ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2006年10月号) > 元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/10/09

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

難しい一品料理もスピーディーかつ高品質に仕上げます。
「製造業のセブンイレブン」をめざして着実に成長中。

株式会社佐々木工業 代表取締役社長 佐々木 正行さん
株式会社佐々木工業
代表取締役社長 佐々木 正行さん


うちの機械と技術が利用できるものだったら何でも作る

うちの機械と技術が利用できるものだったら何でも作る 「うちは製造業のセブンイレブンになろう」。佐々木正行社長は06年の正月、佐々木工業の全社員20人を前にそう宣言した。
 佐々木工業は精密板金加工と機械加工のスペシャリストを標榜。培ってきた豊かな技術力とノウハウ、そして積極的に導入を図る最新機械設備を駆使し、高精度な製品づくりをめざすモノづくり企業だ。
 本社のファックスには毎朝、何枚ものファックスが届く。そのほとんどが佐久エリアに本社や拠点を持つ取引先企業からの注文書。内容を確認し、最適と思われる担当部署を決め、納期の一日前までに仕上がるよう指示を出すのが社長の毎朝の日課だ。
 「うちは急ぎの注文が舞い込んでも精度の高い製品をすぐに提供できる。午前中に作って夕方に納めるというスピーディーな仕事の仕方で、さまざまな製品分野の一品料理をどんどんこなしています。そして毎日、たとえ部品一つでも依頼主に出荷しています」。
 工場内はつねに清潔を心がけ、ホコリや油などが付かないきれいな状態で製品を仕上げる。精度の高さと品質の良さが評判を呼び、特殊なもの、時間が勝負なものなどさまざまな注文が舞い込む。
 特急品や一品料理の場合、注文主から価格を問われることはほんどないという。その製品がないことには期限までに最終製品に仕上げることができず、たとえ高くても確実に作ってくれる相手に頼らざるを得ないからだ。それが同社の戦略。手がける製品の半分はつねに厳しい価格対応を迫られるリピート品だが、残りの半分はこのような製品であり、それが確実に利益を生み出している。
 「製造業のセブンイレブン」を実現するベースとなるもの。それは「人間関係」と佐々木社長は言う。取引先も遠くの相手ではなく、集金できる近間の相手にこだわる。
 「先方と話し合ううちに、当社でできるものがどんどん膨らんでくる。それをいくらなら買ってくれるかと聞き、より安くて精度が高く、相手に喜ばれるものを作るための方法を考える。それが私のやり方です。だからどんな相手も取引先になる。業種やモノにこだわらず、うちの機械と技術が利用できるものだったら何でも作る。それが当社の基本であり他社との違いです」。

先がけてベンダーを導入。プレスと板金の二本柱確立へ

 同社創業は昭和34年。樫山工業でプレス部門を担当していた佐々木社長の父、清氏が退職し、「東京工機製作所」を興したのが始まりだ。創業時から計量器のプレス加工を主に手がけ、計量器の製造免許を取得。現在も水平式体重計の製造を続ける。
 昭和37年にはアマダ製のベンダーを先がけて導入し、板金加工にも進出。「プレス機械は万能なのに、この機械は曲げるだけの単機能。うちのような会社にそれではもったいないと思いましたが、しばらく検討、研究した末に導入を決めました」。
 この決断が吉と出る。ほどなくして、組み立て式物置の製造を始めた地元メーカーから板金加工を受注。それがプレスと板金の二本柱の確立へとつながり、精密板金加工と機械加工のスペシャリストとしての礎を築くこととなったのである。
 そして昭和51年、佐々木社長が先代を継いで27歳で社長に就任。同時に社名を「株式会社佐々木工業」に変更した。
 受注は比較的順調だったが、佐々木社長自身まだ若く、さまざまな試練も経験しつつの船出。しかも工場周辺の宅地化が急速に進み、地区住民から音や振動による苦情が続くという悩みも抱えていた。
 そんな時に誘われたのが新しい工場団地への入居。そして昭和53年、現在の佐久市工場団地事業協同組合に加盟し、工場を移転した。「行く場所がなかったので本当に救われた気がしました。仕事もかなり融通していただき、誘っていただいた初代理事長の趣旨がよく分かった。それだけに私にはこの工場団地に格別の思い入れがあるんです」。
 佐々木社長は今年5月、地元製造業八社が参加する「佐久市工場団地事業協同組合」の理事長に就任し、新たな舵取りを任された。組合については後に詳しく述べることにする。

