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月刊中小企業レポート
更新日:2007/08/20

特集「知的財産と中小企業」その1

生き残りから、勝ち組へ。
知的財産が中小企業のビジネスを変革する

かつての大量生産による価格競争を勝ち抜く経営から、革新的な商品・サービスの開発や新たな事業の創造をめざす経営への変革が求められている。今まさに企業発展のキーワードは、絶え間ない技術革新とイノベーションである。
 そこで注目されてきたのが「知的財産権」。人間の頭脳や感性などから生み出された技術やアイデア、デザイン、芸術作品など、形のない成果に関する権利であり、技術革新とイノベーションの源泉だ。わが国では、知的財産の創造や活用の促進を図ろうと2002年「知的財産基本法」が制定され、特許重視の政策を推進。保護の重要性が広く認識されるようになった。
 長野県は特許出願件数でつねに全国上位に位置する。意欲的で技術力の高いものづくり企業が多いことを裏づけているが、しかしその一方で、関心は高くても、特許取得にかかる費用や時間を考え二の足を踏むケースが多いことも事実。さらに保有する独自技術やアイデア等を知的財産として有効活用している企業となると、まだまだ少ないのが現状だろう。
 そこで本特集では、長年にわたり県内を中心に活躍し数多くの事例を扱う日本弁理士会東海支部長野委員会委員長綿貫隆夫弁理士(綿貫国際特許・商標事務所長)に執筆をお願いし、今回から3回にわたって知的財産権と中小企業との関わりについて取り上げる。
 第1回と第2回では特許権、意匠権、商標権、著作権、実用新案権といった知的財産各権利とともに、中小企業が日頃疑問に感じているポイントを実例を交えながら分かりやすく解説する。第3回は知的財産活用の成功事例を紹介。さらに知的財産権をめぐる新たな動向として、経済産業省が策定した「特許審査改革加速プラン2007」についてもふれる。 
 知的財産をいかにビジネスに活かし、企業発展の原動力とするか。そのヒントになれば幸いである。

特許権を説明する前に

 パット・チョート著の「模倣社会」の中に4種類の知的財産が分かりやすく説明されている。「著作権」、「特許権」、「商標権」そして「トレード・シークレット(営業上の秘密)である。たとえ話として、トーマス・エジソンが自分の研究した「白熱電球」について、これを説明する本を書いたとする。当然エジソンに著作権が発生する。したがって他人はエジソンの文章や図形を無断で複製したり、コピーを配布してはならない。しかし著作権法はその本に書かれているエジソンの電球アイディアを基に白熱電灯を製造・販売することを禁じてはいない。日本でも自分の発明を文書等に著せば著作権があるから他人に模倣されないという人があるが、真っ赤な嘘である。技術的なアイデアは特許権を取得しなければ他人の模倣を押さえられない。
 エジソンが自分の発明した電球を「エジソン電球」と名づけて商標登録を取り、有名にしていたとする。もし他人が、エジソンの特許技術と異なる電球を製造して「エジソン電球」と称して販売したとする。エジソンは特許権を主張することはできないが、「エジソン電球」と呼ぶことは禁止できる。アメリカではさらにトレード・ドレスと言って商品の外装や箱詰めの形態で買う人を惑わすことも禁じられている。
コカ・コーラ 特許を取らず製造方法やノウハウを秘密にしておいたり、営業上の顧客リストを秘密に管理していた場合はトレード・シークレット(営業上の秘密)ということになるが、一度他人に知られてしまえば取り返しがつかない。厳重秘密のコカ・コーラだって危ないものだ。
 特許権の説明の導入として、知的財産の骨格を説明した。特許権は「他人がエジソンのアイデアを無断で利用することはできないとする権利である。特許になったアイデアを他人が無断で利用したり、製品を販売したり、輸入したりすることを禁止するのである。」ただし、特許権は出願から20年で切れてフリーになる。独占権を認められる代わりに、そのアイデアの内容を詳しくオープンにしなければならない。内容を隠しておいて独占を主張するのはずるい。特許になった発明の内容が公表されれば、他人もさらにその上の改良や、別の手段を研究して世間の知識水準が高まる。

