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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 新春対談
労働環境の変化と中小企業をめぐる諸問題

―現実化した少子高齢化社会のなかで今、人は、企業はどう生きるべきか―


司会:佐々木正孝 長野県中小企業団体中央会専務理事

中村かおり氏(長野労働局総務部長)
中村かおり氏
(長野労働局総務部長)
市川浩一郎氏(不二越機械工業(株)代表取締役社長)
市川浩一郎氏
(不二越機械工業(株)代表取締役社長)


労働市場で60歳以上の高齢層が力を発揮していける環境づくりを

司会:本日はご多忙の中、長野労働局の中村かおり総務部長、不二越機械工業(株)の市川浩一郎社長のお2人の方に平成18年の新春対談をお願い致しました。
 我が国は今、少子化問題と、それに伴う労働力の高齢化という問題を抱えております。2007年をピークに人口減少が進み、25年には6,300万人になると予測されていますが、05年に初めて死亡数が出生数を上回るなど、予想以上のスピードで「人口減少時代」が到来しているようです。行政ではどのように予測していらっしゃるのでしょうか。
中村:現在の労働力人口は6,770万人です。これをピークにだんだんと減少傾向に入りまして、おっしゃる通り、25年には6,300万人になるというのが厚生労働省の推計です。これを年齢ごとの人口構成比で見ますと、30~59歳の働きざかり層は微減といったところですが、60歳以上の層が15%から20%と大幅に増え、一方、29歳以下の若年層は21%から17%とかなり減少します。つまり、60歳以上の層が労働市場で力を発揮していけるような環境を今後整えていくことが、わが国の経済をしっかりもたせていく上で重要だと思っております。
司会:市川さん、そのような状況になると、企業経営の上ではどのような影響が出てくるとお考えでしょうか。
市川:これは非常に重要な問題だと思うんです。60歳以上の労働人口が増えるというのは、我々の業界からすると、社会に追従できない環境になるのではないかということです。半導体業界では技術進歩が早いため、それにマッチしていかなければいけない業界ですが、高齢者が市場の動きにちゃんと追従していけるかというと非常に難しく、客先の担当者も若いので、我々も若い人を採用していかないとうまくマッチングしていかないわけですね。高齢者の労働環境を良くしようというのは、建前論ではよく分かるんですが、我々としてはそれを将来どうやっていこうかというのが悩みです。社会構造の変化と、我々のニーズとのギャップが大きな問題となっていきそうです。
 個人消費においても主流は若年層だと思っております。確かに高齢者のための福祉施設とか、介護関係での商品開発というのも重要ですが、市場的には小さくなるのではないか。やはり若年層の方が金を使うんですよ。そこを充分考慮しないと経済は活性化しないのではないかと感じております。
 税制面にしても、例えば生前贈与税をゼロにして、高齢者の所有資産を若者層に移転していくことが必要なのではないか。そうすれば消費構造も良い方向に変わって行くのではないでしょうか。突拍子もないことを言うようですが、そういう税制面での改革もすべきと思っております。

