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月刊中小企業レポート
更新日:2007/12/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

福祉ではなく、あくまでビジネスとして。
障害者が働き、遜色のない品質を提供する場づくりをめざす

企業組合 アップル工房イイダ代表理事 今村 忠弘さん
企業組合 アップル工房イイダ
代表理事 今村 忠弘さん


オンデマンド印刷事業に
リネン事業が加わり、ひと息

オンデマンド印刷事業にリネン事業が加わり、ひと息 「常用雇用労働者数」が56人以上の一般事業主は、その1・8%以上の身体障害者または知的障害者を雇用しなければならない。これは「障害者の雇用の促進等に関する法律」で定められた「障害者雇用率制度」による。
 障害を持つ人が働いて自立をめざす場合、働く場としては一般企業等以外に、自営、そして2006年10月に施行された「障害者自立支援法」の適用を受ける事業所という選択肢がある。
 「障害者自立支援法」は障害を持つ人の地域生活と就労を進め自立を支援する観点から、従来障害種別ごとに異なる法律に基づいて提供されてきた福祉サービス等を、共通の制度のもとで一元的に提供するための法律。支援費制度に代わり、障害を持つ人に費用の原則1割負担を求め、保護から自立に向けた支援への転換となった。
 企業組合アップル工房イイダは03年12月創業。障害者自立支援法施行にともない、雇用型の「就労継続支援A型」作業所の認定を受けた。
 創業当初から、パソコンとオンデマンド印刷機を使い、地域の企業等から受注した名刺やパンフレット等の印刷物を制作する事業を展開。07年5月には「木下リネンサプライ」(下伊那郡阿智村)の理解とサポートを得て、飯田市内の分工場を経営移管し、新たに「リネンサプライ・クリーニング事業」をスタートした。
 組合員24人のうち16人が障害を持ち、オンデマンド印刷部門は全員が障害者。リネン事業では、同社分工場の元社員が職業指導員として障害を持つ人とともに働く。
 今村忠弘代表理事は「経営は厳しい」と打ち明ける。「印刷受注そのものが厳しい状況のなかで、一般の印刷会社との競合に勝たなければいけないので。今年リネン事業が加わり、ようやくひと息ついたというのが正直なところです」。

自分たちが自分たちの働く場をつくる

 今村代表理事の本業は経営コンサルタント。飯田市内の経営サポートサービス会社が障害を持つ人の働く場づくりを考えているのを知り、その事業に主体的に関わることを決めた。自身の身内に障害を持つ人がいたことも大きかったという。
 「障害を持つ人が社会に出てからの環境は厳しい。ある程度働く能力があり、収入を得て自立したいと思っても働く場が少なく、悩んでいる人も多いんですね。そこで経営コンサルタントとしての知識や経験も踏まえ、障害者自立支援ビジネスができないかと考えたのです。福祉ではなく、障害を持つ人が働き一般に遜色のない品質を提供することで商売として成り立たせ、少しでも多くの給料を払えるようにしたい。障害を持つ人が自立するうえで、経済的基盤を持つことは最も重要なことのひとつですから。そういう環境をつくりたいという強い思いからアップル工房を立ち上げたのです」
 組織を「企業組合」としたのは、ひとつにはビジネスとして対外的な信用度を得たいという考えから。もうひとつは「(障害を持つ人が)“雇われている”という感覚ではなく、自分たちも経営に参加し商売をするんだという精神的自立をしてほしい」と思ったからだという。選択する組織のあり方として最もメリットを感じた組織形態が「企業組合」だった。
 企業組合とは、個人事業者や勤労者、主婦、学生などが4人以上集まり、個々の出資金と労働を組合に集中して、その事業に従事し、組合自体がひとつの企業体となって事業活動を行う組合。事業が限定されないため、小規模事業者が経営規模の適正化を図る場合や安定した自らの場を確保するのに適している。組合員が共に働くという特色を持ち、組合員には組合事業に従事する義務がある。事業をサポートする法人等も加入できるので、法人等からの出資を通じて自己資本の充実や経営能力の向上を図ることも可能だ。
 「障害を持つ人がそれぞれ少しずつ出資金を出して参加することで、自分たちが自分たちの働く場をつくるんだ、みんなで一緒にやっていこうという意識を持つこと。それが企業組合の目的でした」。もっとも「雇われている」という感覚はなかなか抜けないというが。

