ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2008年11月号) > 元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2008/11/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

「もっとたくさんの笑顔のために」を理念に、
介護用品販売・レンタル事業で地域福祉に貢献する。


有限会社ケーアンドケーメディカル
代表取締役 小山 伊知郎さん


施設等への介護用品納入で
順調に成長を続ける

 高齢社会が急速に進むなか、全国トップクラスの長寿を誇る長野県。しかも一人当たりの老人医療費が全国一少ない。それは徹底した地域医療への取り組みと、積極的な在宅医療の推進で入院日数が減ったためといわれる。寝たきりにならず、高齢になっても農作業などに励む人が多いのも長野県の特徴だ。
 とはいえ、高齢者やハンディキャップを持つ人が日常生活の諸動作をできる限り自分で行うためには、それをサポートする用具・用品・機器が必要なケースが多い。いわゆる介護用品、介護機器といわれるものだ。介護保険では「福祉用具」と呼ばれる。車イス、介護ベッド、簡易手すり等々、生活のあらゆる場面、その人の症状に合わせて、多種多様な用品がある。
 ケーアンドケーメディカルは、介護用品・機器の販売・レンタル、バリアフリー対応の住宅リフォーム、家具販売などを手がける。小山伊知郎社長が佐久穂町で創業し約50年続く「小山家具」の経営のかたわら、平成10(1998)年に設立。平成12年4月介護保険制度が導入されたことも追い風となり、介護老人保健施設(老健)などの施設や病院を中心に納入実績を伸ばしている。ちなみに「ケーアンドケー」は家具と介護の頭文字にちなむ。
 小山社長は元公務員。「結婚相手が小山家具の跡取り娘。町役場に勤めていましたが、義父に家業を継いでほしいといわれ、30歳で退職しました」。それに合わせて小山家具も創業地である佐久穂町から、現在の臼田に移転した。今からちょうど15年前だ。

個人向け家具販売から事業所向けへ。
さらに介護分野へ

 家業を手伝いながら、小山社長は家具販売を取り巻く環境に「明らかな時代の流れ」を感じていた。
 かつて家具店は、婚礼ダンスを中心に新婚生活に必要な家具をまとめて販売する営業が主体だった。ところが今は暮らしの感覚の変化や、家具作りつけの住宅・マンションが増えたこともあり、婚礼ダンスはあまり売れない。小物家具はホームセンターやネット通販など、どこでも買える。大手家具量販店が圧倒的な品揃えで売上げを伸ばすなか、地域の中小家具店は非常に厳しい経営環境に置かれているのが実情だ。
 小山社長はこの状況を当時すでに感じ取っていたのである。「実際に営業に回ってみると、これからは個人向けは難しいと実感しました」。そこで、以前勤めていた役場や各種施設、病院などの事業所向けに営業展開をシフト。積極的に営業をかける。そんな中でつかんだのが、近くの病院が老健施設を建設するという情報。4階建ての当時としては大規模な施設だった。
 さっそく営業に行くと、担当者は高さが調節でき、移動に便利なキャスターが付いたテーブルがほしいという。高額な海外製品ばかりの中、必死に調べ、国内唯一のメーカーを岐阜に見つけた。「長野県内で初めて20台納入しました。介護用品を施設に納入するのは当社も初めてでしたが、地域では一番早かったと思います」。
 その後、佐久地域各地に同様の施設ができるたびに納入実績が積み上がっていった。「福祉関係は需要がある」。介護保険制度ができることも追い風になった。そこで小山社長は小山家具とは別に、介護分野を専門に展開する同社を設立。ひとりで営業を始めた。介護保険制度がスタートする1年半前、平成10年10月のことである。

