ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2006年11月号) > 元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/11/09

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

「長野県の時計屋はどんな時計でも直せます」をめざして。
小売業者の技能レベルアップへの挑戦が始まった。

有限会社鐘の鳴る店中沢代表取締役社長 中澤 國忠さん
有限会社鐘の鳴る店中沢
代表取締役社長 中澤 國忠さん


きめ細かい手づくりDM戦略で地域一番店へ

きめ細かい手づくりDM戦略で地域一番店へダイレクトメール「わくわくワンダフル通信」 「お誕生日おめでとうございます」―茅野市、原村、富士見町の全住民と高遠町と諏訪市の一部住民に毎年、誕生日を祝う手づくりのダイレクトメール(DM)が届く。
 差出人は茅野駅前で昭和39年に創業した時計・貴金属・メガネの専門店「鐘の鳴る店中沢」。昭和52年にスタート以来毎年欠かさず届けられるメッセージだ。
 「年間約65000通出しています。そもそもすでに買っていただいたお客様はもとより、当店に来られない地域のお客様に何かアピールする方法はないかと思ったのがきっかけ。そこでお客様のバースディカードを出し、中沢を覚えご来店いただこうと思ったのです。当時としては画期的な試みでしたが、これが当店の業績を順調に伸ばし、今の基礎をつくったと自負しています」と中澤國忠社長は話す。

 現在、誕生祝いのDMのほか、毎月一回の売り出しなどイベント情報を伝えるものなど各種DMをきめ細かく発送。さらに手書きの「わくわくワンダフル通信」を社長夫人が中心になって制作し、限られた上得意客に送付している。この三つが同社の販売戦略の要だ。
 「誕生日のDMと顧客への情報提供のDMは完成、あるいはマンネリ化に入っていますが、『わくわくワンダフル通信』はまだまだこれから。これを今の店の売上げを伸ばす起爆剤にしたいと思っています。そのためにも送付するお客様を5000人までもっていきたい。お客様と店との共通ネットワークが開ければ売れる仕組みができる。今まで私が商売をしてきた基本的なものがそこにあるんです」
 地域に根ざした温かく、きめ細かい手づくりDM戦略で地域一番店へ。その活動と成果は全国的に評判を呼び、経営の成功事例として、同業者はもとより多くの小売店経営者のバイブルとなっている。

それまでの時計店のイメージを捨てたかった

 中澤社長は山梨県小淵沢町の出身。甲府市の有名時計店で修業していた昭和37年、松本・諏訪地区が新産業都市の指定を受けたのを知り、市場として期待される諏訪での独立を考えたという。
 当時は諏訪精工舎が隆々としていた頃。初めて自分の店を持とうという若者には、諏訪の商店街はあまりにも活気にあふれ素晴らしく見えた。「これでは太刀打ちできない」。自信喪失しかけて山梨に一歩近い茅野に初めて降りた時、「ここなら」とほのかな期待を抱く。そして同年4月、現在地近くで間口一間半の「中沢時計店」をオープンした。
 「腕時計を15、6本。掛け時計を10本ほど並べただけの小さい店でしたが、ちょうど東京オリンピックの年。次第にお客さんが増え、面白いくらい売れました」。その後もスムーズに売上げを伸ばし、茅野市の時計店で一、二を争う繁盛店へと成長していく。
 昭和47年7月には現在地に新店舗を移転新築。中澤社長はこの時を「大きな転換点」と表現する。
 その理由のひとつは、新店オープンとともに店名を「鐘の鳴る店中沢」と変更したこと。ウエストミンスター・チャイムを鳴らす装置を地域で初めて取り付け、一時間ごとに街に鐘の音を響かせることにしたことからつけた。
 もうひとつの理由は、それまで行っていた時計の修理をやめ、販売に専念することにしたこと。ちょうどウォッチが機械式から電池式(クオーツ)へと切り替わる時と重なり、新しい商品がどんどん売れた。販売に専念することで同社はその流れにうまく乗ることができたのである。
 「それまでの時計店のイメージを捨てたかったんです。お宅は何の店?と今でも聞かれることがありますが、大きく脱皮することができました」

カラープリンターを徹底的に使いこなして

カラープリンターを徹底的に使いこなして 同社のDMづくりにもさまざまな経緯がある。
 誕生日DMをスタートした当初、ハガキの宛名はすべて手書き。社長以下スタッフ総出で毎月五千通も書いたという。しかしあまりの大変さに簡易印刷に切り替え、昭和58、9年にはフルセットで数百万円もする(当時)パソコンを導入し、宛名書きを合理化した。
 セイコーエプソンのカラープリンターが登場した時には先がけて導入。徹底的に使いこなし、売り出し用DMの中身もモノクロから2色、カラーへと進化させきた。
 「カラー印刷は金がかかるし小回りがきかず、なかなか印刷業者には頼めません。でも自分たちで制作し印刷すれば、3日もあれば対応できる。それでパソコンを導入し、手書き感覚をそのまま生かして自前で作るようになったんです」
 いち早く導入したパソコンは現在、顧客データや売上げデータ等を管理するもの、インターネットにつないだもの、そしてDM制作用と三台を使い分ける。「顧客管理はうちの命。ウイルスに汚染されたり顧客データが流出したりしないようセキュリティを考慮し、外とは一切つなげていません」。

