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月刊中小企業レポート
更新日:2008/08/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

デジタル機器の進化を支える真空蒸着による特殊表面処理技術。
顧客満足の追求とグローバルな視点で世界をめざす。


ダイナテック株式会社
代表取締役社長 中嶋 裕二さん


特殊表面処理技術で
「元気なモノ作り中小企業300社」に選定

 中小企業庁では、若者にものづくりへの関心を高めてもらう狙いから、普段は目に触れにくいが重要な役割を果たしている企業にスポットをあてる「元気なモノ作り中小企業300社」を選定している。選ばれるのは独自の高い技術を持って頑張っている全国のものづくり企業。全国の経済産業局、独立行政法人中小企業基盤整備機構、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫および国民生活金融公庫がそのネットワークを通じて集めた情報等をもとに選考している。
 2008年度「元気なモノ作り中小企業300社」に選ばれたのが、ダイナテック。真空蒸着を用いた特殊表面処理技術による機能膜と装飾膜が高く評価された。
 今回の受賞について、中嶋裕二代表取締役社長は「(技術力はもとより)お客様が何を望んでいるのかを理解し、納期・コスト・品質・技術対応力が一体化したかたちでのCS(顧客満足)を追求し、提供しています。そこを評価していただいたのではないかと思っています」。そしてこう続ける。
 「受賞の知らせを聞いて、ああ、これからだな、と思いました。最適なものをつくるパートナーとして当社を見てくださるお客様が多く、そのことがベースになって今回選ばれたというのはとてもうれしい。ありがたいという気持ちはもちろんですが、CSへの取り組みをさらに今後どう深めていくか、ここから新たなスタートだという気持ちですね。ただの打ち上げ花火ではなく、これをひとつの契機にしたい」
 同社は携帯電話をはじめとする携帯情報端末やデジタル機器などの情報機器分野に特化し、金属および樹脂の特殊表面処理加工を手がける。樹脂でありながらメタリックな輝きを放つ最新人気機種をはじめ、国内外の大手携帯電話メーカーとの取引で業績を伸ばしている。

情報産業に進出。装飾メッキに加え、
機能を付加する機能メッキに取り組む

 中嶋社長の父、武三氏が1946(昭和21)年松本市白板でメッキ事業をスタートしたのが同社の始まり。武三氏はもともと経理畑で技術者ではなかったが、戦後復興とともに発展する事業としてメッキに着目した。53年「株式会社中島電化工業所」に改組し、90年現社名に改めた。
 当時主に手がけていたのは、時計(クロック)、ドライヤーなどの外装の装飾メッキ。特にクロックでは、地域製造業者数社で製造工程を分担して製品を仕上げる協業組合のようなかたちでの製造に参加し、メッキ部門を担った。
 昭和40年代に入ると新たな表面処理分野を手がけるようになる。情報産業に関わる部材への機能メッキだ。きっかけは長野市周辺に工場を展開していた大手情報関連機器メーカーからの依頼だった。
 「当社のメッキ技術が評価され、個別半導体の外観に施すメッキができないかと声がかかりました。それは機能メッキという、表面処理を施すことによって何らかの機能を付加するメッキ。装飾メッキはとにかくきれいに仕上げることが大事でしたが、機能メッキは見た目よりも、求められる機能を満たすことが必須条件です。そういうものは手がけたことがなかったので、同じ表面処理でも違う世界があるものだと思いました」
 コンピュータの記憶装置に使われる磁気ディスクを構成するパーツは非常に多く、表面処理アイテムも多岐にわたる。しかも精密機器そのものの品質を左右する機能を付加するため、表面処理には非常に厳しい品質管理基準が求められる。
 そこで同社は、手がけるものひとつひとつの品質を保証する独自の品質管理体制の構築に取り組む。それが取引先からの信頼向上につながり、取引規模も拡大。早くも昭和40年代半ばには、機能メッキが同社でかなりのウエートを占めるようになっていた。
 情報産業の発展とともに、磁気ディスクは14インチから10.5インチ、8インチ、5インチ、3.5インチ……と、急速にダウンサイジング。そのたびにより厳密な品質管理や工程管理が求められた。また表面処理技術そのものにおいても、品質面のほか環境問題やアレルギー対策から新たな取り組みが必要となった。
 同社は品質管理体制に磨きをかけ、このような取引先の工場監査基準の厳しい要求レベルをクリアしたが、「それができる企業はそう多くはなかった」という。