定年延長を産業界が強制的にやらされるというのには反対です

中村:ひとつ問題は、若年層が思ったほど重要な働き手に育ってきていないということだと思います。そういうなかで労働力人口が純減ということになりますと、本当に働き手がいなくなる。そうすると経営者の方々がおっしゃっているように、外国人労働者を入れるという話がかなり現実的な問題として出てくるんじゃないかと思いますが、社会適応や治安の面など社会的影響も大きいですね。ですから、消費市場で若年層をしっかり取り込むことはもちろんのことですが、労働市場で若年者を育てるとともに、高齢者層もしっかり取り込むことにより、中長期の視点で望ましい社会のあり方を考えていくという責務が行政側としてはございます。
市川:よく分かります。我々もそういうふうに思っているし、現実に若者がいなければ高齢者を雇用せざるを得ません。しかし我々としては、あくまで技術的なバックアップ体制として、定年になった方に嘱託、顧問として残ってもらい、技術支援や若い技術者の育成に力を発揮してもらう。我々製造業の場合、そういう高齢者の雇用の仕方が一番良いのかなと思いますね。
 当社では、明日すぐアメリカのお客様のところへ飛べ、なんていうのは日常茶飯事です。そして向こうの若い担当者と丁々発止してくる。このような場面では若手でないと無理なんですね。それを維持するための社内的なバックアップ体制を高齢者が整えるという環境が良いんじゃないかと思いますね。
中村:そうやって役割分担が上手にできますと、企業のほうも65歳まで定年を延ばすというようなお話について考えていただきやすくなりますでしょうね。
司会:雇用延長に関して、どのような施策がとられていくのでしょうか。
中村:平成18年4月から、65歳までの雇用の確保措置が段階的に適用されるようになっております。具体的には定年を引き上げる、定年制度をなくす、または継続雇用制度を導入していただくということです。定年の引き上げで対応していただく場合、4月にはまず最低限62歳まで、それから段階的に65歳までお願いするということになっています。中央会にご協力いただいて、各企業に65歳雇用に関する具体的なアドバイスを提供しています。経営者の皆様の間では措置の概要について予想以上に理解が広がっており、前向きに検討されているところも多いようです。実際には定年の引き上げや廃止よりも、まずは継続雇用制度の導入が大勢を占めているようです。
 人事上の本音としては、残したい人材とそうでもない層と、あるのだろうと思います。それを全部一律にというのは、組織の活力という点からどうかという疑問も当然出てきますでしょう。行政がいくら65歳といっても、企業にまったくメリットがなかったら社会になかなか浸透しません。経営者の方々に、頼まれなくても65歳まで引き上げますよとおっしゃっていただけるような良い人材活用方策をいかに行政が提供できるかが今後の鍵となりますので、中央会のお力もお借りしながら進めてまいります。
市川:ただ私は、定年延長を産業界が強制的にやらされるというのには反対なんです。製造業はコストがどんどん下がり、納期が早くなってきていますが、定年延長になるとどうしてもコストが上がる。若者の採用によりコストは下がり、行動力もあって良い。そういう感覚は現実問題としてあるんですよね。
中村:確かにひとつひとつの企業からすれば、ご自分の社で65歳まで雇っても雇わなくても、日本の労働市場全体への影響は大して変わりない。安いコストで使い易い社員構成をお考えになるのは当然の話だと思うのです。しかしながら、マクロの視点で中長期のわが国社会を考えますと、人口の多くを占めていくことになる高齢者の活用は、早いうちから計画的に図っていく必要があるかと思います。
市川:政策的に定年延長をせざるを得ないというのは分かるんです。でも、それが規制になってくると、中村さんもおっしゃったように、何でもかんでも65歳まで雇わざるを得なくなってくる。これは企業としては非常につらいんですね。それがフレシキブルにできるような政策がぜひ欲しいですね。
中村:労使が話し合って客観的な基準を設けた上で、ある程度、残る方と残らない方が出てくるのは、期限付きですが差し支えないことにはなっています。例えば、技術面の表彰歴があるとか、営業所経験が3か所以上あって営業経験が豊富であると認められるとか、健康診断の結果として業務遂行に支障がないと判断できるとか。そういう客観的な仕切りがあり、できる限り労働組合と合意を得ていただく努力をしたけれどもどうしても協議が調わなかったというものであれば、それでもOKという形になっておりますけれど。
司会:罰則等はあるのでしょうか?
中村:今のところはありません。ひたすら指導申し上げることになります。
市川:努力目標としてくださいということですね。
中村:「努める」のみならず実際に措置を「講じる」ところまでしていただく内容となっています。

例えば、高齢者だけの企業も。そこで何をするかが重要です

司会:モノづくりの技能や技術の継承という面では問題ないのでしょうか。
市川:それは高齢化社会と直接関係があるかどうか。世代交代のための技術継承というとらえ方をすべきだと思うんですね。誰でもいつまでもその会社にいるわけではありませんから、技術を持った人がそれを後輩に継承していく必要があります。しかし、技術を持っている人が自らそれを伝承するというのはなかなかできない。難しい場面もあるわけですね。サポートする人が横にいて、それで若手に伝承するというシステムを企業がいかにつくるかが重要だと思います。つまり高齢化の問題ではなく、要するに世代交代のひとつのステップだと思います。
司会:つまり技術の伝承となると、定年がどうのでなくて、50歳でも40歳でも、また30歳でも同じだということですね。
市川:同じです。いかに技術の伝承ができているか。その会社が生き延びていく鍵はそこにあるのではないでしょうか。人間国宝の刀鍛冶の技術をどう伝承するかというのとは、ちょっと違うと思いますが。
司会:例えば、高齢者だけの会社とか、高齢者が集まって考えを出して進めていく企業のあり方も、今後はあるのかなと思いますが。いかがお考えでしょうか。
市川:職種によっては良いことだと思いますね。今、長野市松代で「信州松代真田地鶏」を市の福祉関係の人たちに飼育してもらっているんです。それがひとつの企業のようにして活動しています。そういう事もできるわけですよね。そういう面でいうと高齢者だけの企業というのもできるかもしれません。一番の問題はそこで何をするかです。それを創出するような組織を作れば良いと思います。
司会:中央会が推進している企業組合は、個人と会社が組合員として独立し、ひとつの法人として事業を行っていくという制度で、個人は定年を迎えた人でも20代の人でも良い。中央会ではこの制度を積極的にPRしているんですが、会社のある部分を、例えば定年退職者を中心に独立させて事業展開していく企業はまだ出てきていません。私どもはそれを理想としているんですが。企業組合という形でスタートさせて、数年後には株式会社に組織変更もできる。制度としてはとても良いもので、特に製造業の皆さんにご理解いただきたいと思っているんです。
市川:それは良い提案です。絶対やるべきだと思いますね。当社ではまだ実現できていないのですが、以前、お客様に納めた機械の修理業務をひとつの部門として独立させることを考えたことがあります。それを担うのは高齢者でも良いと思いますしね。
司会:企業組合は社長も、その会社そのものも、もちろんそこで働く人も組合員になれます。それを中小企業の皆さんが率先してやるようになると、そろそろ定年になるから組合を作ってやっていこうという社員も出てくるのではないかと思うんです。行政の支援制度もいろいろあると思うのですが。
中村:今のようなお話に直接に何かというのはなかなか難しいのですが、やはり人材活用策については、これから導入なさろうというところにさまざまな好事例を地道に広げていくことが効果的だと思っています。結局、いくら政策を出しても経営上のメリットにならないと定着は難しいので、会社にもメリットがあることを分かっていただく努力が必要と思っております。中央会には全面的にご協力いただいているところですが、今後ともよろしくお願い申し上げます。

