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月刊中小企業レポート
更新日:2008/10/20

特集
望ましい下請取引関係の構築をめざして

「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」の
普及啓発を支援

 平成19年2月、国はわが国の成長戦略の一環として、経済成長を下支えしている基盤(人材能力、就労機会、中小企業)の強化をめざした「成長力底上げ戦略(基本構想)」を取りまとめた。
 そのなかで、格差是正と生産性向上の成果を下請事業者に適正に配分することが重要であり、そのためには下請事業者と親事業者との間の適正取引を進めることが必要とされた。それを受けて関係業界の適正な取引のあり方が検討され、10業種に「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」が策定された。
 さらに親事業者側の強い立場を悪用した“下請いじめ”是正を図るため、中小企業庁は平成20年、相談窓口「下請かけこみ寺」を全国に設置した。
 中央会では、下請適正取引を支援するガイドラインの普及啓発を図る事業を実施し、中小企業の取引改善に取り組んでいる。

下請け適正取引等の
推進のためのガイドライン

 中小企業の生産性向上のため、下請事業者と親事業者の“win-win”の関係づくりをめざし、次の10業種で「下請け適正取引等の推進のためのガイドライン」が策定された。
素形材 自動車 産業機械・航空機等 繊維
情報通信機器 情報サービス・ソフトウェア 
広告 建設 トラック運送 建材・住宅設備

 「原材料価格の高騰分を価格転嫁できない」「親事業者から一方的にコスト削減を迫られている」「契約内容が書面化されておらず、あいまいだ」-。
 ガイドラインには、こうした悩みを持つ下請事業者が親事業者と協力し、問題解決に向けて取り組んだ「ベストプラクティス事例」等、各業界の特性に応じた取引関係の改善に役立つ情報が掲載されている。ガイドラインが幅広く活用されることにより、下請事業者と親事業者の間の望ましい取引関係の構築が期待される。

下請けかけこみ寺

 下請かけこみ寺では、下請事業者の取引相談にきめ細かく応じ、紛争のスピーディな解決を図るほか、ガイドラインの説明会を開催するなど適正取引を推進する役割を担う。
  • 各種相談の対応
    中小企業が抱える取引に関するさまざまな悩み・相談に、下請代金法や中小企業の取引問題に詳しい専門家が親身に応え、適切なアドバイスを行う。
  • 裁判外紛争手続き(ADR)を活用したスピーディな紛争解決
    取引に係る紛争をスピーディかつ簡便に解決するため、全国の登録弁護士が裁判外紛争手続き(ADR)を活用して調停手続等を行う。
  • 「下請け適正取引等の推進のためのガイドライン」の普及啓発
    中央会と連携して、業種ごとにガイドラインの説明会を開催し、普及啓発を図る。
「下請かけこみ寺」相談取り扱い状況
(平成20年9月8日速報)
  下請代金
法関係
建設業法
関係
運送業
(代金法除く)
その他
(※)
合計
8月 350件 260件 91件 512件 1,214件
(注)
本相談件数は事業開始(平成20年4月1日)から8月29日までの累計値
(※)
下請代金法が適用されない中小企業同士のトラブルの他、「下請かけこみ寺」や法令等に関する一般的な質問等も含まれる。
資料:中小企業庁取引課



悩みを抱える下請事業者の声

 中央会では「下請け適正取引等の推進のためのガイドライン」の各業種ごとの説明会にて、参加者に現在の下請取引について忌憚なく自由にお話しいただいている。そのなかで明らかになった長野県の下請事業者が抱える悩みの一部を紹介する。

  1. 取引条件として別のモノ(ゴルフ会員権等)の購入を迫られることが何回かあった。
  2. どうやってこの単価で仕事をすればいいのか分からないくらいの指し値がある。
  3. 地域でのつながりのある発注者からの仕事は、少々値段が合わなくてもやらざるを得ない。
  4. 原材料は上がる一方、受注単価はほとんど上がらない。
  5. 現金で払ってくれるというありがたい面もあるが、集金時にほとんど10%引きで支払われる。
  6. マンション建設に携わり、完成後にやんわりと1部屋購入を強いられた。
  7. 運賃の値上げ、燃料サーチャージについて荷主にお願いした。話は聞いてくれたが、次の仕事が減った。
  8. なんといっても下請けは弱い立場にあり、あからさまには行われないが報復措置と思われることはある。
  9. 当初の予定では数カ月続く予定の仕事が突然ストップされ、当方の計画はまったく無視された。
  10. 3次下請が2次下請に単価引き下げの技術提案を行い、双方了解していた。しかしメーカーの了解が取れず従来のままの製造方法となったが、2次下請からの単価は下がったままになってしまっている。
  11. 材料のアップ分について単価の引き上げを要請しているが、まだ半分くらいしか了解してもらえない。企業によっては1年以上値上げ申請を無視されている。
  12. 親企業に公正取引委員会の検査が入るため、30%カットした単価で仕事をさせられ、それを下請が見積もったとする文書を作成させられた。
  13. 部品製造時に従来より高価な薬剤を使わなければならなくなったが、値上げは認めてもらえない。
注)この紹介内容は守秘義務の関係から、発言者等が特定できないように加工を加えている。


