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月刊中小企業レポート
更新日:2007/11/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

「私とあなたで世界一の電子顕微鏡を創ろう!」
「鉄の料理人」として独自の真空技術に挑戦する技能士集団。

赤田工業(株)代表取締役社長 赤田 弥寿文さん
赤田工業(株)
代表取締役社長 赤田 弥寿文さん


半導体・液晶、医療、航空宇宙、化学―。
業界を越えて評価される加工技術

真空チャンバーと自社製品の真空ポンプ 「真空」。辞書的には「物質のない空間」だが、JISの定義では「大気圧より低い圧力の気体で満たされている特定の空間の状態」とされている。つまり大気圧より減圧された状態のこと。実は、真空という性質は現代の工業技術において必要不可欠なのである。
 例えば、食品などの真空パックは酸素を遮断することで酸化や腐食を防ぐ性質を利用している。魔法ビンや真空ポットは大気分子がまばらになることで分子間の衝突が減り、熱伝導率が悪くなる性質を利用した製品だ。
 一般的に真空技術は次のような効果を発揮する。
(1)力学的効果=圧力差を発生させ無菌状態で吸引・充填を可能にする、(2)物理的効果=熱伝導率や光の屈折率を変え、液体の蒸発を促進する、(3)化学的効果=酸化防止や抗菌効果により食品等の品質を維持する、(4)放電効果=減圧後、他の気体を充填し、電極間に高電圧や高周波を加え放電させる、(5)自由空間効果=減圧により気体を減らすことでイオン透過率を良くする、(6)洗浄表面効果=減圧によりシリコンウエハなどへの残留分子の浸入確率を減らし半導体素子の品質を向上させる。
 赤田工業は、真空チャンバー、真空タンク、圧力容器、圧力タンクなどの真空関連部品と、各種専用機械、省力機械などの架台や筐体フレーム、テーブルなどを製造する加工メーカー。1点ものから多品種少量生産に対応し、半導体・液晶、自動車、医療、航空宇宙、化学・薬品、食品など幅広い業界に製品を供給している。
 特筆されるのが、超高真空が求められる電子顕微鏡の中核をなす真空チャンバーの製造だ。電子顕微鏡の開発製造メーカーは日本では2社のみ。同社はそのうちの1社に供給し、高精度な加工技術が高く評価されている。
 「手がけているのは、大手半導体メーカーに導入されている主にシリコンウエハの観察用に使われる大規模な電子顕微鏡です。2001(平成13)年まではかなり需要がありましたが、翌年以降は大幅に減少。売上高も4割減と経営的に大打撃を被りましたが、その後順調に回復。今年度は過去最高に近い数字を達成できそうです」。赤田弥寿文社長の言葉も表情も明るく元気だ。

つねに「新しいこと」「難しいもの」に挑戦

 同社は1964(昭和39)年、赤田社長の父であり先代社長の弥久治氏が設立した。もとは赤田社長の祖父、弥市氏が1889(明治22)年に開き、長く製糸工場設備の製造・修理を手がけた「赤田鉄工所」にさかのぼる。
 「父はトラクターなどの農機具を持ち、地域農家の耕作を請け負ったり、農機具の修理なども手がけていました。その後近くの金属加工メーカーで身につけた金属加工と溶接の技術を生かし、板金会社としてスタート。現在もコアとなる技術は機械加工と溶接加工技術です」。
 1972(昭和47)年にNC旋盤を導入するなど最新設備を積極的に導入、その技術力には早くから定評があった。「有名メーカーのお菓子(プリン)の包装材の型を抜くラインも手がけていました。私が子どもの頃のことですが、メーカーのライン担当者が県外から出張で来るたびにわが家に泊まっていったことをよく覚えています。私も会社と同じ昭和39年生まれ。会社の発展とともに成長してきたようなものですね(笑)」。他にもガラス瓶の洗浄ラインなど、製造メーカーの生産ライン、省力機械の製造を数多く手がける。
 かつてはラインなどの設計から組立まで一貫して手がけた時期もあったが、現在は板金加工・機械加工、組立に特化。もっとも技術力のレベルアップにともない、設計の相談にのるケースも増えてきているという。
 真空分野を手がけるようになったのは、出展していたテクノフェアである企業から声をかけられたのがきっかけ。「担当者からこんなものができないかと相談され、当社の溶接、研削、精密板金などの加工技術が活かせるならやってみようと」。
 つねに「新しいこと」「難しいもの」に挑戦する創業以来の精神がここでいかんなく発揮された。以来、真空関連部品の伸びはめざましく、現在同社の約半分を占める中心事業に発展した。