メリットの多い「真空蒸着」との出会い。
それが大きなステップに

 そのような状況の中で、同社は大きな決断を下す。創業以来の装飾メッキを止め、磁気ディスク部品を中心とする機能メッキ一本でいく-。「装飾メッキと機能メッキとは技術も考え方も全然違う。機能メッキが求められる品質ニーズを実現し、技術力を伸ばしていくためには昔ながらのやり方との同居はできない。そう考えたからです。これが創業、装飾メッキに次ぐ、当社3番目のステップとなりました」。
 急速に進む磁気ディスクの高性能化とダウンサイジングにより、パソコンが情報機器の主役になることを予測。同社は次なるターゲットをパソコンに定め、金属に加え、樹脂への表面処理技術にも挑戦していく。そこで初めて手がけたのが、現在同社のコア技術となっている真空蒸着だ。
 「樹脂へのメッキは従来、溶液中で表面をエッチングし触媒を付与して行っていましたが、デリケートな薬剤を使うため水処理の問題が出てくる。それを思案していたところ、特にヨーロッパで厳しくなっていたEMI(電磁気妨害)対策を真空蒸着という表面処理技術で行う方法が出てきていた。さっそくライセンスを取得しました」
 これが同社4番目の大きなステップとなる。
 真空蒸着とは、金属や酸化物を加熱・蒸発させて対象物の表面に薄膜をコーティングする技術。従来のメッキの場合、環境面のほか、水溶液の中に入れるため材料への影響も考慮しなければいけないなどデメリットも多い。
 一方、真空蒸着はメリットが多い。真空中で行うので効率よく、また確実に樹脂基板に付着させることができる。マスキングエリアも微細に設定できるため、樹脂表面により複雑な機能を付加することが可能。さらに製造ラインの中に工程を組み込むことができるため、スムーズなライン構築ができる、等々。
 このようなメリットがパソコンには最適だった。同社はパソコンメーカー各社から大量受注し、パソコンの筐体をはじめ、さまざまな樹脂パーツを手がける。
 しかし現在同社では、磁気ディスクもパソコンもほとんど手がけていないという。メーカーの生産体制がほとんど海外にシフトしたからだ。「磁気ディスクがなくなり、パソコンもなくなった。数千万の取引が数年後にはゼロということが実際にある。我々の業界はそういうことを繰り返しているんです。当社ではそれぞれのタイミングをうまくとらえられたことが今につながっているのかなとは思います」。

携帯電話にはすごいビジネスが
詰めこまれている

 そして今、同社が最も力を入れているのが海外生産及び国内生産の携帯電話だ。
 「携帯電話には自動車部品同様に沢山のパーツがある。従来EMI対策としてやってきた真空蒸着ですが、それだけでなく、液晶画面の反射防止などいろいろなコーティング技術が使われていることが分かりました。携帯電話にはすごいビジネスが詰めこまれているのです」
 同社のコア技術である真空蒸着を用いた技術領域について、以下に簡単に紹介する。


    EMIシールド
  • EMIシールド
    電磁波シールド効果の高い厚膜蒸着の「エラメットプロセス」、汎用樹脂に応用でき、導電性にすぐれる多くの金属を容易に皮膜できるなどメリットの多い独自の「Dyvac法」の2つの特殊表面処理加工を行う。EMIで各国の規制や規格をクリアしている。

  • 光学薄膜蒸着

    光学薄膜蒸着
    携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコンなど、さまざまな情報機器に搭載されている液晶パネルやカメラのレンズの外光反射を抑え、視認性を高めるためのコーティング(ARコート膜)やフィルター効果のあるコーティング(光学フィルター膜)等。デリケートなプラスチック基板に対応できるよう、洗浄から品質検査までの全工程をクリーンルーム内で行っている。