県内にはフリーターが3万4千人、ニートが1万人いるといわれています

市川:とにかく社会の高齢化と、仕事をする気がない若年層の問題。これを本当に何とかしないと、将来日本の産業構造がおかしくなるんじゃないかと思うんですよ。
中村:そうですね。今、長野県にフリーターとニートはどのくらいいるか、ご存知でいらっしゃいますか? フリーターが3万4千人、ニートが1万人といわれているんです。長野県の人口が220万人ですから…。
市川:2%ぐらいですね。
中村:これは本当に驚くような、看過できない数だと思います。
市川:彼らがこれから世の中を背負って立つ時代になった時、日本経済は大丈夫かと本当に心配になりますね。
中村:ただフリーターといいましても、週に2日ぐらい短時間で働いている人から、逆に週5日で毎日8時間働いていたり、さらには昇格・昇給制度もある仕事だったりと働き方も幅広いのですね。私、個人的に思いますのは、今の社会からもしフリーターが一斉に消えてしまうと、コンビニも非常に寂しいことになりますし、飲食店なんかもほとんど働く人がいない、お店ではレジに長い行列ができてしまったり…。そう考えるとフリーターも、良かれ悪しかれ経済の中では既になくてはならない層になってしまっているのではないかと思います。
 ただ、フリーターの大きな問題は、まずキャリアの形成がしにくいということ、そして雇用形態が安定していないのでいつ生活に困ることになるか分からないということ。使い易いもっと若い年齢層が出てきた時、本当に職に困るようなことになりかねませんので、どんなに遅くとも30ぐらいである程度よくお考えになったほうが、ご本人の人生のためにもよろしいと思います。行政でも、生涯賃金はこれぐらい違ってきますとか、あなたのような経験を持った人にはこういう仕事がありますよとか、こういう職業訓練を受けたらいかがでしょうとか、サポートをするような政策を出しております。
市川:それは非常に適切な指針ですね。もっとも今、人生の目標を持っていない若者が多いんじゃないですか? 今日さえ生きられれば良いという人がフリーターになるんですよ。そこへ、あなたは将来こうなりますよって言っても、それがちゃんと受け入れられるかどうか。ハード面の支援に加えて、もう少し精神的な面でも教育していく必要があるんじゃないでしょうか。目標を持って人生を歩いていくために今、どうしたら良いかという。
中村:そうですね、本当に。教育段階での就業観の醸成なども必要ですね。
市川:今、リーダーという立場になりたくない若者が非常に多いんです。うちの会社でも、何かのチームリーダーになれというと「私はいいです」と引いてしまう若手社員がおります。易きに流れるというのでしょうか。でも、それではいけないと思うんですね。

女性の就業は男性と分けて考えない時代

司会:今フリーターやニートのお話が出たんですが、男女共同参画社会の推進も大きなテーマになっています。職業教育も含めて、女性の就業について中村部長にお話しいただけたらと思います。
中村:今や女性の就業は男性とあまり分けて考えない時代に入ったと思います。かつては女性を特別扱いして、多少配慮して仕事をやりやすくしたり、パイロットプロジェクトを成功させてだんだん職域を広げていくというのもありました。でも今は思いもよらない職種でも女性が活躍しております。私自身こういう仕事に就いて、特別難しいなという壁らしい壁はなかったと思っております。そういう意味では、今後は女性に特化した施策よりも、社会の中で男女ともに働きやすい環境を作っていくことが主眼になるかと思います。
司会:企業のほうでも、同じですか。
市川:(女性の壁は)ないとは思うのですが…。アメリカの企業には完全に男女の差がありませんね。面接で「あなた女ですか」と聞いちゃいけないんです(笑)。アメリカの会社を見てビックリしたのが、女性が重いモノを持って作業しているんです。それでその会社の人に「女性にどうしてあんな事やらせているんですか?」と聞くと、「契約ですから」と言うんですね。男女は関係ないんです。しかし、日本はそこまでには至っていません。女性は女性なりきのことを守りながら、そのなかで男女平等にする。ちょっと矛盾しているところも有ると感じておりますが、日本でももう少しフランクに対応出来るような状況になることが必要かなと思うんですね。
中村:そうですね。私、長野に参りましてひとつ気づいたのは、長野県は女性の経営者が比較的少ないのかなと…。
市川:少ないですね。事実、それはありますね。
司会:その要因はどこにあるのでしょう。
市川:地域性じゃないですかね。やっぱり、長野には女性はうちを守るという風習がまだまだ続いているという感じがしますよ。

