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月刊中小企業レポート
更新日:2008/5/20

知財あれこれ

仕事の中でのヒラメキ ~特許は万能ではない~

綿貫国際特許・商標事務所
弁理士 綿貫 隆夫

 U字溝を敷設する場合、トラックで現場まで運び、敷設する場所に置き、必要な傾斜をつけて定位置に連結していくのだが、U字溝は重量が重く、この作業は苦労で時間が掛かる。
 土建業を営むT氏は仕事中に考えた。U字溝の両側面のそれぞれの中心部付近に穴を開けてボルトを差し込み、上からU字溝全体を1図のように吊り上げれば、穴の位置がU字溝全体の重心にあるときは、U字溝を容易に動かすことが出来、定位置に設置するのが容易になる。
U字溝敷設図解 ボルトを受ける軸受けをU字溝の側壁内へ2図のように埋設固定した。軸受けは固定板に取り付け、固定板はコンクリート内の鉄筋網に取り付けた。ボルトは3図のようにL字型に形成し、垂直上端を自在のフックにし全体で吊手とした。
 以上のようにして、U字溝を設置場所の上方まで吊下げていき、位置を微調整しながら理想状態でセッティングする。設置後は吊手を軸受けから抜き取って、U字溝の側面の軸受け部分をセメントで埋め込む。T氏は一連の技術について特許出願・意匠出願をした。
 T氏の工法によれば工期も短く、従来の半分以下のコストでU字溝を設置できる。しかしこの工法はまだ知れ渡っていないので従来のコストで受注できる。技術が公報に開示されるまでに、T氏は十分な利益を得ることが出来た。
 技術が開示されてからは、工法のビデオを作り関係業者のところへ説明に歩き、技術利用契約の会員を募集した。入会条件は入会金と既に意匠登録の取れている吊手と吊手のボルト部分の軸受けの購入である。T氏は吊手や軸受けのさらなる改良をして特許出願をした。T氏の立場ではU字溝の敷設工法の特許が取れても、いちいち現場を見て歩くわけにはいかない。吊手や軸受けが横流しされたり、他の工具屋に作られてもわからない。T氏は権利を持ってはいるが、工法の権利や容易に作れる吊手や軸受けなどの治具の権利では十分に独占の威力を発揮できない。さらなる治具の改良に努力したり、無断で治具を作って販売する者を訴えたりしたが、成果は不十分だった。(このストーリーは分かりやすく書き換えてあることをお許しください)
 特許庁が認めたアイデアであっても、必ずしも商業的に成功するとは限らない。まずアイデアの技術的効果が今の業界でどれだけ優れているものか。そして他人が権利者に無断でその技術を利用しても法的に抑える力が強いか。別人がさらに優れた改良特許を取得するか。などによって、ライセンスの条件が変わってくる。あまりコストが高いときは、利用者が現れない。こっそりやっていればわからないからと権利侵害をする者が多数出て取締りが出来なくなってしまう。強い立場になるには、効果の大きなアイデアと権利侵害に強い独占権とが必要である。いずれかが弱いときはライセンスの条件を緩め、あまり高くない費用で許諾し、契約者を増やし大勢の契約者で違反者を見つけて取り締まるのが得策だろう。工法などで人の目に触れない場合は返って秘密にしておいて、自分だけでそのアイデアを使って利を得た方がいい場合もあるが、前述の例ではその工法は人の目に触れるものだから秘密にしておくことは難しく、権利化しておくべきであろう。

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