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月刊中小企業レポート
更新日:2009/3/20

地元特産食材を活かした釜飯の素、惣菜が評判。
安全・安心、こだわりの味を信州中野から全国へ。


株式会社 サンエー
代表取締役 羽生田 良知さん


「奥信濃味麓庵」ブランドで届ける
信州の“産地直送の味”

  えのきたけ、ぶなしめじなど、きのこ類の栽培が盛んな中野市。特にえのきたけの生産量は年間4万トンを超える日本一の産地だ。
 (株)サンエーは、中野市特産のえのきたけを使用した「なめ茸」などの惣菜および山菜加工品の製造・販売を手がける食品メーカーだ。「奥信濃味麓庵」「四季の膳」のブランドで全国有名百貨店など高級食材を扱う店舗を中心に販売。売上高の3割以上を占める食材関係の商社への卸のほか、インターネットショップなどでの直販や小売店での販売、相手先ブランド(PB商品)での提供なども積極的に展開する。


四季の膳シリーズ
「きのこ御膳」

 商品は釜飯の素(まぜご飯、炊き込みご飯など)、なめ茸ビン詰めのほか、信州味噌を使ったおかず味噌(ふきみそ、にんにく焼きみそ他)などの惣菜系加工食品が中心。釜飯の素はシーズン(初春・春・夏・秋冬)ごとに、ふきのとうご飯、菜の花ご飯、さくら御飯、梅ごはん、筍ちりめんごはん、栗ごはんなどを含め、70~80種類をラインナップし、惣菜も約300種類にのぼる。「アイテム数の多さでは日本一ではないか」と、羽生田良知社長は胸を張る。
 15年ほど前から本格的に地元産原料を中心とする商品づくりにシフト。「よりおいしく、より安全に」をモットーに、「本物の味」「家庭の味」にこだわった商品開発で、やはりこだわりを持つ全国の取引先から信頼を獲得している。

人気商品「福栗焼き」

 同社が全国的にその名を知られる理由。それは年間を通して、有名百貨店はじめ全国各所で開かれる物産展に積極的に出店していることも大きい。定番商品や旬の素材を扱った季節商品など、さまざまな信州の“産地直送の味”を届ける足を使った販促活動の賜物なのだ。
 一方、地元からの発信にもアイデアを凝らす。平成20年4月小布施町に直営アンテナショップ「小布施・味麓庵」を出店。薄皮の中に栗あんと栗を丸ごと詰め込んだ焼き菓子「福栗焼き」をはじめ、ここにしかない商品を販売している。羽生田社長は「店頭で焼いて提供する福栗焼きを新しい小布施の名物にしたい」と意気込む。

顧客、取引先、自分たちの三者が
お互いに栄えよう

 同社は昭和40年、須坂市のなめ茸加工品製造の発祥といわれる企業から独立した社員を中心に「河東産業」としてスタート。観光土産品問屋への卸を中心に小売りも行いながら業績を伸ばし、昭和46年(株)サンエーを設立した。社名には、顧客、取引先、自分たちの三者がお互いに栄えよう(三栄)という願いを込めた。
 「当時商品がどんどん売れ、夜中まで本当によく働きました。当時から全国一だった中野のなめ茸を中心に、工場で自分たちが加工し、ビンに詰めて、お客様に直接納品するという毎日。夜11時まで作り、まだ温かい商品を車に積み込んで納品するんです。みんな家庭も省みず、本当によく働いたものです」
 昭和61年には、小川村で産声をあげた第三セクター「小川の庄」の設立に参画。今でこそ東京などの百貨店でも信州の定番商品として人気を集める「おやき」だが、当時はあくまでも昔ながらの郷土食のひとつでしかなかった。それを広めたのが小川の庄の積極的な展開であり、その先兵隊長を務めていたのが羽生田社長だった。「小川の庄で作ったおやきを北信地域の官庁、大手企業、タクシー会社などに連日無料で配り、PRに努めたものです」と当時を懐かしむ。
 その後、東京などの百貨店で試食会を行い味や製法に磨きをかけ、アメリカ・ロサンゼルスの「ジャパン・エキスポ」にも出展。さらにはロサンゼルス市内にショップを出し、当時大きな話題を呼んだ。
 その時、おやきとともにアメリカで人気を集めたのが「縄文釜飯」。今から37年前、同社が全日空の機内食用に全国に先がけて作った炊き込みご飯(の素)だ。販売ルートを設け全米で販売。「今も海外から注文がくる」という看板商品に成長した。
 さらにおやきづくりのノウハウを受け継いだ「ふるさとおやき」の販売も行っている。

