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月刊中小企業レポート
更新日:2007/10/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

信州の木材を活かす
高度技術とチャレンジ精神で、全国1000件以上の実績を誇る
大型木造建築物のパイオニア。

齋藤木材工業(株)代表取締役会長 齋藤 敏さん
齋藤木材工業(株)
代表取締役会長 齋藤 敏さん


集成材による
大型木構造建築物のパイオニア

やまびこドームと信州音楽村 1993年開催された信州博覧会のシンボルとして建設され、国産材による日本一の木造ドームとして話題を集めた、やまびこドーム(松本市)。信州からまつの大断面構造用集成材を使用した木造ドームはそれまで考えられなかった大空間を実現した。これを手がけたのが、齋藤木材工業(株)である。
 集成材とは人工乾燥したひき板や小角材をその繊維方向に互いに平行にし、長さ・幅・厚さ方向に集成接着した強度と品質の安定した工業製品的な木材。現在の接着剤を使う方法は19世紀末にドイツで開発された。
 同社は信州からまつをはじめとする地域木材の有効活用にこだわり、「山一集成材」ブランドで造作用および構造用集成材、特殊パネルなどを開発・製造。最先端によるプレカット部材や一般木材の販売も行う。
 さらにそれらを使用した大型木構造建築物、橋梁、構築物などの設計・施工、軸組工法による一般住宅・店舗等の設計・施工、宅地開発・分譲も。つまり木材加工から設計・施工まで、木造建築物をトータルに手がけるのが同社の特徴だ。構造用集成材による大型木構造建築物のパイオニアとして高く評価され、全国1000件以上の施工実績を誇る。
 地球温暖化など環境問題がクローズアップされるなか、CO2を吸収し再生可能な資源である木材の有効活用への関心も高まりつつある。
 今年9月、同社は建設会社など長野県内企業2社と共同で、東京都江戸川区に木製橋の設計・施工案を提案し採用された。これは同区が進める新川の環境整備事業の一環。橋のけたに信州からまつ集成材を使用し、集成材接合の工法特許を持つ同社の技術を生かした。

地元に一番多い信州からまつを使おう

 「当社は文久2年の創業。タルヤの屋号で代々、漬け物、醤油、味噌、酒などを仕込み保存する木樽を作ってきました」と話す、齋藤敏代表取締役会長。タルヤの6代目だ。
 1948(昭和23)年4月、先代の齋藤實氏が齋藤樽製作所を設立し、木樽製造を機械化し大量生産に取り組む。代々磨いてきた匠の技のみに頼るのではなく、それほど経験がなくても作れる仕組みづくりを行ったのである。
 ところが昭和40年代、高度経済成長の波に乗り大量生産・大量消費の時代が訪れると、新しい包装資材としてビニールと段ボールが登場。木箱など、それまで主流だった容器に取って代わる。同社の木樽も同様だった。「様相が一変し、たった1年ほどで樽がまったく使われなくなってしまった。そういう経験は初めて。うちは樽一本でやっていただけに、一体こんなことがあるのかと思いましたね」。
 木樽に代わるものをどうするか。その時、實氏と齋藤会長はちょうど話題になっていた集成材に目をつけた。製材設備もあり、土木資材として注目されつつあった信州からまつなど地元産の木材もある。そこでさっそく工場にあった端材を使って集成材の製造に取りかかった。
 「ところが実際にやってみると、端材ではなく良い材料を使わなければできないことが分かりました。当時の集成材は化粧貼りといって、積層した材料のまわりにスライサーで削った厚さ1、2ミリの板を貼ったもの。和室の柱によく使われたものです」
 信州からまつにはヤニ、割れ、くるいという大きな欠点があり、そのままでは造作用に使えない。ヤニ対策が必要だったが、当初の脱脂と乾燥の2工程でヤニを取る方法ではコストが高く、昭和50年頃広まった高温でヤニを封じ込める長野県林業総合センターで開発した方法を採用しコストダウンに成功。これで商品化に弾みがついた。
 同社はあくまでも地元産木材にこだわる。その理由を齋藤会長は次のように話す。「初代以来ずっとこの地で木に関わってきたのは地元に木があったからこそ。わざわざ海の向こうから材木を持ってきて使うことはない。地元に一番多い信州からまつを使おうと決めたんです」。

