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月刊中小企業レポート
更新日:2006/07/30

元気な企業を訪ねて ―チャレンジャーたちの系譜―

新旧あらゆるメディアの壁を超え、さまざまな記録を
デジタルでパッケージ化する総合メーカーをめざして。

パブリックレコード株式会社代表取締役社長 奥田 憲一さん
パブリックレコード株式会社
代表取締役社長 奥田 憲一さん


製造するマスター盤の九割がヨーロッパ向け

製造するマスター盤の九割がヨーロッパ向け 録音の歴史は1877年、トーマス・エジソンによる円柱形のアナログレコードの開発に始まったといわれる。1938年磁気テープが開発され録音記録の幅は大きく広がったが、アナログレコードはその後も、繰り返し再生できる使い勝手の良い音楽記録メディアとして長く優位性を保ち続けてきた。
 この磁気テープとアナログレコードの時代に大きな変化が訪れたのは1979年のこと。CDの登場である。アナログレコードはあっという間に席巻され、90年代にはCDに音楽記録メディアの主流の座を完全に譲った。
 もっとも、今も一部のオーディオマニアや音質重視の音楽ファンを中心に、アナログレコードならではの音質や大きなレコードジャケットに魅力と価値を見出す支持層がある。またクラブのDJ(ディスクジョッキー)がアナログレコードを主体に使用し若者層にアピールしていることも手伝って、細々ながら今もアナログレコードのリリースは続いている。
 パブリックレコードは、このアナログレコードを作る上で絶対に欠かせない「マスター盤」を製造する世界で三社のうちの一社。国内では唯一の会社だ。
 パブリックレコードの設立は1967(昭和51)年。キングレコードで録音盤製造に携わっていた先代社長が帰郷し、録音業を始めたのをルーツとする。翌年には録音盤製造も開始した。
 「『あなただけのレコードを作ります』というふれこみで一枚ものの録音盤を作るようになりました。これは普通のレコードと材質が違い、耐久性は落ちるがレコードとしてちゃんと聴ける。それで子どものピアノ発表会、学校の卒業記念などによく利用されたのです」
 その後、工場の増設や資本の増強を行うとともに研究・試作を繰り返し、82年マスター盤の製造に着手。「製造だけをとれば技術的には録音盤と同じ。しかしそれまで日本では手がける会社はなく、米国、フランスなど海外から100%輸入していたのです」と、父である先代とともに創業時から携わってきた奥田憲一代表取締役は話す。
 同社は現在、月に約五千枚のマスター盤を製造し、うち九割がヨーロッパ向け。中低域の響きに定評があり、主にクラシック作品に使用されているという。

マスター盤は”生モノ“。一枚一枚顔が違います

 マスター盤とは、特殊な塗料をコーティングした円形のアルミ板。まっさらなこの盤にレコード会社で溝を切り(音入れ)、それを金型に転写して塩化ビニル製のレコードを作る。レコードの一番の下地になるものだ。
 録音盤とマスター盤は、形は一緒で主原料も同じ。しかし録音盤はノイズがなければ良いという品質レベルなのに対し、マスター盤はそれを型にして何万枚ものレコードを作るだけに非常にシビアな品質が求められる。
 成形時に電気メッキをかけるため、メッキがかかりやすい、温度などによる形状変化がないといった求められる素材的条件も録音盤とは異なる。さらにレコードは回転時に盤が揺れると音飛びの原因となるため、マスター盤には限りないフラットネスが求められる。
 わずかなキズやホコリも大敵だ。厚さ一ミリ程度に磨き上げられたアルミ板はクリーンルーム内で塗装、乾燥を施されるが、塗装厚を一定にするため、一日の塗装工程の中で三回塗装厚のチェックを行うという。検査は人の目で全品一枚一枚、念入りに行う。より良い音を安定的に生み出すための製造過程はまさに職人技の世界だ。
 「マスター盤は化学製品ですが、基本的に一枚一枚手づくり。本当に一枚一枚顔が違います。塗装の厚さは180~200ミクロンと決めているのですが、どうしても日によって10ミクロン前後の誤差が出てしまう。また気候や保存状況などによっても微妙に変化します。複雑に配合した特殊塗料を使い、品質にブレが出ないよう試行錯誤してきた成果は実っていますが、マスター盤は”生モノ“。ある会社で評判が良くても、他の会社では評判が悪いということもあり、クレームをいかになくすかが課題です」
 かつて良品を上回る不良を出した時期もあったというが、今は90%以上の歩留まりを達成。さらなる歩留まり率のアップに取り組む。