ほぼ1カ月で商品化する
開発スピードの速さ

 同社では自社ブランド品のほか、売上高の約3割を占める相手先ブランドでの販売(PB商品)にも力を入れている。
 相手先は生協、全農、百貨店、高級食材を扱うスーパーなど、安全・安心とこだわりの味を求めるところがほとんど。共通の要望は、当然ながら、信州産を中心とする国産食材を使った商品づくりだ。
 国産食材は生産量に限りがあり、大量生産が基本の大手メーカーには原料確保が難しい。一方、同社は地元というメリットに加え、15年ほど前から国産原料の使用に本格的に取り組んできたこともあり、調達ルートは盤石。「国産原料だけで作れる」ことが強みとなり、宮崎地鶏を使った商品の開発など、遠方からもPB商品の開発依頼が舞い込む。


味麓庵のびんシリーズ

 もっとも、きのこは季節によって需要の差が特に大きい農作物。原料の調達には農家と農協のより良い連携が必要だと羽生田社長は考えている。「生産したきのこが余ると、農家はたとえ損をしても売れるところに売っているのが実情。農家が損をしないように、農協が集荷して塩漬けしておいてくれれば、我々も安定して原料を仕入れることができるのですが」。
 PB商品の依頼先からは、食材から味付けまで、細かい要望が寄せられる。その一つひとつに的確に応えていくのが同社の腕の見せどころだ。
 「例えば、東京・神奈川を中心に展開する、安全・安心・高品質にこだわる高級食品スーパーからは、信州発で良いものをという依頼。そこで、かきのきだけという、えのきたけの原種といわれ今は中野市でしか栽培できないきのこと、焼津の鰹、北海道の昆布、信州産大豆を使ったしょうゆと、食材にも調味料にもこだわったPB商品を開発。値段は高いのですが、5万本近くも売れています」
 PB商品のメリットは、OEM供給先にすべて買い取ってもらえるため、在庫などのリスクがないこと。「多品種少量生産のため製造効率はよくありませんが、小回りが効くのでニーズにすぐに対応できる。これが価格競争からの一番の逃げ道。とにかく大手にはできないことをやることで経営の安定につなげています」。
 驚くのは開発スピードの速さだ。話があってから商品化まで、ほぼ1カ月。1週間以内に試作品を提案し、数回のやりとりで味を決め、商品化する。「サンエーはやることが早い」と先方にも喜ばれているという。
 手がける新商品は月平均で約3点。それも同業他社からは驚きの目でも見られる。こうして作ってきた結果が、日本一と自負する商品アイテム数の多さだ。
 「売上げを確保するためには、つねに新しい商品を作っていかなければ。当社は地元原料を使った商品をどんどん発信していきたい。これから売れる商品はそういうものだと思うし、こだわりの信州発商品でしっかりやっていけば、どこにも引けを取らないと思っています」

基幹事業である開発・製造部門は
すべて正社員で固める

派遣切りやリストラが多発するなかで、非正規社員に頼る企業の実態が浮き彫りになった。しかし同社社員45人中、パート社員は発送などの軽作業を行う5人のみだという。それは、基幹部門である製造にあたる社員は正規社員でという羽生田社長の信念から。
 「会社の一番の根っこである開発・製造部門は、私の考えがきちんと伝わる正規社員でなければ対応できない。パート社員の勤務は9時からなので全員で行う朝礼に間に合わず、意思疎通ができない。そうすると必ず失敗が出る。そうならないよう、基幹事業部門はすべて正社員で固めているのです」


