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月刊中小企業レポート
更新日:2008/06/20

イノベーション

消費税大増税時代

 国と地方の借金の残高がよく問題視されています。その残高は、平成19年度末で773兆円、対GDP(国民総生産)比で148%になっています。この対GDP比は、借金と収入との割合ですから、企業と銀行からの借金の割合(有利子負債月商倍率)に例えることが出来ます。1年や1ヶ月の売上高に対してどの位の借金が適正かという指標です。一般企業ですと半年から1年の売上高に相当する借金が限度と言われています。適正な国民総生産(ある意味での国全体の売上)と公債との比率は、60%程度が好ましいとのことから、「1年分の売上の半分しか借金はダメだよ」というルールは企業も国も同じであると言えます。他国と比較しますと、ヨーロッパ諸国や米国は50%から70%程度ですし、かつて先進国中最悪と言われたイタリアでさえ121%ですから日本の借金は突出しています。
 歳出削減(企業でいうコスト削減)に取り組み、借金返済のための消費税増税が考えられます。10%を突破するような消費税大増税時代に備え、我々経営者は準備をしていかなければなりません。高額商品を中心とした駆け込み需要と税率が上がった後の落ち込みは当然に予想されますし、消費税の増税分のコスト転嫁が出来ない医療や福祉の経営にはマイナスの要因が多いと感じます。
 では、消費税の増税により需要が減退し収入が落ち込んでしまうのを待つしかないのでしょうか?確かに高額商品を中心に消費は落ち込みますが、新たなビジネススタイルがどんどん出てくることが予想されます。例えば、車の個人間売買です。業者から購入する場合には消費税がかかりますが、個人間であれば消費税はかかりません。10%台の消費税になれば100万円の中古車で10万円も価格が違う要因になりますから個人間売買が増加し、これを支援するビジネスが伸びる可能性があります。オークションを通さないので中間マージン分のコストを売り手側と買い手側の双方に与えることが出来ます。中古車の場合は、値段も大事ですが車両の状態も大事なので品質面の保証も付けた、個人間売買を支援する企業も出てきています。今後、普及することが予想されます。
 10%台の消費税率になったときに、自社のビジネスにどのような影響が及ぶのか?真剣に考えなくてはいけない年になったという実感です。

事業承継への第一歩
事業承継計画表の活用

 平成20年3月号で、事業承継時の相続税が猶予になる制度のご紹介をさせていただきました。日本を支える中小企業で後継者の確保が困難となっている現状に対して、国も税制面での対応に乗り出したことをうかがわせます。中小企業白書によると、現在、日本の中小企業経営者の平均年齢は約57歳で、引退の予想平均年齢は約67歳、その差は10年程度しかないようです。また、企業の廃業の約4社に1社は、後継者がいないことを理由とする廃業であると考えられています。こうした点を考えると、今から事業承継対策を考えることは決して早すぎることはないですし、国の後押しが本格化してきたこともうなずけます。
 では、事業承継は実際には何をすれば良いのでしょうか?やるべきことは様々ありますが、まずは大きな全体像を捉えることが重要です。そのための有効な手段として、今回は事業承継計画表の作成をご紹介させていただきます。事業承継計画表とは、横軸に年数、縦軸に項目欄を取り、それぞれの項目について何をいつ行うかといったスケジュールを1枚の紙に書き込んだもので、中小企業庁のHP(19ページ参照)でも紹介されています。会社の規模や状況にもよりますが「事業承継は10年計画」と言われるように、準備や対策に長い期間を要し、また多くの利害関係者が係わることになります。ゴールを定め、そこから逆算し、いつ何をすべきかスケジュール感をもって把握できますし、現状をしっかりと認識することで早期の対策にもつながります。
 事業承継計画を作成する上の主なポイントは、以下の点です。

(1)完全承継(経営者の引退)と代表権の委譲の時期
 後継者に譲れるかどうか考えてしまうと定まりにくいのですが、ご自身のライフプランから、いつリタイアするのが望ましいのかを考え、まずは事業承継のゴールを明確にしましょう。また、後継者に重要なポストを任せ、関係者と意思疎通する機会を与えることが重要です。

(2)中長期的な業績予測
 10年を5年スパンで捉え、前半、後半でそれぞれ売上利益計画を作成します。また、この過程により、後継者と共同で作業を行い、価値観を一致させます。

(3)関係者の理解

家 族:
家族内での話し合いの場を持つことが重要です。
ここでは直接事業に係わらない家族への配慮も重要です。
従業員:
実力の伴わない後継者を助けられるように、早期につながりを持てるような関わり作りを考えていく。
取引先:
他社勤務や同行訪問などで幅広い人脈形成の場を設ける。
銀 行:
後継者の資質は、銀行の格付評価などにも繋がります。完全承継する前に、紹介する機会を持ちコミュニケーションを図ります。

(4)定款の見直し
 事業承継後、株式が第三者へ分散することを防ぐため、譲渡制限規定や相続人への買取請求規定が定款に盛り込まれているかの見直し。

(5)財産の分配
 ご自身の意向を正しく伝え、円滑な財産承継を行う為、遺言を作成します。その際、後継者以外の家族への配慮も重要です。また財産の割り振りだけでなく、ご自身の想いや気持ちも盛り込むことが重要です。

(6)株式移転
 株式の移転と共に種類株式の活用の検討。株式の大部分を移転し議決権による影響力をなくした後も、拒否権付種類株式(黄金株)を持つことで、総
 会決議などにNoと言え、牽制機能を持つことができます。

(7)社内規則
 就業規則、退職金規定、役員規約など、明確なルールを残すことが重要です。

事業継承計画表の例

 今回、皆様にご紹介するにあたり、実際に事業承継計画表を書いてみましたが、自分の想いを1枚の紙に書き起こしていく過程を通じて、目に見えなかった課題を把握できるようになりましたし、経営者の皆様が抱える悩みを僅かながらにでも実感できたように思います。事業承継では、家族はもちろんのこと、従業員や、得意先など関係者が多岐にわたります。後継者への想いが先行してしまいがちですが、そうした周辺の関係者の理解と協力をいかに得ていくかが、事業承継成功にとって何より大切なのではないでしょうか?

※本文は、松本市巾上の税理士法人成迫会計事務所で執筆していただいたものを掲載いたしました。

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