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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 まちの再生を考えるシンポジウム

人口減少時代における日本の将来

日本政策投資銀行 地域企画部 参事役  藻 谷  浩 介 氏

 景気と商店街の活気は無関係で、トヨタを生んだ愛知県刈谷市の例を見てもいえる。外国から金を稼ぎ続ける日本、増え続ける日本からの輸出、貿易黒字、経常黒字はバブル期の2.5倍に。15年前には貿易黒字15兆円がすべてで所得黒字は1兆円、サービス赤字も2兆円程度。現在、貿易黒字+所得黒字で23兆円。サービス赤字が4兆円で差引年間19兆円も黒字なのに不景気だと言い続けている日本…。
戦後55年間で5、500万人も増えた人口(毎年100万都市が一個以上増えてきた)スラムを一つも作らずに吸収しきった日本、作れば売れる時代が続いた。逆に今後50年間で人口が3~5,000万人減る時代、土地もモノも余っていく。作れば売れると信じている高齢経営者が引退しない限り産業は仏滅。少子化が本格的に進むのは、これから。出生率低下よりも親の数減少の方が重要変数。2020年には子供を産む年齢層は今より4割減、出生率をいくら上げても団塊世代退場の穴を埋めるほどの数は生まれない。定年退職と新卒就職が逆転した東京、高齢者が増え現役は減る東京。少なくとも今後半世紀、わが国の20~59歳人口は構造的に減少を続ける。就業者数もこれに連動して減少していく。就業者数減少は、人手不足、失業者率低下、機械化・情報化・投資増加と生産性向上をもたらすので数字上の「景気」を年々改善させる。しかし就業者数の減少は可処分所得の減少であり、多くの商品の消費は年々冷え込む。高利販売額低下は止まらない。主として20~59歳にしか消費されない商品の需要も減少を続ける。(戸建て住宅、ファミリーカー、オフィス、通勤定期、職場旅行、結婚式)。ではどうすればいいのか。床を増やすしか能のない大手商業者がそろってダイエーの後を追うまで耐えに耐える。首都圏でも名古屋でも就業者は減少に転じた。消費不況が深刻化、しかもその原因は景気でも少子化でもなく50代の高齢化なので防止策はない。どのみち郊外の過剰店舗は整理されていき、人口密集地の商業が生き残る。国の規制によってではなく、市の都市計画で商業床に総量規制をかける。国全体での大型店規制は期待できない(地域ごとに事情が違いすぎる)。地方で都市ごとに都市計画で規制をかけることは市議会さえ動かせれば可能。商業床の総量を定めたNY市のように市全体で取り組むしかない。大型店と競合しないニッチ市場を抱え込む。とはいっても当面どう食いつなぐかといえば、大型店との競合を避けるしかない。周辺住民を抱え込むか(通販で)日本中に商品を売り込むか、どちらか。「ポジショニング」と「値上げのためのコストダウン」が死命を制する。地元産品の改善、取り扱いを増やし、売上の中で地元に落ちる部分を増やすべし。普通の商業だけではどのみちジリ貧、観光客相手に純粋地元産品の売上を増やせ。女性就労率の2割上昇で労働力は1千万人以上増える。元気な高齢者の活用も当然。年金福祉の費用を生年別に分割・完結させれば日本人は全員左団扇になれる。貯蓄を消費に回させるには規格品の安価大量販売にオサラバすることが不可欠。日本人1人あたりの土地面積は年々増える。地下は暴落、インフラ維持管理コストは爆発。この事態を避けるには土地亡者を切り捨てる大政策転換が必要。福祉と環境と経済の両立・少子化の軟着陸、中央集権から地域自立への転換がこれからのあり方となる。