得意は複雑な形状をとるもの、高い精度を要求されるもの

 真空製品の”容器“である真空チャンバーや真空タンクは求められる真空状態によって、低真空、高真空、超高真空とレベルがある。電子顕微鏡では超高真空が必要だ。
 同社は低真空から超高真空まで、あらゆるレベルに対応。鉄、ステンレス、アルミニウム、鋳物など素材も板厚も問わない溶接技術を活かした得意の溶接構造とともに、削り出し機械加工による製品も手がける。納入先は半導体・液晶を中心に医療、航空宇宙、化学・薬品、食品など、あらゆる業界に広がっている。
 「電子顕微鏡の真空チャンバーは縦横斜め5軸の焦点がセンターでぴったり合わなければ精確な像が結べないため、鉄板に開ける穴の角度をはじめ、厳密な加工精度が求められます。当社は特にこのような複雑な形状をとるもの、高い精度を要求されるものを得意としています」
 仕上がった製品は水没検査や、ヘリウムリークディテクタによるリークテストを行い確実を期す。このような品質管理体制への取り組みが信頼性の高さにつながっている。
 同社のもうひとつの柱が、各種産業機械や省力機械などの筐体フレーム・架台、テーブルなどの製造。
 門型5面加工機や、丸パイプ、角パイプなど長尺の異形鋼を任意形状に切断、加工、搬出まで容易にできる3D炭酸ガスレーザー加工機などの大型機械を導入。いずれも3DCAD/CAMシステムとリンクさせ、多品種少量に対応できる効率的な生産体制を整えている。
 焼き入れ機用、回転テーブル用、半導体装置用、電子顕微鏡用などのフルオーダーフレームはもとより、同社ホームページで公開しているセミオーダー型フレームの受注も多い。

社員の技能士取得率約80%。
肩書きは「経営社員」

半導体製造機器の架台とフレーム 「当社では全社員に各種技能検定の取得を奨励し、評価は技能手当のかたちで給与に反映しています。それが確実に会社全体のレベルアップにつながっている。約50名の社員全員が資格取得をめざして取り組んでいる会社は珍しいと思います」と赤田社長は胸を張る。
 事実、同社の社員の技能士取得率は約80%(入社2年未満を除く)。職業訓練指導員をはじめ普通旋盤、数値制御旋盤、機械板金など10数部門にわたり、マシニングセンターや数値制御フライス盤など1級取得者も5名を数える。長野県技能競技大会では機械検査、数値制御旋盤の各クラスで毎年トップレベルの成績を上げるなど、レベルの高さは折り紙つきだ。技術系だけでなく、事務系社員もコンピュータ評価試験などにチャレンジする。
 課題は「いかに社員の動機づけを図っていくか」。うれしいのは「合格した先輩が後輩をマンツーマンで指導するという風土が生まれつつあること」。社員同士で早朝勉強会を開くなど自主的な取り組みも活発だ。
 この取り組みをスタートさせたのは、01年に社長に就任してから。その年、売上高が大幅にダウンし危機的な経営状況に陥ったのを機に「オレのやり方で経営させてくれ」と先代社長から経営を引き継ぎ、次々と思い切った改革を行ってきた。
 ユニークなのは、社員全員が持つ「経営社員」という肩書き。これも社長就任後に始めたことのひとつだ。
 「50名の社員一人ひとりが50分の1ずつ責任を負っている。だからその部分については経営者として責任感を持って仕事をしてほしいという発想です。要するに『全員参画経営』ということなのですが」
 それを具体化するために、(1)お客様を愛すること、(2)社員が長く勤められること、(3)適正な利益を循環させること、(4)地域を活性化させ貢献すること、(5)時流に合わせ会社も社員も共に改革すること、のテーマごとに全社員が5つのグループに分かれ、それぞれ具体的な目標を掲げて活動。年に1度活動報告を行う。「最初は社員も戸惑ったようです。しかし経営社員としてどういう会社にしていきたいのかを考え実行する良い場になっていると思います」。

