元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-
“~ 「見える経営・見える管理・見えるモノづくり」を徹底して追求。
高精度な精密板金の一貫生産体制で全国業界最先端を走る。~”
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株式会社タカノ
代表取締役会長 高野 裕二郎さん |
3次元CADデータを加工機と連携し、「見えるモノづくり」を推進
広々とした工場にレーザ加工機、パンチングマシン、ベンディングロボット、YAGレーザー溶接ロボットシステムといった、最新鋭の大型NC加工機が整然と並ぶ。機械のディスプレイには、若い技術者が今まさに加工している製品のカラフルな3次元ソリッドモデルが映し出されていた。
タカノは、情報機器、半導体・液晶関連装置、産業機器の 筐体・フレーム、シャーシ・カバーなどを3次元CADデザインから企画開発、生産設計、製造、組立まで一貫生産する精密板金メーカーだ。高精度なクリーン板金に特化し、その先進性では全国トップクラスを誇る。
同社が基本とするのは「見える経営・見える管理・見えるモノづくり」。独自の生産管理システムにより、生産工程ごとの進捗状況から、売上げおよび粗利の管理、品質管理、労務管理、作業指示書、役職員のスケジュールにいたるまで、全社員がリアルタイムに情報を共有する環境を構築している。
平成14(2002)年には3次元CAD設計ソフト「SolidWorks」を本格的に導入し、3次元CADデータを加工機と連携させた「見えるモノづくり」を推進。設計から加工にかかる作業時間の大幅なスピードアップと、社内全体の作業効率向上を実現している。
「3次元CADのメリットは何といっても”見える“こと。筐体の板金加工・組立には数十枚の図面が必要。技術者はそれを一枚一枚付け合わせ、自分の頭の中にソリッドモデルを描く。時間も神経も使う大変な作業で、しかもそれができるようになるまで最低でも現場で3年から五年の経験が必要。しかし3次元化したとたん、数値を入力するだけで作るべき製品の施工図と立体図が出てくる。新人でも3カ月ほどで加工・組立ができ、即戦力化にも大きく貢献しています」
「見えるものづくり」が20数年前からの悲願だったという高野裕二郎代表取締役会長。3次元モノづくりを語り出すと止まらない。
年商3千万円の時代に7倍もの設備投資。
創業は昭和47(1927)年。高野会長が兄と2人で住宅設備工事および製缶工事業をスタートさせたのが最初だ。ガソリンスタンドの埋設・配管工事を数多く手がけるなかで、たまたま出会ったのが「精密板金」という分野。
「ある食品メーカーから、畳2枚分の金網の周囲につける1ミリ厚のU字形ステンレス枠の製作を頼まれたんです。その時紹介された精密板金業者が薄板を簡単に加工するのを見て、これは面白いと」
その業者から設備の一部を譲り受け、さらにパンチングから曲げまで一連の工程がトータルにできるよう3千万円の追加投資を行い、昭和53(1978)年本格的に板金業に進出した。
昭和58(1983)年には岡谷市が新たに造成した工場団地に本社・工場を移転。それにともなって2億円余を投資し、従来の手づくり的板金からNC化による精密板金加工業へのシフトを図る。当時は年商3千万円程度。実に7倍もの投資だった。
「手づくりをNCに変えるのは、スコップをブルドーザに持ち替えるようなもの。当初、県内はもとより愛知から山梨まで、大きな工場を見つけては飛び込み営業を繰り返しましたが、なかなか仕事量が確保できない。それでも機械が止まっているのはまずいと、意味もなく鉄板を機械にかける日々が続きました。数トンの材料をムダにしましたね」。高野会長は当時をふり返って笑う。
しかしNC化の成果は着実に現れる。採算ラインとして目標にしていた年商2億を1、2年前倒しで達成。受注した大手事務機メーカー製品の大ヒットも手伝い、大きな飛躍を遂げることとなった。
膨大なデータをネットワークし情報を共有する仕組みづくり。
平成2(1990)年には現在の松本臨空工業団地内に移転。生産自動化を積極的に推進するなかで真っ先に取り組んだのが、全社をネットワークする独自の生産管理システムの構築だった。
同社には一ユニット200~300点のパーツで構成された製品を一点だけという注文が多い。まさに多品種少量を極める会社だ。「流れるパーツは全部で数万点にも上る。それを社員60人ほどの会社で管理するには、しっかりした生産管理システムがなければ無理。私が一人で管理していた20年前から生産管理システムの重要性を感じ、かなり試行錯誤を繰り返してきました。今では現場になくてはならない、すぐれた生産管理システムができたと自負しています」。
今から7、8年前、高野会長は社員・パートを含む従業員全員にパソコンをプレゼントした。「家に持って帰ってゲームで遊んでいいからと言ってね(笑)。20数年前から、いつか3次元をやりたいという思いがあったから、組織としてパソコンを使いこなせるようになりたいと」。それが功を奏し、同社の社員・パートでパソコンに抵抗がある人は皆無だという。
「社員個々、そして各部署が持っている膨大なデータをドッキングさせてネットワークし、全員が情報を共有できる仕組みづくりはとても難しい。最低でも五年はかかると思います。当社では2、3年前からようやく、それができるようになってきました」
SolidWorksによる3次元モノづくりの結果に驚く
精密板金業界では全国に先駆ける同社の3次元モノづくりだが、高野会長がそれに出会ったのは、今から20数年前。ヨーロッパ視察旅行で訪れたある自動車設計会社でCGを駆使した3次元設計の現場に遭遇し、衝撃を受けたという。
「時に数十枚にもおよぶ筐体の図面を解読するのは熟練技術者でも至難の業。にもかかわらず、発注先設計者とのコミュニケーション不足に悩まされていました。それが3次元設計では作るものが一目瞭然で分かりやすい。ミスや失敗も少なくなる。これだ、と。この時、見えるモノづくりがしたいと強く思いました」
その後もアメリカで、また日本の自動車業界でも3次元CADを駆使した「見える設計」「見えるモノづくり」が行われていくのを目の当たりにし、いよいよ意を強くする。そして02年「SolidWorks」の導入により、ようやく長年の夢が実現したのである。
「このシステムを見て、20数年前の思いが一気に蘇ってきました。2次元CADも触ったことがない私が3カ月ほど講習会に通っただけで、60点ほどパーツのあるオリジナル製品が作れた。それを見て、最初懐疑的だった現場の認識も改まりました」