一人ひとりが自立した社会人として、家庭も仕事もできるように

司会:政府は少子化社会対策大綱を定めて、少子高齢化対策に取り組んでいます。まずその内容について中村部長にお話しいただき、これについて企業としてはどんな捉え方をしているのか。今後どういうふうに波及させていけば良いのか、お二人の方でお話しいただけたらと思います。
中村:少子化問題といいますと、昨年発足した新内閣で、猪口邦子衆議院議員が少子化と男女共同参画の大臣になられて非常に話題になりましたね。実は今までは、少子化担当大臣職は法務大臣などの女性閣僚が兼務していました。単独の大臣が出られたということで、政府の重要課題としての位置付けを感じました。
 平成16年の全国合計特殊出生率は1.29ですが、長野は1.42。全国の平均から見ますと多少高めではあるのですが、それでも人口を維持するレベルではありませんし、減少傾向にあります。
 少子化大綱の内容としては、国民一人ひとりが自立した社会人として、家庭も仕事もできるようにしていきましょう、ということ。そして子育ての社会的認識をもっと高め、しっかり支えあいをしていこうということです。最近は子どもを持つ世代が仕事で忙しすぎたり、地域で子どもを育てていくという環境が見られなくなるなど、少子化一直線というような環境にあります。それにどこかで歯止めをかけようというのが大綱の主旨です。
 大綱では具体的な施策として「子ども・子育て応援プラン」を策定しています。平成21年度までに育児休業取得率を男性10%、女性80%まで向上させる、待機児童が50人以上の市町村をなくすなど、数値目標を明確にして取り組んでいます。子育てだけでなく、ニートなど不安定な若者の自立や、仕事中心の生活の見直しなど、幅広い内容になっております。
 また「次世代育成支援対策推進法」に基づき、企業にもそれぞれの特色を生かした次世代育成支援の行動計画策定をお願いしています。これは301名以上雇用している企業に策定・届出義務があるものなのですが、内容としては、所定外労働の制限から始めるというのが非常に多いようです。他には、事業所内に託児施設をお作りになるところ、お子さんが生まれた時に父親である社員が休みを取りやすくするところ、法律の規制を上回る育児休業制度を整備されているところなど、企業によって本当に多様です。
 長野県内の300人以下の企業でも、本来は義務ではないのですが、今のところ14社から計画の届出をいただいております。社会的な問題として、比較的熱心にご覧いただいているのかなとありがたく存じております。

私は二世代、三世代の同居を推進したいんです

市川:確かに、子育て支援や自立した子どもを育てる教育も大切ですが、私はもう少し、「家庭」という問題をとらえてみたいと思うんですね。今、家庭は崩壊とまではいかなくても、ますます核家族化が進んでおります。私は二世代、三世代の同居を推進したいんです。そうすれば、行政がわざわざ子育て支援対策などしなくても、三世代のなかで自然に解決してゆくのではないかと思っております。
中村:そうですね。
市川:住宅事情があって難しいとか、いろいろな問題はありますが、何とか三世代同居のための施策はとれないものかと思うんですね。例えば、三世代同居したら一番下の人の所得税を半分にするなどのインセンティブを与える。そうすれば子どもを産む環境も良くなり、子育てにも効果が出ると思います。
中村:はい…。
市川:それを何とか行政にも取り入れてもらいたいなと思う。また労働だけでなく、住宅環境の問題をどうしようかという課題も出てきます。そこで二世代、三世代が同居するための住居はどうあるべきかを行政で考えていけば、非常に良いんじゃないかと思うんですよ。
中村:大変興味深いお考えです。ただ、行政として施策を考える時にいつも難しいなと思いますのが、国が家庭の問題にどこまで立ち入れるかということです。少子化問題でも、行政がそれぞれの家庭に立ち入って、子どもを作ってくださいなどと言うことはできず、どうすればその気になっていただけるか、環境整備から攻めるしかないわけで…。そこはやはり無力感もないわけではありません。三世代同居は本当におっしゃる通りで、そうなれば問題は全部解消しますが…。
市川:と思うんですけどね。
中村:ただ、若い世代の考えとして、同居を避けるようなところもございますよね。行政側がそれをどこまで奨励できるかは、なかなか難しいのかなと思います。
市川:今まで核家族化が進んできたから、急に三世代同居しなさいと言っても難しいのかもしれないけれど、行政なら徐々に軌道修正も出来るんじゃないでしょうか。我々民間でも奨励するために、例えば、結婚式の時には必ず「お父さん、お母さんと一緒に住みなさい。そこで子どもをいっぱい産みなさい」と言う。これは非常に幼稚な発想かもしれないけど。
中村:いえ、おっしゃる通りだと思います。子育て世代の納得さえあれば一番の名案です。おじいちゃま、おばあちゃまには子育てのノウハウもおありでしょうし、ご自分のお孫さんでしたらかわいいから大切にお育てになりますでしょうし。
市川:そんなことも考えてやっていかないと、子育て支援策に甘えてしまうんです。でも、子育てや教育は任せておけば良いというものではないでしょ。教育もそうだと思うんですよね。あんまりサービスが良いと、任せる教育になっちゃう。
中村:若い世代は、地元への転勤を嫌がるような場合もあるようですね。「妻が自分の実家で親と同居したがらないので、地元には異動させないでほしい」と。自分が間に挟まって大変だからとか言って…。
市川:奨励したわけじゃないけど、核家族化に仕向けてきちゃったのでしょうか。住宅の構造にしても、産業にしても。だから若い人に急にそれをやれといっても無理かもしれないけれど、少しずつやる事によって変わっていくのではないでしょうか。

