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月刊中小企業レポート
更新日:2008/08/20

知財あれこれ

登録されない商標の出願は、
お金の無駄遣い

綿貫国際特許・商標事務所
弁理士 綿貫 隆夫

 「奈良市にある飲食店が『Live&Bar蔵部D』という名前で、観光案内やネットに宣伝しています。『蔵部』はわが社のレストランの名称として商標登録しています。使用をやめさせて下さい。」
 小布施町の株式会社桝一市村酒造場の社長セーラ・マリ・カミングスさんが資料を持って事務所に来られました。資料によると、奈良の店は、江戸時代に建てられた米蔵を利用しており、採りたての季節野菜を使ったフレッシュな料理と地酒・焼酎・カクテルを提供している。「相手は、お宅の登録より後から店の名前をネーミングして使い始めたようですから、やめさせることが出来ます。しかし、サービスマークの登録は平成4年に導入された制度で、商品とは異なり、サービスを提供する場所一箇所で使用されているものが多く、遠くで使用している者にとっては、商標権者の営業に直接影響を与えているという実感がないため、なかなか止めさせるのが難しいです」というと、セーラさんは、「商標の登録は、商標と商品・サービスの関係で日本で一つしか登録されず、これと類似の関係にある商標―商品・サービスは混同するとして他人に登録されません。したがって使用することも出来ない筈です。いくら影響がないといっても、商標権者は使用をやめさせることが出来る筈です」という。私が、「日本的な受け止め方としては、あまり小さな事業者にまで商標権を主張すると、厳しすぎるということでお宅や小布施の印象を悪くする心配があります。どうしましょうかね。」というと、「私たちは、小布施が全国で有名になれば『蔵部』も栄える。『蔵部』が小布施の名所になれば小布施ももっと賑わうと思っています。私たちは小布施以外の地に『蔵部』の支店を出す気はありません。しかし、小布施も『蔵部』も日本でブランドになることを願っています。もしほかに『蔵部』と紛らわしいレストランが出来て、信用に傷の付くようなことをされても困ります。使用料をもらって許可するつもりもありません。造り酒屋さんが蔵を改修してレストランをやるなら、『蔵部』サミットに参加することを条件に『蔵部』の商標の使用を認めるかもしれませんが、米蔵や糸や乾物の蔵などを改造したレストランがみな『蔵部』を使うようになれば、普通名称化して収拾が付きません。そこまでいかなくても、蔵を利用したものにやたらに『蔵部』を使われたのでは私たちのレストラン『蔵部』のイメージが薄くなってしまいます。」彼女が日本語で商標法の本質を説明したのには驚いた。アメリカ人の権利意識は高い。奈良の業者とは、相手の弁護士と内容証明郵便のやり取りを何度かして、結局「蔵武D」に変更してもらい、対価の請求は無しとした。

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