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月刊中小企業レポート
更新日:2008/04/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

木曽福島を愛する一人ひとりの汗と熱意を結集!
「歩いて感じるまちづくり」を推進し、観光型商業育成をめざす。

株式会社まちづくり木曽福島代表取締役 重野 信孝さん
株式会社まちづくり木曽福島
代表取締役 重野 信孝さん


江戸時代の街並みに建つ
古民家でイタリア料理を

江戸時代の街並みに建つ古民家でイタリア料理を 木曽町福島。中山道木曽路の宿場町として、また日本四大関所のひとつに数えられた福島関所が置かれ交通の要衝として栄えた、木曽谷のかつての政治・経済の中心地だ。その歴史と文化のまちが今、動き始めている。
 江戸時代の福島宿の街並みを今に残す、上の段地区。旧木曽福島町当時から中心市街地活性化基本構想の最重点地区として古民家や土蔵を修復・活用した街並みが整備され、今は町歩きを楽しむ絶好のエリアになっている。
 立ち寄りスポットとして、特に人気を集めているのが創作イタリア料理の「松島亭」と甘味処の「肥田亭」だ。松島亭に隣接する蔵には、地酒「七笑」「中乗さん」や塩尻産をはじめ内外のワイン、カクテルが楽しめるバーも。どちらも、もともとあった古民家と蔵を再生した、懐かしく風情のある雰囲気。しかも松島亭は、その雰囲気にありがちなそばや和食ではなく、地元の食材を活かしたイタリアンというオシャレな“ヒネリ”が効いている。
 両店を経営するのは、「歩いて感じるまちづくり計画」を進める第3セクターのまちづくり会社「まちづくり木曽福島」だ。重野信孝社長は話す。
 「家族の誕生日や記念日、また帰省してきた子ども家族との食事はみんなで松島亭で、という志向が町民に生まれてきています。商談にもよく使いますし、子どもに食事のマナーを教える場にもなっている。ランチタイムはいつも女性でにぎわってますよ。この時に限っては、オジサンにはちょっと入りづらい雰囲気です(笑)」
 福島地区ではさらに毎年2月に「きそふくしま雪灯りの散歩路」、8月には伝統の木曽踊りに合わせたイベントも開催。年々にぎわいを増し、訪れる観光客も着実に増えているという。

木曽福島を何とかしたい。
官民共通の願いを背負って

 「木曽は大変厳しい、まさにどん底に近い状況でした」と重野社長。そんな状況を何とかしたいと考えていた1998年7月。中心市街地活性化法が施行され、中心市街地の活性化を国が財政的に支援するTMO(タウンマネージメント機関)が打ち出される。
 旧木曽福島町では町が策定した中心市街地活性化構想に基づき、2002年に町商工会がTMO構想を策定。先進地である兵庫県柏原町などの視察や勉強会を開くなど準備を進め、翌年6月に構想を具体的に推進する事業者(TMO)として同社が設立された。
 目標とする資本金は2千万円。商店街のほか、一般からも一口5万円の出資を募った。「苦しい状況の中、とても集まらないだろうというのが大方の予想。我々は必死で一軒一軒ご協力をお願いして回りました。そうしたら商店街はもとより、多くの一般住民も意気を感じて出資してくれました」。
灯ろう ふたを開けてみると集まった出資金は3,500万円。この結果に行政も驚き、当初の予定額を上回る4千万円を出資した。出資者は町内の商工業者・一般・行政あわせて172人。「木曽福島を何とかしたい」という官民共通の願いを背負ってのスタートだった。
 同社の専従スタッフは4人。しかし同社が展開するさまざまなまちづくり事業を計画し実行していくのは、公募で集まった17歳の高校生から81歳のお年寄りまで幅広い年齢層の100人を超えるボランティアたちだ。商店主と一般住民が半々。町外で働くサラリーマンもいる。

