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月刊中小企業レポート
更新日:2006/12/09

特集2 「2006年版中小企業白書」からみる
中小企業の活動事例

中小企業庁は、「2006年版中小企業白書」を5月に発表した。
今月号から3回に分けて、白書から見る中小企業の活動事例についてご紹介する予定です。

東アジア経済との関係深化と中小企業の経営環境変化

 1990年代以降、東アジア諸国が急速な経済成長を遂げ、「世界の工場」と化していく中、我が国の産業構造は製造業を中心に急速な変化を遂げつつある。この変化は、海外進出をしているか否かにかかわらず、また海外と直接取引をしているか否かにかかわらず、我が国のすべての中小企業に大きな影響を与えているが、同時に発展へのチャンスをももたらしている。

タイにおける自動車産業集積と日系金型企業

 自動車関連のプラスチック成形用金型の製造を手がけるクリエイティブテクノロジー(株)(本社 静岡県・従業員145名・資本金7,000万円)は、1997年にタイ(バンコク)に進出した。当初は金型製造が目的ではなく、CAD/CAMセンターとして、金型製造のためのデータ処理を行うことが目的であった。国内ではその人件費コストが膨大になっていたため、それを削減したいと考えていたのである。アジアの拠点としてタイを選んだ理由は、日本人にとって居心地がよく、宗教的、政治的にも安定していたこと、既に日系自動車メーカーがタイに進出しており、マーケットの拡大も見込まれたからである。予想通り、現在のタイは、世界的な自動車の一大生産拠点となりつつある。
 データ処理のための人材は、タイの有名な工科大学であるキングモンクット工科大学より新卒者を10名ほど集めて立ち上げた。1997年はアジア通貨危機の時期であったが、同社は小規模であったことと、あくまで日本で受注した仕事をタイで実施するのみのビジネスモデルであったため、幸いにもほとんど影響が無かった。
 最初の4、5年間はデータ処理のみ実施していたが、金型製造の知識がないままにデータ処理をして、実際金型を作ったときに使えないケースも発生していたので、データ処理だけでは限界を感じ、金型工場を建設した。一方、経済環境として、タイに自動車部品メーカーが多く進出を始め、金型のニーズも出てきており、データ処理と金型工場をセットで保有することにメリットが見込まれた。進出時にデータ処理業務で採用した学卒者10人が、金型製造の現場においてもキーマンになっている。現在は、タイに進出している日系自動車部品メーカーとの取引が多くを占め、売上の90%以上が金型製造、残り10%は当初の目的であったデータ処理業務である。
 現地で最も腐心しているのは、日本の金型づくりのきめ細かさと技能・技術をどのようにタイ人労働者に伝承していくかということである。現地の金型メーカーとの競合は少なく、競合相手はあくまで日系又は日本国内の金型メーカーである。日系の自動車セットメーカーや一次下請も、過去に東アジア及び現地ローカルの金型メーカーを使い出した時期があったのだが、細部のやり直しが多く発生したため、結局日本の金型メーカーから調達するケースが再び増えてきている。

新たな投資先として脚光を浴びるベトナム

 自動車関連部品加工、工作機械製造を手がける(株)桜井製作所(本社 静岡県・従業員202名・資本金2億70万円)は、1990年代、日系メーカーがこぞってアジアに進出する姿を見て、早い段階からタイやインドネシアなどを候補にアジア展開を検討していたが、1997年のアジア危機到来で一旦は断念した。2000年代に入ってからベトナムに着目し、主要取引先も進出していたこと、治安の良さ、何よりも比較的優秀な労働力が安価で豊富に確保できるということに魅力を感じ、自社の判断で2002年に進出した。日系大手商社が経営に参画している工業団地に工場を建設したため、その商社が認可から始まる雑務を手伝ってくれた。
 ベトナム工場の機能は、基本的には日本国内工場の機能と変わらない。国内本社で受注した仕事について、ベトナムで加工した方が安上がりとなる業務については、ベトナムで加工するという発想であり、それに加えて、生産変動の波を吸収し、協業体制を構築する機能を有している。さらに今後はASEAN(タイ)と中国への供給基地としての機能を担っていく予定である。ハノイのベトナム工場から華南の自動車産業集積地・広州までは850kmくらいの距離しかなく、陸送が十分に可能である。
 なお、サポーティングインダストリーの蓄積が進んでいないベトナムでは、ベアリングに使用する高品質鋼材などの原材料を現地で調達することはかなり難しい。今後さらにベトナムの二次産業が発展するためには、サポーティングインダストリーが育たないといけないが、ベトナム人の気質は非常に勤勉で、日本人のメンタリティと通じるものも多く、今後の成長が期待される。

