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月刊中小企業レポート
更新日:2007/07/20

特集 小規模事業経営支援補助金(平成18年度チャレンジ枠事業)成果報告
知的障害者授産施設商品開発モデル事業

~フランス鴨の飼育と販売~

フランス鴨の飼育

知的障害者の自立と、信州ブランド化による地域おこし。
「フランス鴨」でふたつの夢実現をめざす。

 長野県では県内経済の活性化のため、起業をめざす人や経営革新に挑戦する中小企業の支援事業を実施している。平成18年度は、新たなチャレンジの支援、環境と調和した産業の創出、ブランド化・マーケティング支援、就業・人財育成支援を柱に、各種支援事業を展開した。
 長野県中小企業団体中央会は平成18年、商工団体の提案事業計画を外部評価委員が審査する「小規模事業経営支援事業費補助金」(平成18年度チャレンジ枠事業)の活用を知的障害者授産施設「共立学舎」(松本市今井)などに提案。「知的障害者授産施設商品開発モデル事業」として応募し、同年6月に採択された。
 その後検討をかさねた結果、開発商品を「フランス鴨の飼育・販売」と決め、10月にはフランス鴨のヒナ50羽を導入し試験飼育を開始。19年2月には飼育したフランス鴨を処理し、成果発表試食会も開いた。
 同事業は平成19年3月いっぱいで終了したが、企業組合CustomLabo、共立学舎、中央会の三者で事業化に向けて任意団体「信州フランス鴨の会」を設立。本格的な事業展開をめざした取り組みを続けている。
 知的障害者授産施設商品開発モデル事業としての「フランス鴨の生産販売」の活動の経緯と現状、さらに将来構想と課題について紹介する。

障害者授産施設にも財政的自立が求められるように

 共立学舎は就職することが困難な知的障害者に陶芸、椎茸栽培、廃油を利用した石けん・バイオディーゼル燃料の製造、牛乳パック回収などのリサイクル事業といった生産活動の場を提供。利用者の自活に必要な生活支援や作業指導などを行っている。
 もっとも施設の利用者への報酬は月平均1万円程度。そこに平成18年4月から障害者自立支援法が施行され、障害者が福祉サービスを利用する場合、原則利用料の1割の負担が求められることになった。また、公的給付費により運営している障害者授産施設にも財政的自立が求められるようになったのである。
 そこで共立学舎は従来の事業を根本的に見直し、新たな事業創出の模索を始める。この時、村山正彦施設長が相談したのは、かねてから施設の自立に向けた事業の提案やアドバイスを受けていた「企業組合CustomLabo」(松本市島内)の笹井俊一理事長。同組合は緊急通報システム「隣組110番」などのオリジナル商品開発で実績を持つ、松本市のものづくり組合だ。
 「笹井さんからは以前からいろいろとご提言をいただき、新しい事業にチャレンジしてきました。『今井焼』と命名していただいた陶芸のそば大皿もそのひとつ。最近ようやく試作品ができましたが、これは施設と地域とが一体となった活動ができないかという発想から生まれたものです」(村山施設長)。

事業ベースに乗る商品開発をめざしてチャレンジ枠活用

 共立学舎は施設と地域とが一体となった取り組みを積極的に推進している。平成19年4月には知的障害者が一般住宅で共同生活し、地域に溶け込んだ生活を送ることで地域社会との関わりを築いていこうという自活訓練棟「あさがお」をオープンした。
 新たな事業の発想の原点もここにある。共立学舎のある松本市今井地区は農業地域だが、近年遊休荒廃農地が問題となり、農地を活かした地域おこしの取り組みに期待がかけられている。この環境を逆手にとって、施設利用者も一般の人々により近い賃金が期待できる事業(働く場)がつくれないかと考えたのである。
 そこに事業化へのコーディネーター役をかって出たのが、企業組合CustomLaboの設立を支援した中央会中信事務所の田中主事だった。ここに共立学舎と企業組合CustomLabo、そして中央会のコラボレーションが生まれる。「笹井さんを通して共立学舎がめざす新たな授産事業の話を聞き、平成18年度チャレンジ枠事業の補助金を活用したらどうかと提案したのです」。
 そして三者は平成18年7月19日、同事業委員会を発足。委員に村山施設長と上嶋由也共立学舎支援課長、委員兼専門家に笹井理事長と星野憲共立学舎地域就労支援専門員、事務局には馬場中央会中信事務所副所長と田中主事が就いた。
 「財政的に自立し、事業として成立するモデル的な知的障害者授産施設をめざし、施設での製造(生産)が可能で将来的に事業ベースに乗りそうな商品の開発」への取り組みがスタートしたのである。

