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月刊中小企業レポート
更新日:2007/01/09

特集 新春対談 
最近の景況下における長野県中小企業の現状と進むべき道

―どう活かす、長野県経済のすぐれたポテンシャル―

石井 和男 氏(財団法人長野経済研究所理事長)星沢 哲也 氏(長野県中小企業団体中央会会長)

石井 和男 氏
(財団法人長野経済研究所理事長)
星沢 哲也 氏
(長野県中小企業団体中央会会長)
司会:朝間 庸介 
長野県中小企業団体中央会
連携支援部相談室長

アメリカ共和党の敗北は
日本にどのような影響を及ぼすのか

司会:本日はご多忙の中、財団法人長野経済研究所の石井和男理事長、長野県中小企業団体中央会の星沢哲也会長のお二人に平成19年の新春対談をお願い致しました。ありがとうございました。
 さて、わが国は今、いわゆる「いざなぎ景気」を超える戦後最長の好景気を更新中と言われております。ところが実際には、中小企業も、また一般生活者も、なかなかその実感が持てずにいるというのが現実のようです。そこで今回の対談では、好景気と言われるなかでの日本経済および長野県経済の展望と、そこで中小企業はどう将来像を描いていけばいいのかについて、お話し合いを深めていただければと存じます。
 それではまず、日本経済を取り巻く世界の状況、特にアメリカのブッシュ共和党の大敗は日本にどんな影響を及ぼすのか。さらに急激に発展している中国やインドなどの繁栄が日本にどのような影響を及ぼそうとしているのか。そこらへんからお話しいただければと思います。それでは石井理事長からよろしくお願い致します。

石井:アメリカにおける共和党の大敗については、今の時点で読むのは難しいとは思います。しかし結論から申し上げますと、影響はあまり大きくないのではないかという気がします。
 かつて貿易摩擦が深刻だった1980年代と比べると日本企業の現地生産がかなり進んできたこともあり、かつてのような保護主義が台頭する懸念は少ないのではないかと思います。例えば自動車産業では、トヨタは全米各地に生産拠点をつくりました。ホンダも同様です。またエレクトロニクス業界も日本企業はアメリカに根づいているのであまり心配ないという気がします。このへんについては見方もいろいろとありますが、今の時点で識者の方々の意見も考慮するとそんなところかなと思います。

星沢 哲也 氏(長野県中小企業団体中央会会長)星沢:私は正直申し上げてどうなるのかよく分かりません。しかし、今回の共和党の敗北でブッシュ政権の政策運営は難航していくだろうとは思います。政権の経済施策は減税推進と財政支出の削減が大原則です。
 一方、民主党の掲げる経済政策の原則は、財政赤字の改善に向けた高額所得者および大企業の優遇税制の廃止もしくは増税、そして勤労者対策としては、主として中・低所得者向けの政府プログラムを拡充すると言われているようです。アメリカ議会は最終的に大統領の署名がないと発効しないという仕組みになっているようなものですから、経済に関しても膠着状態が続いていくのかなという感じを持っています。
 結論的には、私も今回の中間選挙における日本経済への影響はあまりないのではないかと感じていますし、従来から言われているように、アメリカがくしゃみをすれば日本がカゼをひくというような心配はだんだんなくなってきたと思いますね。
 これは2005年の数字ですが、貿易額でみると日本からの輸出はアジアが51.6%、北米が24%、ヨーロッパが16.2%。輸入でみてもアジアが61.4%、北米14.2%、ヨーロッパ14%。これをみても、アメリカ共和党が敗北しても日本経済にさしたる影響はないのではないかと。
 小泉政権時代、中国との関係では「政冷経熱」と言われましたが、やはりそんな感じで推移していくのではないかというのが私の感想です。長野県内企業もかなり中国に関わっているようですね。

脅威の「BRICs」。
2030年の日本経済はこうなる

石井 和男 氏(財団法人長野経済研究所理事長)石井:中国、インドなど、いわゆる「BRICs」と言われる諸国の経済成長力がすごく高いのはご承知の通りです。日本がこの後どうなるのか。もしかして中国やインドに負けてしまうのではないか、ということについてお話ししたいのですが。
 日本がこのまま改革が進まなかったりして経済成長率の低迷が続くと、今後どうなるか。それを経済財政諮問会議で試算したものがあります。2004年の世界のGDPは30兆ドルと言われていますが、その内訳はアメリカがトップの11兆ドル。二番目がユーロ12カ国で9兆ドル、日本が三位で4.7兆ドル。シェアではアメリカが39.2、ユーロ31.3、日本15.6の順です。
 ところが2030年のGDPを試算したところ、シェアで申し上げますと、アメリカは37%、ユーロは24%。問題は日本で、現在の15.6がなんと4.0まで下がります。一方、中国は25に、インド4.0、ロシア3.0に。つまり順位がアメリカ、ユーロ、中国ときて、日本はその次、インドと並ぶ四位に落ち、シェアは現状の約四分の一と大幅に低下する。「BRICs」諸国は大変な脅威です。日本は一昨年から人口減少社会に入ったわけで、イノベーションをしっりやって経済成長を実現していかないと大変なことになります。これらのことが日本経済に与える影響はものすごく大きいと考えているんです。

