ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2009年2月号) > 元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2009/2/20

クリーニング用機器開発・製造のパイオニアとして半世紀。
新たなテーマに挑む、
ものづくりのマルチエキスパート集団。


株式会社 イツミ
代表取締役 五味 光亮さん


全自動ワイシャツロボット仕上機の開発、
量産化に世界で初めて成功

 高原野菜、ペンションリゾートなどで知られる、八ヶ岳のふもとに広がる高原の村・原村。豊かな自然に憧れて移住してくる人も多く、人口減少が続く長野県では数少ない人口が増加している市町村のひとつだ。村では全国有数の「福祉・健康の村」をめざすとともに、大学と連携した地域づくり事業への取り組みにも力を入れている。
 そんな原村に根を下ろし、半世紀にわたって業務用プレス機(アイロン)の日本のパイオニアとして業界をリードし続ける会社。それがイツミだ。


アメリカ向けワイシャツロボット仕上機

 開発・製造・販売まで一貫して手がける製品は、クリーニング機械、アパレルメーカー縫製工場用機械、福祉施設用洗濯乾燥機・プレス機、コインランドリー機械など、衣料周辺各種機器および各種産業用機械。そのほとんどが自社ブランド製品であり、日本はもとより、海外でもよく知られている。「当社を知らない方には、原村にこんな会社があったのかとよく驚かれるんですよ」と、五味光亮社長は笑う。
 1990年には世界初の全自動ワイシャツロボット仕上機の開発、量産化に成功。その技術力と品質、製品ラインナップにより、現在世界トップクラスのクリーニング仕上機メーカーとして不動の評価と実績を誇る。ちなみに社名の「イツミ」は創業者の名前「五味」に由来にする。
クリーニング業界の会社なのに「ゴミ(五味)」ではまずいと、読み方を変えてつけられたというのが面白い。

小型の綿プレス機を独自開発し、
高度経済成長の波に乗り大ヒット

 創業は昭和36(1961)年。五味社長はその経緯を次のように語る。
 「終戦後、東京瓦斯がガスの販売促進の一環として業務用ガスアイロンを販売しました。その時、同社の指定工場となってガスアイロンを製造していたのが、東京で工場を営んでいた父の甥っ子(茅野出身)。当時まだ日本には十分なエネルギーがなく、電気の利用にも許可が必要な状況だったのです。そういう事情から昭和27年頃、日本で初めてガスを熱源とするアイロンを作った。しばらく東京で製造していましたが、より広いスペースが必要になり、私の父が昭和36年、製造部門を現在地に移転。それが当社の始まりです。その時から私も父と一緒に綿プレス機の開発・製造に携わりました」
 当時、大手クリーニング業者はすでに大量のシーツを仕上げることができるアメリカ製の大型プレス機や、蒸気を使うウールプレス機を導入していた。しかし中小のクリーニング店ではそれほどの大型機械を導入するスペースも資金もない。そんな業者のために開発したのが小型の綿プレス機だった。
 腕のいい職人でもワイシャツのアイロン仕上げは1時間に10枚程度。それがものの数秒でできてしまう画期的な機械に業界は飛びついた。高度経済成長の波にも乗り、大ヒット。昭和40年頃には同様の機械を作るメーカーが全国に40社ほどもできていたという。もっとも数年後、その多くが業態を転換することになるのだが。

数年の間にずいぶん競合メーカーを
減らすことができました

綿プレス機では文字通りパイオニアの同社だけに、創業当初から権利を守るために積極的に特許を取得してきた。その件数はかなりの数に上り、特に機構部分についてはほとんどの部分で特許を取ったという。
 これが昭和40年頃に同業メーカーが林立した時にものをいう。多くが同社の権利を侵害するコピー商品を作っていたため、特許法違反で訴えるなどして対抗。それが業界内でのポジション固めにつながった。
 さらに昭和40年前後、業界が過当競争の様相を呈し始めるや、すぐに五味社長が主導して展開したのがOEM戦略だった。
 「東京など工場スペースが限られた同業者に、お宅のおっしゃるままに作りますと提案したのです。当社は機械設備も整っているし大量生産も可能。ブランド名はもちろん、アイデアも色も希望通りに仕上げたOEM製品を比較的安価で供給しますよ、と」
 製品特許を数多く持ち、製造技術でも抜きんでる同社からの提案に、競合メーカーたちは動いた。製造に必要な場所もコストもかけず、性能的によりすぐれた自社ブランド製品が持てるメリットは大きい。次々に作るのを止め、同社のOEM製品を扱う商社に業態転換していったのである。
 「そうやって1年も製造現場から離れると、機械屋はもう作れなくなってしまう。技術の進歩についていけず、自信がなくなるからです。1年の空白はとても大きい。さらにそのうち開発力も衰え、機械の機構やデザインもOEM先の仕様から当社標準のものに落ち着いていきました。数年の間にずいぶん競合メーカーを減らすことができました」
 当時、同社のプレス機(衣類仕上機)の年間製造台数は約3,000台。以来、同社は日本トップクラスのシェアを守り続けている。

