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月刊中小企業レポート
更新日:2008/05/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

地元の旬の食材を使った家庭料理を好きなだけ召し上がれ!
「旬採厨房しゅふふ」で南信州地域づくり大賞奨励賞受賞。

企業組合ネイチャーファームあなん 代表理事 小林 ふくみさん
企業組合ネイチャーファームあなん
代表理事 小林 ふくみさん


民俗芸能や祭りの宝庫、阿南町に
バイキング形式のレストラン

 県最南端、愛知県と境を接する町、阿南町。三州街道(国道153号)、遠州街道(国道151号)、秋葉街道と古くから街道が整い、東海道から伊那谷への人、モノ、文化が行き交う道筋として発展した。奈良や京都、伊勢などの影響を受けた三河地方の文化を色濃く継承。国重要無形民俗文化財に指定される「新野の雪まつり」「新野の盆踊り」をはじめ、民俗芸能や祭りの宝庫としても知られる。
 そんな山あいの町の、川遊びもできる清流のほとりに「旬採厨房しゅふふ」はある。地域の旬の食材を使った家庭料理を思い思いに選んで食べられるバイキング形式のレストランだ。
 ゆったりとした清潔なスペースの一画に、煮物、焼き物、揚げ物、和え物からサラダ、カレー、デザートまでずらりと並ぶ。料理は20数品目。どれもなじみ深い家庭料理ばかりで、ホテルなどのバイキングともひと味違う親しみやすさが食欲をそそる。実際、来店客の表情からは食事を楽しんでいる様子がよくうかがえる。平成17年4月オープン以来、女性客を中心に中高年の夫婦、家族連れに人気を集める。
賞状 平成20年2月、地産地消と観光振興を結びつけた発想と行動力が高く評価され「平成19年度南信州地域づくり大賞」(県主催)で地域経済活性化部門の奨励賞を受賞。新しい農山村振興のモデルとして期待されている。
 「旬採厨房しゅふふ」は、天然温泉施設「かじかの湯」を中心に、陶芸体験館、特産品販売店、大型コテージ、キャンプ場などが並ぶ総合レジャー施設「ゆうゆ~らんど阿南」の一画にある。
 同施設の経営主体は第三セクター。町では平成15年にオープン10年を経てリニューアルを決めたが、その際、空きスペースとなる場所で新たな事業主を公募。それに応募し当選したのが、旬採厨房しゅふふを経営する「企業組合ネイチャーファームあなん」だった。現在は町の指定管理者としてレストランの運営に携わる。

地産地消をコンセプトに、
家庭料理を提供

村沢副理事長 一見すると、手慣れた外食事業者が運営しているように見える「旬採厨房しゅふふ」。ところが実際は、外食産業はおろか、企業経営そのものも初めてという主婦3人を中心とする素人集団が切り盛りしている。
 同組合の組合員は6人。地域中小建設業の経営者3人とそれぞれの夫人たちだ。小林ふくみ代表理事が設立の経緯をこう語る。
 「長引く景気低迷のうえ公共工事が縮小し、地域の中小建設業はとても厳しい立場に置かれています。主人たちも本業以外に何か新しい事業を始めようかと、試行錯誤を重ねていました。私たちは会社の事務を手伝いながら、夫たちを応援する立場でいたんです」
 そんな平成15年の暮れ、小林代表理事の夫が専門紙に掲載された大分県大山町農協が経営するレストラン「オーガニック農園」の記事に目をとめる。「これはどうだろう」。
 さっそく平成16年の正月、組合員6人で大分県に飛んだ。同農園は家庭料理を中心に80近くのメニューを誇り、来店客は1日500人以上、年商数億円という大規模なレストランだった。
 「こんな感じで家庭料理を提供して、お客様が喜んでくれるならいいなと。私たちも主婦ですから家庭料理は毎日作っている。規模はもっと小さくても、なんとかなるかなと思いました。思い切って九州まで飛んで、元気をもらって帰ってきた。そして、やってみよう、ということになりました」
 レストランづくりの話を具体化させたのは、その年の夏頃。ゆうゆ~らんど阿南のリニューアル計画が発表されたのもその頃だった。
 「地元の高齢化した農家が生産したおいしい野菜を使った、地産地消を旨とするバイキングレストランをコンセプトに町に提案しました。町もかじかの湯に併設すれば相乗効果が期待でき、お客様が増えることで町の活性化にもつながると積極的に応援してくれました」
 レストラン事業をスタートさせるため平成16年12月に設立したのは企業組合。会社ではなく企業組合にした理由は、手続きが主婦でも簡単にできること。そして、組合員6人全員が同じ立場で意見が言えることだった。
 「6人でひとつのものを作りあげようというのが所期の目的だったので、その点でも私たちには合っていました」と小林代表理事。夫人たちが従事組合員となり、夫たちは非従事組合員として建設業に軸足を残した。

