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月刊中小企業レポート
更新日:2007/10/20

特集「知的財産と中小企業」最終回

知財こそ中小企業躍進のエンジン

 「知的財産権」とは、人間の頭脳や感性などから生み出された技術やアイデア、デザイン、芸術作品など、形のない成果に関する権利であり、技術革新とイノベーションの源泉だ。わが国では、知的財産の創造や活用の促進を図ろうと2002年「知的財産基本法」が制定され、特許重視の政策を推進。保護の重要性が広く認識されるようになった。
 長野県は特許出願件数でつねに全国上位に位置する。意欲的で技術力の高いものづくり企業が多いことを裏づけているが、しかしその一方で、関心は高くても、特許取得にかかる費用や時間を考え二の足を踏むケースが多いことも事実。さらに保有する独自技術やアイデア等を知的財産として有効活用している企業となると、まだまだ少ないのが現状だろう。
 そこで本特集では、長年にわたり県内を中心に活躍し数多くの事例を扱う日本弁理士会東海支部長野委員会委員長綿貫隆夫弁理士(綿貫国際特許・商標事務所長)に執筆をお願いし、8月号から知的財産権と中小企業との関わりについて取り上げてきた。
 第1回と第2回では特許権、意匠権、商標権、著作権、実用新案権といった知的財産各権利とともに、中小企業が日頃疑問に感じているポイントを実例を交えながら分かりやすく解説した。今回は知的財産活用の成功事例を紹介。さらに知的財産権をめぐる新たな動向にもふれる。 
 知的財産をいかにビジネスに活かし、企業発展の原動力とするか。そのヒントになれば幸いである。

即席麺を創った日清食品も中小企業的開発

即席麺を創った日清食品も中小企業的開発
  • てんぷら技術の応用から
     カップヌードルや復刻版チキンラーメンは戦後、安藤百福さんが始めて考案し、今日の日清食品の基礎を築いた。お湯に浸せばそのまま食べられる。お湯を掛ければすぐに吸収してふやけるためには、麺を油の中でてんぷらのように揚げればいいと気が付いた。麺が生でなくなるとともに軽石状になってお湯を吸収する。倒産でかろうじて残った納屋で奥さんと二人で試作した。安藤氏48歳のときである。デパートで即売をするうちに問屋も目に付けてトラックで買いに来てくれた。40人ほどの近所の婦人を集めて工場らしきものにした。それが日清食品のスタートである。食糧難の戦後、一世を風靡した。

  • カップ麺を外国人に食べてもらいたい
     安藤氏ははじめてアメリカへ行くことになった。飛行機の中で、当時出始めた発泡スチロールのカップでコーヒーが出た。安藤氏の頭の中は常日頃、欧米人にも即席麺を食べてもらうことが出来ないかという課題でいっぱいだった。発泡スチロールのカップを見た瞬間、安藤さんは「これだ」と思った。
     日本に帰ってから、いろいろ実験をしてみた。二つのことが分かった。一つは麺の位置はカップの底ではなく、下から中くらいの高さのところにギュッと嵌ってブリッジしているのがいいということ。麺の塊がカップの底に張り付いていると湯回りが悪くお湯を吸収しないで白く残る部分が出来る。麺の塊がカップの中で転がって壊れる。カップを外から握るとグシャッと潰れる。おまけに麺が中間の高さまでせりあがっていれば麺の上に載っているえび、凍み豆腐やねぎなどがおいしそうに迫ってくる。安藤氏はカップの中に麺を宙吊りにした即席麺の包装体を実用新案登録出願した。カップヌードルの形態の独占である。

  • カップに宙吊りさせる装置は、下から突っ込め
     研究所ではカップの中ほどに麺を宙吊りさせる自動機が作れないで苦しんでいた。安藤氏は夜、布団の中で天井を見ていて閃いた。口を下に向けたカップに向かって、円盤に乗せた麺の塊を突き上げればスポッと嵌まるじゃないか。あるいは逆さにしたカップを突き棒の上の皿に載せた麺に被せればいい。安藤氏は研究員に「下から突っ込め」と言うと研究員は「あっ」といってまもなく自動装置が完成した。数億円安く出来たという。