メンバーの意欲で推進する
まちづくりプロジェクト

ぶらりぐるりマップ 同社は「木曽福島まちびと文化創造業」として、「誰に」「何を」「どのように」を明確化するマーケティング志向を重視。「観光型商業」の育成を基本に「歩いて感じるまちづくり」を旗印に掲げ、商店街の空洞化をくい止め、来街者の増加を図り、街全体の活性化をめざすさまざまな事業を行う。現在次の6つのチームに分かれ、それぞれ独自事業を展開している。

  • 耳より情報発信チーム
     情報誌やホームページの制作、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の運営および町内情報の収集・分析・発信を行う。観光客のターゲットを50代女性とし情報発信戦略を練る。
  • ぶらりソフト開発チーム
     福島地区ならびに木曽町全体の回遊ソフトの開発と観光マップ、4つの観光拠点を割引価格で回遊できる「4館共通券」の制作。商店街のショーウィンドウの飾り付けを呼びかけるなど魅力アップにも取り組む。
  • 花いっぱいチーム
     町内の花いっぱい運動の企画・調査・メンテナンスを行う。花好きのメンバーが集まり、つねにレベルの高い花づくりを志向。季節の花で町を美しく演出する。
  • 関所代官にぎわいチーム
     代官屋敷で定期的に茶会を開いたり、関所資料館に説明パネルを配置するなど、木曽福島観光の目玉である福島関所と山村代官屋敷のイメージアップに取り組む。
  • 異空間プロジェクトチーム
     若手メンバーが主体となり、「キャンピングフィールド木曽古道」の営業・管理、広報・誘客に取り組む。また町内の各イベントに積極的に参加し、にぎわいの演出にも一役買っている。
  • まちの案内人の会
     町の観光地や史跡などの研究・勉強会を定期的に行い、観光散策ガイド(有料)を行う。観光客の要望にすぐ対応できる体制づくりをめざす。

 「それぞれのプロジェクトは各チームメンバーのこうしたい、ああしたいという意見で動いています。事業予算は年度初めに大枠を決めますが、その範囲内でみんなが知恵を絞ってくれています」と重野社長。
 同社ではこの独自事業のほか、町の指定管理業者として町営駐車場、福島関所、山村代官屋敷、キャンプ場(キャンピングフィールド木曽古道)、テナントビルや松島亭・肥田亭などの建物の運営管理も担う。
 その中には、ボランティアスタッフの努力で大幅に収益が改善した事業もある。キャンピングフィールド木曽古道もそのひとつだ。
 まずネーミングを変え、広告の見直しやホームページの充実を図り、リピーター対策としてDMにクーポン券をつけた。また大量の毛布の洗濯をチーム全員で行うことで、利用者の快適性を高めるとともに経費も節減。その結果、利用客は3年間で3倍に増え、黒字化も実現した。
 「土日に自主的に出てやってくれるメンバーもいて、本当に頭が下がります。手弁当でやってくれるボランティアの努力に対して、会社としても何かで報いたいと思っているのですが…」

