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月刊中小企業レポート
更新日:2006/08/09

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

テーマは「ロハス」。
心と身体の癒し空間づくりと、個客に感動を与える徹底したサービスを追求。

株式会社明神館代表取締役社長 齊藤 茂行さん
株式会社明神館
代表取締役社長 齊藤 茂行さん


テーマは「ロハス」
コンセプトは「デザイナーズ旅館」

テーマは「ロハス」コンセプトは「デザイナーズ旅館」 須佐之男命(スサノオノミコト)の乱暴に怒った天照大神(アマテラスオオミカミ)が天の岩屋に隠れ、世の中は真っ暗になってしまった。その時、力持ちの天手力男命(アマノタヂカラオノミコト)が岩戸を開け、下界に投げ捨てたという日本神話の「岩戸伝説」。扉温泉の「扉」の地名はその岩戸が落ちてきたところという伝説に由来し、神々が湯治に訪れたという話も伝わる。
 そんなエピソードから、神様たちの宿という意味で名づけられた旅館が「明神館」だ。
 創業から七十年余。施設やサービス、料理のクオリティへの徹底したこだわりが評判を呼び、テレビ、雑誌などに取り上げられることも少なくない超人気旅館のひとつだ。その評判は国内だけでなく海外にもおよび、海外からの宿泊客も珍しくない。
 コンセプトはオーナーの明確なコンセプトとこだわりを具現化した「デザイナーズ旅館」であり、テーマは「ロハス」。
 インドネシア・バリ島で作らせた家具が醸し出すアジアンリゾートの味わいが館内を彩り、大きく開け放たれた窓外の広葉樹の自然を美しく湯面に映し出す露天風呂(湯殿・雪月花)も見事。
 料理は地元農家(社員)が無農薬で作る地元食材をメーンに使い、「地産地消」を旨とする懐石料理とフランス料理。最近、身体にストレスのかかる食品を避け、毎日の食事に玄米、野菜、豆といった食品を季節や体調に合わせた選び方と調理方法で取り入れ、人間が本来持つ自然のバランスを取り戻そうという「マクロビオテック」も採用した。
 また人間の自然治癒力に働きかけ、心と身体をリラックスさせるアロマテラピーサロンも人気で、これを楽しみに訪れる宿泊客も少なくない。本格的な各種コースを用意し、アロマ関連だけで年間六千万円の売上げがあるという。
 「観光コースの一旅館ではなく、あくまで我々が主役としてリゾートでくつろぐとは何かを商品化しようと取り組んでいます」と話すのは新・改装する部屋などのデザイン・設計も自ら手がける、齊藤茂行代表取締役社長。「今年4、5、6月の売上げは毎月20%増を記録し、特に5月は97%の稼働率でした。史上最高の売上げを更新中で今期は年間売上高12億円をめざしています」
 宿泊に特化した45室での、この売上げ目標は大変なことだ。