  • 上部が密、下部が粗の麺塊を作る
     麺への湯回りをさらによくするためには、麺の塊が上部を密に、下部を粗の状態になるのが望ましい。均一な構造にするのは容易だが、密度を変えるのは難しい。やはり研究員たちは頭を悩ませていた。安藤氏は昔、納屋で試作していた頃のことを思い出した。麺を油の中へ入れて一定の時間が経つと水分が飛んでふわーっと浮いてくるのを経験した。筒の中でてんぷらに揚げ、軽くなって浮いて来るところを上からふたで押さえれば上密、下粗になるのではないかとイメージした。油の中に金属の筒を縦に並べて、自動機を作った。成功だった。特許出願した。各社がカップ麺を作るようになった頃、その特許は威力を発揮した。業界に無償のライセンスを認めた。その代わり条件を付けた。商品の値段を下げる競争だけする企業にはライセンスの更新を認めない。いろんな種類のカップ麺を開発して市場を賑やかにする企業には無償ライセンスを認めることにした。これがカップ麺が世界の商品になるキッカケだった。

三角おにぎりを考えた人は飯田のお惣菜やさん

三角おにぎりを考えた人は飯田のお惣菜やさん
  • 思い切って出願してみた
     Mさんは、はじめ三角形のポリ袋を作って売り出した。「袋にご飯を詰めて外から握れば、手を汚さずにおにぎりを握れますよ。」と呼びかけた。そのうち三角袋を二重にして、外袋の角を切って口を開け、中袋の三角の角を外袋口から尻尾のようにチョロっと出し、中袋の中へおにぎりを入れ、二重の袋の間に海苔を挿み、中袋の尻尾をキューっと引っ張ると、海苔がおにぎりに張り付くものを考案した。
    弁理士に相談すると「二重の三角袋の間に海苔を挿み、中袋の尻尾を外袋の底部の角の切り口から露出させたおにぎりの包装袋」として実用新案登録になった。湿気の無いパリパリの海苔を巻いたおにぎりが、手を汚さずに出来た。

  • 海苔の問屋が目に付けた
     関西の海苔の問屋さんがその包装袋を一個につき0.5円のロイヤルティーとし、一手に販売する専用実施権契約を結んだ。1個に付き0.5円のロイヤリティーとし、コンビニに寿司を納めているベンダーにその包装袋を納め、三角おにぎりを売り出した。子供や車のドライバーの間で爆発的に売れた。特に、ご飯の中へサラダ油を混ぜることで味がよくなるうえに古米でも十分に使え、油の滑りがキューっと引っ張るのに適していたため三角おにぎりはヒット商品の座を保っていた。
    あるときその海苔問屋さんとおにぎりを作っているベンダーさんから弁護士を通して申し入れがあった。「あなたはアイデアを考えただけで、われわれが広告をし、販売努力をしてこんなに売れるようになった。あなたは手汚さずでロイヤルティーを得ているが、こんなに売れるようになったのだから、ロイヤルティーを安くしてくれ。」ということであった。
    私は、交渉を頼まれ何度か会合を持った。いろいろ調べてみると、JRのキオスクや報告の無いところでも売られている。全部調べ上げるのも大変だし、相手方も後ろめたいところがあるようだから、そのことには触れずに「ローヤルティは定額で月に200万円でどうか。」と提案した。案の定OKの答えが返ってきた。5年間ほど定額で月200万円がMさんの通帳に振り込まれた。

  • 権利は絶対ではない
     相手方は、別のコンビニ系列が、「外袋にミシン目を入れて、買った人がミシン目を破いて、中袋の尻尾を引っ張るようにしたもの」を売っているので差し止めの裁判を起こした。しばらくするとそのコンビニ系列は三角おにぎりのふんどしの位置を引き降ろし、外袋を左右に引っ張ると中袋も一緒に割れて海苔だけおにぎりの表面に張り付く包装袋を考案した。考えればアイデアはあるものだ。うまく逃げられてしまった。
     それでもこちらの包装袋は今でも市場で認められている。Mさんも十分なアイデア料を得たし、海苔問屋さんは大阪で5階建て5億円のビルを建てたし、ベンダーさんも関東に工場を進出させた。知財成功の例である。

ユニ・チャーム超立体マスク

ユニ・チャーム超立体マスク 売れている。2003年1月の発売、はじめは社員が通勤時につけて普及を図った。この超立体マスクは密閉性、快適性を追求して作られた。白いカラス天狗のニックネームも付いた。鼻から頬、顎まで壷を被せた状態で周辺の隙間ゾーンを塞ぐので花粉の侵入を防ぐ。高密度の不織布のフィルターで花粉をシャットアウトしている。口の周辺には空間があり息苦しさやしゃべりにくさがなく、口紅うつりもない。柔らかい不織布の耳かけで痛くない。もともと医療用のマスクとして開発されていたものである。
 ユニ・チャームは生理ナプキンや紙おむつに関しては業界No.1の実績を保つ。紙や不織についてのノウハウの蓄積がある。もともとユニ・チャームは、体内から排出される体の出口に快適・ピッタリにあてがって排出物を吸収し、漏れないように保持する技術に取り組んできた。研究室には女性のお尻の模型があり、その股間部に生理ナプキンを当てて下着をはかせて観察している男性研究員。自分でもナプキンを湿らせて、一晩身に着けて過ごすこともあるという。生活用品の研究は中小企業の場合と同じである。花粉症が問題になり始めたのを見て機能的なマスクの発売に踏み切った。これまでのイメージの壁を破るために全社員が通勤時につけたのもガッツの現われである。機能の壁を越えたところで、飛沫に含まれるウィルスをシャットする風邪用のマスクを売り出し、ファッション習慣をクリアーした。年間売り上げは100億円を超えた。ユニ・チャームでは意匠登録や商標登録を取って国内の競合品に対抗しているが、品質の低い輸入品に対しても不正競争防止法や水際作戦でこの商品を守っている。