主要国の長期的成長率と名目GDPの推移

星沢:中国など「BRICs」の脅威については、私もまったく同感です。世界と日本の経済は切っても切れない鎖のような関係にありますから。今、「いざなぎ景気」を超える戦後最長の好景気と言われるなかで、実に80%近くの中小企業が景気が良いという実感を持っていません。これから世界の経済地図にも大きな変動が現れてくるという状況のなかで、日本の中小企業はどんな経営戦略をとっていけばいいのか悩むところですが、なぜそんなことになっているのでしょう。

石井::確かに中小企業に好景気の実感がないというのは私もいろいろなところで耳にします。今回の好景気の特徴は輸出主導だということ。まずそこが今までとは全然違うところです。
 実質GDPの期間中の伸び率は、いざなぎ景気では70.4%、バブル景気の時は24.9%に対し今回は10.6%の拡大に止まっています。この数字でも歴然と分かりますね。さらに今回の景気では、個人消費の伸び率が7.1%と見劣りする一方、輸出が61.2%と突出しています。従って、今回は特に大手製造業の輸出がけん引しており、家計部門のけん引力はいちじるしく小さい。それがなかなか実感として湧かない要因ではないでしょうか。大手製造業が好調の結果、設備投資の伸び率も30.4%と大きくなっています。つまり輸出企業を中心にした景気拡大であり、製造業と非製造業の格差、企業部門と家計部門の格差がかなりはっきり出てしまっているというのが特徴だと思います。
 長野県の場合でも、12月の日銀短観などから製造業と非製造業の状況を全国と比べると、製造業では10ポイント全国を上回っているのに対し、非製造業では14ポイント悪い。この非製造業の不振が、どうも景気が良くなったとは感じられない皆さんの実感につながっているのではないかと思います。

今回の景気の特徴

製造業と非製造業、大都市と地方。
目立つ格差社会の拡大

星沢星沢:今の好況はバブル崩壊後、リストラが済んで三つの過剰と言われるものを整理・再構築し、立ち直ってきた結果だと思います。それは主として大企業でやったことで、その間、中小企業はじっとガマンの時代だったと私は感じています。もっとも「失われた十年」と言われますが、私はバブルの後どうするかと英知を集めたこの間の政策は良かったのではないかと思っているんです。銀行がおかしくなったり(一部ありましたが)、製造業がだめになったりしたら、日本は本当にメチャクチャになっていましたよ。
 いざなぎ景気と今回の景気では実質成長率が全然違っているということですが、今回は一部の大企業、しかも製造業という、言ってみればごく一部の中での景気の回復。中小企業まではまったく及んでいないと感じています。最近の企業倒産を見ても、大企業より中小企業の方が圧倒的に多く、製造業に対して非製造業、大都市より地方の方が多い。その姿を見ると本当に格差社会の拡大を感じます。
 中小企業が好況感を感じられないというのは、賃金の面からみてもそうだと思います。ある調査によると、地方の場合ですが、平成14年2月の平均給与が27万8490円。平成18年8月は27万1155円。この5年間を見ただけでもこのように中小企業の給与は減少しています。実質的に個人消費まで回っていかない。それが景気回復の実感のなさに結びついているのではないかと思います。
 少子高齢化社会を迎え、先ほどの2030年の姿を見ても、ある意味では縮小再生産ということにもなろうかと思います。私が思うのは中小企業はあまり欲張らず「身の丈経営」を考えた方が良いんじゃないかということです。
 そのためにはどうすればいいか。やはり不採算部門は切り捨てて、得意としているところを伸ばしていくという「選択と集中」をつねに考えながら事業展開していくことだと思いますね。具体的な話になってしまいますが、構造改革というものは長い目で見ないと成果は出てこないと思うんです。私は上流が良くなれば、次は中流、下流と流れてくるものだと信じていますから、いずれ中小企業にも日の当たる時が来るだろうと。日々の活動をしながら、良い夢を持つこともとても大切だと思っているんです。

石井:大企業が良くなると、そのうち中、小にも恩恵が回ってくるだろうということですね。ですが、私はそこはちょっと昔と環境が変わってきているのではと思っていますが(笑)。
 高度成長の頃は、大企業が良ければ下請けも広く潤っていきました。しかし現在のような安定成長の時代は、お客さんが今求めているものを提供すること、つまり時代が求める商売をやらないと生きてはいけません。これだけ景気が上向きの期間が続いているのに依然として「景気が良くない」という理由には、これは経営者の責任でもあるのですが、今やっている商売が実はもう時代に合わなくなっているという側面も結構あるんです。その商売はもう時代に合っていないから思い切って変えなければだめですよと、私もいろいろな機会に申し上げておりますし、銀行にいる時にもそういうアドバイスをしていたんですが。

星沢:私が申し上げたのは、これから長い変化の中で、国、県、市町村が中小企業に向けてそういった経済政策を打ってくれるだろうという前提でのお話なんです。それをぜひご理解いただきたい(笑)。

