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月刊中小企業レポート
更新日:2007/05/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

ポリシーは「人に感謝されるものづくり」。
長野から、日本へ、そして世界へ「創る」技術とスピリッツ。

アスリートFA株式会社代表取締役社長 山嵜 晃さん
株式会社シンエイ・ハイテック
代表取締役社長 小林 健一さん


付加価値をつける金型技術で「創る」ものづくりへ

付加価値をつける金型技術で「創る」ものづくりへ リアルな映像で楽しめるパソコンよりもはるかに高性能なゲーム機や、テレビが観られデジカメ並みの写真が撮れる携帯電話を今や誰もが手にすることができる。製品の進化のスピードには驚くばかりだ。
 電子機器の小型化、高性能・多機能化を支えるコネクター、メモリーカードといった超精密電子機構部品の一貫生産で高く評価されている、シンエイ・ハイテック。VTR用モーターのコア部品や、携帯電話のスイッチ部品では世界で約6割のシェアを持つという。
 創業は平成6年。開発提案型でなければ、生き残れない。リスクは承知の上で生き残りをかけ信栄工作から分離独立をした。おりしも1ドル100円時代、製造業が構造不況業種となっていた。まず始めたのが、自前の精密順送金型づくりと素材研究であった。
 しかし当初は試行錯誤の連続。友人のつてで大手家電メーカーから受注したビデオのコア部品も8割方が不良という惨憺たるありさまだった。
 小林社長は社員を叱咤激励する一方、自らも金型設計を勉強し短期間で技術を磨きあげる。そして1、2年後、提案と提案を重ね金型の絞り技術と大手材料メーカーと共同でのミクロン精度を実現。見事に客先のオーダーに応え、資金繰りにも苦労していた会社の業績も徐々に上向いていった。その部品が世界シェア6割を獲得するのである。
 「この時、部品づくりのコアは金型技術だということ、そしてお客様に喜ばれる商品をつくって初めて利益につながることが分かった。以来、当社は『人に感謝されるものづくり』をポリシーにしています。思いを強く持てば何とかなる。苦労してもオリジナリティーにこだわった金型をつくってきたことがお客様に喜ばれ、開発型メーカーに一歩踏みこむことができたんです」
 あくまで自前の金型開発にこだわる。単にコストダウンではなく、製品に付加価値をつけるためだ。「商品をより良いものにするための他に先んじた開発提案型のアイデアが第2、第3のお客様へとつながり、『作る』から『創る』ものづくりにこだわるようになりました」。

開発する”芽“をたくさん育てていきたい

開発する”芽“をたくさん育てていきたい 同社が最近力を入れているのが、回路基板上に数多くの電子部品を組み上げ、特定の機能を発揮させるユニットボードの設計・開発だ。
 顧客である大手精密機器メーカーの開発プロジェクトに製品の企画段階から参画。プラズマディスプレイの試験機などに組み込まれるもののほか、次世代の戦略商品として期待されている製品のユニットボードの開発にも取り組む。課題は一品料理的な段階から、いかに量産化に対応するかだ。
 単なるパーツから、自社ブランドの商品へ。将来的にはユニットボードを経営の柱に育てていきたいと考えている。
 もうひとつ、伸ばしていこうと考えている分野が、環境と健康分野だ。
 「高齢化社会、限りある地球資源の中で、安全・安心につながる商品開発を具体化したい。これは、大手企業と協業しなければ不可能であり、将来のユビキタス社会に貢献できることでもあり、是非とも”SHI(シンエイ・ハイテック)ブランド“で世に出したいと思っているんです」と、小林社長の言葉に熱がこもる。大手精密機器メーカーからの要請もあり、開発の準備はすでに始まっている。
 「お客様と一緒になって、開発する
”芽“をたくさん育てていきたい。売上げを求めるなら、現在経営の柱の一つでもあるプレス部品の受注数量を増やしていくのが一番の近道。しかし、それではいつか労働集約型とコスト追求型の会社になってしまう。私はユニークさと人のマネでなく他に先んじた事業の展開という創業時からのポリシーにこだわる。社員にはSHIブランド製品の創造をめざして開発に取り組もうと、いつも叱咤激励しているんです(笑)」