次代の地域産業を担う人材の育成にも積極的に関わる

デュアルシステム」で池田工業高校の生徒を受け入れる池工生を指導する社員 赤田社長は中高生の職業体験学習の積極的受け入れをはじめ、地域産業の次代を担う人材の育成にも積極的だ。
 05年には池田町・松川村の中小企業10社と両自治体でつくる「テクノ安曇野高瀬プロジェクト」に参加。松本技術専門校などとも連携し、地域企業の若手社員や池田工業高校の生徒を対象に、機械加工を中心とするものづくり技術の講座や講習会を開いている。
 一方、池田工業高校では魅力ある高校づくりをめざし、年間通して企業で実習する「池工版デュアルシステム」を06年から始めた。短期間で職業観を養うインターンシップと違い、長期にわたって実習することで技能や知識を身につけることができ、地域産業を担う人材の育成にもつながる。年間の教育課程に組み込んで単位を認定する県内初、全国で数少ない試みとして注目されている。
 赤田社長はこれにも名乗りを上げ、毎年生徒を受け入れている。会社では指導担当の社員が細かくアドバイスしながら、ものづくりのテーマでの成果獲得をめざす。「受け入れは当社の若手社員への刺激にもなる。また優秀な生徒が入りたくなるような会社づくりの大切さもあらためて感じています」。
 実習生は卒業後、大手企業に就職したり進学するケースが続いたが、今年初めて1人の採用が決まった。「もともと採用を主眼とする取り組みではない」としながらも期待はふくらむ。
 会社のビジョンは「私とあなたで世界一の電子顕微鏡を創ろう!」。「『鉄の料理人』として一人ひとりが技術を磨き、チームワークで素晴らしいものをつくっていこう、ものづくりの誇りを持とうという願いを込めました」。
 「会社でガーデニングをしているんですが、なかなかうまくいきません」と笑う赤田社長。21世紀の幕開けとともにスタートした新生・赤田工業を率いる43歳は爽やかな笑顔のなかに、ものづくりにかける情熱の熱い炎をたぎらせる。



プロフィール
代表取締役社長赤田  弥寿文
代表取締役社長
赤田 弥寿文
(あかだ やすふみ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 中央会が開催するセミナーはタイムリーでレベルが高く、中身も濃いので非常にありがたい。毎回期待しています。

赤田工業株式会社


経歴
1964年(昭和39年)8月23日生まれ
1989年 (平成元年)赤田工業株式会社入社
2001年 (平成13年)赤田工業代表取締役社長に就任
出身   北安曇郡池田町
家族構成   妻、子2人
趣味   水泳(夏は毎日2キロほど泳ぐ)、スキー(早朝に行くことが多い)、ガーデニング。子どもの頃はスピードスケートも。

 

企業ガイド
赤田工業株式会社

本社 〒399-8602
北安曇郡池田町大字会染6108-75
TEL(0261)62-2235
FAX(0261)62-9071
創業   昭和39年8月11日
資本金   1,000万円
事業内容   各種省力機械、専用機、自動機の製造、真空チャンバー、耐圧容器の製造、半導体及び液晶製造装置の製作、油圧機器及び装置、各種治工具の製作、小物から大物までの機械加工、板金加工、各種溶接(鉄、アルミ、ステンレス)
事業所   本社・工場
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