石井:なるほど。そういうことでしたら分かりました(笑)。

星沢:今の時代に合わずに商売をやっているところは業種転換をしろというご指摘ですが、確かにそうですね。実際、建設会社ではいろいろな業種に進出している姿もあります。

全国平均を上回る求人倍率。
景気回復基調にある長野県経済

石井石井:もう一つ、長野県内企業が感じている景気回復の実感のなさについてふれたいと思います。長野経済研究所では、県内の産業を製造業六業種、非製造業九業種の計15業種に区分して、四半期ごとに業況を天気図で示しています。その中で「現在の業況をどう考えますか?」という設問には製造業五業種が「晴れ」ないし「薄曇り」と回答しています。今後の見通しは横ばいか、業種によっては上向き。製造業で唯一「小雨」なのが、意外に思われるかもしれませんが、食料品製造業です。長野県の主力産業である味噌は大豆価格の影響と末端での販売競争にさらされているんですね。非製造業では「雨」が四業種、「小雨」が二業種、あとは「曇り」です。製造業と非製造業はこんなに明確に違うんです。ここ3、4年、長野県では「南高北低」と言われますね。南信は製造業が多いので活気があり、北信は非製造業が多いですから何となく活気がないと感じるということがあるんですね。
 ただ最近、ゴルフ場の入場者が増えているようですね。土日なかなか予約が取りづらいようです。また夜の街にも人が出ているようです。それをみると、一時の悪い状態よりはかなり良くなってきたのかなとも思いますね。ただ、建設をはじめとする非製造業の企業経営者の実感は非常に厳しい。それはまさにその通りでしょう。

星沢:おっしゃる通り、好不況については確かに地域格差、業種間格差がありますね。県内経済でも製造業は着実に回復しています。日銀松本支店の短観でも、昨年12月の調査は製造業がプラス26、非製造業がマイナス12と、一時よりも良くなってきているという見解が出ていました。
 電気関係はモーターなど電子部品の需要が好調で、また円安による為替差益も出ているようです。おっしゃったように一部のゴルフ場も良くなり、非製造業の数字も上がっているようです。しかし観光などでは、昨年夏の豪雨の影響で諏訪地区が落ち込んだということがありました。雇用調整をみても、一時は確かに「南高北低」とも言われていましたが、昨年10月の数字では改善されてきています。

石井:そうですね。

星沢:昨年10月現在の有効求人倍率は県平均で12.1ですが、南信1.40、中信1.42、北信1.28、東信1.09と出ています。須坂が0.80、上田が0.98と一を切っているところが二カ所ありますが、概ね一を超えています。対前年比では格段に改善されてきたとみても良いんじゃないでしょうか。ちなみに全国平均は昨年10月時点で1.06ですから、全国よりも良い。海外進出した製造業の国内回帰によって求人数が増えている部分もあるようで、やはり経済は生き物だなと感じます。
 私の商売ではお役所の仕事も受けていますが、情報公開の時代で入札制度が浸透しすぎたばかりに、品質はともかく安い方に目がいってしまっている。それで収益が非常に悪くなってきているという悩みがあります。これは建設業界にも言えることだろうと思いますが。

司会:長野県は求人倍率が全国平均を上回っているということですが、県内経済の回復要因はどこにあるとお考えでしょうか?

石井:デジタル家電の好調を受けて、長野県内に数多くある関連部品メーカーが好調なんですね。半導体関連もそうです。それが製造業の核になって右肩上がりになっているようです。それで全国平均よりも上回っているのではないでしょうか。
 非製造業については全国レベルよりも悪いですが、それも回復してきています。これは特別明確な要因はないんですが。ただ昨年7~9月は諏訪地方の豪雨災害で観光のトップシーズンにキャンセルが続出し、相当ダメージを受けた。それが響いたようですが、ここでかなり良くなってきたと聞いています。

星沢:製造業はデジタルものですね。デジタル放送も始まりましたし。さらに自動車部品関連の会社も好調です。それが中小企業にも多少は波及しているのかなと思います。非製造業が悪いのは観光客の減少が影響しているのかなと。特に北信はそれが大きいですね。その原因はやはり、景気が良いとはいいながら給料が上がっていないこと。可処分所得がないからそっちまで回らないということではないかと思います。

石井:やはり一番は給与なんですね。たまたまデフレではありますが、やはり一般サラリーマンの給与が全然増えていないということは大きいのでしょう。

身の丈にあった経営を心がけ、
社会に貢献していくことが大切

石井:このような状況にあって、これからの企業経営をどうしていけばいいのかと。それについては私もいろいろな場面で申し上げているのですが、この先行き不透明な時代で一番必要なのは企業理念です。
 その根底になるのが社長の経営哲学、あるいは高い志だと思います。経営者が経営理念と高い志を持ち、それを従業員の皆さんと共有していること。うちの会社がこっちに向かっているというのを社員みんながよく分かっていること。つまり社長と社員が夢を共有していることが一番大事じゃないかと思うのです。うまくいっていない企業というのは、社長の夢や理念があまり明確ではないんですね。仮に持っていても、それをきちんと従業員に伝えていないので、社長が何を考えているのか分からず、その日暮らしのような仕事の仕方をしている。それではだめなんです。企業理念と従業員の考えが一致している時にこそ、企業に大きなパワーが生まれる。最近つくづくそう感じますね。

