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月刊中小企業レポート
更新日:2007/10/20

健康を考える

ゆがみ

健康を考える 毎日の診療の中で、医学的には考えにくいことを社会ではあたかも本当のように言われていることが数々あります。整形外科の診療をしていますと、「ゆがみ」という言葉が気にかかります。
 ある雑誌からの引用です。「顔がむくむ、顔の片方がたるむなどの悩みは顔のゆがみが原因かもしれません。食事のとき片方で噛む、横向きで寝る、頬杖をつくなどの習慣のある人は要注意、ゆがみを矯正するマッサージ法を紹介します…。」確かに、本当のように聞こえますが、世の中に顔のゆがんだ人は大勢います。どんな人間も、多かれ少なかれ、顔のゆがみ(この言葉を使ってよいとしたらですが)は必ずあります。どんなに綺麗な女優さんでもまったく左右がシンメトリーな人はいません。それが顔面神経麻痺のような病気でなってしまっているとしたら治療が必要ですが、綺麗な女優さんの顔を完璧に左右シンメトリーにする必要があるでしょうか?有名なジャズシンガーや政治家の顔が浮かんでくるかもしれませんが、その方たちが決して困っているとは思えませんし、たぶん一度は悩んだことがあるかもしれませんが、それによってその人の人格を判断されることや、技術が評価されない、などということはないでしょう。もしそんなことをする人がいるとしたらその人のほうが、「心がゆがんでいる」と思いませんか?

 

■骨盤がゆがむ?

 もう一つ引用させてもらいます。「骨盤が左右、前後などに傾いていると、下腹部に脂肪がついたり腰痛の原因となったりします。まずは基本のエクササイズでゆがみをなくしましょう」これを正確に直すならば「骨盤が左右、前後などに傾いていると→下腹部に脂肪がついたり腰痛の原因となることがあります」でしょう。
 「骨盤がゆがむ」という言葉が良く使われていますが、骨盤は正確には仙骨と左右の腸骨からなり、後方の背骨の一番下に当たる仙骨の左右にそれぞれ仙腸関節という関節があり、ここは正常な人ではほとんど軟骨結合していて、仙腸関節炎のような病気でもないと動くことはありません。前方の左右の腸骨の間は、恥骨結合といって、ここも軟骨によりしっかり結合していて、妊婦さんがお産をするとき、胎児の頭が大きかったりすると、結合が緩んで開いてしまうことがあります。しかし大抵は一時的で、産後ベルトなどにより固定することでほとんどが治ってしまいます。
 それでは、骨盤が傾くことはないのでしょうか?これはNOです。生まれつき、股関節が脱臼している人は、脱臼しているほうの足の長さが短くなるため、脱臼しているほうの骨盤の高さは低くなります。側弯症といって、背骨が曲がってしまう人や、椎間板に障害があり背骨に曲がりが出来てしまう人も、同じように骨盤が傾くことがあります。この人たちの傾きを「骨盤のゆがみ」というならば、それは体操で治るのでしょうか?確かにこのような人は、歩行にも障害が出来ますので体操も必要ですが、足の長さを補ってあげる補高装具を作ったり、必要ならば手術により、背骨を矯正したり、人工関節の手術をして関節を作ってあげなければなりません。しかし程度が少ない人は、痛いときだけお薬を使うことにより、また普段から体操をすることで筋力を補うことにより痛みは緩和されるでしょう。

■「ゆがみ」の矯正より顔や体の体操で柔軟性の保持を

 骨盤も、ジャズシンガーや政治家の顔と同じでまったくシンメトリーではありませんから、それを「骨盤のゆがみ」というならば多かれ少なかれ誰でもあるといえましょう。しかしこれは「顔のゆがみ」と同じで治す必要がないものですし、しっかり軟骨結合している骨盤がそうそう「ゆがみ」を持ったりそれが矯正されるなどということは、医学的には考えにくいということです。
 顔の体操や、体をほぐす体操は、普段使っていない筋肉や関節を動かすことにより、柔軟性を維持することや関節の可動域を維持することにつながり、老化の防止に役立つでしょうが、その人それぞれに合った程度が大切でしょう。無理せずストレッチングや体操を少しずつ毎日続けるのが体を長持ちさせるコツではないでしょうか?

長野県保険医協同組合
理事 花岡 徹
(松本市 花岡整形外科)

 

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