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月刊中小企業レポート
更新日:2006/12/09

特集1 中小企業の円滑な事業承継のための手引き
事業承継ガイドライン

事業承継ガイドライン 日本の中小企業にとって、今や大きな問題となっているのが事業承継対策です。この問題に取り組むため、中小企業庁は平成17年10月に関係士業団体や中小企業団体とともに、「事業承継協議会」を設立し、中小企業の事業承継円滑化に向けた総合的な検討を行ってまいりました。平成18年6月には同協議会で、中小企業の円滑な事業承継のための手引きである「事業承継ガイドライン」が策定・公表されました。
 この「事業承継ガイドライン20問20答」より抜粋し紹介いたします。

※詳細な内容は中小企業庁ホームページ
http://www.chusho.meti.go.jp/をご覧下さい。

Q1.事業承継対策って、どうして大切なのですか?

A 日本経済を支える中小企業では、近年、経営者の高齢化が進行する一方で、後継者の確保がますます困難になっています。また、事業承継に失敗して紛争が生じたり、会社の業績が悪化するケースも多く存在しています。
 中小企業にとって、事業承継問題は非常に重要な問題となっているのです。

Q2.事業承継対策をしないと、どうなるのですか?

A 事業承継対策をしていないと、様々な理由で事業が不安定になり、事業の継続が困難となってしまいます。事業承継対策をしなかった場合の失敗事例はいろいろありますが、ここでは、代表的な例をご紹介します。

【ケース1】
高齢の会長が実権を握り、社長への経営委譲が進まないケース
【ケース2】
事業承継の準備をしないまま経営者の判断能力が低下したケース
【ケース3】
後継者に事業用資産の集中が出来なかったケース

Q3.事業承継計画って、どのようなものですか?

A 事業承継計画とは、中長期の経営計画に、事業承継の時期、具体的な対策を盛り込んだものです。

Q4.事業承継計画を立てるには、まず何をしたらよいですか?

A 事業承継計画を立案するに当たっては、まず最初に会社をとりまく各状況を正確に把握することが必要です。
 具体的には、下のような各状況を正しく認識してください。

事業承継計画を立案するに当たっては、まず最初に会社をとりまく各状況を正確に把握することが必要です。

Q5.事業承継の方法は、どのように決定すればよいですか?

A 事業承継の方法は、(1)親族内承継、(2)従業員等への承継、(3)M&Aの3つがあります。各承継方法のメリット・デメリットを把握するとともに、後継者候補等の関係者との意思疎通を十分に行い、承継方法と後継者を確定しましょう。

Q6.親族内承継で注意する点を教えてください。

A 親族内承継では、次のとおり(1)関係者の理解、(2)後継者教育、(3)株式・財産の分配について注意が必要となります。

(1)関係者の理解
①後継者候補との意志疎通(候補者が複数いる場合は特に注意)
②社内や取引先・金融関係への事業承継計画の公表
③将来の経営陣の構成を視野に入れて、役員・従業員の世代交代を準備
 
(2)後継者教育
①社内での教育(経営者による直接指導が可能)
②社外での教育
 
(3)株式・財産の分配
①株式・財産の分配においては、(イ)後継者への株式等事業用資産の集中、(ロ)後継者以外の相続人への配慮、という2つの観点からの検討が必要
②現時点で既に株式が分散している場合には、可能な限り買取り等を実施することが必要

親族内承継で注意する点

Q7.後継者教育は、どのように行えばよいですか?

A 後継者を選定した後には、社内・社外教育をして、来るべき承継に備えましょう。
 自社の置かれた状況により取るべき手段は異なりますが、円滑な事業承継のためには意識的な後継者の育成が不可欠です。具体的には、下記のようなものがあります。

後継者を選定した後には、社内・社外教育をして、来るべき承継に備える

Q8.株式・財産の分配は、どのように行えばよいですか?

