ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2006年12月号) > 元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/12/09

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

創業以来の「一貫生産できる企業」の夢を実現。
自社製品開発をバネに「メーカー」への道をめざす。

土屋製工株式会社代表取締役会長 土屋 健基さん代表取締役社長 土屋  久さん
土屋製工株式会社
代表取締役会長 土屋 健基さん
代表取締役社長 土屋  久さん


1社依存からの脱却を図り、受注ウエイトを分散

1社依存からの脱却を図り、受注ウエイトを分散 「当社では6年前から、得意先それぞれの受注比率は多くても20%前後、理想的には10%程度に抑えるべく取り組んできました。1社のウエイトを高くするキャパがあるならその分、違う製品、違う業界に力を分散させようと。最近ようやく理想的な受注体制に近づいてきました」
 一社依存からの脱却。特定の得意先に売上げの多くを依存する中小・零細企業にとって、それは企業の生き残りがかかる大きなテーマだ。
 土屋製工は土屋久社長が話すように、そのテーマに果敢に挑戦し、成功を収めつつある企業だ。
 海外調達などのあおりを受けて苦労した経験から、特定の企業、製品の受注を一定以上伸ばすことを避け、「協力企業の中でのポジションを維持しながら、社内比率を抑えていく」という方針へ転換を図った。
 それを可能にしたのは、平成8年に組立工場を新設し、材料工場、主工場、塗装工場、組立工場による一貫生産体制を確立したことが大きい。
 部品単体からそれを組み合わせたユニット部品へ、さらには自社開発の完成品へと製品が進化し、バラエティに富んできたのである。
 「トラクター等に装着する作業機の組立を受注。その製品を見た農機具メーカー以外、例えば輸送機械メーカーなどから、こんなものができないかという依頼が舞い込むようになりました。最近は図面作成の段階から技術打合せの声が掛かり、開発に対して提案する機会が増えてきています。」
 さらに同社では、今後も国内で生産されるであろう機器を中心に製造してゆく方針である。取引メーカーの海外シフトといった不安定要因をできるだけ排除し、価格と需要の安定を図るためだ。

「一貫生産できる企業」をめざし技術蓄積と設備投資を進める

「一貫生産できる企業」をめざし技術蓄積と設備投資を進める 戦後、土屋健基現会長は実兄が経営する会社に勤務。溶接、製缶、板金の技術を身につけるとともに、砂利プラントの設計・製造・設置も手がけた。そして昭和41(1966)年2月、担当していた業務を引き継ぐかたちで分社独立。旋盤やボール盤を使った金属加工と溶接をコア技術とする「土屋製工」を松本市渚に創立した。「創業後しばらくは借家の仮工場で操業していました」(土屋会長)。
 昭和43年頃、農機具メーカーからトラクターの部品製造を受注。運転席のレバー部分、水田に入る時に大きなタイヤに巻くガードなどを製造し、以後順調に受注を伸ばしていく。
 昭和44年1月には松本市芳川小屋に自社工場を新築移転。それを契機に積極的に設備投資を行うとともに、明科町(当時)に新たに明科工場を設けた。昭和46年には別会社を設立して精密機械加工分野にも進出。技術蓄積と設備投資に力を注ぎ、旋盤、溶接の技術を生かした部品製造だけでなく、機械加工まで含めたブロック部品も手がけるようになった。また昭和58年にはロボット溶接専用工場を増設するなど設備の近代化も進めた。
 そして昭和61年、現在地である明科工場団地造成とともに入居。本社機能も含め、生産・管理体制をすべてここに集約した。
 創業以来、土屋会長がつねにめざしてきたのは「一貫生産できる企業」。それが完成したのが前述の通り、平成8年の組立工場の建設だった。平成7年には会長の長男である現社長が社長に就任。積極的な技術蓄積と設備投資の歴史はここから新たなステップを踏み出すこととなった。
 取引メーカーの海外調達の波をかぶり、一時はピークだった平成8、9年の55%にまで売上げが落ち込んだが、現在はある程度まで回復しているという。
 平成15、16年には材料費高騰を受け、「移転後初めて」二期続けて赤字を計上。もっとも「3年は赤字と読んでいた」ため冷静だった。過去にさかのぼって外注費を精査した結果、機械を導入して自社製造した方が有利であることが判明。厳しい経営環境のなか設備投資を行い、その効果は早くも昨年から出始めたという。
 「当社はほとんど内製のため外注費は一割を切ります。またセット部品が多いのでコスト吸収もしやすい。そういう意味で比較的恵まれた体制を持っていますが、そこに当社の生きる道があると考えているんです」(土屋会長)。

