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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

健康を考える

■大人のアレルギーが増えている

 自民党の国会議員は10年以上前から「ハクション議連」をつくって活動していますが、今年3月末に都議会では超党派で「都花粉症対策推進議員連盟」を立ち上げたと報道されています。
 今年のスギ花粉は平年より少なかったので症状の軽い人が多かったのですが、人口の20%が花粉症という実態は、毎年3~4月(スギ・ヒノキ)、5~7月(シラカバ・イネ科)、8~10月(ブタクサ・ヨモギ)の市民生活と経済活動に暗い影を落としています。(註:飛散時期はいずれも中信地域の例年値)。
 気管支ぜん息は、長野県の小学生の10数%、中学生の10%弱にみられます。成人では全国平均で人口の約7%、ぜん息による死亡者数は年間三千人以上あり生命を脅かすアレルギー性疾患として対策に力を注ぐ必要があります。
 アトピー性皮膚炎はもはや子どもの病気ではなく、有病率は幼児~小学生で10数%、大学生で10%弱とそれほどかわらず、年齢が上がるほど重症・最重症である人の比率が多くなっています。
 これらのことは長年アレルギー診療をしているとよく実感できます。ここ20年で急増した子どものアレルギー性疾患ですが、病気が治らないままで成人になり、アトピー性皮膚炎や気管支ぜん息の治療を続けている比較的若い成人の患者さんが増えました。そして結婚して子どもが生まれ、自分のお子さんを連れて親子でアレルギー性疾患の治療のために受診するというスタイルがほぼ定着してきています。

■アレルギーが治りにくくなった理由

 アレルギー性疾患が増加した真の理由はまだわかっていません。食生活の欧米化、住環境の変化、ディーゼルエンジン排気粒子などの環境汚染は以前から指摘されています。また衛生仮説といって小さい頃から寄生虫や微生物が少ない清潔な環境で暮らす人が多くなったためではないかともいわれていますが、これを肯定するデータもあれば逆のデータもあります。
 アレルギーが治りにくくなった理由もそれらのことと密接に結びついていると考えられますが、逆に、治りやすいのはどのような特徴がある時期かを考えて、理由を検討してみます。
 乳児期によくみられるアトピー性皮膚炎は1歳半頃に一度減少しますが、3歳になると再び増加に転じます。1歳半頃というのは、「歩く・道具を使う・話す」ことができるようになり、人類がサルとは違う進化の道を歩むことになった決定的な能力が身に付く時期です。よちよち歩きの本人には周囲の世界がそれまでとは違って見え、おそらく充実した気分に満ちていることでしょう。2歳頃から始まる「ダダこね期」のストレスいっぱいの状態とはイライラの程度が大いに違うはずです。つまりストレスによって痒くなり掻いてしまうことが少なくなると皮膚炎が改善する可能性があります。このことは受験や追い込み仕事によるストレスがなくなると症状が非常に改善する思春期以降のケースでもよくみられる現象です。現代の小中高学生はストレスに満ちた生活をしているので、なかなかアトピー性皮膚炎から解放されないのもうなずけます。
 別の側面からみると、1歳を過ぎると食物アレルギーが改善する例が多く、またダニや花粉のアレルギーが出来上がっていない時期でもあります。敵(アレルゲン)が一時的に少なくなることも湿疹の改善と関係しているかもしれません。あるいは、子どもの皮脂量は小学校低学年頃に向かって年々低下していく傾向にあるので、幼児期後半によくみられる皮膚の乾燥に伴う痒みが、1歳半頃はまだそれほど強くないのかもしれません。

■アレルギー治療の未来

 テレビCMも放映されていますが、気管支ぜん息の治療に吸入ステロイド薬を使用することで、スピードスケートの清水宏保選手は現在まで選手生活を続けることができました。しかし彼の肺活量が2700ccと女子中学生よりも少ないのは、吸入ステロイド薬の開始時期が大学入学後と遅かったためです。ぜん息の治療に吸入ステロイド薬を継続的に使用することで将来肺機能が低下するのを遅らせることができ、また、ぜん息による死亡を減少することができます。この治療薬の普及がまだ遅れています。
 アトピー性皮膚炎の治療薬として、ステロイド外用剤に加えて、免疫抑制薬のタクロリムス外用剤が普及してきており、皮膚炎が順次消失し保湿剤だけで良好な状態が維持可能になる患者さんが少しずつ増えています。
 スギ花粉症の治療薬のうち、根本治療である免疫療法に用いるアレルゲンエキスの改良や、投与ルートを舌下とする研究が日本でも取り組まれはじめました。
 将来アレルギーが皆さまの生活を煩わせることがなくなる日まで、どうか上手にお付き合いください。

長野県保険医協同組合
蓑島 宗夫
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