味麓庵のおすすめ惣菜

安全・安心を確保する体制もハイレベルだ。工程や商品ごとに細かくデータを取るなど徹底した管理を行ない、イザという時のサンプルにするため、300種類の商品すべてを2つずつ1年間保存。また検品では一般に行われる目視検品ではなく、拡大鏡を使って1つの商品を2度にわたってチェックする。表面のごく小さい異物も見逃さないようにするためだ。
 「このような品質管理体制は、過去にクレームが出たところを改善してきた結果です。ここまで徹底して行うのは大手のすることと思われがち。しかし我々のような企業規模でも、それをやっていかないと取引先から信頼が得られない。何か問題が発生した時、しっかりと答えられる体制を普段から作っておくことが大事だと思います」
 工場内の衛生管理も重要だ。しかし、工場内全部を毎日清掃するのは時間も手間も大変。そこで範囲を区切り、ローテーションしながら毎日重点的に清掃を行っていく方法を社長自ら提案。清潔な工場づくりを実現している。

一枚岩にならなければ
大不況は乗り越えられない

 羽生田社長は毎日誰よりも早く、朝7時に出勤する。それは「社員の健康管理のため」だという。「毎朝出勤してくる社員に声をかけるのですが、その挨拶の仕方で分かる。元気がない人にはつとめて声をかけるようにしています。社員と気軽に話せるような雰囲気づくりを心がけ、何かあったら相談にも乗れるようにしたい。そのためにも、つねに社員に接していることが大事だと思うんです」。
 頑張る社員への心遣いも忘れない。例えば、家庭では主婦にも関わらず毎朝7時過ぎに出勤し、製造ラインの仕事の段取りをしている社員もいる。そんな頑張り屋さんには、ごほうびを出すことも忘れない。
 「当社はほとんどが正社員。よく大変でしょうと言われますが、確かに人件費は大変です。しかしだからといって、いわゆる首切りはしたくない。それは社員に約束しているんです。人員整理は経営では一番楽な方法であり、どんな経営者でもできる。しかし、私はそれだけはしたくないんです。だから社員に、こういう大不況の時は一枚岩にならなければ乗り越えられない、みんなも協力してくださいと、いつもお願いしているんです」
 一枚岩になるために重要なのが社員の育成であり、お互いのコミュニケーションだ。
 羽生田社長はそのベースとなる活動として、毎日職場ごとに行う朝礼を重視。『職場の教養』(倫理研究所発行)をテキストに、職場で社員一人ひとりが心がけるべきことなどを学び合う。また各職場では毎日午後3時から15分間、班長以上が集まり、作業や新しい製品についての打合せを行う。
 機会をとらえてはコミュニケーションに努め、お互いの意思疎通を図る。それが会社全体が“一枚岩”になる秘訣だ。
 「こういう厳しい状況だからこそ、チャレンジしていこう。不況の時こそチャンス。情報収集をし連携を密にしてそれを確実にものにしていこう。一人ひとりがよく考え、とことんやりぬく!」。
 羽生田社長は年頭の挨拶で、全社員に向けてこのような檄を飛ばした。同社の元気の源はここにある。


プロフィール
江口 光雄社長
代表取締役
羽生田 良知
(はにゅうだ よしとも)
中央会に期待すること

中央会への提言
例えば原材料の調達などで、農協と生産者との間に入って調整していただくなどの役割を期待したい。

経  歴   1942年(昭和17年)4月21日生まれ
出  身   長野市
家族構成  
趣  味   マレットゴルフ

企業ガイド
株式会社 サンエー

本  社   〒383-0064 中野市大字新井367-4
TEL.0269-26-2461
FAX.0269-26-0136
創  業   昭和46年
資 本 金   1,800万円
事業内容   惣菜加工製造(袋タイプ・ビンタイプ)、
山菜加工製造(袋タイプ・ビンタイプ)、
直営店舗 小布施・味麓庵経営、
観光土産品製造・卸、通販企画・販売、産直商品企画・販売、OEM商品企画・販売
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