メーカーになるには心構えが重要

メーカーになるには心構えが重要 「製造はできても、営業やメンテナンス体制がネックになって販売実績はなかなか伸びません。もっともここ数年、自社製品開発の実績が注目されて取引が始まるケースも増えている。自分たちが思う以上に対外的な影響があると実感しています」
 土屋社長が話すように、同社では数年前から自社製品の開発・設計・製造も手掛けている。 
 第一号は乗用タイプの「スノーマシン」。もともと大手メーカーの製品だったが、製造の打診を受け、技術供与により製造を手がけた。ボルト一本から丸ごと製造を依頼されたため悪戦苦闘の連続。電気、メカの固有技術だけでなく、社長自ら新たに油圧技術の蓄積に挑戦し、無事10台を納入した。
 「この経験から電気、メカ、油圧機器、それぞれを組み込んだ製品が自社で開発・製造できるようになった。それは大きかったですね」と土屋社長。土屋会長がさらにこう続ける。「油圧機器が組める会社はあまりないので、初めてのお客様は驚きます。安心感を与え、技術のバロメーターにもなっています」。同社にとって自社製品は技術力やニーズへの対応力を対外的にアピールする「広告塔」でもある。
 もうひとつの「トレーキャッパー」は総菜などを盛ったトレーに透明なふたをかぶせる自動機。商社からの依頼により、総菜工場向けに100%社内技術で開発に取り組んだ。トレー内のエアを抜く機能で特許を取得するなど、同社のものづくり技術の高さを証明した。
 さまざまなメーカーの材料に対応できるのが特長で、業界内での評価もかなり高い。ただ出荷は年に数台程度にとどまるという。しかし土屋社長に焦りはない。「総菜産業は小ロットなので、なかなか機械化が進まないという弱みはあります。また家業から脱していない企業も多く、設備投資に積極的ではないという面も。トレーキャッパーは段取り替えの時間が女性で約2分と簡単。今後単純作業をする労働人口が減ってくれば機械化は進むはずだし、経営の代替わりが進めば考え方も変わる。あわてて売ろうとせず大事に育てていこうと考えています」。
 「自社製品が売上げの何割かを占めるようになればうれしいこと。ニーズがありコンセプトを示せば、すぐにでも一定の機能を果たすカタチをつくる開発力はあると自負しています。しかしそれはカタチであって、製品とはいえない。自社製品を出すということにはリスクも負う。製品を出すということはどういうことなのか、技術開発に携わる人だけでなく、全社員が理解し
”土屋製工ブランド“への自覚と責任をもっと養っていかないといけない。本当のメーカーになるには心構えが重要だと思います」

社長・専務が年一回、全社員個人面談を実施

社長・専務が年一回、全社員個人面談を実施 同社では社員の資格取得に力を入れている。実務で必要な場合には業務命令として当該社員を指名して取得させるが、そうでない場合も取得をめざす社員は多いという。
 「資格は社員一人ひとりのもの」。その考え方により資格取得のための研修会等は土日に開き、受講者には修了証を発行する。一方、提案制度も早くから導入し、その評価によって報奨金を支給。社員のモチベーションアップにつなげている。
 同社の社員数は約60名。少人数ならではのメリットを生かした取り組みも行っている。
 ひとつは社員全員の健康管理。「例えば、ここ3~5年で血圧上昇が続いている(改善されている)など、健康診断の結果をすべて専務が保管し管理。健康に問題があると思われる場合、業務命令として期日までに再受診させ、その証明を提出させるなど徹底しています。社員ももう慣れたものですよ」。
 もうひとつは、社員一人ひとりを正しく理解し評価することを目的とする、社長・専務による年一回の全社員個人面談。会社と個人の年度目標に対し、社員の自己評価と会社評価のギャップの部分について話し合い、認識を改め、翌年の目標設定を行う。面談では家庭問題や自分の健康問題についても話せる範囲で話してもらっているという。
 面談を始めたのは、土屋社長が社長に就任(平成7年)当時、特に入社間もない若手社員とのコミュニケーションに不安を感じたことがきっかけ。「私の前ではみんな緊張して嫌でも嫌と言えない。言いたいことが言えないのでは提案もできないし、それは良くないなと」。
 スタート以来6、7年。社員一人ひとりの「自己アピールの場」としてすっかり定着している。

有益な企業間連携にさまざまな可能性を模索

 異業種交流や企業間連携への取り組みが注目されている。土屋会長、土屋社長ともに積極的だ。
 「比較的若い経営者や後継者は日々の業務に追われ、どうしても視野が狭くなりがち。同じような悩みを持つ経営者が集まる異業種交流会では、お互いにまったく違う視点から話が聞ける。そういう点ではとても有意義。なるべく参加するようにしています」と土屋社長。
 一方、企業間連携についても積極的な考えを持つ。「中小企業はそれぞれ得意な分野だけをやっていてはなかなか大きくなれない。あたかもひとつの企業集団のように、ヒト・モノ・カネをお互いに補完し合えるような連携ができれば面白いのではないかと思います」。
 企業間連携もゆるやかなネットワークから、企業組合、合併、M&Aまで、とらえ方によってさまざまな手法が考えられる。生き残りとさらなる発展をかけた中小企業のひとつとして、同社もさまざまな可能性を模索し続けているようだ。



プロフィール
代表取締役会長土屋 健基
代表取締役会長
土屋 健基
(つちやけんき)
中央会に期待すること

中央会への提言
 行政や金融機関に対して前向きな取り組みを依頼するなど、新しい中小企業連携の取り組みをバックアップするさまざまなアプローチをお願いしたい。それが今後、中央会の大きな役割になると思います。

土屋製工株式会社
本社社屋


経歴 1928年(昭和3年)10月生まれ
1966年2月 土屋製工を個人創業。
1995年2月   代表取締役会長に就任。
出身   松本市
家族構成  
趣味   ゴルフ、読書、囲碁
代表取締役社長土屋 久
代表取締役社長
土屋 久
(つちやひさし)
経歴
1995年2月 副社長から社長に就任する。

 


 

企業ガイド
土屋製工株式会社

本社 〒390-0846 松本市南原2-11-3
明科工場   〒399-7104 安曇野市明科七貴6103-1     
TEL(0263)62-5435(代)
FAX(0263)62-5404
創業   1966年2月
資本金   4,000万円
事業内容   農業用機械のユニット及び部品製造、建設機械部品の製造、食品包装機械の開発・製造・販売、スノーマシンの製造
このページの上へ