最高の味を持つといわれる「フランス鴨」の試験飼育を決定

フランス鴨 8月10日に開かれた第2回事業委員会で開発商品について検討・協議。その結果、開発商品を「フランス鴨の飼育および販売」に決定する。
 「フランス鴨」は笹井理事長の提案だった。笹井理事長は「別の商品を通してつき合いのあった知人を通して、以前からフランス鴨やその製品について知ってはいました。そこで今回、フランス鴨はどうだろうと提案したのです」と話す。
 フランス鴨はおとなしくほとんど声を出さない。臭いもあまりなく、飼い方もシンプル。しかも特産のりんごをエサに利用できる。地域での飼育に適していた。星野地域就労支援専門員が以前、施設内で鶏を飼育した経験があることも安心材料だった。また経済的メリットだけでなく、動物とのふれあいがもたらす利用者への効果も期待が大きかったようだ。
 知的障害者授産施設商品開発モデル事業はここに「フランス鴨」という具体的な事業対象を得て、商品化に向けて動き出す。
 鳥肉のなかで最もおいしいといわれ、洋の東西を問わず高級食材とされているフランス鴨。なかでもバルバリー種は食用として改良された鴨の一種で鴨肉のなかでも最高の味を持つといわれる。
 飼育もしやすい。「施設利用者が安心して可愛がって育てられるので、それもよかった」と村山施設長。

試験飼育の成果発表会で「大変おいしい」と評判上々

 同事業委員会ではさっそく9月上旬、フランス鴨製品等の製造・販売を手がける㈱カナール・ジャパン(京都市)を訪問。フランス鴨の飼育農場「和知鴨工房」(京都府和知町)を視察した。
 そこで飼育施設や飼育体制(人員)などを確認。また入荷後必要な事柄についてもアドバイスを受けた。例えば、飼料は専用飼料ではなく、トウモロコシやアマランサスといった自前のものが使えること、暑さ寒さには強いが年間を通して飼育舎の温度を20度前後に保てれば理想的なこと、さらに出荷時の価格と採算ライン、出荷方法(解体か生体か)など事業化にあたってぜひクリアしなければならない問題等々。そのアドバイスにもとづき、長野県内の食鳥処理業者等の視察も行った。
 そして10月中旬、共立学舎敷地内の既存施設をフランス鴨飼育施設に改修。26日には同農場から格安で入荷したヒナ50羽を受け入れ、いよいよ試験飼育が始まった。
 それから4カ月後の平成19年2月18日。試験飼育したうちの40羽を食肉加工し「成果発表フランス鴨試食会」が行われた(中央会主催)。
 会場の松本市のMウイング(中央公民館)に施設職員や協力者、松本市内の飲食店、宿泊業者などを招き、フランス鴨料理のフルコースを提供。「大変おいしい」と出席者たちの評判も上々だった。

「信州フランス鴨の会」を発足。事業化へ向けて第2のスタート

 試食会に先立つ2月15日。「平成18年度チャレンジ枠事業」が3月いっぱいで終了となるのを受け、同事業委員会は「継続して事業化に向けて取り組んでいきたい」と任意団体「信州フランス鴨の会」(中央会中信事務所内 TEL:0263-32-0477)を設立した。会長に笹井理事長、副会長に村山施設長、その他の同事業委員も役員に就任し、フランス鴨の事業化に向けた運営・活動を行う。
 同会の目的は、施設利用者の就労確保の可能性を探ること、そして「信州フランス鴨」(商標登録出願中)のブランド化による地域おこしの可能性を見出していくこと。ヒナの購入、飼育期間、飼育方法、他施設・地域(協力者)での飼育、生体処理、出荷、販売など試験飼育での問題点を抽出し検討。それをふまえ事業化の成功をめざす。
 「事業にしていくのは並大抵なことではありません。我々はまだ入口の段階で今後を模索しているところ。本格的に事業化していくためにはそれをひとつひとつクリアしていかなければいけないと感じています」と笹井理事長は気を引き締める。
 同会では地域のバックアップにも期待をかける。松本市の「農業ルネッサンス事業」交付金、中央会独自のチャレンジ事業補助金など各種補助金の活用にも積極的だ。
 「農業ルネッサンス事業」は農業および農村の活性化をめざす松本市独自の制度。地域の特性を活かし、独創性に富んだ新しいアイデアにより特産品事業を行う事業者に対して、3年間400万円を上限に補助金を交付する。
 「本格的な事業進出として松本市の関心も非常に高く、継続的な支援を期待しています。また県関係では地域資源活性化基金助成金による新事業展開・新商品開発など活用できるのではないか。とにかく活用できる補助金は積極的に活用していきたい。また今井地域では遊休荒廃農地が問題となっているだけに地域JAからの期待も大きく、一緒に事業運営していくことも考えられる。このように各関係機関が協力し合って展開していく体制づくりが進みつつあります。あとはとにかく食鳥処理と販売網をいかに広げるか。これに尽きるような気がします」。村山施設長の言葉に力がこもる。

