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月刊中小企業レポート
更新日:2007/03/20

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

最先端のモノづくりから地域活性化まで幅広く対応。
ソフト・ハードの設計開発に特化した頭脳集団。

マリモ電子工業株式会社代表取締役 清水 貞男さん
マリモ電子工業株式会社
代表取締役 清水 貞男さん


社員の90%がエンジニア。典型的なファブレス企業

社員の90%がエンジニア。典型的なファブレス企業 「ファブレス」という事業形態をとる製造業がある。
 それは自前の工場をまったく持たず、生産を100%外部企業に委託し、自らはもっぱら製品の設計、マーケティング、販売を専門とする企業だ。代表的な企業としては、ゲームメーカーの任天堂、コンピュータの米デル、半導体設計の米ランバスなどがあげられる。
 工場を持たないので資産が固定しない、需要に応じた生産量の調整がしやすいなどのメリットがあり、特にパソコン、半導体など製品サイクルが短い製品分野に適した形態といわれる。
 マリモ電子工業(株)は設立当初から、機器に搭載されるソフトウェアおよびハードウェアの設計開発に特化。約50名の社員の実に90%がエンジニアという陣容で、長野県内外の電気・電子機器メーカー各社に技術を提供している。まさに典型的なファブレス企業だ。
 無線、防災、OAなどの関連機器装置、各種通信電子装置、画像データ処理装置、各種衛星試験装置、自動化ライン監視装置、各種計測データ処理装置、各種製品試験装置―。開発製品は時代を先がける製品分野、しかも最先端の技術を要するものがほとんどだ。取引先の設計開発部隊の一員として、製品の立ち上げから開発に参画することも多いという。
 事業も順調だ。「設立以来、優良企業に恵まれてコンスタントに受注があり、赤字計上は一度もありません」と、マリモ電子工業(株)の清水貞男社長は胸を張る。
 「当社の経費は人件費がほとんどなので、一般の製造業の支払いサイクルだととても厳しい。お客様にもその事情を理解していただき、大変ありがたいことに現金のパーセンテージを増やすなど優遇していただいてきました。おかげさまで今まで資金繰りでの苦労もなく、この五年間、政府系金融機関とのおつき合いはありますが借入れは一切ありません」

最新技術で上田のモノづくりのお手伝いを

 1980年代を迎えようとする頃。東京の一部技術者の間でマイクロコンピュータ(マイコン)が最新のホットな技術として注目され始めていた。その動きが長野に伝わるのはまだまだ先のことである。
 「近い将来、生産分野でマイコンを使った仕事がどっと出てくる」―電子回路技術の最先端に携わっていた清水社長の弟である現常務の久夫氏と、その芝浦工大大学院時代の恩師だった太田久氏は、その動きを敏感にとらえ新たな技術へのチャレンジに胸をふくらませていた。
 二人はマイコンを使った生産技術分野の設計開発にターゲットを絞り起業を決意。会社設立一年前から上田市内の大手メーカーに社内請負として入り技術を磨く。そこに東京の電機メーカーで購買や管理などの仕事に就いていた清水社長が参加し、半年後の1980年(昭和55年)9月”満を持して“「マリモ電子工業(株)」を設立。大手メーカーでの仕事をそのまま引き継ぐという幸運にも恵まれ、順調なスタートを切った。
 「最新技術で上田のモノづくり会社のお手伝いをしようというのが設立の目的でした。いわゆるFAといわれる分野でのハード、ソフトの開発で地域に貢献したいと考えたのです」
 長野のモノづくり企業がようやくマイコンを勉強し始めると、ネットワークを広げようと勉強会に積極的に参加。そこで知り合った会社から舞い込んだのが、生産ロボットのコントローラとソフトの開発だった。
 「昭和57年頃のこと。今から考えると無茶でしたね(笑)。当時技術的にはまだまだ未熟なのに、五軸制御という非常に難しい技術に挑戦したのですから」と清水社長はふり返る。
 高額な開発キットを購入するなど思い切った投資を行いノウハウを積み上げ、生産現場で実際に稼働できるロボットに仕上げることができたのは一年後。その後は溶接コントローラをはじめとする制御分野で実績を上げ、現在の同社の礎を成していくのである。
 さて、不思議なのは「マリモ」という社名。「マリモは水の中で浮いたり沈んだりしながらも、少しずつ着実に大きくなっていく。会社もそうありたいと名づけました。マリモが生息する阿寒湖は清らかな水、清水で有名ですよね……(笑)」。ユーモアも設計開発というクリエイティブワークには欠かせない要素なのだ。

ソフトウェア開発が80%。優秀な人材の確保が課題

 もともとハードに強かった同社だが、コンピュータが一般化するにつれてソフトとハードの比率が逆転。ここ十数年ソフト開発部門の伸びが著しく、現在は80%を占めるという。同社の得意分野は、生産装置に組み込まれる機器向けのソフト(ファームウェア)。ハードにより近いソフトだ。
 「かつてマイコン技術があれば先進的といわれた時代もありました。しかし今はそれでは話にならない。新しい技術の獲得が課題になっています。そこで東京に集中している最新技術を習得しようと東京の取引会社に社員を数名派遣。一緒に仕事をさせてもらいながら、三年間かけて新しい技術を吸収しようと取り組んでいます。つねに最先端の技術を取り入れていかないと太刀打ちできない時代なんですよ」
 誰もやっていない技術をいかに取り込み、事業化していくか。それがこれからの生きる道というわけだ。
 言うまでもなく、それを担うのは人であり、優秀な人材の確保もまた同社の大きな課題だ。積極的に採用活動を行っているが、売り手市場の中、新卒学生の採用には厳しい状況が続く。「中途採用者は各方面に声をかけ、何とか確保していますが」。同社ではさしあたって60名とし、100名体制にまでもっていきたいという。