いち早く最先端の機械を導入し、スピーディーで高精度なモノづくり

いち早く最先端の機械を導入し、スピーディーで高精度なモノづくり アマダ製のベンダーを先がけて導入し、新たな事業展開を拓いて以来、佐々木社長はいち早く最先端の機械を導入することにこだわってきた。その経験から設備投資の仕方にも一家言を持つ。
 「今うちの看板機械はアマダ製NCレーザー複合機EML。これは今までとレベルが全然違う最先端の機械です。価格は一億数千万円。日本ではまだ30台ほどしか導入されていません。私は新しい機械、将来性のある機械をつねに見て検討し、良いと思えばすぐに買う。あわてて買って失敗したこともありますが(笑)。ただ、機械は導入してすぐ動くと思ったら大間違い。私は一年後の本格稼働を見越して投資しています。そのくらいのスパンで考えないと作業担当者も大きな負担になってしまう。また、今儲かっているから買おうというのもだめ。設備投資は業績が上り始めた時にしないと厳しいと思います」。
 各種レーザー加工機、NCタレットパンチプレス、3Dソリッド板金CADシステムなど数多くの最先端機械による機械力。そして多能工化とともに、技能士の資格取得を積極的に奨励するなど、技術・技能の高い技術者の育成への意欲的な取り組み。その両輪が、特急品や一品料理をスピーディーかつ高精度に仕上げる同社の大きな力になっている。
 品質向上にも積極的だ。同社がISO9001を取得したのは今から八年前と佐久市内の企業では早かった。「コンサルタントを呼んで話を聞いたら、輸出や海外進出をめざす企業には絶対に必要だと言われて。最初は雲をつかむような話でしたが、当社のような小さい会社でも取得できると勇気づけられ、一年ほどで取れました。苦労はしましたが、その甲斐はあったと思います」。

地域の異業種交流会に参加。各種福祉機器の開発に携わる

地域の異業種交流会に参加。各種福祉機器の開発に携わる 同社は計量器のほか、医療機器の製造免許も持つ。「歯科医が患者の歯型を取るためのトレーを作ったのがきっかけ。従来からの鋳物ではなく、ステンレスのプレスでできないかと歯科医から相談され、さっそくチャレンジし、その時に製造許可証を取得しました」。
 もっとも販売を開始した直後にパテントに抵触することが判明。残念ながらトレー自体は成功を収めなかったが、これが医療機関との共同開発を始めるきっかけとなった。
 医療機関の求めに応じてさまざまな製品を開発するとともに、佐久地方の製造業者らでつくる異業種交流会「佐久ものづくり研究会」の医療・介護部会にも参加。佐々木社長が副リーダーを務め、福祉機器の開発・製造に積極的に関わっている。
 お年寄りの徘徊防止機器「どこいくの検出器」、注射針を簡単・安全に廃棄できる「はりポトーン」(特許出願済)、杖に付けて手と腕で支えられるようにする「後付けカフ」、普段は普通の畳として使用し、介護しやすい高さまで自由に上下できる「ふわっと畳ベッド」。手がけた製品はバラエティーに富み、同社の板金技術が重要な役割を果たしている。
 「お年寄りは畳の上で生活するのが一番。そこで普段寝ている畳が介護する時だけ持ちあがったら介護が楽になるのではと発想したのが、ふわっと畳ベッド。油圧とモーターで上下する仕組みで、何度も試作を繰り返しました。NHKなどでも取り上げられ各方面から問い合わせが来ています」
 現在試作中なのが車イスに乗ったまま体重が量れる体重計。起き上がるのが難しい人の体重を簡単に量りたいという介護スタッフからの提案を受け、同社が中心になって開発に取り組んでいる。体重計は立つ場所によって誤差が生じ、正確に量るのがなかなか難しい。その克服が最大の課題だ。
「ものにできれば将来が楽しみな商品。寝たきりの人が寝たままベッドごと量れる体重計の開発もめざしたい」と佐々木社長は意気込む。