  • 不連続・加飾蒸着
  • 不連続・加飾蒸着
    携帯電話が多機能化したことで電波ノイズ、熱など、さまざまな問題が発生する。それをクリアするコーティング技術で、樹脂表面に非導通の金属薄膜をコーティングし、メタル調の美しい装飾を加えるとともに、電波干渉がなく静電対策も不要にする。携帯電話の筐体・部品をはじめ、情報機器の薄型・小型・高密度実装に対応。絶縁、薄膜、低環境負荷、UVハードコートとの組み合わせによる高信頼性の実現など、独自の光輝表面処理技術を追求している。

 「携帯電話はノキア、サムソン、モトローラ、ソニーエリクソンで世界85%のシェアを占めていますが、イメージセンサ、レンズをはじめ部品の多くは日本製。これまで進めてきた、機能と外観の両方を持ち合わせた特殊な膜の追求が当社の成長を後押ししています」

コア技術を中心とするミニEMSメーカーへ。
その重要な戦略として中国に展開

 表面処理の仕様要求が非常に高度化している今、一次メーカー(コンポーネントメーカー)の下請けとしての立場ではCSを高めることはできないという実感から、同社は近年一次メーカー志向を強めている。
 「納期への対応もCSかも知れないが、それをさらに高めリピートオーダーにつなげるには、技術面でより高い信頼を得ないとだめ」と中嶋社長。そしてこう続ける。「当社は創業以来、他社のすぐれた仕事を見て、このくらい俺たちにもできるんじゃないかという気持ちで技術を高めてきた。しかもカタチになるまで決してあきらめない。今まで我々がやってきたのはその繰り返しです。難易度の高い仕事に直面した時、できない理由をあげる前に、できる方向を見つけていくことが大事だと考えているのです」。
 時代の変化に対応しながら一貫して表面処理技術を追求してきた同社。今世界レベルで技術やものづくり環境が激変する中、同社のこれからの姿として中嶋社長が思い描くのは、コア技術である真空蒸着を中心とする「ミニEMSメーカー」だ。
 その布石としてすでに真空蒸着を軸に、成形-蒸着-印刷-レーザー加工の部品一貫生産も手がけている。いずれは金型設計の内製化も視野に入れ、高品質なものづくり企業をめざす。

コンポーネント

 さらに重要な戦略として展開しているのが、中国生産の拡大。05年から天津工場が稼動しているが、08年度内に新たに深にも工場を開設する予定だ。いずれも世界の携帯電話メーカーの工場が集積する地域で、生産拠点として最適な立地。これを機に新たな取引の開拓につなげる狙いだ。
 「携帯電話が日常品化する中で、そういうモノをつくるのはもやは日本ではないと考えています。もちろん開発など、日本に残すものは今後も積極的に展開していきますが。ものづくりに最適な場所は、パーツと人材が一番集めやすいところ。それがより鮮明になってきていると思います」
 松本で創業以来60有余年。中嶋社長は表面処理という創業以来の技術領域にこだわりつつ、グローバルに展開するものづくり企業をめざしている。



プロフィール
清水 初太郎さん
代表取締役社長
中嶋 裕二
(なかじま ゆうじ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 講演会などで刺激を受けることが大事だと思っている。その機会を積極的にとらえていきたい。その支援をしていただければと思う。
ダイナテック株式会社 松本本社工場
松本本社工場

経歴   1950年(昭和25年)8月15日生まれ
出身   松本市
家族構成   妻、愛犬(ボギー)
趣味   ドライブ、映画鑑賞、ゴルフ

企業ガイド
ダイナテック株式会社

本社   〒390-1242 松本市大字和田5511-5(松本臨空工業団地内)
TEL(0263)47-6456
FAX(0263)47-6435
設立   昭和21年10月
出資金   5,000万円
事業内容   金属等表面処理加工 EMIシールドコーティング(電磁波シールド蒸着)、不連続・加飾蒸着、光学薄膜蒸着、外装塗装、コンポーネント
事業所   本社松本工場、豊科工場、天津工場(中国)
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