一貫生産体制の構築により短納期・高品質の大量生産を実現

 内野(株)(本社 東京都・従業員628名・資本金2億4,000万円)はタオルの卸売業から始まり、現在はタオル以外にもバスローブやマットなど幅広くバス関連商品を手がけている。同社はもともと自社で企画を立て、それを国内のメーカーに製造委託し、販売するという形態の卸売業だったため、生産に関するノウハウは全く無かった。
 1985年のプラザ合意以降、円高基調が続くと予測し、海外から価格競争力のある製品が輸入されてくるという懸念を抱き、製造委託をしていた各地のタオル産地の人たちに海外生産拠点作りについて検討を依頼した。しかし委託先からの賛同を得るには時期尚早の時代であった。そのため、独自に海外へ出て行くことを決心し、1988年、もともとタイにあったタオル工場に資本と技術を入れ、同社がマネジメントを行う形で、タイに最初の合弁企業を立ち上げた。その後、生産ノウハウと海外での経営ノウハウを蓄積し、独自の工場を求め、1993年、中国・上海に72、000m2の自社工場を設立した。現在、現地法人は従業員1、900人を抱える日本本社100%出資の独資企業である。日本向け生産が9割であるが、1997年からは中国国内販売も始めている。
 およそ12の工程にまたがるタオル生産を一貫生産でやっている企業は日本にはないが、上海工場では、日本で作られているものと同等以上の商品を海外で作るという発想から、最新の生産設備を擁し、高付加価値商品の生産を紡績から最終品に仕上げるまでの一貫生産にて行っている。一貫生産体制のメリットは、品質・納期に信用のおける外注先が少ない中で、品質・納期管理を自社で行えること、様々な間接経費を削減しコスト競争力も併せ持つことができることにある。

中国・ASEAN拠点で機能分担・リスク分散している事例

 光学機器、医療機器メーカーの日本精密測器(株)(本社 群馬県・従業員150名・資本金2億6、800万円)では、30年位前、台湾に日本本社が50%出資する合弁会社を設立したのが海外進出の始まりである(現在、この台湾日精は、事実上別会社になっている)。その後、1997年インドネシア、1998年中国・蘇州に現地法人を設立した。製造製品はデジタル・アナログ血圧計であるが、デジタル血圧計は3分の2をインドネシア、3分の1を中国で生産し、アナログ血圧計は100%中国で生産している。血圧計以外の心電計、パルスオキシメーターなど、特殊で利幅も大きいが生産ロットが少ないものは、日本で生産している。台湾は既に経営権を渡しているので、メーターのうち日本本社で作っていないものを作っている。基本的には、多品種、少量で利幅が大きいものは日本で、大量生産品は中国とインドネシアで生産する分業体制が敷かれている。完成品は、日本の他、アメリカとヨーロッパ向けが多く、アメリカとドイツには営業拠点も置いている。
 同社の東アジア進出目的はコストダウンであるので、中国で調達する部品や材料は、ほぼすべてローカル企業や台湾系企業を調達先にしてコスト削減効果を上げている。デジタル血圧計の部品のうち、重要な物は中国で作ってインドネシアへ輸出するなど、拠点間の連携をしている。トータルで見ると、インドネシアより中国の方がコストが安くなっているが、中国で何かあった時のリスクをカバーする意味でもインドネシアの拠点を維持している。
 中国におけるワーカーの離職率は高く、労務管理が難しいので、彼らをマネジメントする上では、優秀な中国人とサポート役としての台湾・香港・韓国系の人材が有益だと感じている。インドネシアにおける人材面の問題としては、中国のような転職や独立を考える従業員は少ないものの、中間管理職に適するような人材の蓄積が進まないという面がある。