ヘアコンタクトはベンチャーの発明

ヘアコンタクトはベンチャーの発明 眼鏡の変わりに眼球に直接つけるコンタクトレンズが普及しているが、従来のカツラとも、育毛・増毛とも全然違う、「ヘアコンタクト」なる商品が発売された。ベンチャー企業であるプロピアの商品である。開発したプロピアの保知宏社長の発想は人工毛髪を植え付けた特殊なフィルムを、皮膚に張り付けるというものであった。社長は、製造機械の開発を新科学開発研究所に依頼した。フィルムと皮膚に張り付けるための吸着剤は日東電工、人工毛髪は帝人が引き受けてくれた。開発のはじめから私と親しいA弁理士も参画した。大手企業も弁理士も0から取り組む保知さんの熱き思いに共感したのだ。透湿性の多孔質の医療用フィルムを改良して皮膚の角質層と同じ0.03mmまで薄くした。そこへ0.08mmのポリエステル製人工毛髪を機械で植毛するのは大変だった。吸着剤と専用の剥離剤を完成して発売に踏み切った。反響は大きかった。怪我ややけどをして部分的に頭髪の無い人、頭髪の薄い人、さらにはファッション感覚で着ける人など用途は様々、全自動の機械が完成したため、これからの多様な販路が期待できる。日本特許、米国特許、日本商標登録などコンセプトが固まり次第、知財の手当はしてある。


出願の前や審査請求、外国出願の前に先行技術調査を

 特許出願しても出願前に知られている発明があれば特許にならない。公知技術から容易に考えられる発明も特許されない。出願に時間と費用をかけても特許にならなければ無駄になる。先行技術調査の必要がある。特に審査請求や外国出願をするに際し、中小企業または個人の出願の場合、出願人または代理人からの申し込みにより特許庁から委託を受けた民間調査事業者が無料で先行技術調査をします。
 この事業を活用することにより、審査請求をした場合には特許率は65%ある。審査請求をあきらめれば審査請求料の約20万円が無駄にならない。また、この事業の調査報告書を活用すれば、後出の早期審査申請時の事情説明書の作成も容易になる。

審査・審理の時期を早めたい

 中小企業や個人等の場合、発明を実施している場合、外国の特許庁等に出願している場合など、「早期審査、早期審理に関する事情説明書」を提出することにより審査や審理を早めることが出来る。これは特許、意匠、商標について該当する。

研究開発型中小企業などの審査請求料・特許料の減免

(詳細は下記の図を参照)

 出願しようとする場合、費用の減免制度を活用したい。詳細は日本弁理士会、発明協会、中小企業基盤整備機構、特許庁などに問い合わせできる。
個人事業主、会社・組合、公設試験研究機関、地方独立行政法人でそれぞれ一定の要件を満たすものは審査請求料の半額、特許料の半額が軽減される。
 資力に乏しい一定の個人は審査請求料免除または半額軽減、特許料免除または3年間猶予される。資力に乏しい一定の法人は審査請求料半額軽減、特許料は3年間猶予される。
 アカデミックディスカウントとして一定の大学等の研究者、大学等は審査請求料半額、特許料半額軽減される。一定の技術移転機関(承認TLO)は審査請求料の半額、特許料の半額が軽減される。

中小企業こそ賢い知財でガード

中小企業は、資本も少ないし、研究施設も充実していないし、高学歴の社員も少ないから、知的財産など関係ないと思っている人がある。経営資源の条件が乏しいからこそそれをカバーするのが知財である。知財にふんだんに金を掛けよと言っているのではない。中小企業の現場で生まれた知財はダイヤモンドの原石のようなものである。先見の明をもってしっかり磨き上げて出願すれば、知財が企業の将来の飛躍のエンジンになる。目先のことに振り回されるだけでなく、企業の未来も確保していくべきである。

特許権を取得するための料金について減免される制度

資料出所:特許庁資料より

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