COLUMN

フランス鴨 そのプロフィールと特徴

  • 種類
     フランス鴨(バルバリー種)
  • 歴史
     200年余前、フランスの王侯おかかえの料理人たちが長い年月をかけて最高の味を持つ鴨に改良。世界の王侯やグルメが絶賛した歴史を持つ。それをフランス国外で飼育することを特別に許可されたものが今に伝わる。
  • 味 
     おいしさの秘密は、芳醇なうまみと甘さのあるグレービー(肉汁)。フランスの王侯貴族が贅を尽くした最高の料理として味わった歴史を持つ。有名レストラン「トゥール・ダルジャン」では王室や賓客のため、フランス鴨にナンバーをつけて大切に育て、特別な席で食されたという伝統もある。庶民には高嶺の花で、長い間簡単には口にできなかったといわれる。
  • 品質
     臭みやくせがなく、やわらかい肉質で低脂肪、高タンパク、低カロリーが特徴。100グラムあたり125キロカロリーと、ご飯一杯分よりも低い。ダイエットや生活習慣病予防にも適した食材といえる。
  • 成分
     ビタミンA・B群、カルシウム、鉄、リン、カリウムなどを含み、脂肪分の中のリノール酸やレノイン酸はコレステロールを下げる働きがあり、他の食肉には見られない特徴を持つ。
フランス鴨料理

販売網をいかに広げるか。 それが最大の課題

フランス鴨 フランス鴨の飼育・販売の今後の課題は、販売網をいかに広げるか。そして商品開発だ。
 「施設利用者の就労の場を得るというのがそもそもの目的であり、その場所はいくつあってもいい。そのためには飼育数も数千から数万羽単位に増やさなければなりません。しかし今は問題となっていることをひとつひとつクリアしながら、小規模でもいいから地道にやっていこうと考えています」と村山施設長。
 「飼育したフランス鴨をどこで処理し、どう製品化し、どうやって販売していくか。これが最大の課題です。まず販売網を確保し、それにあわせた商品づくりをしていく。飼育数量はそのなかで決めていこうと考えています」。笹井理事長もあくまで慎重だ。
 知的障害者の自立をめざして始まった「知的障害者授産施設商品開発モデル事業」。フランス鴨の飼育・販売にターゲットを定め、信州フランス鴨の会による事業推進体制を整えたことにより大きく可能性がふくらんだ。それだけに同会では事業を大切に育てていきたいという思いは強い。地域の期待を集める事業だけに今後の展開が注目される。

COLUMN

知的障害者授産施設 共立学舎の概要

  1. 所在地
    松本市大字今井4822番地1
  2. 施設の種類
    知的障害者福祉法による知的障害者授産施設
  3. 施設の目的
    18歳以上の知的障害者で、就職することが困難な方に働く場を提供し、入所または通所で、生産活動を通して自活に必要な生活支援や作業指導等をすることを目的とする施設。
  4. 開設年月日
    昭和57年4月1日
  5. 利用者定員
    入所35名・通所45名
  6. 設置・経営主体
    社会福祉法人中信社会福祉協会
    共立学舎(知的障害者授産施設)
    今井学園(知的障害者更正施設)
    梓荘(身体障害者療護施設)
    ささらの里(身体障害者療護施設)
  7. 事業の内容
    授産施設の特色=職場としての位置づけおよび雇用前訓練の場としての位置づけ
    1)作業訓練 陶芸、廃食用油リサイクル石けんおよびバイオディーゼル燃料の製造、ソーシャルワーク事業、椎茸栽培、古紙回収、牛乳パックリサイクル作業、地域就労支援事業
    2)雇用支援 企業実習および各機関との調整
    3)生活支援 各種クラブ活動、季節折々の行事
    4)地域生活支援 グループホーム「杉のこ」「さつき」
知的障害者授産施設 共立学舎の概要
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