「地域コミュニティ」で子どもを育てることが大切

中村:今のお話の関連で、三世代で面倒を見るというほかに、先ほど市川社長もおっしゃいましたが、地域や学校でしっかり育てていくことも大切ですね。私ども労働局でも、地元の中学生を受け入れて公務員体験の機会を提供したり、公務員の仕事はどういうものかをお話したりということをやっています。家庭教育の代替にはなりませんけれども、社会が皆で子どもに目を向けて取り組むというのも良いのかなと思います。
市川:私は「地域コミュニティ」と表現するんですけれど、要するに昔でいう隣組のような感じ。お隣さんが何しているか分からないというのではなく、地域のコミュニティをまとめることによって、そこからひとつの「地域家庭」みたいなのができる。そこでうまくコミュニケーションができてくると、地域で子どもを育てることができると思うんですよ。私は今の学校、そして地域にそれを望んでいるんです。
中村:小中学校では、地元企業の経営者の方などが社会で働くとはどういうことかといった講義をされたりしていますね。
市川:出前講座。私も信大の経済学部でやりました。長野でも青年会議所がやっています。あれは良いことですね。もうひとつ、逆に先生が外に出ることも大事ですね。指導力不足といわれる先生がいますが、それは実社会の流れを知らないから、どうしても視野が狭くなりがちでしょ。ですから先生方も実社会に出て経済の流れ等を肌で感じる事が重要です。実際、経営者協会では高校の先生を2、3人、企業に一年間出向させています。全然違う世界に最初は戸惑うけれど、非常に成長して帰ってきます。そういうのが必要ですね。
 ちょっと話は飛びますが、今の教育界では「1+1=?」「解答はひとつ「2」である」という教育しかしてないんですね。ところが世の中は逆で「2=(イコール)?」という事です。つまり答えは「3-1」も「2×1」も「1+1」もあり、答えは一つではないのです。
中村:おもしろいですね。
市川:つまり「1+1=2」式の発想では、そこからは自立心も、挑戦意欲もわいてこない。自分から進んで何とかしようという意識も失われつつあるのではないでしょうか。地域コミュニティでもそうだと思うんですよね。こういう事をやりたいと発案すると、あっちこっちからいろいろなアイデアが出てきて欲しいのです。ところが「これやりましょう」「はい、これでやってください」と言うと、「はい、わかりました」。これでは地域コミュニティじゃないんだよね。
中村:確かに、皆の知恵を集約できませんものね。
市川:それを出させるのが地域コミュニティであり、それをベースにして皆で力をあわせて課題解決に挑戦するんです。会社でも同じです。技術者にこういうものを作りなさいと言うと、ちゃんと作ってくれます。だけどそれだけではだめで、そこに何か付加価値をつけてはじめて画期的な新商品になるんですよ。私が常に言っている事は「追従型の開発はするな、提案型の開発をしろ」。お客様の要求に対して、こうすればもっとお客様に喜んで戴けるというものを付加しない限り市場競争に負けてしまいます。今の若い開発者はどうしてもお客様や上司から言われた通りに設計して、商品にしようとする。それじゃダメなんですよね。提案型の開発をするためには「2=」的発想が必要なのです。
中村:そうですね。本当に。
司会:市川さんの会社では実際に「2=」の教育を何かおやりになっていますか?
市川:開発、営業など各部署から参加して設計品質について討論し、より良い製品づくりをめざす、則ち「DR(デザインレビュー)」に力を入れて取り組んでいます。
中村:部下に「勝ち戦」を経験させることは、自発的な取り組みの奨励には有効ですね。次からしっかりと提案型の開発が出てくるようになるのでしょう。
市川:なら良いんですけど、実はなかなかそうはいかないんです。
中村:あー、そうですか。
市川:何十回、何百回と繰り返し言って、やっと実現してくれる。家庭でも親が言っても出来ない事でも、他人から言われると変わるということ、ありますよね。だから、お客様からガンガン言われれば納得するけど、私が社内で同じように言っても「はいはい、やりゃいいんだろ」ぐらいの感じになってしまう(笑)。だからなかなか難しいです。そう一朝一夕にはいかないですね。でも、やり続けなきゃだめです。