コンパクトシティ構想によるまちづくり

青森市新町商店街振興組合 常務理事  加 藤  博 氏

アウガ前景
アウガ前景
 89年当時の商工会議所副会頭だった佐々木誠造氏が都市の経営者・都市プロデューサーとして市長に就任し、街づくりリーダーとして運営する事になったのが、コンパクトシティ構想の始まりだった。
 従来、青森市の街づくりは右肩上がりの人口増、高度成長を背景に全国と同じように「郊外へ郊外へ」と市街地拡大を続けてきた。この30年間に全体の人口が6万人増加したが、中心市街地では1万3千人が減り、郊外には7万1千人が増えた。市街地のドーナツ化である。県立病院、県立図書館、卸売市場、農協会館等が郊外に移転していった。70年からの30年間に市街地のドーナツ化に対応した行政コストは350億円。市街地拡大に伴い、多大な行政投資を余儀なくされ、加えて日本有数の豪雪地域として知られる青森市では、街が郊外へと拡大し道路延長が増加した結果、毎年除雪費に多額(20億~30億円)を投じている。これでは快適な暮らしの確保ができないばかりか、財政投資の無理、無駄を止めることができない。
 そこで取り入れたのが「コンパクトシティ」の理念だった。すなわち、すべての機能が補完しあい、集約されている地域を再活性化させる、中心市街地の再活性化である。我々商業者、市民、会議所、行政が連携し街づくり運動を展開している背景には青森市都市計画マスタープランの中に「コンパクトシティ構想」という確かな理念があるからだ。
 ①市街地の拡大に伴う新たな行財政需要の抑制、②過去のストックを有効活用した効率的で効果的な都市整備、③市街地の周辺に広がる自然・農業環境との調和を目差した「コンパクトシティの形成」を都市づくりの基本理念として位置づけたのである。
アウガ地下の新鮮市場
アウガ地下の新鮮市場
 青森市中心市街地再生活性化基本計画は98年に策定された。失われたものを再び取り戻すべく、「まちなか居住」・ウォーカブルタウン」を政策にあげ、少しずつ成功の連鎖を続けているのは、背景に街づくりの確かな理念が存在しているからだ。
 2000年9月にオープンした「パサージュ広場」は、表通りと裏通りをつなぎ、人々の溜り場となる広場を設け、飲食は5年、物販は1年の実験店舗に安く貸し出し、中心部に出店できるよう指導する、商業支援事業を実施するものである。広場全体を運営、管理、指導するべく民間会社(有)P・M・Oを立ち上げた。今年で5年を経過し大規模なリニューアルを実施すべく検討を重ねているところである。
 01年1月にオープンした駅前再開発ビル「アウガ」には、地下に生鮮市場、1~4Fは若者に特化したショッピングゾーン、5~8Fは公共施設、市民図書館が入居した。市民図書館は1日当たり2800人、ビル全体では1日当たり1万5千人が利用し、中心市街地の通行量アップに寄与している。
 また駅前再開発地区の一角にケア付きの高齢者対応マンション(1Fに市場、レストラン。2Fに医療機関。3・4Fにケア付き住宅30戸。5~17Fに高齢者マンション107戸)が06年完成予定である。この5年間で中心市街地に12棟、800戸のマンションが完成するなど、確実にまちなか居住が進んでいる。
 91年~02年に日本の小売業の売り場面積は3割増加し、その一方で販売効率も3割低下し、97年からは小売販売額も減少に転じたばかりか、99年から雇用者数も減少に転じた。すなわち我が日本の小売業は完全にオーバーストア時代に入り、大型店の過剰出店は、もはや消費者のニーズに応える自由競争ではなく、単なるつぶし合いの過当競争に入り込んでいる。
 まさに今、「コンパクトでにぎわいあふれる、まちづくり」を目指すべき時代がきている、と言えるのである。


パサージュ広場パサージュ広場
パサージュ広場パサージュ広場
パサージュ広場

パネルディスカッション

 服部年明氏(独)中小機構タウンマネージャーがコーディネーターとなりパネリストに保坂伸氏、藻谷浩介氏、加藤博氏、鈴木浩氏(福島大共生シスレム理工学類)、伊藤かおる氏(コミュニケーションズ・アイ代表)によるパネルディスカッションを開催。各パネリストの方々よりご発言をいただきましたが、その中での内容を一部ご紹介します。
 福島大の鈴木教授:昨年10月に福島県の県議会全員一致で「広域商業まちづくり条例」をとおした。これは土地利用のビジョンをどう描くかが狙いで、農村地域を含め大型店が地域社会と如何に共生できるか。これからがまちづくりのスタートライン。課題として、地方都市として市街地が元気になるという施策を考えたときに農村の人たちの理解を得ることが大変重要となる。中心市街地活性化計画は農村や農業政策と全く関係なしに動いている。この部分を統一的に捉えること。全国ネットの大企業、大資本が地方都市を商圏として色々な仕組みによりお金をもっていってしまう。大型店がその典型、皆さんがたが消費した翌日には本社に送金される。住宅を造る場合も大手の住宅メーカーは7~8割は自分たちの作った建材、ツールで翌日には本社に送金される。皆さん方が地域で消費しても、このお金は大都市に環流される仕組みが築かれてしまっている。私たちが地域で消費をし、生産をして、これを地域の経済循環としてどう成り立たせていくのか考えていかなければならない。また、昭和40年代に「農産物安定供給に関する法律」が次々と整備されました。この法律は大都市に農産物を流通させる仕組みであり、地方都市の中心市街地と周辺の農村部の関係を断ち切る役割をしてきました。この結果、それまでは郊外の農村の人たちは中心都市のために農産物をつくっていましたが、中心都市との結びつきがなくなり、中心市街地の空洞化に関心がなくなってしまいました。新たな仕組みづくりが重要になってきています。商業者と農業が結びつき、連携をし、地域の産業として回していく、家造りもそうです。行政、商工業者、農家、NPO等との合意形成、仕組み、場面をどう作るのか、私たちのブランドデザインを描いて考えていくことが求められています。
 中小企業庁保坂課長:前回は大型店対小売店のための法改正でしたが、今回の法改正は中心市街地と郊外の大型店の問題を捉えているのではなく、都市計画を皆さんで作って下さいという法律であり地域の状況により判断して決めてもらう手続きを決めたものです。都市計画法は手続きを決めているのであって、禁止をするための法律ではありません。市長と市民の皆さんで決めて下さい。これからの地域の環境やコストの問題で、中心部に大型店を持ってくることを奨励する体系になっています。
 服部コーディネーター:まちは中心市街地が地域の心の古里として価値を高めていくことがこれからの課題です。人生苦しいときは上り坂。地域に住んでいる方々の今後のご健闘をお祈り致します。

コンパクトシティーと改正まちづくり三法の方向性
人口減少時代における日本の将来
コンパクトシティ構想によるまちづくり
パネルディスカッション

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