賞与は年4回。成果配分100%

 「当社の理念はフランス革命の言葉通りの『自由・平等・友愛』です。トップダウンではなく、一人ひとりが自由に言いたいことを言い、いろいろな意見を集約して方向を決めていく。考える者が集まってひとつの輪をつくり、その力をスパイラル的に高めていく。そんな考え方が設立当初からありましたね。だから初めはみんなで徹夜も何のその、とにかくガムシャラにやっていくという雰囲気。そこに不満が出てきたのが、社員数が20名を超えた頃からでした」
 「自由・平等」をどう人事制度に反映するか。実力ある人が十分に報いられる制度のありかたとは―。そして同社では評価制度や昇給・賞与の分配の仕方について透明性を高め、全員が納得できる仕組みづくりに取り組んだ。
 同社では営業利益の70%を労働配分に充て、年4回の賞与は3カ月ごとに成果配分100%によって決めている。この人事評価制度を導入したのは今から六、七年前。しかしそれまで約十年にわたって試行錯誤を重ね、システムをつくりあげてきたのだという。
 「月一回の営業会議で会社の営業利益が分かり、一人ひとりの利益も分かります。営業利益が上がれば賞与も増えるが、なければ賞与が出ないこともある。とても明確で文句の言いようがない。昇給についても細かくシステムとして決めてあります。もっとも社員には、いろいろと意見を出してくれれば今後いくらでも変えていこうと言っています」
 同社では昨年4月「日本版401k(確定拠出年金)」を導入。早くから導入に向けて取り組んできたが、資本金を増資するなど資金面でも体制を整え、退職後の社員のより安定的な収入確保を図った。

デジタル化できるものは何でもやろう

デジタル化できるものは何でもやろう ソフト・ハードの開発とともに、同社が力を入れているのがマルチメディアコンテンツの制作だ。これは関連会社であるユー・ディー・エス、メックシステムとともに平成7年4月設立した上田マルチメディア事業協同組合の事業として展開しているもの。
 同組合は、同年開設された「上田市マルチメディア情報センター」の事業に協力する目的で設立。上田市を中心とする行政や民間企業と共同でデジタルコンテンツの制作と資料のデジタル化に取り組んでいる。
 上田市マルチメディア情報センターは、地域情報化の拠点として人材育成、情報発信、情報活用支援などの事業を行う、行政としては全国初の施設。これを単なる箱物に終わらせないよう有意義に活用すべきと、同組合はセンター開設当初から積極的に支援してきた。「デジタル化できるものは何でもやろうというのが基本姿勢です」と、理事長を務める清水社長。
 真田幸隆、昌幸、信之・幸村兄弟の真田氏三代にまつわる画像資料を収録した「真田三代」(CD-ROM)、上田交通別所線を走った丸窓電車と上田丸子電鉄の貴重な写真や映像、コンピュータグラフィックスや動画を収録した「モハ5250丸窓電車」(CD-ROM)、昔のニュース映画から長野県に関連する映像を収録した「信州映画百選」(DVD)など、その作品はいずれも高く評価されている。また上田市の地域や伝統工芸など800項目、3000点の写真を掲載したホームページ「上田情報蔵」も、上田市の基本データベースとしての位置づけだ。
 特筆すべきは、いずれも事業協同組合として企画提案から積極的に関わり実現にこぎつけていること。制作に携わる各社のスタッフにとっても、非常に面白く、やりがいを感じられる仕事になっているようだ。
 「上田にデジタルアーカイブなどのIT関連企業を増やし、若者の雇用の受け皿にしていきたい。高齢化が進むなか上田地域の活性化を図るためにも、首都圏などの元気のいい企業に働きかけて研究所などを誘致できないかと、去年から積極的に情報収集しているんです」
 ソフト・ハードの設計からデジタルコンテンツの制作へと守備範囲の広がりに合わせて、事業のターゲットも、地域の情報化から地域全体の活性化へと広がりつつある同社。清水社長はますます挑戦意欲に燃えている。



プロフィール
代表取締役会長土屋 健基
代表取締役
清水 貞男
(しみずさだお)
中央会に期待すること

中央会への提言
 中小企業1社では力不足でも、何社か集まればいろいろなことができるし、社会の信用度もより高まる。中央会にはそんな中小企業の団体に対し今以上にきめ細かいフォローをお願いしたい。。

マリモ電子工業株式会社


経歴 1948年(昭和23年)1月11日生まれ
1980年9月   マリモ電子工業(株)設立
1990年4月   社長就任
1995年6月   上田マルチメディア事業協同組合設立、理事長就任
2006年5月 長野県中小企業団体中央会上小支部副支部長就任
出身   上田市
家族構成   母、妻
趣味   昔はナナハンに乗ってツーリングを楽しんでいたバイク好き。しばらく乗っていなかったが、これからまた乗りたいと考えている。

 

企業ガイド
マリモ電子工業株式会社

本社 〒386-0032 上田市諏訪形1071 
TEL(0268)27-9644(代)
FAX(0268)27-6980
創業   昭和55年(1980年)9月
資本金   3,000万円
事業内容   ソフトウェア開発、ハードウェア開発、マルチメディアコンテンツの制作
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