専門家でなくてもアイデアはいくらでも出る

開発ルーム 金型技術と並んで、同社のコアテクノロジーといえるのが鉛フリーはんだ技術だ。これは、メモリーカード、液晶テレビなどに数多く使われている。
 これは電子・電気機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関するEUの「RoHS」指令をクリアする環境にやさしい技術。ある世界的電子機器メーカーが次世代ゲーム機型情報端末に電子部品を採用し、今年3月からその製品がEU市場に出回り出した。同社にとって、その技術を使ったヨーロッパ向け商品第1号である。
 ところが、「最初から環境を考えて開発したわけではなかった」と小林社長は打ち明ける。さらに、実は同社はこの加工技術に長けていたわけでもなかった。
 「プレス加工では”ヒゲバリ“によるプレス不良がよく出る。めっき処理の内容が製品に悪さをするんですね。そこで従来と違う方法はないかと考え、材料メーカーや工業試験場に相談。さまざまな研究の末、鉛を使わずはんだ付け性が良い方法が発見できたのです。その技術が認められ、世界的な企業が社運をかけた製品に採用されたのは非常に名誉。『作る』から『創る』へとシフトした強みが活かされたと思っています」
 もちろん同社では独自の「環境方針」のもとISO14001を取得し、環境にも積極的に取り組んでいる。
 ものづくりに必要な原材料の20%をリサイクル可能なものにし、プラスチックや化学薬品の使用量もできるだけ減らすよう心がけている。一貫生産体制により、商品を通して顧客に環境対応を提案できるのが強みだ。
 また製造工程のなかでは製品が工場間を行き来するケースも多く、製品を変形、埃、温湿度などから守るため、かつては梱包副資材を数多く使用していた。同社では専用コンテナに取り付ける独自のパッケージを開発・製造し、資源のムダにつながる梱包材の使用をやめた。その結果、梱包材の総量を約3割削減することができたという。
 これは技術者ではなく、スタッフ部門の社員のアイデアだった。「これこそが、ものづくりを見よう見まねでやってきた素人集団の底力。専門家でなくてもアイデアはいくらでも出るし、チームワークでそれを実現していけるんです」と小林社長は胸を張る。
 さらにユニークなのは、社内で出る食べかすなどのゴミをアルカリ性に処理し、肥料としてリサイクルしていること。主に会社敷地内の植栽に使用している。

将来の担い手育成を目的とする「SHIイズム」

海外社員の社員教育 同社では、ものづくり技術の評判を聞きつけた大手電機メーカーから請われ、開発セクション参画の要請も来ている。
 「新規受注を期待しているわけではありません。お客様と一緒になって勉強することが最大の目的です」。時には大きなビジネスチャンスと浮き足立つような話が舞い込むこともあるが、小林社長のポリシーは「身の丈経営」。あくまでも謙虚だ。
 「当社はつねにユニークで、しかも身の丈経営を忘れずに続けていきたい。個人個人のレベルはまだまだマイナーである。しかし熱い思いと忍耐力では負けない。私に叱咤激励されて成長してきた社員たちが山国の頑丈さと忍耐力をもって頑張ってくれています。
 基本は『社員は自前で育てる』。表面処理、組立、モールド、プレスなどの部門をグループ会社に分散し、お互いに切磋琢磨しながら伸びていく環境づくりを心がけています。大事なのは全員がひとつのベクトルに向かっていくこと。そのためにも今のところは私のトップダウンで方向づけをしながら、次世代の人材を育てています」
 将来の担い手育成を目的とした取り組みが「SHIイズム」。中堅クラスの社員を対象に、小林社長が創業の精神や経営ビジョン、歴史観を語り伝えていく”小林塾“だ。月1回開講し、社長はじめ参加者同士、時間無制限で語りあう。熱い時間が深夜にまで及ぶことも珍しくないという。
 「私のこだわりは『長野からものを発信せよ』。量的拡大ではなく、開発というものづくりの原点に立ち、とにかくできるまでやる。そうすればお客様に喜んでもらえるし生き残っていける。『SHIイズム』ではこの理念を強調しています」
 もうひとつユニークなのが女性社員による「ワーキンググループ」活動だ。これは社長のポケットマネー2千円を元手にした職場環境改善活動。女性ならではの気づきを活かし、快適な環境づくりを行っている。
 特筆すべきはこれが女性社員の発案だということ。「ここまで自分たちでやろうという気になってくれたのが本当にうれしかった」と小林社長。ものづくりにかける情熱が過ぎて、ついていけない社員が会社を去っていく時代も経験しているだけにうれしさはひとしおだ。
 ものづくりへの燃えるような思いをたぎらせる小林社長のスピリッツは確実に、同社の隅々にまで浸透しているようだ。



プロフィール
代表取締役社長小林 健一
代表取締役社長
小林 健一
(こばやしけんいち)
中央会に期待すること

中央会への提言
 我々中小企業の代表という立場で、国や県、県外企業などとの橋渡し役であり、活性化支援の企画立案を担うコーディネーターとして、活発なアクションを期待したい。国や県に対してモノをいう集団であってほしいし、それは中央会でなければできないことだと思っています。

本社
本社
風間事業所 マレーシア工場


経歴 1949年(昭和24年)5月21日生まれ
1994年   (株)シンエイ・ハイテック設立、代表取締役就任
家族構成   妻、子供
趣味   スポーツ観戦

 

企業ガイド
株式会社シンエイ・ハイテック

本社 〒381-8520 長野市大字柳原1625-2
TEL(026)263-3355(代)
FAX(026)243-1361
創業   平成6年5月
資本金   2,000万円
事業内容   コネクター、メモリカード、DVD、スイッチ等のコンピュータ、携帯通信機器及び精密電子機器部品の設計・製造(プレス・モールド・金型・めっき・組立)、情報通信機器部品の開発・製造・販売
事業所   穂保工場(長野市)、風間工場(長野市)、青木島工場(長野市)、塩尻工場(塩尻市)、クアラルンプール(マレーシア)
関連会社   (株)ミタカ電子、(株)アルファテクノ、シンエイ・マレーシア
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