「誕生日に家族で行ける店」
松島亭を木曽福島の広告塔に

 一方、松島亭のようにボランティアスタッフがコンセプトづくりから関わるケースもある。
 「どういう人に、どういう料理を、どういう雰囲気で出すか。木曽らしさを出すためにどんな食材を使うか。みんなで侃々諤々、意見を出しあった。その熱気たるやすごかったですよ」と重野社長は振り返る。
 徹底的な議論を経て決まったのが、イタリアンレストラン。しかも今まで町内になかった、家族連れで行けて酒も楽しめる店だ。
 事務局スタッフとして当初からプロジェクトに関わった木村みかさんは「コンセプトは、誕生日に家族で行ける店」と話す。「まず町民が集まるレストランという発想。そこに観光客も呼び込んだらどうだろうと。私たちが行って良い店なら観光客にも自信をもって勧められる。それが浸透し、観光客もたくさんいらっしゃるようになりました」。重野社長の頬もゆるむ。
 ただ、古民家の再生にかかる費用は膨大だった。肥田亭はかつて薬種問屋を営んでいた町屋。傷みが激しく取り壊しも検討されていたが、町が5,500万円をかけて改修を行った。
 一方の松島亭は、かつて金融業を営んでいた築200年の建物。保存状態が比較的良く、「柱や建具などをそのまま生かして改修しよう」と同社が改修費用をすべてまかなった。「結局開業までにはかなりの資金がかかり、思いのほか大変でした。でも順調にお客様の利用が伸びているので助かっています」と重野社長はほっとした表情を見せる。
 木村さんもこう続ける。「数千万の予算を宣伝費にかけても一過性のもの。それよりも松島亭が木曽福島の“広告塔”になれば、これから先ずっとここをめざして木曽福島に来てくれるお客様をつかまえられる。そんな思いがありましたね」。
 「広告塔」としてしっかり機能させるためには、ソフトの充実が不可欠。経営主体は同社だが、メニューづくりや調理などレストラン運営に関する業務は専門業者に委託した。それも成功要因のひとつのようだ。一方、肥田亭は同社の直営だ。

増加する空き店舗対策に、
行政と一体化した取り組みへ

スタッフ 「うちは町のいろいろな立場の人が手弁当で参加し、こんなことがやりたいと提案し、みんなで盛り上げていくというユニークな会社。何かやろうとする時、事務局が誰かに“お願いする”ということはありません。それぞれのチームで要になってほしいと思う人が自然にキーマンになり、やるべき事や役割が決まり、みんなで活動していく。だから面白いんです」
 木曽福島の活性化の推進力は何といっても、木曽福島を愛するボランティアたちのやる気と意気込みに負うところが大きい。それを重野社長のリーダーシップや、木村さんをはじめとする事務局スタッフの力がしっかりと支えていくというかたちだ。
 意欲的な取り組みの成果は確実に現れている。観光地としての木曽福島を再認識し、滞在時間を延ばす旅行エージェントも増えているという。
 深刻な問題もある。歯止めのかからない人口の減少と、後継者難などから依然として増え続ける空き店舗対策だ。「すごく頭が痛い問題。とにかくここで商売をやりたいという人がいたら、できる限り安く空き店舗を活用していただけるようにしたい。最初はとにかく安く、儲かったら徐々に上げるというかたちがとれるよう、行政と我々が一体となって取り組んでいこうと考えています」。
 観光地としての誘客と、生活の場としての町の活性化。「観光型商業」の育成をめざす同社にとって、それは一体不可分だ。木曽と伊那を結ぶ権兵衛トンネルが開通して2年目を迎え、経済交流が活発化しつつある。同社は木曽福島はもとより、地域全体の活性化に大きな希望を感じさせる存在だ。


プロフィール
重野 信孝さん
代表取締役
重野 信孝さん
(しげの のぶたか)
中央会に期待すること

中央会への提言
 今後とも地域の活性化のために支援、助言をお願いし、支部として活発な活動をしてまいりたいと思います。
 また、情報を、今以上にご提供いただきたくお願いします。

広小路プラザ・社屋
広小路プラザ・社屋


経歴
1939年(昭和14年)4月1日生まれ
出身   木曽郡木曽町
趣味   書画骨董、ゴルフ

 

企業ガイド
株式会社まちづくり木曽福島

本社 〒397-0001 木曽郡木曽町福島5084
広小路プラザ内
TEL (0264)22-2766
FAX (0264)22-2706
創業   平成15年6月27日
資本金   7,500万円
事業内容   事業内容/1.環境開発、まちづくりの調査、計画 2.地域商店街の販売促進に関する情報、資料収集、企画指導等 3.公共公益施設の企画・管理運営 4.各種イベントの企画調整 5.観光事業 6.特産品開発、振興、販売業務
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