ベストプラクティス・
望ましい取引とは―
ベストプラクティス・望ましい取引事例

 下請事業者と親事業者とを対立するものととらえず、苦しい時こそ、それを共に乗り気る共存共栄のための運命共同体という認識を持つ。という考え方のもと、例えば、国際競争下において、原油・原材料価格の上昇をただ転嫁するのではなく、下請事業者と親事業者が改善提案を共有し、コストを低減するよう生産性向上を実現。その成果を両者でシェアするような関係を構築し、競争力を高めつつ、両者が適正利潤を得るような取引事例をいう。
 次頁に、現実に行われている、ないしは今後の普及が期待されるベストプラクティス・望ましい取引事例の一部を紹介する。


原材料価格の高騰分を適切に取引価格に反映
荷主と協議のうえ、軽油の基準価格を設定し、[燃料サーチャージ額=キロ程÷燃費×算出上の燃料価格上昇分(円/リットル)]を運賃とは別建てで上乗せしている。下請事業者に委託する場合にも軽油上昇分を転嫁した運賃設定とする。燃料サーチャージの計算に当たっては次のように取り組みを実施。
基準となる燃料価格、その一定の変動幅とその算定上の上昇額および使用車両の燃費を把握し、設定する。
運賃契約の体系に応じた燃料サーチャージの適用方法設定として、距離制貸切契約など、トラックの運賃契約の体系に対応した適用方法を決定する。
燃料サーチャージの改定および廃止の場合の条件を設定し、適用時に荷主企業に明示している。
(トラック運送業)

原価低減を実現しコスト減の成果を互いにシェア
親事業者の社内に調達、開発、生産技術、品質管理の担当者からなる原価低減のための特別チームを編成し、部品ごとの原価低減の具体的提案を実施している。また下請事業者の生産現場にも入り、工程改善活動を指導している。
(自動車)

共同での製品開発による部品数の削減
製品の構想段階で部品製造の下請事業者と協力して開発。親事業者の意図を理解してもらい、下請事業者の意見等も製品開発に取り込みやすくなり、結果として部品点数削減にも寄与している。
(産業機械・航空機等)

互いの交流による事業内容の理解
親事業者が価格交渉の内容を理解できていない状況を改善するため、親事業者から人員を数名受け入れ、数カ月研修して、下請事業者の業務内容をよく理解してもらうようにしている。また、親事業者の開発・設計段階で何が求められているか把握し、それに迅速に対応できるよう、下請事業者の従業員も数名、親事業者に派遣しており良い効果が出ている。
(素形材・鍛造)

配送費用の適切な負担
配送費用の決定に際しては、見積もりの前提条件として、発着地・配送頻度を明確に提示して見積もりを取得し、その内容を精査し、合意の上で費用を決定している。
(自動車)

環境対策や金型などに係る管理コストの適切な負担
当初の発注の際に、金物類等の部品用金型の保管年数、保管料等を契約に盛り込んでいる。
(建材・住宅設備)

サービス取引の適正化
情報システム取引におけるユーザ・ベンダ間の取引関係が、ベンダと下請中小企業との取引にも影響を与えることから、役割分担、責任等の契約条件等を文書で明確化している。
(情報サービス・ソフトウェア)

不良品の原因分析を行い改善提案を実施
親事業者で生じていた不良品の原因を検査・分析し、解決・改善策を提案。取引拡大と品質向上による親事業者のメリットを同時に実現している。
(素形材・熱処理)

支払い遅延防止等の法令の遵守
荷主は社会保険未加入等の法令違反の運送業者に対して運送の委託の見直しを図るなど、コンプライアンスを徹底するよう努める。
(トラック運送)

下請代金の支払い条件が合理的に改善された例
委託事業者に対して、手形から現金支払いへの切り替えを依頼したところ、ある割合までは現金支払いで、それを越えた部分のみユーザーの資金繰りがひっ迫するため手形で対応する、というように決済条件が改善されている。
(素形材・鍛造、自動車)


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