ほとんどを内製する一貫生産体制と
小回り開発・小ロット生産が最大の特徴

アイロンとは、熱と圧力で布のしわを伸ばす道具である。同社が世界に誇るコア技術もそこにある。つまり熱と圧力に関する基礎技術と、それをより効果的に動作させる機構部の開発技術だ。
 「熱と圧力をコントロールする技術はそう簡単には蓄積できません。特に圧力は親指程度の面積に数キロ、10センチ角だとその100倍もの圧力をかける必要があり、全体では何トンにもなる。その圧力を人間のわずかな力でコントロールできるよう、てこの原理やカムを組み合わせた独自の機構を創業当初から工夫し開発してきたのです」
 同社の技術はまさにニッチな分野における専門メーカーとしての技術研さんの賜物だ。五味社長によると、現在競合メーカーは日本では数社、あとはドイツ、イタリアのほか、コピー品が横行する韓国や中国くらいだという。
 同社のものづくりの最大の特徴は、企画・開発・設計から板金加工・機械加工、塗装、組立まで、そのほとんどを内製する一貫生産体制にある。
 設計・開発段階から組立技術者の意見を採り入れる「フロントローディング」により、小回り(短納期)開発・小ロット生産が可能。さらに多能工を基本とする少人数体制により、丁寧なものづくりと徹底したコストダウンを実現している。まさにものづくりのマルチエキスパート集団だ。


組立ライン

 製品の企画・開発はもとより生産システムにおいても、技術面で主導権を握るのが専務の五味淳氏。五味社長の長男だ。
 「技術に関しては、私の技術を伝えていくというよりも、新しい考え方を採り入れていく方がいいと思う。専務にもどんどん新しい発想でやっていってほしいと言っているんです。急速に変化していく時代の中でつねに先端をいくためには、若い人の発想をいち早くカタチにしていくことが大事。私の役割は、経験上それをやったら失敗するという局面がきた時に軌道修正したり、何か困ったことがある時にアドバイスをしたりすること。あまり口を出さないように心がけているんです」。その話しぶりから、後継者である五味専務にかける五味社長の期待の大きさがひしひしと伝わってくる。

繊維分野をベースに、
クリーニング用機器から産業用機械へ

 現在同社が手がけるのは、クリーニング用機器のほか、福祉施設用機器、縫製工場用機器、コインランドリー用機器、各種産業用プレス機器などの開発・製造・販売。それぞれの製品分野で何種類ものラインナップを持つ。「どの製品も大量生産品ではなく、大手企業は入り込めない分野。これだけの分野で、これだけのラインナップの製品を開発・製造できるのは当社しかないと自負しています」。
 主力製品分野はやはり、クリーニング用各種機器。ワイシャツ仕上機、ウール仕上機、ランドリー仕上機、乾燥機と、それぞれにバラエティに富んだ製品を持つ。特筆されるのが、1990年世界初の全自動ワイシャツロボット仕上機の開発に成功したこと。その多くがアメリカ向けで、全米各州に代理店網を持つ。
 福祉施設用各種機器は、病院、旅館、ゴルフ場、各種施設などに需要が広がる。寝具・布団・マットレスの洗浄、乾燥、殺菌を行う機械のほか、大型ベッドや車イスなども全自動で処理できる機械も開発。レンタル事業者にプラントでの納入実績も持つ。高齢社会を迎え、「今後一番大事になるのではないかと期待している」分野だ。
 縫製工場の作業の効率アップや低コスト化に貢献しているのが、縫製工場用各種機器。縫製前の反物をスポンジング加工(寸法の安定化を図る)する減反処理機、完成品の仕上げに欠かせない立体仕上機、布地に柄を転写する熱転写プレス機など、用途に応じた製品をラインナップしている。