挑戦しなければ何事も始まらないと頑張りました

大館樹海ドーム 87年の建築基準法改正により大規模木造建築が可能になる。それを好機と、同社は信州からまつ集成材を利用した大型物件にいち早く取り組んだ。しかし「なかなか壁は厚かった」と齋藤会長は当時を振り返る。
 「県外でしたが約1000平方メートルの体育館を木造でという話があり、ぜひ信州からまつ集成材を使いたいと提案。ところが競合相手の有名メーカーから、実績のない信州からまつでは潰れてしまうと横やりが入りました。今なら裏付けデータは詳細に取れますが、当時は始めたばかりでまだデータも揃っていない。しかしそこで引っ込んでしまったら、信州からまつという材料をだめにしてしまうという必死の思いがありました」
 信州からまつ集成材に絶対の自信を持つ齋藤会長は各方面に奔走。「何としても勝ちたい」という一心で手を尽くし見事、受注を獲得した。当時、同社が手がけたなかで最も大きな物件だった。「この仕事を取っていなければ、今日の信州からまつ集成材の隆盛はなかったと思う。あれが大きな節目だったと思います」。
 この経験が97年完成のやまびこドームへとつながる。「当初計画では仮設でしたが、ぜひにと引き受けました。ところが会社に戻って社員に話すと、みんなできるわけないと言うんです(笑)。しかし私は予算内でできると県に約束してしまった。いくら損すると聞くと、1億だと。よし、1億なら持ち出しでもいい。やろう。そうやって決めたんです」。
 その後、仕様は永久建築に変わり、半年間という短い設計期間だったが、構造計算から設計まで主体的に関わった。信州からまつ、杉などの材料は県内全域から調達。社内に10分の1のミニチュアを造り、耐久性や施工方法を確認するなど慎重にも慎重を重ねた。「それでも、木でそんな大きなものが造れるわけがないと懸念する声もありました。さすがに大変な仕事を引き受けたと思いましたが、挑戦しなければ何事も始まらないと頑張りました」。
 やまびこドームの挑戦は、さらに大きな挑戦へと結びついていく。98年秋田県に建設した「大館樹海ドーム」だ。これは地元の秋田杉をはじめ国産材を100%使用した、縦横178メートル×157メートル、高さ52メートルの世界最大の木造ドーム型競技場。「話が決まった時、みんな意欲満々でした。私もまだ50代で怖いものはない、やろうやろうと(笑)」。
 使用するアーチ型の大断面集成材は約2500本。一本一本微妙に形状が異なるうえ、集成材が縦横にクロスする部分はすべて木組みの要領で接合する。生半可な精度では実現不可能なことは素人でも分かる。
 その結果は-。2500本のうち一本の交換もなく、しかも接合部は修正もなく最後の一本までドンピシャにはまったという。

「海外に追いつき追い越せ」今や技術は世界トップクラス

 「我々の重要な仕事は機械の開発、人財の育成」と齋藤会長は言う。
 同社は設計部門と製造現場とをCAD/CAMで結んだ38メートル×17メートルの大断面NC加工機を持つ。16種類の刃物を誤動作なく動かし大断面集成材のフレームを短時間で加工する独自の最先端システムだ。大館樹海ドームはまさにこのシステムの賜物といえる。
 「大型建築物の世界に入り、機械や構造計算など、もともと縁遠かった分野にも対応してきました。なかなか木のエキスパートがいないなかで、信州大学の研究室とは17、8年前から共同研究を行い、また他大学とも積極的に交流しています。おかげで優秀な人材も集まるようになりました」。
 日本では大規模木造建築物は建築基準法によって規制され、集成材はもっぱら造作用として発達した。大規模木造建築物の構造用集成材は欧米が先進地だったため、同社は「海外に追いつき、追い越せ」を合い言葉に毎年数人ずつ海外に研修派遣するなど積極的に技術研さんを積んできた。
 「ところがいつからか、もう海外に行く必要はない、うちの方が進んでますよと社員が言うようになった(笑)。それで止めました。逆に先進国のカナダやヨーロッパなどの国から、当社工場の視察に訪れるようになりました」
 日本人の美意識を満足させる美しい仕上げと繊細な匠の技、そしてコストダウンを実現する技術-。同社の技術は今や世界トップクラスだ。
 環境問題への関心の高まりや技術革新を背景に、最近日本でも木造建築の規制緩和が進む。同社は2005年、国土交通大臣の許可を得て金沢駅前の防火地域内で日本初のハイブリッド集成材による5階建てビルを手がけるなど、その分野でも実績をあげている。