A 株式・財産の分配は、(1)後継者への株式等事業用資産の集中、(2)後継者以外の相続人への配慮の2つの観点から検討する必要があります。

(1)後継者への株式等事業用資産の集中
後継者及びその友好的な株主への株式の相当数の集中が望ましい。(目安としては、株主総会で重要事項を 決議するために必要な3分の2以上の議決権)
【ポイント】
①企業価値向上に貢献した後継者への経済的配慮は、個人間の贈与等でなく、他の相続人の遺留分問題が生じないよう、会社から報酬を与えるのが有効。
②中小企業投資育成株式会社(東京・名古屋・大阪の3社がある)の増資新株引き受けによる安定株主対策も有効。
③後継者の相続税負担が大きくなり得るため、専門家と相談して対策を実行。

(2)後継者以外の相続人への配慮
生前贈与や遺言を用いる場合でも、他の相続人の遺留分による制限あり。

Q9.生前贈与を活用したいのですが、どのように行えばよいですか?

A 生前贈与は、後継者への財産移転の方法のうち、オーナー経営者の生前に権利が確定されるため最も確実な方法であり、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つの方法があります。

  • 暦年課税制度と相続時精算課税制度の概要
     暦年課税制度と相続時精算課税制度の概要は次のとおりです。家族構成や財産構成によって、どちらが事業承継にとって有利であるか判断してください。その際には、遺留分の問題に十分注意してください。
暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つの方法

Q10.遺言を活用したいのですが、どのように行えばよいですか?

A 遺言を作成することで、後継者に株式等を集中することが可能です。

  • 遺言の種類とその特徴
     遺言には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。それぞれの特徴は次のとおりです。

「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類

Q11.会社法を活用したいのですが、どのように行えばよいですか?

A  後継者やその友好的な株主に株式等を集中させる方法として、平成18年5月1日に施行された「会社法」の各種制度を活用することが可能です。会社法では、定款自治が拡大され、企業の選択肢が格段に広がっているのが特徴です。

(1)株式の集中及び分散防止
 次のような会社法の方策を用いて、後継者へ株式を集中させるとともに、好ましくない者への株式の分散を防止することができます。
  1. 分散した株式の買取り
    経営者・後継者個人による買取りのほか、会社による自社株式の取得(金庫株)も可能。
  2. 株式譲渡制限条項の設置
    会社にとって好ましくない者への株式の譲渡(売却)を制限することが可能。
  3. 相続人に対する売渡請求条項の設置(事業承継における会社法の活用参照)
    株式を相続した者が会社にとって好ましくない場合、会社が株式の売渡請求を行うことが可能。
(2)種類株式の活用
 種類株式(議決権や財産権等が普通と異なる株式)を用いて、議決権をコントロールすることが可能です。
  1. 議決権制限株式の発行(事業承継における会社法の活用参照)
    ・議決権制限株式とは、株主総会での特定の議決権が制限された株式。
    ・後継者以外に議決権制限株式を相続させることで、後継者に議決権を集中することが可能。
  2. 拒否権付種類株式(黄金株)の発行
    ・拒否権付種類株式(黄金株)とは、株主総会の特定の決議事項について、拒否権を有する株式。
    ・現経営者が一定期間黄金株を保持し、信頼がおけるようになるまで後継者の経営に睨みを利かせることが可能。
(3)会社法を活用する上での注意点
 各種制度を活用する際には、次のような注意点があります。
  1. 制度活用のための定款変更には、少なくとも議決権の3分の2以上の賛成の確保が必要。
  2. 株式の取得や売渡請求を行うためには、会社又は個人に十分な資金が必要。
  3. 種類株式については、株式発行価格・税務上の評価等中小企業の実務におけるノウハウの蓄積が不十分な面がある。

Q12.「従業員等への承継」には、どのようなパターンがありますか?