最新鋭のレーザー加工機


板金

 また最近家庭で簡単に洗濯ができ、型くずれしにくい形態安定シャツが一般化しているが、生地の形態安定化処理でも活躍している。「生地を薬品処理することによってしわになりにくくしているのですが、薬の弊害も出ている。そこで生地に圧力をかけ、薬品をあまり使わずに形態安定化を図るプレス機械を開発したのです」。  一方、現在同社が最も力を入れているのが産業機械の分野だ。  例えば、エアバッグをコンパクトに収納するための自動車向けプレス機、テフロンやカーボン繊維など新素材の熱加工プレス、染色試験場用テスト機器など。衣類のプレス機の開発・製造で培った技術を生かして実績を広げ、比率的にも主力分野になりつつある。さらに厨房製品、医療機器、温度制御・風・エアー・水・油・蒸気・ガス・回転に関連する専用機など、新しい分野の製品開発にも意欲的だ。「エアバッグやシートベルトなど、自動車産業も大きな需要先になっています。繊維は非常に幅広いテーマを持つ分野だけに、衣類からの発展性をつねに探っています」。

“環境”をキーワードに、
次代を見すえた製品開発が最大の目標

 五味社長はこのところ、足しげく中国に通う。
 中国市場に相当数出回る同社のコピー製品に対抗するため、同社では江蘇省無錫市に工場を開設、すべて現地生産に切り替える計画だった。ところが「鉄の品質がけた外れに悪すぎて」部品の品質がなかなか得られず、日中合作のようなかたちで中国に輸出するにとどまる。五味社長の訪中はコピー品対策が大きな目的だった。
 ところが最近は、中国市場そのものへの関心が大きくなった。「今中国は大変な状況。コピーをつくっている企業もかなり淘汰されるのではないかと思います。しかし将来同じ土俵で戦う競合メーカーが出てくる可能性もある。そのためにも彼らと親交を深め、情報をキャッチしていこうと思っているのです」。
 現在同社はアメリカを中心にヨーロッパ、中国などへの輸出が約6割を占める。深刻な不況と円高の影響は決して少なくないが、五味社長が注視しているのはこの不況が開けた後のこと。すべての産業が大きな変化をとげているだろうとみる。
 「例えば自動車は今後、EV(電気自動車)化が進むでしょう。エネルギーが原油から電気に変われば、従来のエンジンが不要になり、世界中に展開するエンジン関連部品産業が不要になってしまうかもしれません。このことに象徴されるように、次の時代にはきっと地球環境問題から産業革命が起こると思います。我々も“環境”をキーワードに、次の動きを見すえた製品の開発を最大の目標に取り組んでいます」
 ガスアイロンから日本初の綿プレス機を開発し、日本の発展とともにクリーニング仕上機というニッチな分野で確固たる地位を築いた同社。得意技術をとことん掘り下げていくその開発力が今、「環境」という新たなテーマで試されている。


プロフィール
江口 光雄社長
代表取締役
五味 光亮
(ごみ こうすけ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 国などが実施している中小企業施策について、中小企業の理解、活用がなかなか進まない。中小企業に有用な情報をもっともっと提供してほしい。

経  歴   1942年(昭和17年)3月31日生まれ
出  身   長野県諏訪郡原村
家族構成  
趣  味   4WDオフロード。野菜づくり。植物全般。興味を持ったことは何でも徹底的に調べないと気がすまない。

企業ガイド
株式会社 イツミ

本  社   〒391-0107 諏訪郡原村11865
TEL.0266-79-2331
FAX.0266-79-2721
創  業   昭和36年7月15日
資 本 金   2,800万円
事業内容   プレス機、乾燥機、縫製機器等の開発・設計・製造
販売拠点 (株)イツミ製作所(埼玉県川越市)、Itsumi International Co(アメリカ)、Itsumi Korea(韓国)
海外工場 伊姿美製衣机械(無錫)有限公司(中国江蘇省)
このページの上へ