ところがいかんせん、取引先から3次元データによる発注がない。そこで横内稔社長が取り組んだのが、過去手がけた図面の3次元データ化。その結果に高野会長は驚く。
「データをCAMに落とし実際に板金加工したら、従来の30倍もスピードアップ。筐体フレームも3次元モデルを見ながら加工するため、加工時間が20~30%短縮できた。これはすごいこと。得意先のセットメーカーに、3次元データを提供してくれれば大きなコストダウンになると、その事例を携えて説得して回りました」
パイプ専用レーザ加工機は、新たな需要を掘り起こす先行投資
同社は去年、独トルンプ社のパンチ・レーザ複合加工システムなど最新鋭レーザ加工機を導入。高精度なクリーン板金の工程集約自動化ラインにより、徹底したリードタイム短縮を図るとともに、幅広い加工用途にスピーディに対応できる体制を整えた。総投資額は約3億円にのぼる。
同時に導入したのが、国内ではまだ二台目という同社のパイプ専用レーザ加工機。精密板金のNC化が高度に進むなか、パイプだけはその複雑さから、いまだに手作業に近い加工方法が取られているという。パイプ加工の自動化をめざした高野会長と横内社長の試行錯誤に終止符を打ったのが、この機械の出現だった。
もっとも同社ではパイプ加工を板金の延長としてではなく、事業のもう一本の柱に育てたい考え。パイプ専用レーザ加工機は、新たな需要を掘り起こす先行投資としての位置づけだ。
「この機械を使えば、今まで考えられなかったようなパイプ加工が簡単かつスピーディに、しかも安くできる。建設関連や一般民生品など大量生産品の分野や、同業者からのプレカット受注も開拓していきたいと考えています」
一方で、高精度なレーザ加工技術を生かした独自商品の開発も手がける。長野高専と共同で特許出願している「タカノサイコロジョイント構造」によるSUS角パイプの完全溶接レス構造体だ。クリーン、しかも組立性と分解性が良く大きなコストダウンを提供できるため、半導体および液晶関連市場の開拓をめざしている。
設備投資によって会社にエネルギーが生まれる。
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「(最新機械を)欲しいと思ったらすぐに買ってしまうと、みんなに思われている」と笑う高野会長。その積極的かつスピーディな設備投資を可能にしている理由のひとつは、つねに「見える経営」を心がける堅実経営が評価されての金融機関との強い信頼関係だ。
それだけに痛感するのが、行政による各種支援施策の使いづらさ。特許申請するまでに相当な年月と研究開発投資を費やしても、それを助成金で回収することはできない。また申請には技術情報を公開する必要があるのもネックになっている。「我々にとってもっと使いやすい助成制度にして欲しい」。
そして、もうひとつの理由。高野会長はこう話す。「設備投資によって会社にエネルギーが生まれるんです。大きな投資をした機械を社員に託すわけですから、社員はそれに意気を感じて燃え、会社のパワーになる。良い器ができればそれに適った人材と仕事が入るとよく言われますが、設備投資はまさにそういうもの。会社全体がエネルギーを出せる環境づくりを大切にしています」。
「まずは精密板金のシステム化、ネットワーク化を徹底して追求。いずれは板金だけにとどまらず、アセンブリ、完成品と関連分野での事業展開にも可能性を見出していきたい」と意気込む、高野会長。将来の上場も視野に入れているようだ。
代表取締役会長
高野 裕二郎
(たかのゆうじろう) |
中央会に期待すること
中小企業施策についての提言
事業展開の支援はもとより、常日頃からさまざまな情報提供をいただき、大変ありがたいと思っています。 |
経歴 |
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1945年(昭和20年)2月生まれ
1963年3月 |
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竜上高等学校卒業 |
1972年4月 |
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タカノ住宅設備機器として創業 |
1983年4月 |
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代表取締役社長に就任 |
2005年6月 |
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代表取締役会長に就任 |
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出身 |
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岡谷市 |
家族構成 |
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妻 長男 |
趣味 |
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ジョギング |
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企業ガイド
株式会社タカノ
本社 |
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〒390-1242 長野県松本市和田3967-73(松本臨空工業団地内)
TEL(0263)48-1500 FAX(0263)48-1501 |
創業 |
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1972年4月 |
資本金 |
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1000万円 |
事業内容 |
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三次元CADデザイン・企画開発・設計提案・バーチャル試作、情報周辺機器・半導体および液晶周辺装置・各種産業医療等周辺機器の精密板金加工、組立 |
事業所 |
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本店・工場 |
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