企画から取材、編集、製造までトータルに手がけていきたい

企画から取材、編集、製造までトータルに手がけていきたい 売上げに占めるマスター盤の比率は二、三割。マスター盤の落ち込みを補うために手がけた精密部品の組立・洗浄部門を合わせても五割前後だという。
 売上げの半分を占め、さらに伸ばそうと取り組んでいるのが設立当初からの録音盤製造をルーツとするAV(オーディオ・ビジュアル)事業だ。長野県内外の学校関係を中心とする音楽会を収録、編集し、CD・DVDに落とすという分野で、今も県内学校市場で圧倒的シェアを誇る。
 同社では営業社員も含め、ほぼ全員が録音技術を持ち、忙しい時にはそれぞれが手分けして収録に出かける。もっとも学校の音楽会は六月末から七月半ばまでの時期に集中。ピーク時には外部スタッフに依頼することも多く、特に映像の場合、一会場で少なくとも三人のスタッフが必要となるため外部スタッフとの連携は不可欠だという。
 それでも対応できるキャパシティは限られるため、自社での収録作業はセーブし、収録された音・映像の編集作業をメーンにしたいというのが本音。全国の同業者から素材を集めて編集し、CD・DVDにプレスして納品する一貫生産メーカーとして一枚ものから何十万枚まで対応していくスタイルを理想とする。
 「『パブリックレコード』のレコードとはディスクではなく、記録という意味。あくまで”記録“にこだわり、新旧メディアから印刷まで多様なメディアに対応し、デジタルで記録をパッケージ化していく全国でも珍しい会社をめざす」
 具体的な取り組みのひとつが、2003年に中小企業経営革新法を取得して取り組んだ「卒業記念DVD」の商品化だ。
 「DVDは写真も動画も入り、コンピュータを介在せず手軽に見られる。その利点を生かし、卒業アルバムの代わりとなる卒業記念DVDを手がけた。さらに各種イベント、学校の音楽会、定期演奏会、企業の電子カタログなどの企画から取材、編集、製造までトータルに手がけていきたい」と奥田社長は意気込む。
 さらに、昔撮った8ミリやビデオテープの映像や写真などをDVD化して整理・保存するといった需要の掘り起こしにも力を入れる。過去の資料の整理と長期保存に苦心する行政や企業などに積極的にアプローチしているという。
 「デジタル・パッケージ化しておけば、将来メディアが改廃しても移し替えて永遠に残していける。だからアナログのマスター盤のように廃れていくメディア環境も持っていたい。とりもなおさず、それが当社の特徴になるからです」