社会にも、一人ひとりにとっても、子育てが本当に楽しい社会づくり

中村:少子化の関係でもうひとつ。ミクロの問題として、子どもを産む産まないは一人ひとりの生き方の問題ですし、一人の選択が日本全体にはそう影響を与えないだろうというのが、私と同じ世代の感覚だと思います。そういう意味でも、政策を考える時に本当に難しい分野だと感じております。総論ベースではほとんどの人は少子化が良いとは言わない。でも産む主体になってみますと、自分一人が産まなくても周りが次世代を育ててくれれば別に社会としては問題ないと思う。ですから、我が国の将来が…なんていう総論的な訴えかけでは少子化問題は解決しないと思います。
 そういうなかで、少子化によって将来世代が年金を支えるのが大変だという議論ばかりが先行してしまいますと、産む側にとっては、じゃあ年金制度を支えさせるために子どもを産むのかと。それはあまり良い気持ちはしませんね。まず、子どもを産む側にとって子育てが本当に楽しいし、社会にとっても一人ひとりにとっても、子どもの存在そのものが喜ばしいという社会づくり。その方向で政策を考えていかなければいけないと思って進めています。本当に難しい分野だと思いますね。
市川:これは一番難しい問題ですね。
中村:はい。
市川:マクロ的に見ると、日本の人口が少なくなったからと言って、世界の人口は少なくなっているわけではありません。
中村:そうですね。
市川:ですから、「少子化だからダメだ」ではなく、日本がもっと国際化して外国から良い人が来れば、それでも良いのではないかという発想もありますね。
中村:そうですね。おっしゃるように労働市場はもう閉じた市場ではなく、もっと大きく見てもよろしいのかもしれません。
市川:そう思うんですよね。産業界の動きはもはやボーダレスなんですから人口構成だってそれで良いんじゃないの?と思うんですよね。

行政と企業の視点とが一致して初めて施策が上手に回っていく

司会:先ほどもニートの問題が出ましたが、労働力の高齢化や労働人口の減少などによる人材不足は大きな問題です。具体的な対応策にはどんなものがあるのでしょうか。
中村:中小企業の労働力確保という点では、行政としては人材紹介のほか、さまざまな助成金制度がございます。これはとかく申請が面倒で、全然使えないというお声もいただきますけれど…。
市川:すごく大変です(笑)。
中村:こちらの立場としては、公費の支出となりますのでどうしても確実を期さなければならない面がありまして。簡素化できるところは可能な限り簡素化したりもしているのですが。大きな不正受給が出ると気絶ものです。厚生労働省時代にも、問題が出れば制度は見直さなきゃいけないし、国会質問は出る、マスコミは押し寄せる、現場は泣きついてくるし、お金の回収も…。
市川:そうですね。公費を使うのだから当たり前のことと理解はしますが、複雑すぎる。おっしゃる通り、だいぶ簡素化はされたと思いますが、課題の一つでしょう。
中村:制度にお詳しい社会保険労務士さんがいらしたり、中央会で分かりやすい助成施策の一覧をまとめていらしたりしますので、上手に活用なさってぜひ制度を使っていただきたいと思います。支給窓口にお越しいただければ丁寧にご説明しておりますし、経営戦略上のお役に立てていただきたいと思っております。
 企業が期待するのはやはり、若年者の即戦力育成だと思うんですね。そのためには企業において実戦的な養成をしていただくことが不可欠です。現代の弟子入り制度ともいえる「日本版デュアルシステム」が広がりつつありますが、これは、例えば午前は職業教育を受けながら午後は毎日企業の現場で経験を積むことにより、一人前の職業人を育てようという制度です。企業のご協力の下、のちのちご自分の企業での中核戦力となる若者を育てる取り組みをしていただいております。また「トライアル雇用」といって、3か月ほど企業さんに試し雇用で様子を見ていただいて、それから本雇用に移行するような制度もあります。マクロ的には将来の日本のための人材育成という目的があり、ミクロ的には個々の企業で上手に人材の確保をしていただける面があると思います。行政のマクロの視点と企業の視点とが一致して初めて施策が上手に回っていくと思いますので、ご活用いただければと思っております。

インターンシップの活用には僕は大賛成ですね

市川:私は大賛成ですね。若年の即戦力化育成。果たしてこれは企業がやるべきなのかどうか疑問は残りますが。「職場での社員教育」これは日本だけの問題のようですね。海外での価格交渉の中で「もっと安く」との要望に対して「技術者の育成・社員教育にも投資が掛かります」と言うと「貴社の社員の教育にまで当社は金を払うつもりは無い。その分コストを下げるべきだ」等言われれば、返答に苦慮しますね。
中村:そうですね。アメリカではスキルアップは働く人の自己責任、自己投資という見方もありますものね。
市川:理屈で言えば、そのとおりですが…。今、中村さんがおっしゃった若年の即戦力というのはインターンシップみたいなものですね。
中村:そうです。
市川:それは非常に良いことだと思っています。うちにも高専などの学生が毎年夏休みに何人か来ています。あれはもっと広げるべきですね。企業側でも人材の採用にインターンシップの活用は大変良い制度だ思っております。
司会:そうすると、よく七五三と言いますが、若年者の離職率の問題も改善するでしょうか。
市川:離職は企業風土や個人の問題もあって、ある程度はしょうがないんじゃないでしょうか。
中村:それによってステップアップするのであれば本人のためにもなりますが、単に仕事が合わなくて、という場合も多いようですね。私も転職を考えたときもありましたが、一定期間やってみないと分からない仕事の面白さというものもありますよね。
市川:昔は同じ企業に入って定年までいるのが偉いと思われていたのですが、今はそうでもないんですね。当社でも中途採用はよくしています。ただ、入社して3カ月目と3年目の危機。これはありますね。それを周りの人や上司が分かって、いかにうまくフォローするか。あるいは総務なり人事がコントロールできるかどうか。難しいかもしれないけど、それをしていくことが企業として重要な課題であります。学校教育の場でも産業界の実情を理解していただき、良い教育をしていただきたいと思いますね。
中村:そうですね。今、学校に企業の社長さんがお見えになったり、インターンシップの経験も広くできるようになっています。私たちの頃と比べますと社会に接する機会にも恵まれているとは思うんですね。
市川:だんだん広がりが出てきているようです。悪いことばかりじゃなく、良いこともやってるんです。何事も前向きに取り組んでゆきたいものですね(笑)。