よりすぐれたデザインや難しい画像処理にも挑戦

 オンデマンド印刷は、フルカラーのパンフレットも少部数なら一般の印刷よりも割安。しかも追加注文の名刺なら、午前中の注文で午後には納品可能という速さも“売り”だ。
 地域の企業、行政、学校・PTAのほか、ブライダルのプロフィールカードのように個人からも注文が舞い込む。いずれもフルカラーで少部数というニーズに応え、デザインから印刷まで一貫して手がける。
 めざすのは「一般に遜色のない品質を提供する」こと。商売として成り立たせるためにも、働く人一人ひとりの技能向上が課題だ。
 同組合では別事業として、伊那技術専門校の委託を受け、障害者向けのパソコン教室を飯田、駒ヶ根、諏訪で開催。3カ月間毎日開く講座でパソコンの使い方やデザインの基礎を教える。現在オンデマンド印刷事業で働くのはその講座の卒業生が中心だ。
 「デザインを専門に学んだ本格的なデザイナーとはレベルが違う」とはいえ、よりすぐれたデザインや難しい画像処理にも挑戦。さらに制作能力向上にも積極的に取り組み、ほぼ毎年、県主催の障害者技能競技大会(DTP部門)に参加している。また講座で講師を務めるスタッフによる教育も行なっている。

ほとんどが手作業。
それが障害を持つ人に最適

ほとんどが手作業。それが障害を持つ人に最適 一方、リネンサプライ・クリーニング事業では若干事情が異なる。専門技術を身につけた職業指導員の指導の下での作業のため、知的・精神・身体いずれの障害者も受け入れが可能。一定品質の仕事ができる可能性も高い。
 「オンデマンド印刷はできる人が限られ、障害を持つ人の働く場としては幅が狭い。これで受け入れられる障害者が広がりました。スタート当初は、たたみ方などでクレームが続き苦労しましたが、今はだいぶ落ち着いてきました」と今村代表理事。
 リネン事業は木下リネンの下請けと、木下リネンから譲り受けた直接契約の仕事が半々。一度契約を取れば定期的に仕事が入るため、仕事量をいかに増やしていくかが課題だ。
 得意としているのが、病院や福祉施設などの入院・入所者の私物のクリーニング。洗濯物を個別に袋に入れて出してもらい、クリーニングして届けるサービスだ。「私物は洗濯機で洗い、乾燥させ、きれいにたたむという家庭の延長線にある作業で、ほとんどが手作業。それが障害を持つ人に合っているんです」。
 ホテル・旅館などのように季節による需要変動がほとんどなく、経営的に安定するのもメリット。今後は病院、福祉施設関係、美容院などの顧客開拓のほか、大手リネン業者へのアプローチも検討中だ。「本当は専任の営業担当を置きたいところですが、経費的ゆとりはまだありません。メンバー全員で情報を持ち寄り、お客様になりそうなところにお声かけしていくという営業をしています」。