自分で食べておいしいものを
召し上がっていただきたい

店内 「提供する料理は、自宅にお客様がお見えになった時におもてなしをするのとまったく同じ。テーブルの上にいっぱい家庭料理をのせて、さあ、どれでも好きな物をとって食べて!という、そのまんまです」と小林代表理事。
 自慢のメニューは、旬の野菜や山菜などの天ぷら。よもぎ、ウドの葉、ふきの葉、いたどり、桑の葉、こしあぶらなど、その時期においしい葉っぱの天ぷらは特に評判だ。地元の豆腐店から仕入れるおからを使ったおから料理も人気だ。
 野菜は、ゆうゆ~らんど阿南の一画にある青空市に地元農家が並べる朝採れ野菜のほか、地元の高齢農家が生産した取れたて野菜が中心。「こんなの取れた」と農家が持ち込む野菜も多い。流通経費がかからない分、仕入れ値は市販よりも安く、なんといっても鮮度抜群。その日入った野菜で急きょメニューが変わることも日常茶飯事だという。
 「契約農家にお願いすることも考えましたが、もともとが素人。どこまで野菜がはけていくか心配だったので、契約農家ではなく、地元の顔をよく知った農家から、何かない?と聞いたりして分けてもらうことにしました。
 とにかく地域の旬が第一。サラダにはトマトやレタスが欲しいという要望もありますが、地元で採れなければ使いません。もちろん、他から仕入れるお野菜もありますが、なるべく地元でとれた食材でできる家庭料理をつくりたい。夏なんて、ナスづくしのような日もあります。煮たり、焼いたり、揚げたり、蒸したり…。ナスばかりといわれるお客様もいらっしやいますが(笑)、これがまさに家庭料理。今はナスの時期ですからナスを召し上がってください、とお話しします」
 料理は普段家庭で作っているものを中心に、外食で味わった料理を再現したり、本や新聞に乗ったレシピを試してみたり、主婦ならではのアイデアで創作するメニューも数多い。レストランで出しているメニューのレシピも配布している。
 「自分で食べておいしいと思うものを召し上がっていただきたい。味の好みは十人十色。私が気に入っていてもそうじゃないお客様もいますが、おいしいと言っていただければいいなあと思って作っています」

お客様にまた喜んで
来ていただける店であり続けたい

 現在、レストランの年商は2000万円ほど。「私たちもできることはなるべく節約して赤字にならない程度の経営状況です」。
 来店客は温泉目当てで訪れる浜松を中心とする中京圏からが多く、口コミで北信や中信からも少なくない。地元客は全体としては比較的少ないという。「地元では、一度に大勢来客があって家で料理をするのは大変だから連れてきたというお客様も多いですね。結局家庭料理ですから、家で作るのと同じ。それが口コミで広がって地元客も徐々に増えています」と村澤副理事長。
 スタート1年目にはレストラン事業とともに、阿南町産のりんごを使ったワイン「あなんの雫」を製造。2年目には酒販免許も取得しレストラン内で販売した。さらに野菜の販売なども検討したが、いずれもレストランに集中するため現在は休止している。
 今後の事業展開について聞くと、「それを聞かれると、いつも困ってしまうのですが。何しろやっているのが主婦なもので、正直言ってそれほど大きな構想はないんです」と返ってきた。
 「ただ、お客様がとても気に入ってくれて、のんびりとお食事をして、おなかも満腹になって満足して帰られる。そんな様子を見ていると、それをずっと維持していきたいと思う。喜んで来てくださるお客様が、また喜んで来ていただける店であり続けたいと思います。背伸びせず、今までのことを一歩ずつ進めてリピーターを増やしていくというのが基本。経営者としてはもっと先のことを考えなければいけないのでしょうが、今はそんな感じが正直なところなんです」

おいしかったのひと言と、
人との出会いが大きな喜び

 「大変なことを始めちゃったな、大丈夫かなと最初は悲鳴を上げていたけど、今は忙しい時の方が元気が出ます(笑)」。小林代表理事はスタート時を振り返ってそう話す。
 村澤副理事長も「建設業の事務員でいたのでは感じられない楽しさがある」と言う。「アンケートに『おいしかった。また来ます』なんて書かれると、本当にうれしい。お叱りを受けることもたくさんあってへこむ時もあるけけれど、『おいしかった』のひと言でまた頑張れるんです。それは建設業の事務員では感じ得なかったことです」。
 接客業ならではの、大勢の人との出会いも大きな喜びだ。
 「建設業をやっていたらこんなに大勢の人と出会うことはありませんでした。沖縄や海外など、遠くから来られる方もいる。レストランをやっていなければ、そんな方々と出会うことも絶対になかった。それが大きな喜びです。レストランをやって本当に良かった。それがあるから、これからも走っていけるという気がします」
 それをしっかり支えているのが夫や家族の協力だ。「主人たちも、ここが元気だと自分たちも元気が出る、と言ってくれるんですよ」。春はひな人形、鯉のぼりなど季節感たっぷりに店内を飾るディスプレーのほか、毎朝行なう店の周囲の掃除、坪庭づくり、花や植木の手入れなど、夫たちのボランティア活動も大きな力になっている。
 「主人たちの手伝いで頑張ろうと思っていたのに、お手本とする『オーガニック農園』に出会ったばかりに、いつの間にか自分たちが表舞台に出ちゃった(笑)。そんな感じがするんです」
 小林代表理事をはじめとする3人のさわやかな主婦パワー。これからますますその輝きと力を増していくはずだ。


プロフィール
小林 ふくみさん
代表理事
小林 ふくみさん
(こばやし ふくみ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 組合設立以来、とても頼りにしています。これからもいろいろな情報をお届けいただけるようお願いします。

旬採厨房しゅふふ


経歴
1956年(昭和31年)生まれ
出身   下伊那郡阿南町
家族構成   夫、子(息子1人・娘1人)
趣味   読書。高杉良などの企業ものが特に好き。

 

企業ガイド
企業組合ネイチャーファームあなん

本社 〒399-1505 下伊那郡阿南町富草4923
ゆうゆ~らんど阿南 内
TEL・FAX (0260)22-2300
設立   平成16年12月24日
出資金   300万円
事業内容   レストランの経営、農産物、加工品、工芸品の販売など
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