司会:石井理事長から企業経営者の理念、哲学という話がありましたが、経営者としての星沢会長の理念や哲学を、ぜひお聞かせいただければと思うのですが。

星沢:私はそんなに欲張りではないんです。とにかく自分の周りにいる人、関わった人たちを幸せにすることが使命だと思っているんですよ。そのためには多少分けられるものがなければいけない。無い袖は振れませんからね。かといって社員一人ずつ1000万円もボーナスを出したら、会社がつぶれて逆に不幸にしてしまう(笑)。
 先ほども申し上げましたが、やはり大切なのは「身の丈にあった経営」を心がけ、社員、取引先、お客様の幸せを考えながら社会に貢献していくことだと私は思っています。企業の存在価値もそこにあると思います。社会に貢献するためにはある程度の利益を出さなければなりません。また、みんなが稼いだものは後世のために内部留保をきちんとして、きっちりした会社にしていこうと社員にはよく言っているんです。社員にはそこそこの生活ができる程度の給与を出し、株主にはそれ相応の配当もしていく。私はそういうごく普通のことをやっているだけで、そんなに偉そうなことは言えません(笑)。他の経営者の皆さんは立派な理念をお持ちでしょう。その事例をお聞かせいただけませんか?

石井:もちろんいろいろとありますが、私もつぶさに覚えてるわけではないので(笑)。ただ星沢会長がおっしゃったことは、私もまったくその通りだと思います。やはり一番は、長期的な視点に立って経営をされているか。最近の、特にITベンチャーの若手経営者のように株式市場を混乱させている人たちは長期的視野でなく、時価総額が一番になればいいとか、一時のことだけを考えているように見えます。そういう経営者は一番だめですよ。
 よく会社は株主のものと言いますが、私は必ずしもそうは思いません。やはり企業は従業員のものであり、お客様のものでしょう。それを踏み外すとおかしくなってしまうような気がします。そういうことをきちんと踏まえながら適正な利潤を上げ、地域社会に貢献していくことが経営者にとって大事なことだと思いますね。

思い切った経済政策と人づくりで、
村井県政に大きな期待

司会:先般の長野県知事選挙の結果、田中知事から村井知事に替わりました。村井知事は経産省の出身で産業政策には非常に通じている方ですが、先ほどの話のように行政の政策が中小企業経営に及ぼす影響はとても大きく、今後重要なポイントとなってくると思われます。そういう意味で、村井知事に望むことをお話しいただければと思います。

対談石井:長野県経済をふり返ると、1998年にオリンピックがあって、そこまではとてもいいかたちで来た。ところがオリンピックが終わると同時に建設不況があり、その直後に就任した田中知事が超緊縮財政にしたため大変な落ち込みになったんですね。後はご承知の通りです。また、県職員がひんぱんに転勤させられるなど、じっくりと仕事をする環境づくりに欠け、職員たちのモチベーションを上げられず、その能力を十分に発揮させることができなかった。そういう意味では残念な六年間だったのではないかと思います。一方で、村井知事は相当やってくれるのではないかと期待しています。期待することを三つ挙げてみました。
 一つ目は、長野県の経済と産業構造をこういうふうにもっていきたいという旗印をあげてもらうこと。方法はいろいろあると思いますが、例えば加工技術を活かしたものづくりをやろうという旗印もあるのかなと思います。
 それを実現するために昨年、県商工部と八十二銀行、長野経済研究所等で、企業を支援するネットワーク、これは地域プラットフォームと呼ばれていますが、この議論をしました。これが機能するとかなり大きな力になると思います。要するに地域横断的な取り組みをしていただくこと。それが期待の二つ目です。
 三つ目は、人づくりです。大企業の場合は企業内でもできますが、中小企業にはその余裕がありません。長野経済研究所の調査でもそれははっきりと出ています。企業の人づくりのお手伝いを行政にも担っていただくこと。それにぜひ期待したいですね。企業は何といっても人材です。中小企業ではなかなか手の行き届かないところに力を入れていただきたい。この三つに期待したいと思います。

星沢星沢:私もまったく同感です。最近、吉永小百合さんがシャープの「アクオス」という薄型テレビのテレビCMに出ていますね。細かい話は知りませんが、三重県の亀山地区に北川前知事が非常に良い条件でシャープを企業誘致したそうです。それで日本全国に「亀山」という名前が流れている。そういうダイナミックな施策を長野県にも採ってもらえないかと思うわけです。
 先般、長野県経済が遅れているという知事の発言を受けて、長野経済研究所の平尾さんを委員長とする産業再生の会議が発足しましたね。経営者や大学教授、有識者を集めて長野県経済をどう舵取りしていくかが検討され、3月までに6回会議を重ねて方向性を出すということですが、私はとても期待しています。その会議では理事長が今おっしゃったことも入れていただいて、県の経済政策としてのかたちづくりをしていただければありがたいと思います。
 また私も人づくりが本当に大事だと思っています。中央会では県の産業大学校で「生産管理」と「原価管理」のコースを受け持ち、県内四カ所で講座を開いています。夜六時から九時までの開講ですが、伊那から松本へ行くなんて当たり前にやっていますし、定員を倍に増やしている講座もある。参加する若者たちも意欲的で、経営者も人材育成のチャンスを積極的にとらえようとしています。中小企業だけでなく大企業の皆さんも熱心に受講され、どの企業も人材育成にウエイトを置いてきているのを実感しているところです。これがもっともっと浸透してくれば良いなと。我々中央会も良いことをやっているんだなと今すごく感じました(笑)。
 もう一つは支援ネットの関連。我々も支援センターの理事として入っていますが、これを実際にどう活かしていくのかはこれからですね。ここから活用のヒントを出していただくことで地域に根ざしていけるのかなと思っています。これは我々もぜひ協力していきたいし、またその機会を与えていただかないと「中央会は何をやってるんだ」という話になってしまうので(笑)。ぜひご理解をいただきたいですね。