特許された権利はどこに書いてあるのか

 特許権の内容を記載した「特許公報」が特許庁から発行されている。その中に「特許請求の範囲」という欄がある。よく、発明のタイトルだけ見て「白熱電球」が特許になっているから作れないとか、略図や明細書の中の「この発明は透光性のガラス球の中に通電発光体を封じ込めた白熱電球である」という記載や、示されている略図を見て「もうだめだ」といっている人がある。ところが「特許請求の範囲」には「透光性のガラス球の中に炭素繊維を封じ込め、ガラス球内部を真空にした白熱電球」と記載されていたとする。
 「特許請求の範囲」は発明の説明ではなく権利を示す契約書だと思ってよい。したがって、「炭素繊維」でなく「タングステンの合金」にしたり、「真空」でなく「アルゴンで置換」したものであれば別の内容になるので権利の抵触はない。特許請求の範囲の全部ではなく「透明のガラス球を真空にしたバルブ」だけに権利があるわけでもない。

オープンになっている技術は特許にならない

 「特許請求の範囲」に記載されている発明の内容を、特許出願前に、うかつに発表したり、他人に漏らしたり、商品として販売したときは、特許は取れない。自分が発明したものだから問題ないだろうと思っている人がある(くれぐれもご用心)。出願日よりも前にこの世に存在していた公知文献に書かれていれば特許庁はNOという。特許庁は知らずにOKすることもあるが、無効審判や裁判で公知事実を突きつければ、特許権は無意味になる。無駄な出願になったり、後で争いが起きることを考えると、出願前に存在する文献調査は念を入れたほうがいい。実際のところ、既に特許になっているものでも、以前の技術を探せばなくなる特許がいっぱいある。特許制度の実際は完璧ではない。

オープンになっている(複数の)技術を見たときに、簡単に思いつく程度のものは特許にならない

 発明者が存在を知らなかった技術とも比較される。そして、特許庁の審査官とのやり取りはもっぱら発明容易性の議論である。この議論は弁理士が知識を駆使して議論する。審査官と弁理士の果し合いだ。審査官を説得できれば特許、できなければNOとされる。

権利に抵触しなければ自信を持ってフリー

 まず「特許請求の範囲」をそっくり利用していれば権利侵害である。もちろん権利が消滅していれば問題ない。明細書・図面の中に書いてあっても「特許請求の範囲」に記載がなければ心配しなくてよい。ただし、その公報に権利の記載がなくても、ほかにも権利があるかもしれないから調査は念入りにしなければならない。

中小企業では現場のノウハウが宝である

 忙しがっていると、現場で工夫したノウハウもそのままにしてしまう。キチンと記録して、秘密管理しておくのがいい。オープンになったり、人とともによそへ移ってしまう。ノウハウも組み合わせたり、磨いたりすればすばらしい特許になることがある。小さな工夫でも捉え方で大きな発明として認められる。
 これまで特許権をテコに発展してきた中小企業は歴史上数知れない。大それた研究や複雑な技術によるわけではない。まさに日常の現場での創意工夫そのものである。現場で気づいたアイデアを、まず解決すべき技術的課題として掲げ、周りに及ぼす効果を多面的に捉え、アイデアと効果の因果関係を合理的に説明すれば、特許になる。こんなものでも特許になるのかと後に話題になることがあるが、それは中小企業の技術活動として意味のある知恵だからである。簡単なポイントを独占することで企業は飛躍する。
 次回は、価値ある商品を、流通の中で優位に位置づけるための「ニセモノ対策」を中心に説明する。

産業財産権とは
(資料:特許庁のホームページから)

 

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