海外展開は国内事業を含めた全社的利益に貢献

 携帯電話の部品等の精密プラスチック金型製作・金属部品との一体成形加工を得意とする(株)明王化成(本社 東京都・従業員80名・資本金3,000万円)は、中国市場の拡大を見越して2002年上海に資本金300万ドルを投資して進出した。同社の主たる業務は金型を用いた成形加工であるが、自社で金型インサート成形機も作っている。金型製作の部分はアウトソーシングしており、コア技術は、金型設計とその金型の組込から試作評価を行う能力である。
 金型の現地調達が難しいと言われる中国においても、同社は地道な外注先の発掘に尽力し、「顧客の図面から金型を設計→部品ごとの図面を設計→ローカルの金型メーカーへ外注→工場納品→組立て→部品製造または金型販売」という流れを築いており、金型製作の外注化に成功している。外注先として5社の確保に成功しており、今では日本で受注した金型製作も全て上海で製造しているが、品質は日本の外注先と同等か、それ以上のレベルであると感じている。
 同社の経験では、海外進出は決して国内事業の縮小ではなく、海外進出が国内事業の成長にも通じる、まさにWin-Winの関係になりうるものである。たとえば、中国に進出したことで、欧州企業との取引が現地で開拓できた。これまでは、中国に技術が存在しないので、わざわざ日本まで技術を買いに来ていた欧米企業に対しても、日本と全く同じ技術・能力を中国で提供できれば大きなアドバンテージになる。中国事業立ち上げのために現地に派遣した3名の若手社員も働きぶりも素晴らしく、中国事業の成功は日本の社員にも刺激を与えることとなり、結果として日本工場の生産効率も向上しつつある。

海外進出により国内外で販路開拓に成功

 溶射・表面処理、精密機械加工を手がける大阪ウェルディング工業(株)(本社 大阪府・従業員70名・資本金3,000万円)は、コストダウン目的に加え、納品先の海外展開や、中国市場の潜在需要を考慮し、自社判断で2001年に上海へ進出した。進出して間もない時期は中国での決まった客も無かったため、日本で営業活動を行った。まずは、「自社の特徴である表面改質の技術を活かし、日本ではコストダウンが難しい工数が多く高機能な部品について、数をまとめることでコストダウンが図れるもの」など、中国ならではというものからスタートし、操業開始から10ヵ月後には黒字化した。
 現在の機能分担は、日本では少量多品種の製品や、新技術・新しいアプリケーションの開発を行い、中国では現地内販向けには日本と同様に量産から少量多品種のものまで手がけ、日本へ輸出するものについては数がまとまったものを扱っている。基本的には日本でも中国でも同じものができるようにしており、数量や価格帯などに応じて、どちらで作るか分担している。
 日本と中国の工場は相乗効果をもたらしている。日本側で営業する際には、中国に拠点を持っていることから、日本と同水準のものが現地調達できるという話が広まり、中国に進出している日本企業からの問い合わせが来はじめ、後は紹介、紹介で顧客はどんどん増えていった。また、中国へ工場を作ったことで、従来の顧客にもコストダウンした製品を提供できるようになり、よい影響をもたらしている。今では中国だけでなく、日本サイドも業績が伸びてきている。
 なお、リスク対応としては、ローカル企業は、代金回収の問題があるので、本当に信用できるところへしか販売せず、納品したらすぐに代金回収するようにしており、一部には先払いもある。また、技術の流出を防ぐため、人材の配置にも配慮を行っている。