さまざまな可能性を秘める、
長野県経済のポテンシャル

司会:長野県の産業はかつての蚕糸から、精密、電子、自動車関連と、つねに日本の産業界をけん引してきたといっても過言ではありません。また観光、農業も長野県の重要産業です。村井知事も長野県はものづくりにすぐれているので、それを活かしていって欲しいと提言されています。星沢会長からもダイナミックな施策を産業政策として望みたいというお話がありました。
 今後、長野県経済が日本経済をけん引していくポテンシャル(潜在可能性)があるとすれば、どこにあるのでしょうか?

石井:ポテンシャルはいろいろとあると思うんです。一つは観光。「2007年問題」と言われますが、急増する中高齢者が大きなマーケットになります。長野県は大変良い観光資源を持っているので、観光業が従来のような「待ち」ではなく「攻め」の観光業にしていくべきだと思います。シニア世代は自分は実際年齢より十歳くらい若いと思い、八割くらいの人が自分は行動的だと言っています。お金と暇もある。六十歳以上の人たちは日本の個人金融資産の多くの部分を所有していますから、首都圏や中京圏に近い長野県観光業は非常に魅力があるのではないかと思いますね。
 私たちはシニア市場では「四つのトラ」が大事だと言っています(笑)。「トラベル」「トライ」「ドライブ」「ドラマ」です。「トラベル」は旅行。そこにグルメ、温泉がある。「トライ」は自分で何かをやる。カルチャーで写真を撮る、絵を描く、陶芸をやるなどの人が増えています。「ドライブ」はクルマでの旅行。「ドラマ」は、大型テレビなどの登場で、いろいろな場面でいろいろなドラマが楽しめるようになってきたことや、新しいドラマ、シナリオの提供が重要になってきたということです。この「四つのトラ」がこれからの商売のヒントにもなってくるのではないかと思います。
 製造業については、企業単独だけでなく、ものづくり企業が集まって「この地域でこの部品はほとんど間に合いますよ。」というようなことをやっていくべきだと思います。諏訪地域は実際にやっていますよね。それをもっといろいろな地域で、いろいろな技術・技能を活かしてやっていけばいいのかなと。

星沢:この問題については、実は長野経済研究所が出している『創生長野県経済』という本に答えが出ているんですが(笑)。
 私は他県の人に長野県を紹介する時には、全国で四番目に大きな土地を持つ山紫水明の県であり、教育県、観光県、工業県、農業県であり環境県でもあると、そして何よりも自慢できるのが勤勉で真面目な人材がいることだと話すんです。企業の資源は「ヒト・モノ・カネ」ですが、人材、技術、情報、設備、資金などと考えていくと、六つあるんですね。
 まず首都圏に近いということ。3000万市場へのアクセスが非常に良い。豊かな自然環境に恵まれている。高齢県だが医療費は日本一安く元気な年寄りが多い。産学官の支援体制がいい。県に11の試験場があるのは長野県だけだそうですが、産業関連試験場も充実していますね。そして製造業の伝統的集積地があり、そこに行けば何でも間に合ってしまう。そういうポテンシャルをどう組み合わせ、どう活用していくかがこれから問われていくと思います。

旅行タイプ別に行ってみたい旅行先:2005年

石井:日本交通公社で2200人を対象に実施した「旅行者動向2005国内・海外旅行者の意識と動向」という調査で、長野県は総合ランキング五位でした。一位北海道、二位沖縄県、三位ハワイ、四位京都府。高原リゾートでは長野県がトップ。スキーではトップの座を北海道に取られて二位となっています。
 私は信州経済同友会の観光戦略委員会副委員長も務めているので観光振興にも努めなければいけないのですが、これだけ良い資産があるのに活かし切れていないのが長野県観光業の問題だと認識していますし、何か思い切った手を打たないといけないと思っています。

星沢:長野県には今、観光課というものがありません。そのへんが問題ですね。県が観光に力を入れていくといっても、どこが中心になってやっていくのかということです。非製造業の景気のカギを握っているのは観光業。それを考えれば県に観光課がないのはいかがなものか。

石井:かつては商工部の中に観光課がありましたが、外郭団体にしてトップは他から迎えました。田中知事も当初、観光大学のようなものを創設すると言っていたのに途中で立ち消えになってしまった。学校をつくって観光に携わる人材を育成し、そういう人たちが要所要所にいてCS(顧客満足)を真剣にやる風土を少しずつでもつくっていけば良かったのですが。

県がリーダーシップを取り、
効果的な観光戦略を打つことが大切

司会:今後、長野県産業のポテンシャルをさらに高めていくためにはどうすれば良いのでしょうか?

