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月刊中小企業レポート
更新日:2008/11/20

特集1
中小企業と障害者雇用
中小企業における障害者雇用の促進をめざして

~中小企業における障害者の雇用の促進に関する研究会報告書(平成19年8月)より~

  障害者雇用を取り巻く情勢が活発化している。平成18年度ハローワークでの新規就職申込件数や就職件数が過去最高となるなど、障害者の就労意欲がこれまでにない高まりを見せる。18年には改正障害者雇用促進法や障害者自立支援法が施行。雇用施策と福祉施策との連携のもと、就労支援が強化されている。
 中小企業は大企業とくらべ、法定雇用率達成企業の割合は高水準を維持。障害者雇用の重要な受け皿となっている。もっとも近年、大企業にくらべ景況改善に遅れが見られる上、開業率が廃業率を下回る状態が続くなど厳しい経済環境にさらされている。そのような状況に加え、新規雇用を上回る離職の発生などにより、中小企業全体の障害者の実雇用率は減少傾向。現在、大企業の方が上回る。
 中小企業は、地域で自立した生活を求める障害者に雇用の場を提供できる、地域の主要な担い手。中小企業における障害者雇用の促進は急務だ。

中小企業における障害者雇用の状況

10月25日(土)、幕張メッセで「障害者ワークフェア2008」が開催された。障害のある人の雇用促進と安定を図るのが狙いで、重度障害者が活躍する職場の紹介、製品展示、作業実演などに多くの来場者が訪れた。
 同時に開かれたのが、働く障害者や企業などの関係者による「働く障害者の経験交流会」。長野市の(株)柿の木農場も、障害者雇用に積極的な中小企業主および同社で働く障害者が当事者という立場で参加。「知的障害者の立場から」と題して両者から発表を行った。
 中小企業における障害者雇用の状況は低下傾向。しかし一方で、イベントに参加した企業のように、障害者を積極的に雇用し成果を上げている中小企業も一定の割合を占める。それだけに、中小企業(事業主)の障害者雇用への理解を深めるとともに、阻害要因になっているものを取り除くことができれば、障害者雇用が急速に進むことも考えられる。
 平成18年全国中小企業団体中央会の調査によれば、障害者を現在雇用し、あるいは過去に雇用したことがある中小企業は7割以上。今後の障害者雇用の意向については、現在雇用している企業ではより積極的な推進を検討している。また増員を考えている企業では、CSRや法令遵守が意識されている。現在雇用している企業の評価は、「満足」が約28%、「おおむね満足」が約60%にのぼる。
 また同調査によれば、障害者雇用の主な阻害要因は、障害者に適した職務がない、障害者雇用のノウハウがない、建物のバリアフリー化などが進んでいない、など。障害者雇用拡大のために期待する公的支援については、「各種助成金の拡大」のほか、「障害者の作業能力に関する情報提供」「障害者雇用に係る好事例の提供」を求める企業が多い。
 以前から、トライアル雇用、ジョブコーチ支援など、企業規模に関わらず対象となる障害者雇用支援策が講じられてきた。しかし今後さらに中小企業における障害者雇用を促進するためには、障害者雇用についての理解の促進、マッチング・職場定着に関する支援、経済的負担の調整など、さまざまな観点から新たな取り組みが求められている。

障害者雇用支援策-理解の促進

企業において障害者雇用を具体的に進めるためには、まず経営者の意識・理解を深めることが重要だ。
 ハローワーク幹部から経営トップへの直接の働きかけ、経営トップが集まる会合等の場を活用しての啓発などのほか、中小企業団体等を活用した情報交換などの取り組みも効果的とされる。
 また地域において、中小企業と障害者団体、福祉施設、特別支援学校等との交流の場を設けることも大切。このような活動の中から、紹介に対する理解を深め、企業と施設・学校の相互理解や連携を深めていくことができる。
 また実際に雇用を進める中で、事業主の理解の促進や不安感の解消を図る面から、トライアル雇用や障害者委託訓練の活用も有効。まずは障害者との接点をつくることを促すことが重要だ。

事例 障害者雇用にデメリットはない
株式会社柿の木農場(長野市)


 柿の木農場はエノキダケの栽培・加工で現在、月産約130トンを生産し、総販売量は約1800トンにのぼる。
 柿の木農場と障害のある人との出会いは昭和59年のこと。社会体験の受け皿として2~3週間、長野養護学校から一人の知的障害を持つ実習生を受け入れたのが始まりだ。翌年も同じ実習生を受け入れたのをきっかけに、雇用への本格的な取り組みをスタート。昭和62年4月初めて正式採用となった。
 柿島 滋社長は当初、最低賃金の適用除外申請や助成金の活用など、障害者雇用に関する知識や情報がまったくなかったという。「障害の有無に関わらず仕事ができれば一人前と考え、最適な作業を見つけ、訓練指導に努めました。おかげで担当作業については他の人と同等の能力を持つことができました。賃金支払い基準を同一にしていたことも、その人の励みになったように思います」。
 平成4年4月には二人目の障害者(体幹機能障害)を雇用する。その際、障害者雇用のための助成金制度があることを初めて知り、さっそく活用。きのこの種をつける接種機を導入した。柿島社長はその時、企業における障害者雇用の制度的メリットを実感。以来毎年のように障害者を雇用し、現在、同社の全従業員40人中、障害者は22人(知的16人・身体2人・精神4人)。同社が作る場所を提供することで支援する作業所には17人の障害者が通所している。
 柿島社長は障害者雇用への取り組みを進めてきた経験から、地域企業に障害者の雇用拡大に向けた働きかけを協働で取り組んでいきたいと考えている。具体的には、働ける場の開拓だ。今後地域就労支援センターやハローワーク等とも協力し、障害者の実習を受け入れたことのない会社に働きかけ、企業が障害者雇用に取り組む仕組みづくりをめざす。


