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月刊中小企業レポート
更新日:2008/09/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

保管・在庫管理、流通加工と輸配送をドッキングさせ、
徹底した情報管理で、10年で約8倍の急成長を実現。


南信貨物自動車株式会社
代表取締役社長 丸山 雄二さん


海外の先進物流ビジネスを導入し、
10年で約8倍の急成長をとげる

 「ただA点からB点へモノを運ぶという旧来の運送だけをしていても、結局安さで勝負の価格競争におちいるだけ。先進的な物流ビジネスを行っているアメリカなど、海外視察で見聞したことを頭に叩き込んで、今までのやり方を変えていきたいと思ってやってきました」
 丸山雄二南信貨物自動車社長は、平成5(1993)年に初めてアメリカを訪れたのを皮切りに、数年間にわたって意欲的に欧米業界視察を行ってきた理由をそう話す。
 同社は大正12(1923)年4月、丸山社長の祖父が創業以来、路線事業を展開。現在も長野県内はもとより、東京、神奈川にも路線ネットワークを持ち、甲信越と首都圏・中京圏を直結する物流サービスを提供している。丸山社長で4代目だ。
 「創業以来、全国はもとより、長野県内ネットワークの構築にも力を入れながら手堅く路線事業を展開してきた」という同社だが、丸山社長が社長に就任する97年前後から飛躍的に成長。当時10億円ほどの売上高が現在、同社単体で45億円、グループ全体では80億円にまで拡大している。10年で約8倍という急成長の原動力となったのが、海外の先進物流ビジネスの考え方を採り入れた事業展開だ。
 もともと運送業界の将来に不安を感じていた丸山社長は海外、特にアメリカの先進的物流ビジネスを手本にしたらどうかと考えていた。もっとも、当時は社長就任前。先代社長たちには海外視察の必要性はなかなか理解されなかったという。「どうしてわざわざアメリカまで行く必要があるんだ、と。いや将来を考えるとどうしても必要なんだと自腹で行きましたよ(笑)」。
 93年アメリカ中東部、95年アメリカ西部、96年にはヨーロッパ5カ国を回り、社長就任後の99年にも、引っ越し関連事業を視察に再び海外に飛んだ。

ノウハウを社内に蓄積し提案営業。
コンサルタントとして信頼を獲得

 「世界で一番物流ビジネスが進んでいるのがアメリカ。なぜかというと効率的な物流の考え方はすべて軍事から来ているからです。戦地の前線に兵員をどう運び、兵器や弾薬、食料、衣類といった必要な物資をいかに補給するか。その補給システムが物流ビジネスに応用されている。アメリカではまずモノづくりから物流ありき。トラックの寸法に合わせたパレットを用意し、それに合わせた荷物づくりをしています」
 つまり、つくる商品のサイズは、いかに効率良く運ぶかというところから決まるのだ。一方、日本ではどうかというと、まったく逆。メーカーがそれぞれのサイズで商品をつくり、トラックの規格とは関係なくパレットに荷造りをする。そのためトラック内に生まれる空きスペースにパッキンを詰めこみ、荷崩れなどを防ぐ必要がある。
 「商品の箱が破損はもとより、少し汚れても物流業者にペナルティが科せられるため、パッキンは過剰なほど念入りにします。しかし、もともと空きスペースが出ないサイズでつくれば最低限ですむはずなんです」
 丸山社長は海外視察を繰り返しながら、数年間はそれをどのようなかたちで導入するか考え続けた。「同じようにすれば日本の物流はもっと良くなるし、我々も付加価値を提供できる。海外視察で見て聞いて、良いことはよく分かったのですが、いかんせんそれを実践するノウハウがなかった」。
 丸山社長はノウハウを身につけるため、自ら必死に勉強。さらに他社から優秀な人材をスカウトし、社内でも人材を育成した。そうやって蒔いた種が実を結び、社内に先進的な物流システムを理解する人材が増えてくると、歯車が良い方向に回り出す。


現在の当社車輛
 「従来はお客様に言われるままに運んでいたのですが、こちらでお客様の物流のシステムを組み立て、こうすれば効率的でコストも下がりますよ、という提案営業ができるようになりました。さらに物流全般にわたってどうすればムダを省けるか、フォークリフトをどう使えば効率的かといった具体的な提案を行いながら、お客様の物流パートナー、コンサルタントとして信頼をいただけるようになったのです」