石井:まず観光については、CS(顧客満足)を本気になって考えること。観光大学のようなものをつくって将来の長野県観光を担う人材を確実に育てていくというようなことも必要でしょうね。

星沢:潜在的に良いものを持ちながら、なかなかまとまらないのが長野県の特質だとよく言われますが、音頭取りをどこでやるかが重要と思います。県の観光課の問題も出ましたが、観光協会でやるのか、行政が主体となってやるのか。きちんと統計を取りながら傾向と対策を考え、とりまとめていく部署が必要ではないかと思います。
 志賀高原と白馬が連携してスキーリフト券を共通化し、それによって顧客満足度を上げるという取り組みも出てきました。アクセスをどうするかなどトータル的なプランができていれば、きっとお客様は来ると思います。顧客満足を考え、アクセントをつけたプランづくりが大切ですね。例えば、団塊世代向けプランがあったり、男女別プランがあったり。いろいろと分けて考えていかなければいけないと思います。

石井:プランが単発になってしまっているんですね。広域観光を考えることも大事です。そういうことを音頭取りするセクションがあって、旅行会社とタイアップして各市町村が広域で売り出すこと。そうしないと観光客はポイントで来て帰ってしまったり、宿泊は他県に行ってしまうということがある。そのへんがこれからの対策のポイントになってくるんじゃないかと思いますね。

星沢:長野県には旅行業協同組合があるんですが、小さい組合が連携して全体のコースづくりを考えて提言していくというのも良いのではないかと思います。

石井石井:そうですね。それと県がうまくかめばいいんです。県がある程度リーダーシップを取って戦略を打っていくことが大切なんですが、その辺りが必ずしも成果にならなかったように思います。どう戦略を打つか、その部署に投げかけて検討させて、ゴーサインを出していくのが大切だと思うんです。

星沢:やはり戦略がなかったということですね。何でも自分たちでというのではなく、自分にないものは連携することでお互いにキャパを広げていく、というような体制づくりが組合のひとつの方向性かもしれません。
 また、商店街のとげ抜き地蔵にお年寄りが自然に集まり賑わうというような事例も各地にありますね。そういうアイデアがあればまた違う。ハードだけつくるのではなく、もっと違うやり方があると思いますね。

石井:佐久市野沢のピンコロ地蔵もそうですね。そもそも街の人たちがつくったのですが、団体バスが来るようになった。ちょっとしたアイデアなんですが。

星沢:奈良にもボケ封じのお寺があって、観光名所になっています。お城は一度見ればいいというんですが、お寺や神社は何度来てもいいと言われるのは、そこに「お参り」という要素が入るから。それによって自分が救われるので、何度行ってもいいと思うんですね。やはりリピーターをいかに引き寄せるかという戦略を考えなければいけませんね。そういう意味で、諏訪の御柱と善光寺の御開帳はうまくやっていますね。

石井:そうですね。御開帳も景気が悪いのが続いたら3年に一度にするという時もあったようですよ(笑)。でもさすが知恵が働いて、そんなにやってはだめだと。

星沢:諏訪では御柱のために七年間の預金があるんだそうですね。

石井:そうです。「御柱預金」というのがあるようです。スゴイですね。諏訪人のあのパワーは(笑)。

お客様の「困った」を見つけて解決する。
これからのビジネスの五つのヒント

石井:さて一番厳しいのは建設業界ですが、厳しい厳しいと言っていても始まらない。どうしたらいいのか、少し考えてみたいと思います。
 建設業界そのものは明らかに過剰です。ですから同じことをやっていては時代に合わないということは明白。今成功している建設業者は以前からしっかり手を打ってきたわけですが、その一方で、いまだに「景気が悪い」と嘆いているだけの経営者もいますね。
 県が建設産業の構造改革に率先して取り組む企業を表彰する「新建設産業創出モデル事業表彰企業」制度があります。例えば「有機再生木材の製造販売」「環境に配慮した舗装材」など、表彰される企業の取り組みはさまざまで、福祉用具貸与などの福祉ビジネスもあります。
 建設業の皆さんにお話ししたいのは、今のままでは明らかに供給過剰だから、早速に新しい分野に進出すべきだということです。そこで大事なのは全然関係ない分野ではなく、自分たちが強みとする分野や、仕事と関連のある分野に進出することです。そして、徐々に新規事業のシェアを高くしていき、逆に建設業のウエイトを減らしていくということをやられるべきだと思いますね。

長野県経済のポテンシャル

星沢:建設会社はもちろんそうですが、それにも増して早く気づいたのは、建設資材の販売会社かもしれません。積極的に異業種への進出を図っている企業は少なくないですね。少子高齢社会の中、住宅の建て替え需要はもちろんありますが、やはり限られた数字になっていくことを思えば、やはり異業種に転換していくことが大事だと考えているのでしょう。日銭が入る商売の魅力を実感しているという話も聞きました(笑)。建設業では自分たちの強みとする分野や、仕事と関連のある分野と言われましたが、ポテンシャルを高めるためには基本的にどういう商売をやっていけば良いんでしょう。

