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月刊中小企業レポート
更新日:2006/09/09

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

少子高齢化に対応した製品開発がターゲット。
金型技術をベースに“安く早く”のモノづくりを展開。

株式会社ミクロ化学代表取締役社長 高橋 洋さん
株式会社ミクロ化学
代表取締役社長 高橋 洋さん


創業以来のこだわりは、完成品を手がけること

創業以来のこだわりは、完成品を手がけること 「特別な営業もしていないのに、なぜか大手メーカーから新しい商品の開発依頼が転がり込んでくるんです。私自身、それが不思議なんですが(笑)。あるメーカーが何か製品を作りたいと思った時、ミクロ化学なら金型の設計・製造から基板設計、組立、製品デザインまで一貫してできるからと、得意先が得意先を紹介してくれるケースが多い。それが当社の強みかなと思いますね」
 ミクロ化学は、プラスチック射出成形用金型技術をベースに、成形から基板設計、製品組立、パッケージまで一貫して手がける製造メーカー。今年8月、創業30周年を迎えた。
 創業以来のこだわりは完成品を手がけること。冒頭で高橋洋社長が話すように、大手電機メーカー各社と取引を持ち、コンピュータ関連機器、通信機器、カー用品、携帯電話関連商品から灯油ポリタンク、きのこ栽培ビンまで、さまざまな製品を市場に送り出している。
 コンピュータ周辺機器や携帯電話関連など改変著しい製品分野を中心に、モノづくりを取り巻く状況はめまぐるしく変化する。同社も平成15年にはかなりの規模で手がけていた携帯電話関連商品が丸ごと中国に移され、売上げが半分以下にダウンするという憂き目を見た。
 同社はこれを契機に、企業買収によってブロー成形分野に進出。灯油ポリタンクのほか、きのこ栽培が盛んな中野市に立地する企業ならではの発想を生かし、きのこ栽培ビン、スプレーなどの生産にも着手した。
 きのこ分野では積極的な売り込みにより、遠くは九州のきのこ生産会社からもまとまった受注を獲得。売上高は平成16年度3億7000万円余、平成17年度は4億2000万円余と、業績も着実に取り戻しつつある。
 「特別な営業もしていないのに」と冗談めかす高橋社長だが、実は各種展示会やキャラバン隊などに積極的に参加。そこでの引き合いから開発依頼につながるケースも少なくないという。

金型技術を生かし、モノを安く早くつくる

 同社の創業は昭和51年(1976)。中野市内のプラスチック加工メーカーに勤務していた高橋社長が独立し、社員八人でスタートした。時あたかも第一次オイルショック(昭和48年)の直後。
 「ずっと自分の思い通りの仕事がしたいと思っていました。オイルショックの経験を経て、もうこれ以上落ちることはないだろうと独立を決心しました」と高橋社長。
 「思い通りの仕事」とは開発型のモノづくり、しかも完成品を手がけること。そのために最も重視したのが金型技術であり、スタート当初から金型の設計・製造を自社で手がけた。納期に間に合わないと判断すれば金型の外注も積極的に行った。
 「かつて金型は2、3カ月遅れるのが当たり前。しかしその常識を崩したかった。お客様は図面を書いたらすぐ製品が欲しいはず。必要なら金型も外注し、とにかく短期間で作って届けるべきだというのが私の主義。金型技術を生かし、モノを安く早くつくること。それが当社の特長です」
 その姿勢が評価され、順調なスタートを切る。2年目には首都圏の企業の集まりに参加したことがきっかけで、大手電気部品メーカーのセラミック製はんだごてのOEMを受注。それが評判を呼び、はんだづけ技術を生かした電子機器の組立が大手電子機器メーカーをはじめ、各社から舞い込んだ。
 「とにかく忙しく、寝る間もなく仕事をするという状況が五5年も続きました。売上げも順調に伸び、浮かれてちゃいけないと思いつつも、こんなに簡単なものかなとも(笑)。後で大変な経験をするのですが、世の中一番厳しい時にまずは本当に恵まれたスタートでした」
 昭和59年には主要取引先となっていた大手電気部品メーカーの海外展開を支える工場として期待され、三カ所に分散していた工場を現在地に集約。効率的な生産体制を整えた。
 そんな中で積極的に行ってきたのが設備投資。その姿勢は今も変わらず、「つねに売上高の一割を機械に投資するよう心がけている」という。現在、金型ではマシニングセンター・ワイヤーカット・NC放電・汎用金型設備、3D自動プロなど、成形では成形機32台のほか、高周波溶着・溶接機、ホットスタンプ、シルク印刷機などを完備する。

