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月刊中小企業レポート
更新日:2008/06/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

WEBを最大限活用し“川下”から“川上”へ。
企業としての生き残りをかけて新市場にチャレンジ。

ダンク セキ株式会社 代表取締役社長 関 一朗さん
ダンク セキ株式会社
代表取締役社長 関 一朗さん


ネットで注文する
「わたしだけの本格ブック」

 見るからに立派な上製本仕様の写真集だが、中身をよく見れば、個人が自分のデジタルカメラで撮った家族写真。これが「わたしだけの本格ブックができちゃう」と銘打つ、ダンク セキの「かんたんアルバム」だ。
 パソコンで同社のWEBサイトにアクセスし、専用ソフトを使って写真や文章をレイアウト。そのデータをインターネットで送ると1週間足らずで印刷・製本し送り返してくれる。全国(世界)どこからでも1冊単位で注文を受け付け、立派な本にできるのが特長だ。1冊の値段はサイズやページ数(20~60ページ)、表紙の素材などによって幅があり、3,800円から17,800円まで。
 2005年にサービス開始以来、デジタル印刷機と紙にツヤを出す加工機の導入などで画質向上も図り、順調に売上げを伸ばしている。家族写真を中心とする一般個人客が約7割だが、幼稚園・保育園、学校、結婚式場やプロカメラマンからの注文も多いという。
 「かつて写真は1枚ずつプリントして取っておくものでした。しかし今、欧米ではまとめて1冊の写真集にして取っておくというのが流行っているんです」と、関一朗ダンク セキ社長。そしてこう続ける。
 「そこで当社も、と始めたのがこのサービス。データさえ送ってもらえば、本づくりのプロならではの技術で1冊ずつ作り、日本中、世界中に送ることができます。法人対象の仕事も大切にしながら、個人を対象にしたサービスの拡大に力を入れています。写真がフィルムからデータになったこと、そしてWEBの発達によって違う世界が見えてきました」

厳しい状況からの脱皮めざして
インターネットの世界へ

 同社は終戦翌年の昭和21(1946)年、「関製本」として創業した。
 その後、別会社で印刷事業も手がけてきたが、本体は製本業ひと筋。長野市には活版印刷時代から書籍などの“文字もの”の印刷を得意とする印刷会社が多く、同社も書籍のほか百科事典、美術上製本などの製本を数多く手がけてきた。
 ところがパソコンやインターネットの急速な普及によって、カタログや書籍の電子化が急速に進んだ。それにともなう印刷・製本需要の減少から、全国ではこの5年間で半数近くの製本業者が転廃業し、県内業界もピーク時の57社から33社に減った。印刷会社が自らの生き残りをかけ、製本の内製化を進めたのも痛かった。
 直面する厳しい状況に、関社長は新たな市場に狙いを定める。WEB、つまりインターネットの世界だ。きっかけは長男と次男の留学。留学先のカナダの大学で教科書やレポート提出、さらには卒業証書まで、大学と学生のやりとりのほとんどがWEBを介して行われていることを知ったのだ。「最初、子供逹が何を言っているのかさっぱり分からなかった。まさにカルチャーショックでした」と振り返る。
 「私たちはこれまでずっと、紙の消費量が文化や経済のバロメーターだと信じてきました。ところが今や紙の生産・消費が地球環境に負荷をかけている。かつては石炭がなければ生活が成り立たなかったのが、どんどん他のエネルギーに変わっていった。そう考えれば、教育や情報伝達の環境も今後どんどん紙からWEBに変わっていくはずです。株券や電車の切符も紙が不要になり、入札・申告などの書類も電子化されつつある時代。もし環境問題の視点から、教育書や法規書などの書籍出版が紙ではもう不要とされたら、長野で印刷・製本の仕事はほとんどなくなってしまうでしょう。
 しかし、我々が得意としてきた“文字もの”はつまり、情報メディア。長く培ってきた本づくりの技術も生かして、WEBという新しい分野に入っていくべきだと発想の転換を図ったのです」

