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月刊中小企業レポート
更新日:2007/08/20

健康を考える

耳の働きと聴覚の特徴

健康を考える 今回は、耳の働きとその進化の過程で獲得した聴覚の特徴について考えてみます。耳は音を聴くための器官であることは、皆さんもよくご存じのことと思います。この聴覚受容器である耳が、様々な障害によって働きが悪くなると耳鼻咽喉科に受診することになります。ただし、急性中耳炎や外傷性鼓膜穿孔のように難聴以外の強い痛みや急激な聴力低下がなければ即日受診とはならないようです。痛みや強い耳鳴りがなく徐々に悪化する一側性難聴の場合、本人も気付かないまま、家族や同僚に難聴を指摘されて初めて耳鼻科受診となるケースも多く見受けられます。
 人の感覚は、一般的に視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5種類に大別されます。5感覚の内、とりわけ視覚と聴覚は仕事や生活に欠かせない感覚と見られているようです。現に国が定める身体障害者福祉法でも、不十分とはいえ視覚障害者と聴覚障害者には障害等級による国の支援が受けられます。一側障害或いは軽度障害は自助努力に任されています。感覚器官の健康意識は現状この程度です。

 

聴覚が生命体に備わり、進化・発達してきた過程

 さて、聴覚の話題に戻して、そもそも聴覚なる特殊感覚が生命体に備わり、進化・発達してきた過程は、地球の歴史に深く関わっているようです。海に生息していた魚類が陸に上がり、液体環境から気体環境へと激変する環境に対応するため鼓膜と中耳という新しい器官が生まれ、大気中の音波を情報媒体として利用することが出来ました。更に2億年ほど前の恐竜時代になると、哺乳類が出現しましたが、小型で弱い哺乳類にとって恐竜に見つからない闇夜が活動の場にならざるを得なかったのでしょう。闇夜の環境では視覚は役に立たないので、中耳腔に耳小骨を備えたより感度の高い聴覚器を活用して闇夜の世界を生き延びたと思われます。小型でエネルギー代謝の大きい哺乳類にとっては、栄養価の高い昆虫を補食する必要があり、そのために高感度かつ高速処理の聴覚システムが欠かせなかった訳です。そして数百万年前に言葉を獲得した人類が出現してから音声と聴覚システムの飛躍的な進化・発展が成し遂げられ、言語によるコミュニケーションを基礎にして人類社会の永続的な繁栄がもたらされたと思われます。

聴覚は公共財と言っても過言ではありません

 生命進化の過程で獲得されてきた聴覚情報処理の仕組みは、三次元空間からの光波を一括処理する視覚と違って、一次音源から次々に発せられる一次元情報を順次実時間処理していくといった特徴を持っています。実時間処理を有効にするためには、一連の音波情報を出来るだけ単純化し、情報の欠落部分をその状況に合わせて取り敢えず補完し迅速で淀みのない情報処理が不可欠です。人類特有の言語・聴覚システムは、曖昧で間違いも起こしやすい反面、その情報処理の迅速性が、危険回避の警報システムとして機能し、幾つもの大脳に即時に同じ感情を起こさせて社会連帯を強めるなど相互ネットワークとしての価値があります。
 皆さん、耳を大事にしてください。自分の耳だけではなく、家族の耳も、会社の同僚の耳も社長の耳も大事にしてください。聴覚は個人の財産と言うより、社会的共有財産つまり公共財と言っても過言ではありません。個々人の耳の健康は、社会の健康、国家の健康、人類の健康に大きく貢献していくでしょう。

長野県保険医協同組合
理事 三田 温
(茅野市 三田耳鼻咽喉科医院)

 

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