挑戦し、成功体験を収めていく。その積み重ねが大切なのだなと


司会:企業の方では、最近の若年者についてどのような印象をお持ちでしょうか。
市川:やはり挑戦意欲がない。もうひとつ、自分の特技とか、他との違いはこれだという明確なものを持っていない。私どもから見ますと、今の若者はみんな同じような印象しか持てないのが現状でしょうか。ですから採用時の面接でも「真面目に勉強してきました」という人より、4年間遊んでスポーツばっかりやって、最後の1カ月で卒業論文書いてやっと卒業して来ました、という若者の方を採用しますね。自分を印象づけるものを持たない若者が多いような気がします。
中村:今の若者は傷つくのをすごく恐れるといいますね。自分なりの考えはあっても、それを言って恥をかくのは嫌だなとか、何を言ってるんだと人に思われるかもしれないとか、そういう妙なプライドがあるのかもしれません。
市川:シャイなのでしょうか。先日、世界の半導体業界のコンファレンスに出席してきましたが、300人程の参加者の中で日本人も約80人ぐらい出席しています。パネルディスカッションの時など、海外の方々からは積極的に質問をしたり自分の意見を主張しているのですが、日本人からは殆ど質問者が無いのです。
中村:でも結構、どうでも良いような質問だったりするんですよね、向こうの人のは(笑)。
市川:そうそう(笑)。それでも主張するんですよ。その辺日本人はシャイで、こんなこと言ったら笑われるんじゃないかとか。私も同様ですがね(笑)。それを何とか克服しないといけないかなと思うんですね。まあ一方では、それが日本人の良いところかもしれないんですけどね。ただ、今の産業界で生きていくためには、若い人にはもっと挑戦してほしい。フリーターとかニートという人は、そういう気持ちがないのでしょう。
中村:そういう意味でも、お客様が求めるもの以上に付加価値をつけるということに挑戦し、それによってひとつひとつ成功体験を得ていくと。その積み重ねを背景に自信をつけることが大切なのだなと思います。
市川:そうすることによって若い人も変わっていくと思うんですね。
司会:市川社長の会社では、入社1、2年目の社員もどんどん海外へ出張させるそうですね。努めて早くからチャンスを与えていらっしゃるのだと思いますが、そんな経験を通して若い社員はどのように変化し、成長していくのですか。
市川:二つのタイプがいると思います。おっしゃるように入社1年目くらいから海外出張はさせています。例えば、納入先で機械を立ち上げる時など、知識なんかなくていいから労力として行って来いと。荷物運びですね。それでも行かせることによって良い経験になるんですね。その中で、よくしゃべる人、陽気な人、語学力が無くても積極的に環境に溶け込でいける者はどんどん成長し自信を付けて帰ってきます。しかし内気な人は厳しいね。もっとも、大切なお客様のところへ新人を行かせたところが失敗して、お客様にえらく怒られたこともありますが(笑)。
中村:私も、厚生労働省で係長になったばかりのころ、与党事務局からかかってきた電話で失言をしてしまい、先方を怒らせてしまったことがあったんです。官房長が先方に詫びたという話を聞いて、困ったわと思って、後で官房長のところに謝りに行きましたら、「いいのいいの。これが私の仕事なんだから。次から気をつけなさい。」と言ってもらいました。その時からいろいろなことに細かく注意を払う癖がついて、ひとつステップをもらったなと思っています。
市川:そうやって、ひとつひとつ成長していくんですね。
中村:はい。恥ずかしい思いをしても、それが自分の糧になるのかなと思って。
市川:上の人も偉いですね。「いいんだ、いいんだ」と言うのがね。そうなんです。やはり何でも経験させる事は大切ですよ。