組合八社がともに手を携え、組合全体の活性化をめざす

 「今後は組合で営業マンを育てて、直接受注活動をしていかなければ。それがこれからの課題だと思う」。前述の通り、今年、佐久市工業団地協同組合理事長に就任した佐々木社長の組合への強い思い入れ。それは設立当初の理念に立ち戻るべきという考え方にも表れている。
 同組合は昭和52年設立し、翌年印刷機のデリバリーユニットの完成品製造に関する共同受注に着手。昭和58年には受注額の増大にともなって組合出資の共同受注の受け皿会社として(株)ステックを設立し、共同受注を本格的に稼働した。以後、組合員それぞれが得意技術に磨きをかけ業績を伸ばしつつ、共同研究開発事業等を通して組合全体の技術革新も図ってきた。さらに機械導入の際には組合員同士での重複を避け、組合全体でメリットが共有できるよう調整してきた。
 佐々木社長はそのポリシーが次第に崩れてきていると危惧する。
 「1社で何でもというのではなく、8社がともに手を携え組合全体を活性化させていかなければいけない。お互いに活発に行き来し、こんな仕事はできるかなど何でも相談できるのが組合のメリット。しかし最近は隣の会社が何をしているのか、どういう技術を持っているのかをみんな知らなすぎる。それではいけない。最近ようやく将来経営を担う若手同士で飲み会やゴルフ会を開くなど、仕事以外で親睦を図るところから始めています」。
 組合理事長は代々、ステックの社長職に就くのが決まり。佐々木社長は専務などを務める息子たちに「私がステックの社長になったら半日そこにいる、と言い渡してある」。目的は共同受注の窓口というステック本来の役割を強化し、組合全体の活性化を図るためだが、一方では、同社の二代目育成という狙いも大きいようだ。



プロフィール
代表取締役社長佐々木 正行
代表取締役社長
佐々木 正行
(ささきまさゆき)
中央会に期待すること

中央会への提言
 ベテラン・コンサルタントを講師に呼んで話を聞くなど、中央会だからできる施策で二代目育成に力を貸していただきたい。中央会が持っている各地の豊富な成功事例などをもとにアイデアの提案や提言もほしい。

株式会社明神館
本社


経歴 1947年(昭和22年) 1月生まれ  
1976年10月 東京工機(株)から「株式会社佐々木工業」に社名変更し、代表取締役社長に就任。
1978年8月   現在の佐久市工業団地事業協同組合に加盟し、工場を移転。
出身   佐久市
家族構成   妻、子供4人、両親
趣味   次代を担う子どもたちの教育など「生きがい」の追求。
教育実践法に興味を持った職業課程の先生方から就職について相談を受けることもしばしば。明治大学政治経済学部に特別講師として招かれ、教壇に立ったこともある。

 

企業ガイド
株式会社佐々木工業

本社 〒385-0051
佐久市大字中込3368
TEL(0267)67-1820
FAX(0267)67-1851
創業   1959年10月
資本金   2,000万円
事業内容   事業内容/精密板金・プレス加工、計量器水平式体重計製造・販売(ISO9001)、医療機器製造(歯科トレー)、板金加工設計製造(ISO9001)
このページの上へ