当事者として体験発表をした三木俊雪氏

「さまざまな助成金が補ってくれるので、障害者雇用にデメリットはありません。むしろ職場や製品にメリットが表れるし、またそれを生み出していくものです。障害者を雇用したことがない企業も、実習や雇用の入り口で雇用支援制度があることをしっかり説明できれば、雇用に踏み切る可能性がある。養護学校を卒業して実習した会社しか就職する場がないというのは、障害者にとって不幸なこと。あなたはここでしか勤まらない、ではなく、うちに来なさいよ!と言ってくれる企業があってほしいし、増やしていきたいです」。柿島社長は同社の経営を安定させながら、長野県における障害者の就労支援を盛り上げていきたいという。

障害者雇用支援策-マッチング・職場定着に関する支援

 中小企業には障害者雇用の経験が少なく、ノウハウに乏しい企業も多い。障害者本人も就労経験に乏しい場合が多く、具体的な雇用に結びつけていくためには、トライアル雇用の活用、職場実習の積極的な受け入れが有効と考えられる。
 また中小企業において障害者の雇用機会をさらに拡大するためには、職務の分析・再整理を行い、仕事を生み出すことも重要。大企業と比べて職務ごとの業務量に限りがあるからだ。この点に関しては、地域障害者職業センター等の外部機関による相談・支援体制の強化が期待される。
 障害者の職場定着を円滑に進めるためには、地域における行政・企業のネットワークの中で情報交換や相談ができる体制づくりが必要。ジョブコーチ等を活用することも重要だ。

障害者雇用支援策-経済的負担の調整

 「障害者雇用納付金制度」にもとづく各種助成金の支給など、企業における障害者雇用に伴う経済的負担の調整、軽減も図られつつある。
 すべての事業主には、障害者の雇用を共同で果たしていくべき責任があるという社会連帯責任の理念にもとづき、法定雇用障害者以上の雇用が義務づけられている。障害者雇用納付金制度はそれを前提とする。法定雇用率未達成の事業主から不足数に応じて障害者雇用納付金を徴収。それを原資に、法定雇用率を超えて雇用する事業主に調整金を支給し、事業主間の経済的負担を平等化しようというものだ。
 もっとも300人以下の規模の中小企業の場合、障害者雇用納付金の徴収対象にはなっていない。そのため法定雇用率を超えて多くの障害者を雇用している場合、報奨金が支給される。また各種助成金も支給されている。



事例 ノーマライゼーションをめざして
株式会社戸上リネンサプライ(千曲市)

1.障害者雇用の動機・経過
 障害者それぞれの個性を活かし、持っている能力を最大限に発揮し、健常者とお互いの努力により社会人としての自立をめざし、それが幸せに企業実績に反映することができれば職業人としての充実感と共に社会参加の証となる。障害者雇用は企業の社会的責任であることを踏まえ、このような観点に立って雇用を進めています。
 平成3年戸倉上山田温泉旅館組合より経営譲渡され、「戸上リネンサプライ」として経営してきたが平成9年に社会福祉法人「廣望会」を設立。福祉工場に工場部門を譲渡営業し、平成18年戸上リネンサプライ社屋移転に伴い工場部門を開設するにあたり、障害者10名を迎え入れました。健常者8名を含めて操業開始し、重度障害者多数雇用事業所の認定を受け、現在14名の知的障害者の方々が就労しています。

2.障害者雇用について
 障害者の働きやすい環境づくりと障害にあった機械整備、作業の安全管理と能率の向上を図る一方、各職場責任者によるワンツーマン指導や障害者同士の教え合いを仕組み、障害者のより良い就労の場づくりに心がけてきました。障害を持つ社員の健全な社会参加と社会技術の向上を意図し障害指導課を設置。生活を豊かにし、生きがいや生活に張りを持てるよう指導しています。
 新しく障害を持つ社員を雇用しようとする時、職安、養護学校、支援センターからの紹介と助言を得て、職場実習を経て求職者が納得する中で雇用しています。職場配置では各職場を経験した後に配置を決めて職場のスペシャリストをめざします。
 現在、職安、養護学校、近隣市町村のケースワーカー等からの就労相談、就労希望者があります。「たとえ障害あれども働きたいと願う障害者に、様々なスタイルでの働く場を実現させてやりたい企業就労の場と」。それは一生懸命汗を流して働き、ここにくるのが楽しいと答える夢の実現です。
 納富社長は「ノーマライゼーションの実現を目指し、障害者雇用の場を築くためにクリーニング業を営む」と話しています。


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