対談石井:はい。これは当たり前ですが、お客様のニーズが商売の源泉。別の言い方をすれば、お客様の「困った」を見つけて解決するということです。それをわが社の強みだと考えれば、いろいろなものが見えてくると思います。ヒントは五つあるのかなと思います。
 一つ目は健康、二つ目は自由時間、三つ目は快適環境(住まい)、四つ目はコミュニケーション、五つ目は自己啓発。先ほどの四つの「トラ」とつながってくると思うんですが、狙うべき市場はそこにあるのではないかと思っています。建設業の人たちが新しい分野に進出する時のヒントもこの五つにあると思います。
 「ニーズ(困った)」を「わが社の強み」と結びつけると、そこに必ず何かあると思うんです。それができるのが経営者の才覚です。
 まず、自分の会社の強みを知る。そして、その強みでも不足する部分はそれを外部に求める。産官学の連携というのもそこにつながっていくと思います。これからの商売のあり方を考えれば、この五つと自社の強み、そして外部との連携を考えていく。そうすれば長野県経済の進むべき道がたくさん見えてくるのかなと思います。
 では、長野県はどんなところに強みを持っているのか。産業分野としては、先ほどかなり議論した観光産業分野。そして、伝統的な蚕糸から続く電気・電子・IT・金属・機械・精密・輸送機械部品分野。そして最近目立ち始めた医療機器・医薬品産業。まったく違う分野から医療分野に進出している企業が『経済月報』の昨年11月号に載っています。次がナノテクノロジー応用分野。信大工学部を中心にして、成果につながればすごいと思います。そしてバイオテクノロジー分野。次が微妙というか、ちょっと難しいのですが、農・林産分野。恵まれた自然環境があり、全国一の農業がある。林業もいろいろある。たくさんある資源をまだ活かし切れていませんが、やはり長野県の進むべき道の一つになってくるのかなと思います。そして、福祉高齢化関連分野があります。

星沢:そういった長野県のポテンシャルを今後しっかりビジネスとして追求していれば、生きていく道が開けていくということでしょうね。

石井:そうですね。

星沢:私の会社では実務書の出版が多いので、仕事の上で困っていることを解決するための企画を立てるんです。まさにお客様の困りごとを解決するための書物をつくるのが使命であり、それを探していたと言われるもの、お客様から「ありがとう」と感謝されるものをつくる出版社をめざして活動していこうという意識が社内に浸透しています。困りごと解決のための出版業のようなものです。

長野県産業支援ネットを
いかに上手く活用していくかが課題

司会:私たち中央会では、連携こそこれからの中小企業の生きる道であると確信しているのですが、それぞれのお立場から、中小企業者の連携とはどうあるべきだとお考えでしょうか。安倍内閣では「再チャレンジ」を産業政策のキーワードにしていますが、中小企業の連携による再チャレンジは可能でしょうか。また金融機関はそれに対して、どのようなスタンスで臨んでいらっしゃるのでしょうか?

石井:長野産業支援ネットは我々と県内金融機関、中央会も参加していますが、私はこれが非常に重要になってくると思うんですね。この中に産学官連携もあり、企業連携もある。この仕組みをみんなでどう知恵を絞って活かしていくか。
 金融機関の法人担当者は一日6、7社位は回ります。八十二銀行だけで数百人、他の金融機関にもいますから、一日に金融機関と企業との接点はものすごい数になります。そこで単に預貸金だけの話ではなく、今企業で困っていることは何かを聞いてくるのが金融機関の役割だと思っています。それができなければ地域金融機関はもう生き残れません。金融機関の職員が中小企業に行って、「社長、今どんなことに困っていますか?」と切り込んでいく。信頼関係ができていれば、トップはその悩みを話してくれるでしょう。その話を持ち帰って支援ネットに図り、コーディネーターが各方面をうまくつないでいきます。その結果、例えば、「この機械を導入しましょう」とか「新しい仕入先を提案」し、社長の悩みを解決できる。これが動き出すと長野県の中小企業はとても強くなるし、それぞれに強みを持っている人同士が一緒になって何か新しいことをやろうという動きも生まれるはずです。この支援ネットをいかに上手く活用していくかが課題ですね。

星沢星沢:企業が保有する資源という点では、中小企業には脆弱な部分が多々あります。その足りない部分を補完するお手伝いをいかにやっていくかが大事ですし、そこから新しい商品やサービスが生まれていく可能性も高いと思います。
 中央会でも手すき和紙、野沢温泉の旅館、飯山仏壇の各組合の連携を図り、野沢温泉を訪れる観光客に手すき和紙の体験をしてもらったり、野沢温泉の旅館に和紙の調度品や仏壇を展示するなど、それぞれが連携して付加価値の高いビジネス展開を仕掛けています。金融機関にもぜひご支援いただきたいとお願いしたいところです。