A 「従業員等への承継」として考えられるパターンとして、主に次の2通りが考えられます。なお、将来の子息等への承継の中継ぎとして、従業員等へ一時的に承継するような場合もあります。

(1)役員・従業員等社内への承継パターン
 社内の後継者候補としては、共同創業者、専務等番頭格の役員、優秀な若手経営陣、工場長等の従業員等が考えられます。
 なお、自社の役員等が後継者となる場合、経営者やその親族が保有している自社株式買取りの資力がないことが障害となることが多いと考えられますが、そのような場合に、MBOという手法が利用できる場合があります。
 
 
(2)取引先・金融機関等外部から後継者を雇い入れる承継パターン
 取引先の企業や金融機関から人を招く場合が多いです。
ただし、社内に基盤がない者が後継者になることは、従業員等の反発が予想されるので慎重に選定しなければなりません。

Q13.「従業員等への承継」で注意する点を教えてください。

A 親族内承継の場合と同様、次のとおり(1)関係者の理解、(2)後継者教育、(3)株式・財産の分配がポイントです。また、(4)個人(債務)保証・担保の処理にも注意が必要です。
 (1)~(3)までは、親族内承継の場合と基本的に同様ですが、特に次の点には注意が必要です。

(1) 関係者の理解(親族内承継:Q6参照)
  1. 親族内承継の場合と比べて、より多くの時間が必要となる場合が多い。
  2. 現オーナー経営者の親族の意向をよく確認しておく。(継ぐ気がないと思っていた親族が突然継ぎたいと言い出すケースもある)
  3. 一時的な中継ぎとして従業員等へ承継する場合は、十分意思疎通を行っておく。

(2) 後継者教育(親族内承継:Q7参照)
 必要に応じて社内・社外教育を実施。

(3)株式・財産の分配(親族内承継:Q8参照)
  1. 株式については、後継者の経営に配慮し一定程度後継者に集中させることが必要。
  2. 後継者に株式取得のための資力がないことが一般的であることに注意(MBOの利用も検討)。
  3. 現経営者の様々な要請に応じて会社法の各種手法が活用可能(Q11参照)。
    (例)
    ・現経営者の親族に財産権を残すため、議決権制限株式を発行して取得させる。
    ・拒否権付種類株式(黄金株)を現経営者が一定期間保持し、後継者の経営に睨みを利かせる。

(4)個人(債務)保証・担保の処理
  1. 事業承継に先立ってできるだけ債務の圧縮を図る。
  2. 後継者の債務保証を軽減できるよう、金融機関とねばり強く交渉する。
  3. 個人保証・担保が完全に処理しきれない場合は、負担に見合った報酬を後継者に確保しておく。

 

Q14.親族や従業員等に後継者候補がおりません。どうすればよいですか?

A M&Aという手法で会社を売却することも可能です。

  • M&Aとは
     M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字で、簡単に言えば、会社そのものを売り買いするという意味があります。
     親族や社内等に後継者候補がいない場合には、従業員の雇用維持、取引先の仕事確保、経営者の老後の生活資金確保等のため、会社そのものを売却し、第三者に経営してもらうことも考えられる選択肢の一つです。
     近年では、中小企業におけるM&Aの件数が増加しています。

  • M&Aの種類
    M&Aの種類 M&Aには、会社の全部を譲渡する方法と、一部を譲渡する方法があり、それぞれ次のような手法があります。M&Aを行う際には、専門家と相談し、自社にふさわしい方法を選択することが必要です。

 

 

 

 

Q15.M&Aを成功させるためのポイントを教えてください。

A M&Aを成功させるためのポイントは次のとおりです。

M&A成功のためのポイント
  1. 準備段階で秘密を関係者(役員・従業員・取引先等)に漏らさない。
  2. 専門的なノウハウを有する仲介機関(取引先金融機関、税理士、公認会計士、弁護士、商工会議所・商工会、M&A業者等)に相談する。
  3. 事業承継の条件、売却金額の希望等を早い段階で仲介機関に伝える。
  4. デューディリジェンスの際に、交渉相手に対して自社の都合の悪いことでも隠し事をしない。
  5. M&A後の会社の環境整備に気を配る。
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