物流センター拠点に徹底した情報管理。
ローコストかつ高品質な物流を実現

 提案営業を展開する体制づくりのため、同社は96年、安曇野市豊科に初の物流センターを建設した。敷地約4,000坪。地理的に長野県の中心にあり、長野道豊科インターチェンジにほど近いという好条件を持つ。当初1,500坪の建物でスタートしたが、ニーズの拡大から増床を重ね、現在は敷地と同じ4,000坪にまで拡張した。
 同センターでは顧客荷物の受け入れから在庫管理、仕分け・梱包、出荷、返品処理まで、荷主の物流のすべて現在の当社車輛に責任を持つ。ただモノを運ぶだけでなく、保管・在庫管理業務と出荷情報をもとに仕分け・梱包するなどの流通加工、そして輸配送をドッキングさせ、徹底した情報管理を行うことで、ローコストかつ高品質な物流を実現している。
 「物流センターは、物流の専門家としてお客様の物流をこうしますよ、という提案営業の重要拠点。物流はすべて当社にお任せいただき、お客様は営業活動に専念してください、保管庫もトラックもすべて私たちが持ちますよと。そしてお互いにいかに合理化できるかを考えながら、トータルにコストダウンを実現していきましょう、というのが当社のやり方です」
 さらに、そのノウハウを活かして、もともと荷主企業が独自に管理・運営していた物流センターなどに社員を駐在させ、業務をそっくり請け負うというビジネスも展開している。
 例えば大手コンビニエンスストアの場合、管理者からパート社員まで同社社員をセットにして駐在させ、すべての物流業務を行う。顧客社員は棚卸しに立ち会う程度だ。業務で発生する間違いは2万分の1あるかどうかの正確さ。「そのくらいシビアな正確さが求められる時代」と丸山社長。
 物流をいかにローコスト、高品質、高付加価値なものにするか。それはひとえに効率的な情報管理にかかっている。

培った技術とノウハウを活かし、
「ツーマンデリバリー」を展開

 そして今、同社が最も力を入れているのが家具や家電などを2人1組になり、搬入、組み立て、据え付け、さらには集金代行まで請け負う「ツーマンデリバリー」サービスの展開。
 同社では以前から、事務用スチール家具製造メーカーの配送センター業務を請け負い、その配送計画に基づいて工場・オフィスなどに商品を納入していた。その際、運び入れるだけでなく、商品の組み立てから配置まで行ってきた。ツーマンデリバリーはそこで培った技術とノウハウを活かしたサービスだ。現在、家具と家電の大手量販店と契約し、長野県内の全店舗でサービスを提供している。
 さらに同サービスを発展させ、引越事業にも進出。全国にネットワークを持つ引越専門ビジネスの長野県フランチャイザーとして県内2拠点を展開し、着々と実績を上げている。
 ツーマンデリバリー・サービスに限らず、同社ではすべて荷主からの直接受注を基本とする。これも特徴のひとつだ。
 「当社では下請けは一切していません。運賃や条件の交渉もできず、主体性が取れないからです。お客様と相対で話し、当社のやり方をご理解いただいた上で直接受注し、当社あるいは教育の行き届いた子会社あるいは関連会社が運ぶ。もちろん運行管理から事故が発生した場合の処理まで、すべて当社が直接指示しています。業績を大きく伸ばすことができたのは、そういうトータル的な取り組みをしっかりやってきたからと自負しています」
 あくまでも主体的にビジネスに取り組み、責任を明らかにすることで顧客との信頼関係を築いていく姿勢。それが同社の成長を支えている。「これらを推進してくれる優秀な従業員がいてくれるからです」と丸山社長は目を細める。

環境リサイクル事業、
自販機事業に取り組み、注目を集める


RDV作業
 さて、同社では貨物運送事業のほかに別事業として、環境リサイクル事業、自販機事業を手がけている。原油価格高騰で非常に厳しい経営環境にある運送業界にあって、積極的に新規事業に取り組む企業として、県内マスコミ各社からの取材も多いという。
 環境リサイクル事業で行っているのは、顧客企業等に専用の車載型シュレッダーマシンで出向き、機密書類を安全に処理するシュレッダーサービス。機密文書を鍵付き専用ボックスで保管し回収し、「シュレッドマスター」の有資格者が裁断作業を行い、製紙会社に運搬してリサイクルする。
 「企業等での個人情報保護マネジメントの取り組みは進んできてはいますが、採算的には厳しい。しかし環境問題は避けて通れないテーマ。時代は確実に変わってきています」と丸山社長。循環型社会に貢献する企業姿勢を示すうえでも、地道に取り組んでいこうと考えている。
 自販機事業は大阪の飲料メーカーと共同で、缶50円・ペットボトル100円と格安の飲料を独自の自動販売機で販売する事業。同社では顧客の敷地に自販機を設置し、商品の補充・メンテナンスを行う。