地域のこだわり農産物を
都内契約レストランに直販

地域のこだわり農産物を都内契約レストランに直販 経営的な安定をめざして、リネン事業に続く新規事業の展開にも取り組む。地域で有機栽培あるいは減農薬栽培された農産物を、都内および軽井沢の契約レストランに直販する事業だ。飯田市内の農産物直売所と提携し、障害を持つ人が梱包、発送作業に関わる。
 今村代表理事が知り合いの飲食店専門の経営コンサルタントから、障害を持つ人と農業との連携アイデアを聞いたのがきっかけ。障害を持つ人が施設の畑で育てた農産物の販売を考えたが、施設の農業指導員との思いの共有といった条件がまだ整っていないという現実に突き当たる。そこで先に販売ルートを設けることにし、こだわり農産物を直売所に納入している生産者と交渉。それを直接販売することにした。
 「障害を持つ人が施設で手をかけ、丹誠込めてつくっているからこそ安全・安心。そんな“ブランド”農産物がレストランで調理され、お客様が食べることで、間接的に障害者の支援につながっていく。そんな仕組みをつくり、参加するレストランや障害者作業所のネットワークを全国に展開できないかと考えています。障害を持つ人の就労の場づくり、収入を増やせる仕組みづくりをするためには、他の作業所も巻き込んだ、そんなビジネススキームが必要。逆にそうしていかないと、製造業の内職仕事がみんな海外に移ってしまった今、障害者の働く場を増やすこと、ましてや賃金を上げるのは非常に難しいと思うんです」
 現実を見すえ、今村代表理事が語る夢に、これからの障害者支援のあり方、さらには地域農業のあり方にも大きなヒントがありそうだ。

障害者支援には思い切った
施策も必要ではないか

 同組合は「障害者自立支援法」で「就労継続支援A型」と規定される雇用型の作業所だが、県内には7カ所のみ。「しかもこういうかたちで単独でやっているケースはほとんどありません。何故なら事業として成り立たないから」と今村代表理事は嘆く。「全体的には障害者自立支援法は、障害を持つ人も自立しない限り食べていけないという、とても厳しい法律だと思います」。
 同法施行後、同組合のようにビジネスに挑戦するところと、諦めて閉鎖してしまうところと二極分化。さらに利用者(障害者)の費用負担が増えたことで、B型作業所(従来の授産施設)では賃金よりも利用料負担の方が多い逆転現象も起きているという。
 「今まで補助金だけをもらっていた人たちがわずかながらも納税者になるわけですから、国の施策としても我々のようなA型作業所は増やしたいはず。しかし現実は支援が薄い。年度を区切ってでも軌道に乗るまで集中的に支援してくれればと思うのですが」
 障害者が本当の意味で自立して行くにはまだまだ大きなハードルがあり、さらなる公的支援施策の必要性も浮かび上がってくる。「例えば、企業が障害者支援施設に仕事を出した場合、税制面で優遇するなどの思い切った施策も必要ではないでしょうか」。
 今村代表理事の言葉は、障害者の自立支援を担う現場の声を代弁しているようだ。



プロフィール
代表理事今村 忠弘
代表理事
今村 忠弘
(いまむら ただひろ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 A型作業所としてやっていく上で、市場調査費、事業化の研究費、研究会費、講師派遣費用、視察費などへの助成など、福祉から事業へと切り替えようとする障害者支援施設を支援していただけるとありがたい。

企業組合アップル工房イイダ設立


経歴
1964年(昭和39年)3月15日生まれ
2003年 (平成15年)企業組合アップル工房イイダ設立。代表理事に就任
出身   飯田市
家族構成   妻と子、両親
趣味   古いクルマを直しながら乗ること。40年くらい前のクルマを手をかけて直しながら乗っている。

 

企業ガイド
アップル工房イイダ

本社 〒395-0002
飯田市上郷飯沼2241-1
TEL (0265)56-1155
FAX (0265)56-1157
創業   平成15年12月
資本金   20万円
事業内容   オンデマンド印刷事業、リネンサプライ・クリーニング事業、農産物の販売事業、ホームページの企画作成およびモール運営等のIT関連事業、障害者の就労機会拡大のための企画事業、障害者の能力開発のための教室運営・教育事業、障害者福祉サービス指定事業所の運営
事業所   本所、クリーニング工場(飯田市座光寺1351-2)
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