パンク修理3年。
日々の地道な積み上げを大切に


バラエティに富んだ各種介護用品を展示・販売


介護用品

 まず営業ツールとして活用したのが、北欧製の最先端の車イスだった。「人間を荷物のように載せる発想でできている」従来の車イスではなく、利用者の快適を第一に考えた、当時35万円もする超高級品。施設や事業所向けに積極的にデモンストレーションした。
 「販売目的ではありません。今までとは圧倒的に違う商品を見せればインパクトがあると思ったから。思った通り、ケーアンドケーメディカルはすごい車イスを持っていると病院や施設で評判になりました。県厚生連病院の理学療法士さんたちが集まる講習会に呼ばれ、新しい車イスについて話をさせてもらったことも。それがきっかけで病院等への車イスの納入が徐々に増えていきました」
 日々の地道な積み上げを大切にするのも、小山社長の営業スタイル。ある総合病院の車イスは現在、同社がほとんど納入しているが、最初はパンク修理からだったという。
 「たまたまパンク修理が必要な車イスがあったので、私できます、と声をかけたんです。


北欧製の快適な車イス

自転車のパンクを直したことがあったので(笑)。夜仕事が終わってから自分で直しました。しかしもっといい方法がないかと考え、近所の知り合いの自転車屋さんと相談。安くても安定して仕事が回る仕組みをつくりました。それで車イスの販売に結びつけばと。1年で買ってくれるかと期待しましたが、なかなか来ませんでしたが(笑)」
 コツコツとパンク修理を続けて、3年目。ようやく待ちに待った注文がきた。30台。納入前夜、車イス1台1台梱包を解き、丁寧に組み立てて、トラックに積んだ。車イスには「ケーアンドケーメディカル 小山家具福祉事業部」と印刷したシールを貼った。利用者に会社の存在をより効果的に覚えてもらえるように、地元で知名度が高い小山家具の社名を入れたのだ。「知られていない会社が会社を売るためには、まず人目につくことが大事。シールはそのための宣伝戦略でした」と小山社長は明かす。

「もっとたくさんの笑顔のために」
このひと言に尽きます

 信念は「人がやらないもの、やりにくいものをやることで初めて評価される」。例えば、名刺の配り方。普通、担当者には挨拶するが、そこに机を並べる他の職員に名刺を配ることはしない。しかし小山社長は、飛び込み営業先の担当者はもとより、フロアーの全員、運転手にいたるまで名刺を配り、名前を覚えてもらう。
 そうして親しくなった相手から、車イスのパンク、ロッカーのカギの修理といった声がかかれば、いとわず請ける。競争が激しく利益が出ないスチール家具の取り扱いも続ける。たとえその時利益が出なくても、それを足がかりに注文を増やしていけばいいという考え方だ。「新規参入するからには既存業者より上のことをしなければいけない。決まり切ったことじゃ受注は取れませんから」。
 家具は婚礼、新築・増改築など、誰もが喜びを感じる晴れやかな機会に買うことが多い。一方で、介護はきれいごとではすまない。介護する側、介護される側、それぞれに厳しい現実がある。「でも介護用品を購入・レンタルすることで、介護が楽になったり、生活動作が助かったりする。そこに笑顔が生まれます。『もっとたくさんの笑顔のために』が当社の企業理念ですが、まさにその一言に尽きると思います」。
 子どもの頃、おじいちゃん・おばあちゃん子だった。「お年寄りを支えるような仕事をしたいとはずっと思っていた。それがたまたま家具が厳しくなり、一方で介護保険制度ができて介護環境が整い、あちこちに施設もできてきた。そういうタイミングがうまく合い、事業を伸ばすことができたのです」。
 「要するに、人が好きだということです」と小山社長。役場時代、職員仲間はいうに及ばず、近隣企業の若手社員も誘ってさまざまな集まりを企画。役場では異色の存在だったという。「公務員から商売の道に入ってもうまくやっていけているのは、人と人との当たり前のコミュニケーションがとれて、言われたことをきっちりとできたからかなと思います」。

その人のために一歩踏みこんだ
介護のプロとしての提案を

 介護保険では、介護ベッドなどの対象品は1割負担でレンタルでき、ポータブルトイレなどの購入対象品は年間10万円まで1割負担で購入できる。また手すりをつけたり、ちょっとしたバリアフリー化など大工仕事を伴うものもこの範囲内に含まれ、それが介護保険利用の圧倒的多数を占める。もっとも工事の場合、施工業者の利益率は低く、あまりやりたがらないのが実情だという。
 しかし同社では大工を社員として抱えるなど、この分野にも力を入れる。これも「人がやりたがらないものをやる」という小山社長の信念であり、目先の利益ではなくトータルにビジネスを見ていくという営業方針から。そこをきちんと押さえることで、風呂・トイレの改修、リフトの取り付け、さらには住宅リフォームなど、大きな工事の受注にもつながるという考え方だ。