「働く」ことをイメージする時、モノづくりの現場はイメージしにくい


司会:雇用のマッチングがうまくいかないという問題もあるようですが。
市川:それが一番難しいでしょうね。人を採用するのに数分から数十分しかかけずに、その人についてイエス、ノーを言うこと自体がおかしいのだろうし、マッチングしないこともそんなところからあるのでしょう。
司会:アメリカでは夏休みとかに、就職希望の企業に働きに行く生徒も多いようですね。
市川:将来この会社に入りたいといって行くんですね。インターンシップみたいなものです。それに向こうは18歳になり、高校を卒業すると自立することが普通ですね。
中村:そうですね。大学の授業料なんてそれこそ「自分で稼げ」と。
市川:日本は「いいよいいよ、親が出すから」って(笑)。もっと「自立」というものを教育すべきだと思いますよね。「1+1=2」ではなく、「2=」と考えれば、あっちに行こうかこっちに行こうか自分で考え行動に移す。そういう事が不足しているから、いざとなると悩んでしまうのでしょう。
中村:今の若年者が「働く」ということをイメージする時、モノづくりの現場はイメージしにくいと思うんです。自分に身近な働く姿というのは、コンビニの店員さんだったり、お茶したときのウェイトレスさんだったりであって、サービス業が多いですよね。親御さんが働いている姿もなかなか見られません。そういうなかで、若者のなかに仕事へのイメージがあまり膨らんでいないのかなと思います。社会には人材ニーズは結構ありますのに、若年者が思い描く仕事はサービス系が多く、うまくマッチしないという現実があるのかなと思います。ですからインターンシップなどは、そのギャップを埋める意味でも良いと思いますね。
市川:若い人はモノづくりを避けて、サービス業に行きたい。油だらけになるのは嫌だと。
司会:中村さんが言われたように、自分の身近に体験がないから、そうなっちゃうのでしょうかね。
中村:それに加えて昔は、自分で生きていくためにはとにかく仕事に就かなきゃいけないという意識や現実があったと思うのですけれど、今は別に職に就かなくても生きていける。親御さんの財力もあるし、必要になった時にお小遣いを稼ぐくらいの仕事はいくらでも世の中にありますから。そういう環境の問題もひょっとしたら、あるかもしれませんよね。
司会:我々は若者が国民年金を払ってないじゃないかとか、すぐそっちに目が行っちゃうんですよね。将来、自分の子どもが60過ぎて年金もらう頃になってクーデターでも起きて、払ってない人の方が多くて、払ったほうが馬鹿をみるんじゃないかなんて(笑)。おかしいけど、そんなこと考えるんですよ。
市川:うちの娘もそう言ってるのです。今は払ってはいるのですが、もらえないもの払ってどうするのなんて言われちゃうんですね。
中村:厚生労働省の立場としては、持続可能な年金制度を時々に見直しながらやっているわけでございますが。あら、また少子化の話に戻りそうですね(笑)。

社会で働く一人ひとりが、自分の得意分野を見出すこと


司会:新春対談という席でもありますので、最後の締めくくりとして、お二人の方から今年の目標、あるいは将来の夢などのお話をいただきたいと思います。
市川:私たち日本人の多くは、さっきも言ったように、あれがダメだった、これがダメだったというふうにしか考えられないじゃないですか。しかし、もうそろそろ前向きに見ていくべきだと思うんです。そうすれば、壁を破るきっかけも出てくるんじゃないかなと思います。会社でもよく言うんですが、何かにつけて「それはできない」「だめだ」とばかり言っていると、絶対に解決しないんです。何とかなるんじゃないか、どうしたら良いんだろうと前向きに考えていくことによって、必ず風穴を開けていくことができる。そういうふうな前向き志向でいきたいですね。それが私の信条でもあるんですけれどね。みんなにそうして欲しいと思うんです。どうしても批判的になったり、悪いことばかり言うんだけど、それを打ち破るための明るさがぜひ欲しいと思います。
中村:いいお話ですね。私も、「できる」「できない」の間に「100%はできないけれどちょっと形を変えて70%ならできる」という選択肢を持って事に当たるよう努めています。市川社長がおっしゃいました通り、そうやって風穴を開けて次のステップに進んでいくというのは、すごく幸せな働き方だと思うんですね。やりがいを見つけて「勝ち戦」をしていく、つまり成功体験を積み重ねていくことにつながると思うんです。行政はマクロの視点から、65歳の社会を実現しましょうとか、少子化を何とかしましょうといっております。でも私自身は、一人ひとりが本当に幸せに仕事生活を充実させて生きていらっしゃるか、というところに常に視点を置き、その結果として社会全体を良い方向に持っていければと思って仕事をしております。今年も引き続き、企業のお話もいろいろとお聞きしながら、しっかりやっていこうと思っております。
市川:社会で働く人一人ひとりが、オリジナリティというか、自分の得意な分野を見出していくことが大切だと思うんですね。自分は何が強いんだと。何でも良いから自分の強さ、悪い強さじゃ困るけど、そういうものを持つというのが一番良いと思います。それが次の壁を破ることにつながるし、前向きに考えていけることだと思うんですね。
中村:そうして充実した一人ひとりが集まり、つながっていくことによって、マクロ的にも幸せな社会を実現させたいですね。
司会:時間が来たのでこれで平成18年の新春対談を閉じさせていただきたいと思います。長時間にわたりご対談をいただき、ありがとうございました。


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