変化する宿泊客ニーズに応え、設備投資を繰り返す

 明神館は1931(昭和6)年、齊藤社長の祖父、武茂氏が村長時代に村営旅館として創業。その後、村から買い取り、祖母、叔母たちが経営していたが、昭和20年、父である現会長忠房氏が家業として本格的に営業を開始した。
 「細々と」した営業だった明神館の名が全国的に知られるようになったのは、社会主義協会の天皇といわれたマルクス経済学者、向坂逸郎が常宿としていることが知られてから。また会長夫人が作る山菜をメーンとした料理が評判で本に書かれたこともあり、その名は徐々に広まっていった。
 齊藤社長が家業に就いたのは大学卒業後、今から33年前のこと。その3年後、木造だった旅館を取り壊し、近代的な施設に建て替えた。団体旅行が右肩上がりで増え、近くの浅間温泉、美ヶ原温泉も建築ラッシュに湧いていた頃である。「都会のお客様の利用が増える中で施設の悪さが指摘され、木造よりも近代的なものが求められた。これが当社の第一期工事です」。
 その七年後、全国的な露天風呂ブームにのり、入口手前の川沿いに露天風呂を造った(第二期工事)。当時人気のテレビ番組「11PM」の取材を三年連続で受けるなど全国的知名度を高め、多くの宿泊客が訪れた。
 この第一期・第二期工事の主眼は団体客をターゲットにした宿づくり。その後、バブル経済の時代に行った第三期工事では接待需要に応えるグレードの高い旅館づくりをめざす。「数寄屋造りなど純日本型の高級旅館がほしいというニーズが高まったのです。この時は数年で投資額を回収できるのではないかというほど、最高の利益を上げていました。もっとも、お客様が来てくださる時こそより知恵を生かした仕事をしなければいけないのに、ただ『ありがたい』という気持ちだけで納めていた。ここに我々の素人さがありました」。
 バブル後、リゾート型への転換を図る(第四期工事)。齊藤社長はアメリカで暖炉のある部屋の素晴らしさを実感し、新たに作った十二室にマントルピースを設置。時期尚早に過ぎあまり受け入れられなかったが、その時「ここは将来ベッドルームになる」と予測。その通り、三年前の第五期以後のリニューアルでベッドルームとし、多くの宿泊客が訪れる人気部屋のひとつとなっている。
 第五期工事は今から3年前。その二年前に入社した齊藤社長の子息、忠政専務のアイデアを大きく取り入れ、アジアンリゾートに範を取り、「ロハス」をテーマとする現在の方向性を打ち出した。
 「第五期工事が終わった頃には客層がまったく変わりました。第五期以降も、どんどん変化するお客様のニーズに応えるため毎年設備投資をしています。最近も本来の単純泉を使わず、ソーダバスのついた部屋とアメリカ製のジャグジーを入れた部屋を造りました。温泉で楽しませるという既成概念を変え、家族が仲良くなる場を作ったつもりです」

スタッフ全員が感動を与える個客サービスをつねに考え実行

スタッフ全員が感動を与える個客サービスをつねに考え実行 明神館の大きな転換点は、団体客相手から個人客を中心とする旅館への明確なシフトだ。一見簡単そうだが、実はサービス、施設づくりなどあらゆる点で発想の転換が必要だった。
 徹底したのは、宿泊客がいつ何を食べ飲むかなど、食事や時間で旅館の都合を押し付けないこと。まずフランス料理と懐石料理を予約時にチョイスできるようにし、六時から八時までの好きな時間で食べられるようにした。時間を気にせず、自由に心からのんびり食事を楽しみたいという個人客の気持ちを思えば、それが当たり前という発想だ。
 しかもサービススタッフは料理や飲み物について明確な説明やアドバイスができるなど、プロとしてのサービスのグレードも追求。例えばフランス料理でサービスを提供する料飲部スタッフは皆、ソムリエ並の能力を持つという。
 それだけにとどまらない。スタッフ全員が宿泊客に「感動を与える」サービスはどうあるべきかを考え実行する。
 例えば、夜の露天風呂にキャンドルを灯してムードづくりをする、外国人客向けに空港への送迎サービスから派生した宿泊客向け「ドアツードア・バス」を運行する、夏場の館内でのホタル観賞イベントや冬場のアイスバーといったイベントを開催する……。
 さらに今年新たな提案として、何度も訪れるリピーター向けに「VIPテラス」を設ける。その宿泊客が以前飲んだ飲み物と同じものがさり気なく用意され、軽食とあわせて無料で自由に取れるVIP客のために徹底的に差別化したくつろぎ空間だ。「自分のことをよく知ってくれている」という満足感、他の宿泊客と差別化したサービスを無料で享受できる優越感。それによってリピーターをその上をいくVIP客へと育てていこうというのである。
 「今取り組んでいるのは、お客様を入口で迎えたスタッフが身につけたマイクを通してフロントまでのスタッフ全員がお客様のお名前を共有し、『○○様、お待ちしていました』と出迎えるサービスの提供です。お客様はどんなに喜ぶことか。これを第二のテーマとして徹底していこうと考えています」
 明神館の徹底した個客サービスの追求は決してとどまることはない。