介護食もさまざまな種類がある
 特に住宅リフォームについては、地域の設計、内装、設備などの業者と連携。介護分野の専門家である同社が元請けとなり、それぞれの分野の専門家がグループ化して力を合わせ、細かく地域ニーズに応えていこうと取り組んでいる。
「単なる住宅リフォームならどこでもできる。問題は『介護』をきっちり押さえた対応ができるかどうか。当社には福祉用具専門相談員をはじめ、福祉プランナー、住環境コーディネーター、介護現場を経験した介護士など、介護分野のプロが揃っています。本人、家族とよく話し合い、自分たちの都合ではなく、その人のために一歩踏みこんだ介護のプロとしての提案を心がけています。もっとたくさんの笑顔をつくるために、それが大事だと思っているのです」


困っていることに応える
アプローチで広がるビジネス


照明まで含めた部屋の雰囲気を提案


大きな家具の売り場スペース


おしゃれな食器、小物などカラフルにディスプレイ

 一方、家具販売においては、「癒し」がテーマだという。
 小山社長は2005年、小山家具の社長にも就任した。その時まず行ったのが、一通りの家具メーカーと取り引きを行う体制づくり。来店客が求める家具が提供できないということがないようにという心遣いからだ。さらに店づくりでは、家具だけでなく、アロマ、オーガニック、照明なども含めた、トータルな空間づくりの提案に力を入れている。
 施設、病院など事業所向けを主体とする同社の家具部門。この分野が堅調で、業績の落ち込みが激しい業界にあって、右肩上がりで業績を伸ばしている。「売りつけるのではなく、困っているところに提案していくというスタンスで。平成10年当社設立以来今期まで何とか毎年売上げを伸ばしてきました。ありがたいことだと思っています。来年以降は分かりませんが…」。
 さらに同社では、老健などの施設や学校等で頭を悩ます食品残さを処理する生ゴミ処理機の販売や、間伐材を含む県産材を使った家具づくりにも取り組んでいる。
 「家具も安ければいいというだけでなく、地元ならではの価値を見出していけたらと。自分たちが使うテーブルが県産材でつくったものだとなれば、愛着もわくし、考え方も変わってくると思うのです。環境分野でも、当社の基本姿勢である、困っていることに応える、というアプローチからビジネスが広がっています」
 家具、介護用品、そして生活環境。「人が好き」な小山社長のターゲットはつねに、「もっとたくさんの笑顔のために」向けられている。


プロフィール
江口 光雄社長
代表取締役
小山 伊知郎
(こやま いちろう)
中央会に期待すること

中央会への提言
地域企業がお互いに知り合えることが大きなメリット。厳しい時代だからこそやり方によっては大きくプラスにもっていける。中央会はこれから面白くなると期待している。
サンタの創庫 長野南バイパス店
社屋

経  歴   1962年(昭和37年)1月17日生まれ
出  身   佐久穂町
家族構成   妻、娘2人
趣  味   ゴルフ。「50を切らないとゴルフではないと言われて」、熱心に練習場に通って50を切る腕前に。最近は山登り、カメラも楽しむ。

企業ガイド
有限会社ケーアンドケーメディカル

本  社   〒384-0301  佐久市臼田1935
TEL0267-82-0239
創  業   平成10年10月
資 本 金   300万円
事業内容   福祉用具のレンタル・販売、住宅改修、施設関連備品・環境改善用品・健康関連用品の販売、家具の販売
福祉住環境コーディネーター 福祉用具プランナー 医療用具販売管理者 医療用具賃貸管理者 医療用具修理業責任技術者
介護保険指定事業所 介護保険事業所番号2072000132
関連会社   小山家具本店
このページの上へ