時代にほんろうされながらも、たくましく次の飛躍をめざす

 ところが創業10年目。順風満帆だった会社に突然、倒産の危機が訪れる。取引先が倒産し、当時の年間売上高の約半分にものぼる莫大な金額の貸し倒れが発生したのである。
 そんな時、助けてくれたのが創業以来公私ともに深めてきた人とのつながりだった。前金での大量発注など、取引先の支援も得た。「大手電子機器メーカーをはじめ、大きな取引先を紹介してくれた人が、とりあえずこれを使えと、お金を風呂敷に入れてもって来てくれたんです。しかも借用書も何もなく。驚きました。でも本当にありがたかった」。
 厳しい状況は約十年間も続いたが、当時をふり返って高橋社長が自負するのは、従業員の給与、協力会社や外注先などへの支払いに滞りが一切なかったこと。社員には苦しい中、ボーナスも支給した。
 「厳しい状況の中で、私はお金にも仕事にもすごくついていたと思う。朝五時から夜12時近くまで懸命に仕事をして、お借りしたお金も何とか返済できました」
 一方、手がける商品の改廃によっても大きな影響を被る。
 同社はその当時、大手電子機器メーカーのFDD(フロッピーディスクドライブ)関連商品を手がけ、その分野では外注先トップの実績をあげるまでに業績を拡大。その製品は巨大外資系コンピュータメーカーの商品にも搭載されていた。
 ところが平成3年頃、取引先がこの分野からの撤退を決定。「今30万個も生産しているものが半年後どうしてゼロになるのか理解に苦しみましたが、そういうものだと言われました」。
 そこで同社は以前から手がけていたカー用品、携帯電話関連用品に力を傾注。取引先メーカーの商品の設計・製造、検査からパッケージングまで一手に引き受けた。「月産20万個。ところが年3回の需要期には40万個に増える。普通はできる訳ありませんが、私は何とか手を尽くしてやってしまうんですね(笑)」。
 それにともなって売上高も跳ね上がった。しかしこれも取引先メーカーの方針により、すべて中国へ。また新たな対応を迫られることとなり、先述した通りブロー成形分野に進出したのである。
 時代にほんろうされながらも、たくましく次の飛躍をめざす。それが同社の真骨頂だ。

社員の独立を奨励し、多彩な技術を身につけさせる

社員の独立を奨励し、多彩な技術を身につけさせる 同社の人材育成の基本は多能工だ。金型の設計・製造技術をベースに、製品設計から汎用機械、NC放電、組立まで、技術者には一通りの技術を身につけさせる。
 例えば、設計部門に配属された新入社員がまず最初に身につけるのは、汎用機械(フライス盤)で金型加工をマスターすること。「このドリルはどういう研ぎ方をして、回転スピートをどのくらいにすればどういう穴が開くかが分かる。それが大事なんです」と高橋社長。「大切なのは金型をつくる気力と教え方。それさえ間違わなければいいと思っています」。
 そのようにして高い技術を身につけた社員が会社を離れる時、普通は会社は困惑するものだが、高橋社長は逆だ。社員の独立を奨励し、より多彩な技術を身につけさせる。今までに三人が独立し、同社の仲間として活躍しているという。
 「技術者をこぢんまりとした中に閉じこめてしまうと世の中が活性化しない。若い人を独立させ、互いに切磋琢磨しながら、仕事を融通し合ったり受注活動をしていけばいいんです。今後、独立をめざす社員には金型から成形、組立までできるように仕込んでから独立させたいと考えています」
 「一社でできないことも仲間が集まればできる」。社員の独立を奨励する背景には、一社ではとても不可能な受注量をさまざまなネットワークを生かしてこなしてきた、高橋社長ならではの発想がある。
 もうひとつ重視しているのが、商品に対する「感性」を磨くこと。モノづくりには商品の使い勝手の良さや美しさなど、お客様の立場に立った見方が大切だという。「商品にした時、それが売れるものかどうか分かる感性を身につけて欲しい。それを教え込むのは一朝一夕には無理ですが、今一番の課題だと考えています」。

少子高齢化に対応したモノづくりをめざして

 同社が今めざしているのは、急速に進む少子高齢化に対応したモノづくり。「例えば、高齢者や障害者の暮らしをサポートする機器であり、介護を担う人がもっと楽に作業ができる機器。これなら汎用性があり、十分ビジネスになるのではないか」と高橋社長は期待する。
 同社が機器本体と充電器のデザインから基板設計、成形、組立まで一括して手がける、携帯電話とGPSを組み合わせた携帯型位置情報受発信システムもそのような商品のひとつだ。「これはきっと息の長い商品になると思う。このシステムが数年かけて全国に広まっていってくれたらと期待しています」。
 この秋にはさらにもうひとつ高齢社会に対応した商品が世に出る予定で、来年発売に向けて、フィットネス関連商品の開発も手がける計画だ。
 OEMの商品開発が主体の同社だが、一方では独自の商品開発、販売も手がけている。例えば、東京都やJR東日本の工事事業者などに納入しているLED回転灯は知る人ぞ知る定番商品だ。
 もっとも、製品そのものには自信があっても、市場調査、販路の開拓、営業といったマーケティング活動は苦手という、中小モノづくり企業の典型も垣間見える。それをいかに克服するか。それが当面の課題のようだ。



プロフィール
代表取締役社長高橋 洋
代表取締役社長
高橋 洋
(たかはしひろし)
中央会に期待すること

中央会への提言
 組合だけでなく、組合内の個々の企業の支援も積極的に行い、中小企業の育成を図る取り組みに期待している。

株式会社明神館
本社工場

株式会社明神館
竹原工場


経歴 1942年(昭和17年) 2月生まれ   
1976年8月 ミクロ化学創業。代表取締役社長に就任
1984年8月   現在地に移転
出身   中野市
家族構成  
趣味   カラオケ。持ち歌約1,500曲。ステージ衣装も何着も持ち、プロ歌手の演奏会でも自慢ののどを披露している。

 

企業ガイド
株式会社ミクロ化学

本社 〒383-0064
長野県中野市大字新井337
TEL(0269)22-7013
FAX(0269)26-5383
創業   1976年8月
資本金   1,000万円
事業内容   プラスチック射出成形、プラスチックプロー成形、射出成形金型設計・製作、各種試作品設計・製造、塗装、導電塗装 他
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