石井:支援ネットが機能し、連携がうまくいくというのは、これからの課題だと思います。
 「シンクグローバリー、アクトローカリー」という言葉がありますが、地球規模で考え、地域で行動するという意味です。「製造業はさらに『顧客仕様対応力』を高めよう」。つまりお客様の求めるものに対応する力をつけようということですね。さらに「住んで良し、訪れて良しの地域を創り出そう」「自然の恵みの価値を限りなく高めよう」「森林と水と空気と山岳がかけがえのない資産であることを再確認しよう」「星雲状態から脱却する明確なベクトルを再構築しよう」などを挙げることができます。グローバル化する経済の中で、地球規模で考えることが必要ですが、やることは地域で積み上げていくことが大事なのだと思います。

イノベーション。そして、
コーディネーターとしての力をさらに

司会:最後に私たち中央会が中小企業の連携を推進する機関として、より以上に信頼され必要とされる存在になるためにはどうすればいいか。ぜひご提言いただければありがたいと思います。

石井石井:中央会はいろいろな活動をされていますね。やはり一番は連携でしょう。そして、企業経営者が困った時、頼めばいろいろなことをやってくれるという「助っ人」の役割を十分果たしているように思います。助っ人とは何かというとコーディネーターだと思うんですね。先ほど金融機関の担当者の話をしましたが、中央会でも同じだと思います。ご担当の皆さんが会員企業を訪問し、経営者がどんな悩みを持っているか、どんなことで困っているかを突っ込んでお聞きし、それを持ち帰って独自に、あるいは支援ネットにつないで解決を図る。その実績がどんどん出てくれば評価はますます上がっていくと思います。

星沢:私は昨年5月、中央会会長に推挙いただき就任しました。以来、何をやらなければいけないかと考え、総代会で事業計画を発表し六つのスローガンを掲げました。これを着実に遂行し積み上げていくことが大事だと思っています。
 わが国の構造改革は本当に時間がかかると思います。何代かの内閣でようやくできあがっていくのでしょう。これだけやれば来年良くなるというものではありません。もちろん多少は良くならなければいけませんが、視点を3年後、5年後と少し遠くに置き、その上で今すべきことをやっていくことが大事だと思います。そして新たな存在価値を創造すること。そうしなければ我々が何をやっているのか分からなくなってきます。
 私はそれに尽きると思います。850を超す組合を擁する中央会としては、行政の補助金が縮小するなかで万全の財務体質を図りつつ、経営相談、金融斡旋、各種セミナー、研究会などを通じて、地域経済の発展と豊かな人材育成のために掲げたスローガンの達成をめざして活動していかなければいけません。我々には優秀な指導員がたくさんいます。彼らが困っている経営者に積極的に声をかけ、相談に乗っていく活動が大事だと考えています。もうひとつ、経済と政治は切り離せない問題です。中小企業や組合の悩みを政策にどう反映させていくかという活動も我々に課せられた課題だと感じています。
 新年にあたり、決して目先のことだけに止まるのではなく、将来に向けて今何をやるかを考える良い時としたいものだと思います。

石井:中央会に望むことはもう一つあります。実は長野県の新規開業率は全国平均に比べて非常に低い。かつては全国平均より高く、昭和61年から平成元年までは開業率が廃業率を上回っていましたし、開業率は全国平均よりかなり高かったのです。これは長野県の起業家精神が非常に弱くなったということではないか。中央会の皆さんは日頃からそういう「起業の芽」に触れていると思うんです。それをぜひ開業に結びつけるようにしていただきたいと思うのです。

星沢:石井理事長には我々の課題をぴたりと言い当てられた気がします。企業組合という制度があるのですが、介護関係に携わる方や看護師など、60歳以上の女性たちが一緒になって企業組合を設立し成功している事例があります。会社だといろいろと制約があるのですが、企業組合は簡単につくれます。そういう皆さんが組合をつくり、成功しているんですね。少資本でできる企業組合をまずつくって成功したら、増資して会社にするという方法もあります。この企業組合などを活用して、中央会もぜひ開業率アップ作戦に加わっていきたいなと思っています。
 そして、助っ人のお話。おっしゃったように、それはまさに私たちがやっていかなければいけない仕事です。私も就任以来、職員には「イノべーション」の必要性を強調するとともに、コーディネーターとしての力をつけていくことが大切だと説いています。そのためには中央会においてもぜひ人材育成を図り、能力を高めていかなければいけないと思っています。

司会:朝間 庸介 長野県中小企業団体中央会連携支援部相談室長 司会:本日は世界のなかでの日本経済の分析から始まり、激しい変化の中にあるということ、そして長野県経済もそれに対応していかなければいけないというお話をいただき、これから中小企業はどうチャレンジしていけばいいかという明るい指針をいただきました。さらに、中小企業それぞれが中長期の展望を持って可能性にチャレンジするとともに、産学官が連携してビジネスチャンスに取り組んでいけば、長野県経済はかつてのように日本経済を引っ張っていけるポテンシャルを十分に持っているという心強い話をお二人からいただきました。
 本日は大変お忙しい中、長時間にわたり貴重なご対談をいただきありがとうこざいました。これで新春対談を閉じさせていただきたいと思います。

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