに組合員名簿を変更しようと考えています。この処理方法でよろしいで
しょうか。
A.「名称の変更」という点に着眼するならば、この手続きのみでよいよう
に思われますが、この手続きには、大きな見落しがあります。つまり、定
款で組合員に名称等の変更が生じた場合、届出義務を求めていますが、こ
れは、個人企業の場合は、個人企業としての性格を有しながら、商号等の
企業名を変更する場合です。
ご照会の場合は、「個人企業」であるA商店が、「株式会社法人」であ
るA商店に変更されるようですが、これは、個人企業であるA商店の脱退
(A商店は代表者の事業の廃止に伴い法定脱退(中小企業等協同組合法第
19条第1項 第1号)とA商店株式会社という法人の新規加入という2
つの行為を含んでいます。
したがって、原則的には、個人企業A商店には、事業の廃止に伴い持分
払戻し請求権が生じ、組合は、この請求に応じ、脱退の手続きをとること
が必要となります。また、法人であるA商店株式会社を組合に加入させる
には、A商店株式会社からの加入の申し出が必要であり、この申し出に対
する組合の承諾が得られた後、A商店株式会社は組合に対して、出資金の
払込みを行うこととなります。
しかし、個人企業であるA商店と法人であるA商店株式会社が、実態的
にみて、併存するようであるならば、組合員であるA商店は、組合の承諾
を得た後、法人であるA商店株式会社に持分を譲渡し、脱退することが可
能です。この場合には、譲り受けた法人は、当然に組合員となり、出資金
の払込みは、必要としません。 (88-8-2)
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