徹底したプロ育成教育で、「リッツ・カールトンをめざす」

 個客への徹底したサービスとリピーターへの差別化を実現するのは、徹底した人材教育だ。
 齊藤社長は「明神館はリッツ・カールトンをめざす」と公言。旅館として代々積み上げてきたサービスのあり方を従業員教育という側面からも見直し、全社員を対象に質の高いサービスが提供できるプロの育成に取り組んでいる。
 「勉強会は年三回、外部から専門講師を呼んで実施しています。従来は私や女将が教育してきましたが、そんな
”素人のマナー“ではなく”プロのマナー“を身につけてもらうためです。教育では目標を持って行うことが大切。例えば6、7月に行う第一期の勉強での目標は、8月のハイシーズンにクレームのないサービスを提供しリピーターを作ることでした。目標に向かうモチベーションがあるので、伸びる社員は新人でも見違えるほど成長しますよ」
 それに加え、質の高いサービスで知られる沖縄の国際級リゾートホテル、ザ・ブセナテラス、ザ・ナハテラス、さらに質の高いサービスの提供で齊藤社長が目標とする超高級リゾートホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪に社員を派遣。優れたサービスを実際に体験し理解することで自分の糧にしてもらう教育も行っている。
 「本物の個客サービスは全員が同じ方向を向いたプロでなければできません。それは必ずやらなければいけないことだと思っています。これからの旅館は素人ではできないといわれる商売にしていかなければいけないし、実際プロとしてのサービスを提供できなければ生き残れない。お客様は一生の中の尊い時間を使って明神館でどれだけ楽しめるかという希望を持って訪れます。それをお客様の身になって考え、商品づくりをすることで”これぞ明神館“という商売をしていきたいのです」

”絶対に来る“という確信を持って投資すること

”絶対に来る“という確信を持って投資すること 思い切った設備投資には常につきまとう資金調達の問題。そこでも齊藤社長は確固たるポリシーを持つ。
 「目的を明確化し、売上げを増やすためのマーケティングをきちっとしてから設備投資すること。そして借入はつねに腹八分目。無理な金は絶対に借りないこと。金の使い方で失敗する同業者が多い。こうすればお客様が”来るだろう“ではなく、”絶対に来る“という確信を持って投資することが大切です」
 齊藤社長は経営状況をつねにクリアにするためメーンバンクの普通預金に売上げを毎日計上し、一目で経営状況が分かるようにしているという。「つねにあるのは、私たちの計画を支援してくれる仲間と一緒にやっていこうという気持ち。商売はみんなの協力がないとうまくいかない。経営のために金を借りているのだから、やっている商売をつねにきちっと見えるようにしておきたいんです」。
 今年5月、長野県旅館三団体(長野県ホテル旅館生活衛生同業組合、日本観光旅館連盟長野支部、国際観光旅館連盟長野地区支部)が統合し「長野県旅館ホテル組合会」が設立された。齊藤社長はその初代会長に就任する一方、同組合と県、(社)信州・長野県観光協会とが共同で実施する県の観光キャンペーン「信州キャンペーン(仮称)」の副会長にも就いた。
 明神館の経営で注目される齊藤社長の情熱とアイデアが今、長野県観光産業の将来づくりにも大いに求められている。



プロフィール
代表取締役社長齊藤  茂行
代表取締役社長
齊藤 茂行
(さいとうしげゆき)
中央会に期待すること

株式会社明神館中小企業施策についての提言
 自助自立自己責任の持てる経営者への支援をめざす中央会になって欲しい。

経歴 1951年(昭和26年)4月生まれ
1978年2月 明神館入社
2004年5月   代表取締役社長に就任
公職   長野県旅館ホテル組合会会長
信州キャンペーン(仮称)実行委員会副会長
出身   松本市
家族構成   斉藤忠政(息子)
趣味   自動車(メカニックとドライブの両方で)。ジャガーが大好きで、古い稀少車を含め8台保有。米国から部品を取り寄せて自らメンテナンスを楽しむ。

 

企業ガイド
株式会社明神館

本社 長野県松本市大字入山辺8967
TEL(0263)31-2302
FAX(0263)31-2345
創業   1931年
資本金   3,000万円
事業内容   旅館業
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