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月刊中小企業レポート
更新日:2009/2/20

知財あれこれ

商標は抜け駆けされたら救われない

綿貫国際特許・商標事務所 弁理士 綿貫 隆夫

 須坂市では「竜の里」を旗印にしようと、市、商工会議所や青年会議所などで協議をして決定した。そのことは新聞でも報道された。商標登録をどんな商品グループについて登録するか検討するために指定商品分類の資料を貸して欲しいといわれ、お貸しした。指定商品の決定と出願費用の負担を誰がするかで議論があり出願の意思決定が遅れていた。
 話を聞いた市内のラーメン屋さんが「市のほうでもたもたしているなら、食料品の分野について代表で出願しておいてやろう。市内で使いたい人があれば使わせてあげるつもりだ」ということで、過去に登録や出願がないことを調査確認の上、出願した。

竜 の 里

念のために数ヶ月経ってから、ラーメン屋さんの出願日より前の商標出願速報を調べてみると、新聞報道の直後に東京の食材を扱う問屋さんが食料品の分野で出願していたことが分かった。ラーメン屋さんの出願の際の調査では先の出願があることは知る由もなかった。速報は出願があってから数ヵ月後でなければ印刷されないので、ブラックボックスの中にあった。完璧に調査するには出願後、数ヶ月経ってから刊行された速報を再度調べ出願日より前に他人の出願がないことを確認しなければならない。結局、先の出願が登録されラーメン屋さんの出願は拒絶になってしまった。結論から言うと、同一・類似の関係にある商標は、先の出願が登録されれば、後の出願は拒絶される。
 しかも商標登録においては、出願することを知った他人が先に出願しても発明の場合と違って、何の咎めもない。盗まれ損ということになる。したがって出願する商標を決めたら出願するまでは、絶対に他人に漏らしてはならない。
 しばしば行政などが、ロゴやマスコットキャラクターを一般から公募することがある。審査会で1~5位ほど順位をつけることがある。発表前に同一類似の登録商標の存在を調査しなければならない。登録にならない商標を入選させるわけには行かないからである。そして一位の商標が決まったら、必要な商品分類について、先ず商標出願してから発表すべきである。発表を見てすぐ出願する人があれば救われない。後で買い取らされたり、トラブルに巻き込まれる恐れがある。沢山の商品群について出願する時は、調査、判断も出願費用も嵩むので慎重であるべきだ。

TOiGO

小説「黒の紋章」では重役会で夢の繊維の発売に際し、その商標を決定した。これを盗み聴きした秘書の男が、特許事務所へ駆け込んで親戚の名義で大至急出願してもらった。そして会社を辞めた。会社ではいつもの特許事務所へ依頼し、慎重に調査して出願した。会社では安心して広告宣伝の準備をし、製造、販売の計画を進めた。そのうち先願登録ありで拒絶の通知が来た。会社は大騒ぎになった。その頃、もといた秘書が現れて登録商標を見つけたと言ってきた。会社は法外な値段で買い取らされた。

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