“やりたい”仕事を求めて
人材が集まる時代がいつかくる

 そして平成18年、同社はそれまでの製本・印刷事業は生かしつつ、ホームページ制作、電子出版、デジタルコンテンツ制作、システム開発といった新たな事業への業態転換を図る。同時に社名から創業以来の「製本」を外し、「ダンク セキ」と改めた。
社員管理システム 社内の仕組みも、日報、出退勤届け、購買届けなどから、社員名簿、採用時の履歴書といった社員管理に関わるものまで、あらゆる社内書類から紙を廃止し、すべてWEB上で行うシステムを構築。さらに最高意思決定機関を社長ではなく役員会とするなど、経営体制そのものも変えた。 
 創業60年のまさに節目の年、関社長が打ち出した大転換。社員や関係者に戸惑いや抵抗はなかったのだろうか。
 「いやとんでもない、ものすごくありましたよ。創業者である父は私と口をきかない、母は淋しそうな顔で不安と訴える…。親族や関係者も、一体何を考えているんだと。社内でもベテラン社員を中心に相当な抵抗がありました。先代社長とともに何十年も働いてくれた職人たちをはじめ、WEBが理解できない結構な数の社員が会社を去っていきました」
 強烈な逆風、その中での孤独感にもめげず、「半ば強引に」進めた業態転換。そこまで関社長を突き動かしたものは、「ここでリセットして、まっさらなところからやっていかなければ生き残れない」という強い危機感と信念だった。
 この大改革によって現在、社員はピーク時の120人から80人にスリム化し、平均年齢もぐっと下がった。全員がWEBを使いこなす。「“やらされる”のではなく、自分たちが“やりたい”仕事を求めて人材が集まる時代がいつかくる。そう思ってすべてをWEBに切り替えたのですが、今まさにそういう社内環境になりつつあります」。
 WEB部門で人材を募集すると「引く手あまた」のような状況だという。「優秀なスキルを持つ希望者も多く、人材確保には困っていません」。

データの送受システムづくりに
思い切った投資

デジタル印刷機 ソリューション事業では、法人向けと一般向け両方のサービスを提供している。
 法人向けサービスでは、WEBサイト(ホームページ)の企画・制作、管理・運営のほか、社内LAN構築とそれにともなうシステムの開発を行う。モノやサービスが何でもインターネットで買える今、WEBサイトは企業にとって宣伝・販売、顧客とのコミュニケーションの重要なメディア。同社はデザインはもとより、顧客にとって最も効果的なサイトを構築し、その後の管理・運営まで手がける。
 一般向けサービスでは、自社ブランド商品「かんたんアルバム」のほか、マグカップやTシャツなどあらゆる立体物へのプリント、オリジナル写真のジグソーパズル制作などを行う。これは印刷会社などからの受注を待つ“川下”産業から、WEBを通して、一般個人客に直接アプローチする“川上”産業への転換だ。
商品群 一般向けサービスの窓口はすべて同社のWEBサイト。「かんたんアルバム」の場合、利用者は本のサイズやページ数、印刷の仕様などを決め、作り方に従って専用ソフトをダウンロードし、自分で撮ったデジカメ写真を好きにレイアウトする。フォームに必要事項を記入し、作ったデータを指示に従って転送すれば注文完了。同社はそのデータをデジタル印刷機で直接出力(印刷)・製本し、1週間程度で顧客に届ける。
 同社はこの一連のシステムを独自に構築した。「要は顧客がデータをどう送り、こちらがそれをどう受け取るか。当社はそのシステムづくりに思い切った投資を行い、日本でもかなり先端を走っていると自負しています」。
 このサービスは個人だけでなく、結婚式場やプロカメラマンも注目。独自のサービスとして利用するケースも増えている。また葬儀会社と提携し、故人をしのぶアルバムを製作するサービスも事業化していく計画だ。