50円自動販売機
 一般的に自販機では売れても売れなくても商品を数十種類並べる。しかし同社では売れ筋の数種類を厳選し、効率的に集中投下。むだな在庫、輸送をなくすことで大幅なコストダウンを実現した。現在の設置数は、諏訪、松本平・大町エリアで150基ほど。適正規模での採算ラインを見極めつつさらに拡大を図り、他地域への展開も検討していく考えだ。「自販機大手と競争するつもりはまったくありません。生活防衛という観点から、企業や病院などの福利厚生として利用していただければと考えています」。


安全教育と社員のモラルアップに注力。
急成長は人づくりの成果

 少子高齢化が進み、どの業界においても人材の確保は大きな問題だ。
 同社が松本市に管理本部を置くのも、人材確保に有利という点が大きい。「松本市は転勤族も多く、主婦などのパートのニーズが大きい。このような都市部でないと優秀な人材の確保も難しいのが実情です。まずは人がいるところに勤務先をもってくることが重要。その上で、職場が小ぎれいなビル内にあったり、現場でもエアコンが効いているなど、職場環境を整えることも大切です」。
 さらに同社では、現場と整備工場に三十数名、中国人研修生を受け入れている。海外研修生受け入れには「日本としてどう取り組んでいくのか、もっともっと真剣に考えなければいけない」と丸山社長は話し、法整備等により体制をきちんと整える必要性を訴える。
 一方、従業員教育にも力を入れる。春秋2回全社で行う「安全大会」をはじめとする安全教育はもとより、職場環境改善や従業員のモラルアップのための「5S」活動も積極的に行っている。
 ユニークなのは、冬期を前に全社で実施する「タイヤチェーン装着コンテスト」だ。長野県内では冬期、乗用車を中心にスタッドレスタイヤの使用が一般的になり、タイヤチェーンを巻く機会が激減。同社にもタイヤチェーンを巻いた経験があまりないドライバーが増えつつある。しかし安全運行には万全の備えが必要。ドライバー全員が気軽にタイヤチェーンを巻けるよう教育することを通して、安全意識のレベルアップを図るのが狙いだ。
 「たとえ少ない資本、設備でも、この地域では他に負けないというものがあれば大企業にも勝てる。それが私の信念です。そのためには我々も相当実力をつけていかなければいけない」と丸山社長は力を込める。同社の急成長はその信念に裏づけられた、人づくりの成果なのだろう。


プロフィール
清水 初太郎さん
代表取締役社長
丸山 雄二
(まるやま ゆうじ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 中央会も、いわば異業種交流団体であり、日頃から他ではできない横の連携が図られていることは言うまでもない。今後さらに中小企業の多様な連携組織に対する支援を強化し、企業間の連携に対するコーディネート機能を発揮してほしい。
南信貨物自動車株式会社

経  歴   1939年(昭和14年)6月7日生まれ
出  身   長野県下諏訪町
家族構成   妻・1男2女(長男は同社で常務として活躍中)
趣  味   旅行(特に海外)。かつては海釣りもよくしたが、最近は時間が無くていけない。ゴルフは社員がガンバッている昼間、やる気にはなれない。

企業ガイド
南信貨物自動車株式会社

本  社   〒393-0054 諏訪郡下諏訪町5446
管理本部   〒399-0033 松本市笹賀7600-7
TEL(0263)59-6151
FAX(0263)59-6165
創  業   大正12 年4 月(昭和18 年3 月設立)
資本金   1 億円
事業内容   貨物運送事業(特別積合・一般)、貨物運送事業・引越運送、航空利用運送事業、物流センター運営請負、流通加工・梱包、環境リサイクル・一般・産業廃棄物収集運搬、一般労働者派遣業、自動車分解整備業・保険代理業
事業所   本社、管理本部、長野営業所、長野南TC、長野引越センター、松本営業所、たきべTC、松本引越センター、下諏訪営業所、諏訪営業所、コクヨDC、東京営業所 その他拠点(佐久・飯田・横浜・成田・戸田・瑞穂)
関連会社   株式会社パワード・エル・コム、城南運送株式会社、ルピナ車輌サービス株式会社
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