難しい現地調達

 鋳物製造業のB社(本社 愛知県・従業員70名・資本金9,600万円)は1991年、独資にて中国・大連に現地法人を設立した。水道用バルブ、給水栓、継ぎ手の受注生産を手がけている。鋳物業界は、かなり早い時期からいわゆる「3K」ということで、環境面からも日本では生産拡張が難しく、従業員の募集も難しい状態であったため、中国進出を決意した。設立当時に困ったのは工場建設で、契約通りに工事が進まなかったり、建材が値上がりして途中で工事を中断したり、電気がなかなか通じないなどの困難があった。
 現在製造している製品で最も多いのは、バルブよりも継ぎ手で、日本のセットメーカーから受注している。拠点の機能分担としては、大口受注は現地法人で製造し、小口受注や試作品は日本本社で製造している。本社の製造体制が製造単価も含めて限界にきているので、ロットの大きいもの、継続受注品は現地法人の製造としている。現在創業15年を経過し、現場従業員の技能が上達し、日本側からの信頼も得られるようになっている。
 中国国内向けに販売しない理由は、高品質品よりは低コスト品が受け入れられがちな中国市場では、同社の製品を投入してもコストが合わないこと、製品規格に違いがあること、また中国国内向けでは代金回収も難しいからである。
 原材料の現地調達は、品質や供給安定性の問題から、なかなか進んでいない。製品価格を100とすると、現地調達はせいぜい10~15程度であり、残りは日本からの輸入に頼っている。中国では、JIS規格に合う原材料を安価で入手することが困難であるため、主原料である銅も輸入である。万が一、ネジ一本でも不良品が発生すると、同じ部品を使用した製品の全てを末端から回収しなければならないことが想定され、そのコストは膨大で、リスクとして大変大きいので、日本からの安定した調達の方にメリットを感じている。

中国市場で日系中小製造業をサポートするNCネットワークチャイナの取組

 (株)エヌシーネットワーク(本社 東京都・従業員25名・資本金4億4、200万円)は、1997年、金属プレス、ばね、金型、板金等を手がける中小製造業9社が立ち上げた共同受注組合から始まった。ネット上に仮想工場を作り、中小製造業をターゲットにしたB to B マッチングサイトを開設、そこでメンバー企業が互いにできることをPRし、試作品の受発注を始めとした取引関係を築いている。現在、日本ではメンバー企業が13,000社にまで達しており、こうしたメンバー企業の中には中国に進出した企業が相当数あること、また製造業の国際ネットワークが広がる中で、「世界の協業プラットフォーム」になりたいという想いもあったことから、2003年には中国・上海へ進出し、「NCネットワークチャイナ」を立ち上げた。
 中国での主な事業内容は、①製造業専門のビジネスマッチングサイトの運営、②雑誌「EMIDAS」での情報発信・交流促進、③ビジネスマッチングの場の提供(商談会の開催)、④個別調査サービス・工場訪問同行、の4つである。サイトの会員は、日本企業のほか、中国企業、台湾系企業、香港系企業が計2、500社程度、うち、在中日系企業が400~500社と全体の15%程度を占め、中国企業やその他の企業が約2,000社(社内ストックした数は約5、000社)、データベース上に登録されている。③についてもメンバーへの商談会の提供や、地方銀行が合同で主催する商談会にも共催している。進出企業が現地化していく中で、現地調達がキーワードになってきているので、企業同士(日系同士、日系と非日系)の出会いの場を提供し、現地での取引環境の拡大に貢献することを目的としている。④については、中国進出を検討段階の企業からのマーケット調査や競合先調査、個別企業調査や工場訪問のアレンジなどを受託し、有益な情報提供に尽力している。
 日本では大手企業との付き合いが2次下請、3次下請取引だけだった中小企業でも、中国では現地に進出した大手企業と直接取引が可能であり、逆に中国で生まれた付き合いから日本で大手企業との直接取引に繋がることもある。海外展開に消極的だった中小企業にも、こういったビジネス拡大の可能性の面を知ってもらい、中国進出をサポートしていきたいと同社は考えている。

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