より広く印刷需要の獲得をめざし、「オンデザイン」をスタート

 同社がマスター盤の製造を開始した時と同じくして誕生したのがCD。アナログレコード主体の同社にとって、それは「ガン宣告も同じ」だった。
 生き残り対応策として取ったのが、録音盤の制作と並行していち早くCDの制作に着手すること。アナログレコード、カセットテープ、CD、DVDと新旧あらゆるメディアを扱い、それを同社の強みとしてきた。またCDからDVDへの切り替えが進む今、DVD用に最新のハイビジョンカメラを導入するなどクオリティアップも意欲的に図っている。
 一方、CD・DVDのジャケット、盤面印刷などをよりきれいに、より安く、よりスピーディに制作する印刷体制の構築も模索。音や映像の取材・編集からジャケットなどのデザイン、素材の加工という企画制作に加え、印刷、断裁、折り、ケース挿入といった製造分野までトータルに対応できるメーカーへの体制づくりも着々と進めている。
 さらに06年6月、デジタル・オンデマンド印刷設備を増強。CD・DVDにこだわらず、より広く一般の印刷需要の獲得をめざしたミニ印刷事業部門「オンデザイン」をスタートさせた。
 「例えば、すぐに安く名刺がほしい、明日の展示会で配布するカタログが二十部ほしいなどの要望に応えられるのがオンデザインの強み。それほど数を必要としないものも多く、ムダなくスピーディに美しい印刷物ができるという提案を行っていきたい。これは印刷業者ともコピー業者とも競合しない、すき間を狙った分野です。デジタルのため、印刷業者のようにインク調合、機械メンテナンスといった段取りの時間と手間が要らず、数時間稼働すれば採算が合うのも強み」と奥田社長は期待を寄せる。
 得意先として学校関係とのつながりは深いが、企業はまだ未開地。個々の企業はもとより、広告会社からの受注獲得も積極的に図っていきたいという。またデジタルコンビニとしてのFCチェーン化も検討課題だ。

課題は広げた間口をより深く掘り下げていくこと

課題は広げた間口をより深く掘り下げていくこと 録音業からマスター盤の製造、CD・DVDの企画制作・製造へと守備範囲を広げてきた同社だが、課題は「いかに深掘りしていくか」。
 「事業の間口は広げてきたが、まだまだ各部門の深掘りができていない。それぞれの部門でスタッフの技術を高め、プロフェッショナル化を図っていきたい。採用にあたっては、音響工学を専門的に勉強するなど録音や音響に精通している人が多いのですが、やはり現場をこなしていくことが重要。場数を踏みながら実践的に技術ノウハウを身につけていくため、一気にキャパシティを上げていけないのが悩みではあります」
 同社は全国録音業者やスタジオと提携、それぞれで制作されたマスターを同社でCD化するという仕事を通してスキルアップが図れる環境があるのが強みだ。とはいえ「機械や設備はあくまで補助ツールであり、人がすべて」と奥田社長。営業を徹底的に鍛え、売れる仕組みづくりに意欲を燃やす。
 一方、ミクロン単位での加工を行うアルミ板の他の工業製品への応用という視点から、大学、試験場、地元企業等との連携にも関心を持つ。今一番の関心はCD・DVDにつきものであり、被害が少なくないコピー対策だという。
 「DVD-Rに一枚からコピーガードをつける完璧な方法はないか。大学や試験場、また同じ悩みを持つ企業と連携し、その仕組みが開発できれば、かなりの需要が見込めるはず。今はまだ夢物語ですが、不可能が可能になる世の中ですから」。そう言って笑う奥田社長の目には、可能性への確信がうかがえた。



プロフィール
柳澤 日出夫さん
代表取締役社長
奥田 憲一
(おくだけんいち)
中央会に期待すること

中小企業施策についての提言
 将来新たな連携により成果を上げていくため、企業間交流の場を積極的に設けるなど、地元中小企業の活躍の場づくりにより多くの力をお借りしたい。

経歴 1947年(昭和22年)9月生まれ
1971年 明治学院大学法学部卒業
1971年 日本コンサルタントグループ入社
1974年 帰郷し先代社長とともに事業開始
1976年 パブリックレコード株式会社設立
1987年 代表取締役社長に就任
出身   駒ヶ根市
家族構成   母、妻
趣味   ゴルフ

 

企業ガイド
パブリックレコード株式会社

本社 〒399-4301 長野県上伊那郡宮田村6031-1
TEL(0265)85-2871
FAX(0265)85-4814
創業   1976年(昭和51年)12月1日
資本金   1,500万円
事業内容   CD・CD-ROM・CD-EXTRA・カセットテープ・ビデオテープ・DVD企画・制作・販売、各種イベントの録音・ビデオ撮影・写真撮影、ホームページの企画・制作、プロバイダ契約代行、名刺・各種パンフレットの印刷、大判デジタルコピーサービス、レコードマスター盤製作・販売、精密洗浄、組立、検査(クリーンルーム内)
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