国産材を世の中に積極的に活かす仕組みづくりがテーマ

風呂桶 これからの経営課題のひとつとして、齋藤会長は「海外への展開」をあげる。単に部材だけでなく、設計、加工、構造計算などをパッケージし現場で組み立てるだけにして輸出するというもの。すでに台湾、韓国など数カ国に実績を持ち、信州からまつの需要拡大にも一役買っている。
 もうひとつは住宅市場での業績拡大。「山一工法住宅」として住宅部材の開発・製造から設計・施工、さらには宅地造成まで手がける。「当社は欧米のように住宅は100年使うという考え方。ぜひそういう考え方が主流になってほしい。そうでないと日本から匠の技もなくなってしまいます」。
 齋藤会長が憂うのは、かつては林業先進地としてリーダーシップを取った長野県林業の「危機的状況」。林業および山林の荒廃が進み、林業施策も立ち後れに陥っているという。
 「業界全体で何とかしなければいけない。山は手入れをしないと環境によくないし、災害にも弱くなる。山林を手入れし、財産である木を山から出して金に換えていく循環の仕組みをつくらなければいけません。県は『ぬくもりの森』施策として、住宅建設に50%以上県産材を使った人に50万の補助金を出していますが、このように木を使ってもらう仕組みを政策的にやっていくことが大切なんです」
 一方、同社では創業以来の樽づくりの匠の技を伝承しようと、風呂桶の製造を始めた。「匠の技を伝えていこうと先代の實が始めました。値段も安く、旅館・ホテル、温泉施設などあちこちで使っていただいています。匠の技を受け継ぐ若い技術者も育っていますよ」。
 地域の木にこだわり、それを活かした木材加工に取り組んで150年。木材の有効活用と資源再生による循環型社会の構築をめざし、国産材を世の中に積極的に活かしていく仕組みづくりが同社最大のテーマだ。


プロフィール
代表取締役会長齋藤 敏
代表取締役会長
齋藤 敏
(さいとう さとし)
本社工場全景中央会に期待すること

中央会への提言
 10人集まれば10ではなく100の力になるかもしれない。個々の企業がもっと元気になるための仕組みづくりや、資金面でも支援をお願いしたい。

経歴
1935年(昭和10年)3月23日生まれ
1953年 齋藤木材工業(株)入社
1989年 齋藤木材工業(株)代表取締役社長に就任
2004年 同社代表取締役会長に就任
出身   長和町
家族構成   妻、長男夫婦、孫2人
趣味   特になし。かつては狩猟やゴルフもさわったが。

 

企業ガイド
齋藤木材工業株式会社

本社 〒386-0701 小県郡和田村561番地
TEL(0268)88-2525
FAX(0268)88-3147
創業   昭和32年6月1日
資本金   5,000万円
事業内容   造作用及び構造用集成材の製造・加工、自社で製造した集成材の全国への販売、木造大型建築物及び一般住宅等の設計・施工、建設工事、住宅用木材の販売
事業所   本社・本社工場、建築事業部、ナガト工場、古町工場、上田支店(齋藤木材商事(株))、丸子営業所、山一工法住宅常設展示場(上田営業所)、企画室、東京出張所
グループ会社   齋藤木材商事(株)
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