お客様と心の通うものが必要なんです

 低価格商品の急速な増加にともなって、量販店やホームセンターなど専門店以外の販売チャネルが拡大。さらに低価格品と高級品の二極化が進むなか、市場規模が小さい地方ではすべての顧客を満足させる幅広い商品構成を揃えるのは難しい。超高級品は東京の専門店、高級品は地方の百貨店および大手専門店という志向が定着し、地域専門店は厳しい状況に置かれている。同社の年間売上げも十数年前から下降線をたどり、「ピーク時に比べ半減している」という。
 「時計小売店は修理をする店と販売のみの店に大別でき、販売の店はさらに超高級品だけ売る店と、仕方なく商売をしているという店に分化しています。ここで生き残るためにはどういう手段を取るべきか。それを日々考えていますが、結果はなかなか出ません。やはり消費人口の少なさがネック。だからこそ、お客様と心の通うものが必要なんですね」
 中澤社長が「お客様と心の通うもの」というのは、ひとつはDM。もうひとつは店づくりだ。
 現在、茅野駅前で再開発計画が進む。それにともなって同社も平成21年、現在地からより駅寄りに移転する予定。中澤社長は新しい店づくりについて、販売スペースのさらなる充実とともに新機軸を検討中だという。
 「一階に時計、貴金属、メガネを集約。二階を天井が高く、ゆったりとした空間と雰囲気を持った展示会場にしようと考えています。月二回はここでミニ展示会を開きたい。例えば、今の商品構成では満足できない高級品志向のお客様を招待し、ゆったりと会話をしながら商品を見ていただくような。『わくわくワンダフル通信』のレター作戦によって心の通い合う顧客が増えれば増えるほど、このスペースを有効活用できると思います。DMとともにこのスペースで、当社の次のステップを実現していきたいと考えています」

時計小売業に携わる人は皆、時計修理の資格を持つべきだ

 中澤社長は店の経営のかたわら、長野県時計宝飾眼鏡商業協同組合理事長の重責も担う。
 県内同業者が集まる同組合では平成17年、セイコーエプソン、シチズン平和時計製作所と共同で「信州匠の時計修理士」制度を立ち上げた。これは高度な機械式ウォッチの修理技術を持つ技術者を認定し、技術の普及と継承を図る独自の制度で、長野県の「技能評価検定制度」の認定を受けた。その旗振り役を務めたのが中澤社長だ。
 部品点数が少なく、しかも正確なクオーツ式時計が普及。小売店は技術力の低下を余儀なくされてきた。ところが近年、超高級品を中心に機械式ウォッチの人気が復活。六千億円といわれるウォッチ市場の半数近くを占めるまでに成長したが、小売店にそれを修理できる技術者がほとんどいないという現実。
 このような状況を見て、「自分も含め時計小売業に携わる人は皆、時計修理の資格を持つべきだ」と考えた中澤社長は、業界に職業訓練指導員の資格取得を提唱。セイコーエプソンの協力を得て二年間にわたって指導を受けた。さらに技能を深めようと考えていたところ、県の技能評価検定制度創設を知りチャレンジを決める。
 「申請から3年はかかると思っていましたが、一年で認定が取れました」。第一回目の今年は28人が受検し、一級一人、二級一人、三級9人が合格した。
 同組合はさらに今年四月、オリジナル機械式ウォッチ「タクミイズム シンシュウ」を発売。限定149個は予約で完売した。
 「自分たちのレベルアップした技能が生かせる商品を自ら市場に投入することで、技能のある人がモノを売り、メンテナンスで利益を上げるというサイクルを構築したい」
 組合員でなければ販売できないため、組合を脱退した元組合員が再加入するという副産物的な効果も。同組合では限定ではなく、注文生産による第二弾も構想中だ。

「長野県の時計屋はどんな時計でも直せます」

 「私の責任は組合員が良かったと思えることを小刻みに作っていくこと。もっとも、組合に金融支援を期待する人も少なくないだけに、こちらはどうしていけばいいか」。技能のレベルアップと商品化で新機軸を打ち出す同組合の舵を取る中澤社長だが、組合員の金融支援策について最善策はまだ図りかねているようだ。
 「若い人が技能にチャレンジしてくれるのは着実に後継者が育っているということ。それを支援するためにも、修理で利益になるシステムを構築したい。私は『長野県の時計屋はどんな時計でも直せます』をキャッチフレーズにしたいんです。たとえ修理のできないお店でも、絶対に「直せない」と言わないでくれと。直らなかったら組合のネットワークのなかで修理しますよ、と言っています。長野県ではどこの時計屋でも修理できるし、組合オリジナルのウォッチまであると評判になればうれしいですね」
 かつて「東洋のスイス」と謳われた諏訪地区を中心に、日本のウォッチ産業の中心地を標榜する長野県。同組合の積極的な取り組みにより、小売業者の側から技能レベルアップへの挑戦が始まっている。



プロフィール
代表取締役社長中澤 國忠(なかざわくにただ)
代表取締役社長
中澤 國忠
(なかざわくにただ)
中央会に期待すること

中央会への提言
 ユニークな組合を一般消費者にPRし、その活動を知ってもらえるような支援事業を考えていただけたらと思っています。

有限会社鐘の鳴る店中沢
本社


経歴 1940年(昭和15年)10月生まれ
1964年4月 茅野市に創業
出身   山梨県小淵沢町
家族構成   妻、長男、長女
趣味   ゴルフ

 

企業ガイド
有限会社鐘の鳴る店中沢

本社 〒391-0001
茅野市ちの3557-10
TEL(0266)72-3677 
FAX(0266)72-3620
創業   1964年4月
資本金   550万円
事業内容   時計、宝石貴金属、メガネ、補聴器等の販売
このページの上へ