価格競争に対抗する武器。
それは創業以来培ってきた技術力

 さらにネット通販大手などへのOEM供給もスタート。今後飛躍的に受注が増えることが予想され、さらなる投資も視野に入れる。
 このような景気の良い話にも、関社長は冷静だ。「提携を決めたのは、撮った写真がすぐ冊子にできることを世の中にアピールし、この商品の市場を創るため。そのうち必ず他社が参入し、価格競争が起こるはずです。しかしそれが嫌で新業態に脱皮したのだから、同じテツは踏みませんよ」。
 同じテツを踏まないための武器。それこそ、創業以来培ってきた高度な製本技術だった。少量生産のアルバム用に従来よりも大きく開き、しかも壊れない新しい製本方法を開発。それで特許を取得したのである。
特許 「他社がいろいろな冊子を作っても、すぐれた製本技術で生涯残る本はうちしかできない。それには自信があります。製本技術で差別化を図り、自社ブランド展開を図っていこうというのが当社の戦略です」
 新しいアイデアを次々にかたちにしていこうと取り組んでいる。最近新たに売り出した「オンリーカレンダー」もそのひとつ。これは自分や家族、友人などの写真やコメント、記念日などを入れ、開始月も誕生月や記念日から始められる世界でひとつのカレンダーだ。プレゼント用に人気が高まりつつあるという。
 高品質な本づくりには、高度な印刷技術も欠かせない。「要は少部数に対応し、しかも高画質な印刷ができる印刷機をいかにうまく使いこなすか。当社の一番の強みは、そのためのソフトを自社で開発しているところにあると思います」。

今までのやり方で会社を
継続することはもうできない

「製本・印刷分野で売上げを伸ばすのはもう無理。現状維持を図りながら、WEB事業を確実なものとし、さらに伸ばしていきたい」
 長野県製本工業組合および長野製本事業協同組合の理事長のほか、全国製本工業組合連合会の理事も務める関社長。組合員にも事あるごとに「今までのやり方で会社を継続することはもうできない」と言い続けているという。
 「とにかく早く業態転換を図ること。もっとビジネスにチャレンジしたいという思いがあるなら、製本で培った技術を生かして、WEB事業など新たな分野に着手していくべきだと指導していきたいと思っています」と関社長。製本業からWEBビジネスへという、全国でも「ほとんどない」思い切った業態転換をやり遂げ、業績を上げているだけに説得力がある。
 厳しい時代の変化のなかでいかに生き延びていくか。製本業界のチャレンジはまだまだこれからだ。ここでも関社長のリーダーシップが期待されている。


プロフィール
関 一朗さん
代表取締役社長
関 一朗
(せき いちろう)
中央会に期待すること

ダンク セキ 社屋中央会への提言
 その会社にとってメリットのある施策の紹介をはじめ、適切な指導が受けられるのが中央会のメリット。 しかしその有効な活用法を知らない企業も多い。企業にはもっと中央会を活用してもらいたいと願っています。

経歴 1948年(昭和23年)3月22日生まれ
出身   長野市
家族構成  
趣味   空手(7段)。大学で月2回師範として指導する。坐禅のほか、仏像彫刻や寺巡りも。

 

企業ガイド
ダンク セキ株式会社

本社 〒381-0012 長野市柳原2550
TEL(026)295-2550
FAX(026)296-2550
設立   昭和21年7月
資本金   1,500万円(グループ計4,000万円)
事業内容   製本(オンデマンド製本、上製本、並製本、手帳、特殊本、装幀、高周波塩ビ加工ほか)、印刷(印刷物全般)、ソリューション(ホームページ制作、電子出版事業、デジタルコンテンツ事業、インターネット広告事業・印刷物の受注、書籍の企画・編集、書籍の販売)
事業所   本社、東京営業所
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